軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ⑧

「フィオレー! ひっくり返してー!」

「・・・ああ。ハイハイ。筆が早いですねー」

アスクレーくんの要求に魔力の手を伸ばして熊をゴロンと裏返してあげていると、テツさんが微笑ましそうに笑う。

「上手く扱うもんだな」

「・・・未来の旦那様だもの。今のうちから手綱を掴んでおかないと」

それ、アスクレーくんのことだよね?

決して単に甘やかしているつもりはないけど、アスクレーくんが前向きに頑張れるように支えてあげるのは家族の務めだからね。

「そういうものですか?」

真剣な表情でケイナちゃんが尋ねてくる。

おや? 好きな人でも居るのかな?

偉そうに指南できる立場じゃないけど教えて進ぜようか?

よく分かっているわけじゃないけど、エゼリアさんたちから教わった極意だから私も実践しようと手探りで頑張ってるんだよ。

私には感覚がよく分からない部分が有るけど、幼女にとってもデリケートな話題だろうからね。

相談できる同志は多い方が良いからケイナちゃんも仲間に巻き込んじゃえ。

「・・・辺境では普通の考え方だよ。ケイナちゃんも頑張ってね」

「そうなのですね。頑張ります」

ニコッと笑ったケイナちゃんに私も笑顔で頷き返す。

うむ。ケイナちゃんとの間にも何か通じ合うものは出来た気がする。

「フィオレ様! 吊すのを手伝っていただけませんか!」

「・・・あ。はーい」

名前を呼ばれて目を向ければ、シカを木に吊そうとした猟師さんたちとアスクレーくん部隊の男の子たちは獲物が大きすぎて苦労しているっぽい。

魔力の手でシカを持ち上げてあげれば、後ろ脚に結わえ付けたロープを手早く引かれて近くの木の幹に縛り付けられる。

地上10メートルほどの高さに有る枝に吊されたのに、シカの首は大人の身長で作業しやすい高さに有る。

ホント、デカかったんだな。この牡ジカ。

頸骨が折れてプラプラになっているせいで、葉のない枯れ木のように大きく広がった角の重さで頭が変な角度で曲がって角の先端が地面に着きそうになっている。

猟師さんが山刀で喉をパックリと切り裂けば、まだ命の名残を残していて暖かいのだろう血がボタボタと落ち葉を濡らし始める。

「コイツの血を飲むのは誰ですか?」

「私とフィオレよ!」

レヴィアさんが2つのカップを取り出して手渡せば、猟師さんが滴る血をカップに採取してくれた。

猟師さんから返されたカップをラヴィアさんが届けてくれて、ルナリアと2人でカップの中身を煽る。

「・・・おお」

「うわ」

私と同じようにルナリアも声を上げた。

口の中に血の味と臭いを広げて喉を滑り落ちて行くと同時に、食道か胃へと久しぶりに焼けるような熱が広がっていく。

これは中々。

喜びを表すように胸の中に感じる熱が跳ね回っている。

視線を感じて見てみれば、ケイナちゃんが私の胸を見下ろしていた。

「このバイコーン、かなり強かったのね」

「・・・そうだね」

ルナリアの声に意識を引き戻される。

私の魔力の手を前脚でペシペシと蹴り飛ばして器用に防御する程度には強かったからね。

シカの血ではもう胸の熱を感じることが無くなっていたルナリアと私が2人揃って強い熱を感じるぐらいだから、採掘場のシカと北部のシカでは別種と言って良いぐらい魔獣の強さに差が有るんだろうね。

角の形状も枝分かれの数が全然違っていて、同じ種の角とは思えないぐらいに形状が違うし。

シカの観察から考察へ移る前に三度アスクレーくんが声を上げた。

「フィオレー! 終わったよー!」

「・・・あ。はーい」

魔力の手を伸ばして熊を掴み上げれば、アスクレーくん部隊の面々が新たなロープを準備し始める。

熊の後ろ脚に手早くロープが結わえ付けられて、牡ジカと同じぐらい高い枝にロープの反対側が渡される。

この熊も、やっぱりデカいな。

「・・・カップは持ってる?」

「はい。手持ちが有ります」

ターバンの1人が背負っている背嚢から取り出されたカップをケイナちゃん経由でレヴィアさんが受け取り、私たちが返した分も合わせて9つのカップが猟師さんの手元へ届けられた。

邪魔をする毛を猟師さんたちが苦労して掻き分け、ようやく切り裂いた喉から熊の血が滴り始める。

「・・・あの毛、本当に刃を通しにくくて厄介なんだなぁ」

「切ろうとするのではなく、刃を突き立てるようにすれば喉を裂きやすいですよ」

「・・・へー。覚えておくよ」

ケイナちゃんが教えてくれたコツに頷く。

それは良いことを聞いた。

よくよく考えてみれば、線で斬る剣よりも点で貫く矢や槍の方が攻撃が通るというのだから、解体時も同じだろう。

ケイナちゃんが口にしたコツは理に適っている。

レヴィアさんが再び届けてくれたカップを受け取って中身を煽れば、強烈な熱を胃に感じると共に頭がクラッとした。