軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ⑨

「・・・おおぅ」

「ふぁああああ」

「・・・おっと」

平衡感覚を失いそうになって両足を踏ん張って堪えたところへ、髪を掠めて頭の脇から胸元へカップが落ちてきて空中で危うくキャッチする。

私の肩の上へポスッとルナリアの頭が載せられた。

「・・・ルナリア?」

「どうかされたんですか?」

ルナリアの返事がなく、ケイナちゃんに心配そうな声を掛けられる。

近すぎて見えにくいけど、寝てる―――、いや。気絶したっぽいな。

呼吸は有るし安定してるから心配ないだろう。

私も一瞬クラッと来たけど耐えきったし、一時的な目眩の症状以外に異常は無いから毒物の疑いも無い。

「・・・たぶん魔力酔いを起こしたんじゃないかな」

「ああ。魔素酔いですか」

お? この余裕・・・。ケイナちゃんも経験者っぽいね。

ケイナちゃんの微笑ましそうな目が私の肩へと向けられている。

でも、ケイナちゃん自身はぜんぜん平気そうだね。

周りを見回せば、テツさんもぜんぜん平気そうにしていて、レイクスさんたちは額に手をやって首を振っているから魔力酔いによる目眩を感じてるっぽい。

なるほど、なるほど? テツさんとケイナちゃんは私たちよりも体内保有魔力量が多いっぽいね。

魔力酔いマスターを自認する私の見解として、魔力酔いというものは体内保有魔力量を大きく超える魔力を摂取したときにしか起こらない。

魔力酔いを感じる人よりも、平気な人の方が体内保有魔力の許容量が多いのだと判断して良い。

こうやって同じ魔獣の血を飲んだときには比較対象が可能なんだよ。

「・・・ん?」

視線の変化を感じて目を向ければ、ケイナちゃんがルナリアではなく私の胸の辺りを見ていた。

視線の高さからみて私の勘違いではないだろう。

胸の中では焼けるような熱さが収まりつつ有るけど、魔力のザワザワは続いている。

これは、もしや?

「・・・もしかして、ケイナちゃんも見えてる?」

「あっ。ごめんなさい。不躾でしたね」

念のため、ヒソヒソと声を潜めて訊いてみれば、ケイナちゃんが慌てて頭を下げる。

「・・・ううん。それは良いんだけど」

「私は兄様のような“眼”は持っていませんよ? 私に見ることができるのは精霊ぐらいですね」

「・・・えっ!? ―――、ハッ」

思わず大きな声を出してしまって、私たちに視線が集まっていることに気付いて手のひらで自分の口を塞ぐ。

危ない危ない。センシティブな話題っぽいから気を付けないと。

ケイナちゃんも多くの視線に晒されて小さくなってしまっている。

人目の有る場所でこの手の話題は避けた方が良いな。

ケイナちゃんも私と同じように考えたっぽいね。

2人で視線を合わせて苦笑し合う。

水魔法でカップの血を濯ぎ落としてレヴィアさんに返していると、ドネルクさんと一緒に少し離れた場所にいたお母様が、ドネルクさんと別れて戻ってきた。

何やら話し込んでいたみたいだけど、話は終ったみたいだね。

「おい。血抜きはどの程度終わった?」

「大雑把には、ですね。解体は森を出てからにしますか?」

お母様に問われた猟師さんの1人が現況を報告した上でお伺いを立てる。

「そうだな。移動は可能か?」

「まだ途中ですが、運搬中にも血は抜けるでしょう」

滴るペースが落ちた獲物の血に目を向けて猟師さんが頷く。

おっ。撤収かな?

10頭以上もの魔獣の血抜きをしているせいで、私たちの周囲には血の臭いが漂ってしまっている。

新たに別の魔獣を呼び寄せてしまう前に撤収した方が良いよね。

お母様も私と同じ判断に至ったようだった。

「ヨシ。領主館へ戻る。移動準備を―――、フィオレ。ルナリアはどうした?」

撤収指示を出したお母様の目が私たちに留まる。

まあ、そりゃそうなるよね。

お母様を安心させるように、暢気にスピーっと寝息を立てているルナリアの金髪頭を撫でる。

「・・・ただの魔力酔いだから心配ないよ」

「この魔獣では仕方なかろう。獲物の運搬はどの程度任せて良い?」

小さく息を吐いたお母様が、早速、木から下ろす作業が始まった獲物たちへと目を向ける。

討伐中と同じで、14本のうち「足」に6本使うから、「手」に回せるのは8本。

シカと熊とルナリアとアクティブソナーに1本ずつ使えば、バンダースナッチに回せる「手」は4本か。

「・・・全部は無理だけど、シカと熊とバンダースナッチの半分弱なら」

「残りは兵に運搬させる。今から戻れば昼過ぎには領主館へ帰還できるだろう」

「・・・はーい」

お母様に承諾を返して顔を振り向ければケイナちゃんたちも私に注目している。

「私たちも同行するのですよね?」

「・・・血の臭いが濃くなり過ぎてるから、魔獣が集まって来ちゃいそうだからね」

「確かに」

スンスンと臭いを嗅いだケイナちゃんたちが納得顔で頷く。

「・・・テツさんもそれで良い? お母様はピーシス領の領主館でお昼ご飯にするつもりみたいだけど」

「おう。構わねえよ」

快諾してくれたテツさんたちは背嚢を背負い直すだけだからね。

私たちの方も吊すのに使っていたロープをまとめて、中途半端に仕掛け終わっていたワナを解除して回るだけで撤収準備は整った。

ゾロゾロと崖の階段を下りて全員が下りきれば階段を崖に吸収させて撤去しておく。

魔獣の痕跡を探す必要もなく歩くだけなら1時間ほどで森の出口に着く。

突入した入口と同じ場所から森を出れば、中天から降り注ぐ陽光と、馬の番をしてくれていた兵士さんたちと、街道へ向けて威嚇している“1号”に出迎えられた。