軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ⑭

「そっか。僕らを惜しんでくれていたヒト族も居たんだね」

「我らウォーレスの血族は、始祖レティア卿―――、故レティア・リテルダニアの 末裔(まつえい) だ。レティア卿はエルフ族の王だけでなく、ドワーフ族の王とも 懇意(こんい) だったと血族に伝わっている。レティア卿が今も存命であれば、なぜ我らを頼らなかったかとお怒りになられたことだろうよ」

レイクスさんの憂いを吹き飛ばすように、お母様がフンと鼻を鳴らした。

座っている椅子の側面に立て掛けていたサーベルの鞘を掴んで、テーブルの上へゴトリと寝かせる。

サーベルに目を向けていたレイクスさんが視線を上げる。

「この剣は?」

「10年ほど前までリテルダニア王家が王城の宝物庫で腐らせていたものだ。対魔族大戦の折りにレティア卿が愛用したものだと伝わっていて、戦勲の報奨として私が貰い受けた」

サーベルの由来を聞いたレイクスさんが小さく首を傾げる。

「拝見しても?」

「構わん」

お母様が了承を返したことで、壁際に控えていたトリアさんがサッと歩み出てサーベルをレイクスさんへ手渡した。

大事そうな手つきでサーベルを半ばまで抜いたレイクスさんは、剣身の側面に彫り込まれた文字列に目を凝らす。

「見事な剣―――、いや。魔法道具だね・・・。この剣のことは聞いたことが有るよ。勇者クツキのためにドヴァールグ王の協力を得て打ち上げた剣の“影打ち”だとか」

呟くように由来を口にするレイクスさんの目には、先人たちが振るった技術への憧憬が溢れているように見える。

ドヴァールグ王って神教会に滅ぼされたドワーフ族の国の王様だっけ?

耳慣れない単語にルナリアが首を傾げた。

「“かげうち”って、何?」

「・・・一番出来の良い剣を“真打ち”と呼んで制作依頼者に納品して、2番目に出来の良い剣を“影打ち”って呼ぶんだったかな。予備として刀匠が保管したり神様に奉納したりするものだったはず」

ドワーフ族の王様はスルー? とルナリアに訊くのは止めた。

目を皿のようにして剣身を観察していたレイクスさんが、目を丸くして私へ視線を向けてくる。

「よく、そんなことを知っていたね。僕でも実物を見たのは初めてなのに」

「・・・ああ、いえ。たまたま知っていただけです」

ヤベッ。ネット掲示板で刀剣オタクから聞いた知識なんて 披瀝(ひれき) しちゃダメじゃん。

私の中身を知らないドネルクさんやエゼリアさんたちにも知識の出所を疑われちゃう。

サーベルに視線を戻して感じ入ったように息を漏らしたレイクスさんが、剣身を鞘に収めてトリアさんの手に返す。

お母様へと目を向け直して、レイクスさんは納得したように頷いた。

「ウォーレス領の“レティア”の町とは、レティア姫の御名を冠していたのか。レティア姫のことは僕もお祖父様から何度も聞いていたよ」

「レティア姫? 失礼だが、お爺様のご尊名をお伺いしても?」

怪訝な表情でお母様が首を傾げる。

それ、私も思った。

レティア卿の話は色んな人から聞いたけど、「レティア姫」と呼んだ人は初めてだよ。

子孫の1人であるテレサでもレティア卿と呼んでいたぐらいだし。

居住まいを正したレイクスさんが真摯な表情で頭を下げた。

「名を伏せていたことをお詫びする。僕の名はケルトレイクス・アダレーという。こちらは僕の妹、ピュリケイナ・アダレー。レティア姫と友誼を結んでいたのは僕らのお祖父様で、ケルトレイオス・アダレーのことだね」

隣に座るケイナちゃんを手のひらで指して紹介したレイクスさんの名乗りに、目を丸くしたお母様が息を吐く。

「驚いたな。まさか、かのアダレー王の直孫にお会いできたとは」

「アダレー王の孫だと・・・?」

お母様の隣でドネルクさんは目元を手のひらで覆って椅子の背もたれに体を預けている。

私も驚いては居るけど現実感がないな。

だって、歴史書に名前が出てくる500年前の王様のお孫さんだよ?

日本のスポーツ選手にも450年ぐらい昔の戦国武将の子孫が居たはずだけど、17代目とか18代目とか、そのぐらい後の子孫じゃなかったかな。

レイクスさんとケイナちゃんはまだ3代目ってことでしょ?

何かもう、時間の感覚が違いすぎて、ああ、そうなんだ? って感じに思える。

「アダレー王って?」

「・・・エルフ族の国の王様だよ」

「ああ~」

大陸史の授業で習ったことをすっかり忘れて首を傾げるルナリアの耳元で入れ知恵すれば、思い出せたらしいルナリアが頷く。

ドヴァールグ王のときはスルーしたのに、何で今度はスルーしないかな。

シェリアお婆様がこの場に居たら、課題の追加ペナルティを食らい兼ねなかったけど、この場には居ないから一応セーフだろう。

「ケルトレイオス陛下は、エルフ族最後の国、旧エルヴィン王国の最後の王だ。魔法道具に造詣が深くて、対魔族大戦の勝利に多大な貢献をされた人類の恩人とも言えるお方でも有るな」

「貴女は本当によく学んでいらっしゃる。未だに覚えてくれているヒト族が居ると知れば、お祖父様も喜んでくださると思うよ」

ルナリアの忘却を見逃してくれなかったお母様が溜息雑じりに補足をくれて、私たちとお母様を見比べたレイクスさんが柔らかく笑う。

「なるほど、なるほど。我らが国王陛下は、旧アダレー王家の末裔とどう向き合えば良いかと意見を求められたわけだ」

クックックと低く笑い声を漏らしたお母様が、据わった目で口角を引き上げる。

どう見ても殺る気マンマンにしか見えないお母様に血相を変えたのはドネルクさんだ。

「いやいや! 陛下はエルフ族の生き残りをどう 匿(かくま) えば良いかと判断に困られただけで、まさか旧王家の末裔だとは、俺も今、初めて知ったんだぞ!」

「今知ろうが明日知ろうが、そんなことはどうでも良い。神教会が何と言おうが知ったことか。陛下が困られているというならケルトレイクス殿たちはウォーレス家が保護する」

「待て待て! 神教会と戦争を始める気か!?」

王様さえも押し退け兼ねない次期奥方様の宣言に、お母様が一歩も退く気が無いことをドネルクさんも察したんじゃないかな。