軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ㊸

ゴスッ! と鈍い音はしたけど、大地に根を張ったように立つ男性が吹き飛ばされる様子は無い。

ゴスッ! ゴスッ! ゴスッ! と何度も何度も熊の左パンチが男性の頭部に叩き込まれるけど、平気そうな顔で男性が顔を振り向けてくる。

私は一体、何を見せられてるんだ?

「なあ。この熊、殺しちまって良いか?」

「・・・い、良いけど」

この人、獲物の横取りとか、そんなのを気にしたんだろうか?

困惑しながらも私が承諾を返せば、ニッと邪気の無い笑みを返して男性は熊へ向き直る。

何だ? この人。

私と話している間もゴスゴスと顔面を殴られまくっていたけど、どこ吹く風だった。

さっきからアクティブソナーが気になる反応を捉えてるんだけど、差し迫った危険は無さそうだから放っておこう。

「い、痛くないのかしら」

「・・・さあ・・・?」

信じられないものを見せつけられたルナリアも、男性が自然体を崩さないせいで冷静になってしまったみたい。

こっちの世界に来て色々と不思議なものは目にしたけど、この人ほど物理法則を無視した意味不明なものは見たことがない。

男性の右手が熊の左パンチもハッシと掴み取る。

体格は2倍ほど違うけど、大人と子供が向き合うように両手同士で組み合う形だ。

どうなってんの? コレ。

このパワーバランスが釣り合っている時点でおかしいんだけど、熊の方が必死で男性の方が余裕そうな顔をしていることで視覚情報が正しいのか頭が混乱してくる。

「ヨーシ。話も付いたことだし始末する、か!」

「フゴッ!? ゴアアアアアッ!!」

ヒョイと上げた男性の右足が、ズンッ! と重い音を立てて熊の左足の甲に蹴り下ろされる。

思いっきり踵で踏ん付けられた左足が相当痛かったらしく、熊が首を振って泣き声を上げた。

鳴き声じゃないよ? 泣き声。

熊の言葉は知らないけど、どう聞いても泣き声だった。

4足になって痛む左足を庇いたいのだろうけど、男性が両の前脚を掴んだままだから熊は4足にもなれない。

つまり、それは無防備な腹を男性の前へ晒している格好になるわけで、かと言って男性の足が熊の腹に届くのかといえば、純粋な体格差が存在するから届きそうにない。

熊が自由になる顎で男性に噛み付こうとしても、男性に両手を取られているから自分の手が邪魔になって噛み付くことも出来ないようだ。

これ、膠着状態じゃないの?

この期に及んでも男性は平然としている。

どうするのかと思えば、男性は再び右足を上げた。

「ホレ」

「グルオオオオオオッ!!」

パキィッ! と骨が砕ける音と同時に熊が痛そうな声で吼える。

雑な前蹴り―――、いわゆるヤクザキックが熊の左膝を真正面から蹴り折って、自重を支えきれなくなった熊の体が男性に覆い被さるようにして倒れた。

左脚が潰されて倒れるのだから体の左側へ傾いて倒れるよね。

落ち葉を舞い上げてドスンと倒れた熊は身を捩って男性から逃れようとするけど、熊が上体を起こすよりも早く男性の左手が熊の首根っこを掴んで地面に押し付ける。

死に物狂いで振り回す両腕がドスドスと男性を打っているのに、熊パンチの連打を食らっている男性はにこやかに笑っている。

「はっはっは。元気良いな。お前」

「グルルッ!?」

左手で熊の後ろ首を押さえ付けたまま右手を顎下へ差し込んで、男性は右手を真上へ引き上げた。

パキャッ! と軽い音が響くと同時に、ビクリと痙攣した熊が全身を弛緩させる。

首の骨が折れたな。

大型動物でする人は見たことがなかったけど、釣った魚の首をへし折って絞める人なら見たことが有る。

後頭部が背骨とキスするぐらい頸骨を半分折りにされれば、どんな生物だって死ぬ。

死因は頸骨骨折。

この熊は、奇しくも前世の私が殺られたときと同じ殺られ方をしたわけだ。

熊の死を目にすれば、いわゆる”ザマァ”的な溜飲を下げられるのかと思っていたけど、そうでもないな。

「ホイ。一丁アガリっと」

男性が両手を放せば、力を失った熊の頭部がドスンと地面に落ちる。

自分の目を疑うものを見せつけられた。

まさか、体長4メートルを超える巨大熊と組み合ってパワーで凌駕し、鋭い鉤爪を振り下ろしての反撃をものともせず、一方的に素手で殺してしまうとは。

この人、本当に人間?

呆気に取られていたのはシカも同じだったみたいで暴れることも忘れていたっぽい。

おっと危ない。

正気に戻ったシカに振り解かれないように角を掴み直せば、シカも正気に戻って抵抗を再開する。

魔力の手に感じる抵抗を力尽くで抑え込む。

6本の「足」で踏ん張り、4本の「手」で周囲の木々を掴んでガッチリと私たちの体を固定する。

角を掴んでいる2本を除いて自由になる「手」も2本。

「手伝った方が良いか?」

「・・・ああ、いえ。結構です」

気遣うような男性の申し出に、首を振り返して辞退する。

熊へ振り向ける「手」が必要無くなったのだから、もう大丈夫。

四つん這いの骨格である以上、2足で立ち上がらせなければ前脚で邪魔をすることも出来ない。

2本の「手」で太い首を掴んでポキッとへし折れば、シカも全身を弛緩させて横たわる。

意図したわけじゃないけど、男性と同じ手段でトドメを刺したことになるわけで、目を丸くした男性が私を見る。