軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ⑬

んん? 空気が重いな。

何だろ? この緊迫した雰囲気。

お母様の隣の席に着いているドネルクさんは難しい顔で腕組みをしていて、真剣な目のお母様が口を開く。

「まどろっこしい話は好かん。単刀直入に本音で話そうじゃないか。勇者殿。―――、そして、エルフ族の方々」

お母様の言葉にピキッと瞬間冷凍したように空気が緊迫する。

お母様の目を静かに見返しているテツさんの目も冷ややかに据わっている。

脳が情報処理能力を超えてしまった私はといえば、ポカーンと口を開けて固まってしまっていた。

ふぇっ? 今、何と?

お母様の言葉がジワジワと脳に染み込んできて、数秒掛かって理解が及んだ。

「「「「「ええええええええええええっ!?」」」」」

お母様とドネルクさんとテツさんたち以外の大声が食堂に響き渡る。

撤収の直前、お母様とドネルクさんが話し込んでいたのは、このこと!?

「・・・えええええエルフ族!? どどどどどどういうこと!?」

「フィオレ。後にしろ」

「・・・アッ。ハイ」

お母様にピシャリと言われてサッと自分の口を手で塞ぐ。

視界の端に入り込んでいるルナリアも私と一緒に口を塞いでいる。

私たちを黙らせたお母様と真正面に座るテツさんは睨み合ったままだ。

シンと静まった室内の空気をペシッと横に撥ね除けるようにテツさんの低い声が響く。

「ギルド長。これは?」

ちょっ! テツさん、メッチャ怒ってるよ!

テツさんが内包している、ただでさえ濃密な魔力が膨張して、物理的な息苦しさを感じるほどの圧力を感じる。

窓の外から興奮している馬たちの 嘶(いなな) きと、落ち着かせようとしている兵士さんたちの慌てた声が聞こえてくる。

ああ~。分かる分かる。

こんなに強い魔力の気配に晒されたら、馬たちも驚いただろうし怖いよね。

冷たく重い鉄塊のようなテツさんの目差しを真正面から受け止めて、ドネルクさんも揺るがない。

「誤解するな。フレイアが自分で答えに行き着いたんだ」

「俺たちとの付き合い方をフィオレの嬢ちゃんたちに訊いたんじゃなかったのか?」

ふむ・・・。誤解?

どこでどう接点が出来たのかは分からないけど、敵対関係に有るはずの勇者とエルフ族が行動を共にしている。

これには、極めてセンシティブな事情が有るのだろうと嫌でも察せさせられる。

センシティブな情報を本人たちが知らない場所で喋ったとなれば、テツさんが怒るのも無理は無いように思える。

それでもドネルクさんはテツさんの目差しから逃げることもなく、静かに見返している。

「確かに俺が頼んだ。だが、俺は“テツという男とケイナという少女”としか、お前たちの情報を与えていない」

「・・・そうだったね。それしか聞いてなかったよ」

私もドネルクさんの言葉を追認する。

そう言えば、確かにドネルクさんが話した情報はそれだけだった。

お母様とルナリアも頷いて追認している。

そこから先は私たちの推察に過ぎない。

私の証言に小さく首を傾げたテツさんが、お母様へと目を向ける。

「フレイアさん、だったな。なぜ、その結論に?」

「レイクス殿、だったな。フィオレと話しているときに、貴殿は魔力のことを“魔素”と呼んだだろう。“魔素”という言葉はエルフ族の文献にしか記述が出て来ないのだよ」

お母様も静かにテツさんの目を見返している。

この言葉に嘘は無いと信じられる目だ。

「・・・そっか。“魔素”って言ってたね」

「なるほど。よく学んでおられるようだ」

納得した私と同じ心情なのか、レイクスさんは目を細めている。

ここは私もお母様に加勢しておこうかな。

「・・・レイクスさん、レイクスさん。お母様は王国一の知識人で、大陸一の魔法術師と呼ばれている人なんだよ」

「ほう! そうなんだね!」

魔力の手や魔石使用法に強い興味を示していたから食い付くんじゃないかと売り込めば、案の定、レイクスさんが食い付いた。

知識欲が強くて関心の方向性が同じなら、惹かれ合う部分は有ると思ったんだ。

「どうだかな。魔法術式とは果てもなく深いもので、今ではフィオレに教わることも多い。我欲で他民族の技術を奪い、先人たちの知恵を積み上げた技術体系を喪失させる有象無象が付けた評価など、ゴミ屑ほどの価値もない」

馬鹿馬鹿しそうに肩を竦めてお母様が吐き捨てれば、レイクスさんが首を傾げる。

「技術体系の喪失というのは?」

「・・・精霊魔法はエルフ族の滅亡と共に喪失して、刻印魔法も神教会の独占で劣化した複製品しか作れないほど後退したと言われてるんだよ。神教会が独占しているのは治癒魔法や召喚魔法もだね。お母様は普段から神教会をはじめとした西方諸国に対して怒っていたから」

解説しよう! と割り込んだ私の解説を聞き終えて、やるせない感じの溜息と共にレイクスさんが目を伏せる。