軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ㉝

「仕掛けの構造は理解できました。トリガーの感触を確かめさせていただいても?」

「・・・気が済むまで触って作り方と感触を覚えて。試射するときは人に当たらないように注意してね」

「もちろんでさあ」

許しが出たと見て取ったピーシスガードが猟師さんたちと一緒になってワナに群がる。

ヒントも与えたし日頃からククリ罠に触れているのだから、すぐに作り方も取り扱い方もマスターしてくれるだろう。

一段落付いたことで私の心にも少しだけ余裕が生まれる。

他に打てる手は無いかな。

熊か・・・。奴らのことを考えるだけでムカムカしてくるけど、冷静にならなきゃな。

熊対策ってワナの他に何かなかったっけ?

例えば、バンダースナッチ対策のお酢とタマネギみたいに、あのクソ生物を無力化できるものが有れば、少しは安全性を引き上げられるんだけどなぁ。

「・・・うーん・・・」

熊避け? 熊撃退スプレーとか有ったよね。

あれってカプサイシンが主成分だっけ?

カプサイシンと言えば唐辛子か。

ピーシーズが王都から送ってくれた再生栽培候補の中に有ったよね。

なんて名前だっけ・・・。

アレだ。コムムしてますか? じゃなかったっけな。

バルトロイさんの地元が熊の棲息域なんから、アンリカさんの嫁入りで持って行って貰った方が良いな。

大量に唐辛子を収穫して絞り汁をブッ掛ければ獣害を減らせるんじゃないだろうか。

でもまあ、試してみるにも今は間に合わないしね。

熊スプレーの成分ってカプサイシンの他は何だっけ?

キャンプ用品店でスプレー缶の成分表記を見た記憶は有るんだけど、よく覚えてない。

木酢液だったかな?

木酢液は農薬として使えるだけじゃなくイノシシなんかの動物避けにも使ったはず。

あ~・・・。熊スプレーの主成分はカプサイシンと木酢液の混合液だった気がしてきた。

木酢液なら炭焼きで自作できたよね。

確か、炭焼き窯の排煙を冷やせば凝結して木酢液になるんじゃなかったっけ。

どこまで効くのか分からないけど試してみる価値は有る?

でも、効くのか効かないのか分からない都市伝説レベルの情報なら、”熊はタマネギを食べない”とどこかで何かの記事も読んだ気がする。

「・・・ふむ?」

カプサイシンは刺激物だし、木酢液もタマネギも刺激物だよね?

木「酢」液って言うぐらいだから刺激物なんだろう。

熊は数キロメートル先のニオイを嗅ぎつけるぐらい鼻が利くはずだし、刺激臭に弱い可能性は有るのか。

タマネギならバンダースナッチ対策で用意してあるし遭遇すればすぐに試せる。

こうしちゃいられない。

「・・・ミセラさんは・・・」

「お呼びですか?」

「・・・ぅわっ!?」

何の気配もなく耳元で聞こえた返事に飛び上がる。

しまった! またやられた!

澄まし顔だけど目が笑っているミセラさんに警戒しつつ、バクバクする鼓動を抑え込む。

まあ良い。今は時間が無いからそれどころじゃない。

「・・・も、木酢液って手に入るかな」

「その“もくさくえき”とは、どういったものでしょう?」

こっちの世界での呼び名が分からないから日本名でぶつけてみれば、木酢液では伝わらなかった。

地球では紀元前の遺跡から利用の痕跡が発掘されているほど古い技術だから、こっちの世界にも存在する可能性は高いと思うんだけどな。

とはいえ、どう伝えれば伝わるんだろう? 製造方法?

「・・・炭焼きで出るニオイのキツい液体なんだけど」

「ああ。“煙汁”ですね。季節的には手に入りやすいと思いますが、何に使うんですか?」

これでどうだ、とばかりに口に出してみれば、ちゃんと伝わった。

季節的っていうのは、炭焼きの季節が終わった後って意味かな?

細かい話は入手できてからで良いや。

「・・・イエーティ対策だよ。バンダースナッチにシーヴァの汁をぶっ掛けるのと同じように使うつもり」

「イエーティに煙汁が効くんですか?」

私の目的にミセラさんが目を丸くする。

おや? 害獣避けとしては使われていない?

「・・・可能性だけどね。被害を出さないために1つでも多く手札を作っておきたくて」

「すぐに手配しておきます」

理由を聞いたミセラさんが表情を改める。

ミセラさんとアイコンタクトを交わしたレヴィアさんとマーシュさんが領主館の建物へ向かったから、早速手に入れに行ってくれたんだろうね。

あ。そうだ。やっぱり気になるから訊いておこうかな。

「・・・ところで、その煙汁って何に使うもの?」

「農作物の虫除けです。農家が多く使うのは春から夏ですから、問題なく手に入ると思いますよ」

「・・・なるほど。お願いね」

使い方は地球の木酢液そのままか。

バンダースナッチの場合はワナに掛けた後の無力化に使ってるけど、熊の場合も同じように行く保証は無いものね。

上手くワナに掛かってくれる保証も無いし遭遇戦も想定しておくべきかな。

遠い間合いから投擲できるように小瓶に詰めて―――、無理だな。

毛むくじゃらの獣にぶつけても小瓶が割れてくれる可能性は低いだろう。

だったら射程は短くなるけど水鉄砲が確実か。

少し荷物は増えるけど、木酢液が手に入ったら猟師さんたちに預けよう。