軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ⑯

「ふむ。原型はニホンの治安機構か?」

考える仕草を見せたお母様が確信を持っている様子で訊いてくる。

あれだけ具体的で説明的な提案なんだから、私の素性を考えれば関連付けて当然だよね。

お母様は理解が早くてとても助かる。

「・・・うん。そうは言っても、分業が行き過ぎると別の問題が起こらないわけじゃないんだけどね」

「ほう? 問題点か」

お母様も興味が有るっぽいし、景色に飽きればヒマなものだから、私が覚えている範囲で続きを口にする。

日本の警察と自衛隊や特殊部隊なんかの分業体制に、それぞれの組織が担う役割。

硬直的で融通が利かない縦割り行政の行き着く先として、某帝国の陸軍と海軍が犬猿の仲で競い合うように明後日の方角へ海外進出した史実も話したら、お母様は楽しそうに笑う。

「どこでも同じなのだな。王都の王宮貴族同士や王都騎士団と近衛騎士団と魔法術師団の関係も似たようなものだ」

「・・・やっぱりそうなんだ」

アリアナさん、大丈夫かな?

短気を起こして暴れていなきゃ良いけど。

「ま。関所の廃止も検討する余地は有りそうだな。レティアへ帰ってからもう一度相談するとしよう」

「・・・分かったー」

お母様の判断を素直に受け入れて従う。

まだどうなるかは分からないけど、検討して貰えるだけでも十分だよ。

私の思い付きがそのまま通るなんて私も考えていないし、みんなで検討した結果、新領地の領民たちも喜ぶ結果に少しでも近付けばそれで良い。

良い形に収まれば良いなー、なんて暢気に返事をした私に、からかうようにお母様が前方を指し示す。

「そんなことよりも、アレをどうするか考えておけよ」

「・・・へっ? ―――、うええっ!?」

お母様が指した先に見えたのは、ウォーレス領軍による制圧戦で一部が破られたままの城壁外に溢れ返っている群衆の姿だった。

少なくとも数百人―――、どころじゃないよね。

オラが村の村興しイベントとか、そんな感じだろうか?

旧コーニッツ領都を背景にして、軽く数千人は集まっていると思われる人々がマラソン競技のゴール地点みたいに街道際を埋め尽くしている。

それにしても多すぎない?

「・・・何? アレ―――、あっ。マリッドさん」

“1号”が歩みを進めていくと、歓声を上げながら手を振っている群衆の最前列で見覚えの有る騎士様たちが手を振っているのを見付けた。

領民たちは野次馬をしに来たんだろうと思うけど、領主に代わって領地経営を監督している代官まで朝っぱらから領民たちと一緒になって騒いでるの?

身を乗り出したお母様たちも私と一緒になって地上を見下ろす。

「どれ? おう。居るな」

「すごい人の数ね!」

「にゃっ」

手を振り返すのは良いけど落っこちないでね?

念のため、転落防止で魔力の手で受け止める準備はしておくけど。

改めて群衆を見下ろせば、どの顔も表情は明るい。

領民たちが“1号”の移設を歓迎しているのだろうことは分かるけど、大袈裟だなあ。

リテルダニア系もエクラーダ系も関係なく入り混じっているところを見ると、大きな混乱もなくエクラーダ系の人たちが受け入れられていそうなことには安心を覚える。

問題が起こっていないのなら、良いとしよう。

「・・・どこに置けば良い―――っ!?」

「こっちへお願いしま―――す!!」

群衆のインパクトが強くて目立たなかった兵士さんたちが手を振って誘導する先は、街道から森側へ外れた原野だ。

レティアの北門前に置いていたときの状態を参考にしたのだろうね。

万が一にも人を踏み潰したりしないように、魔力の手を地上にも伸ばしてアクティブソナーも駆使して安全確認を行う。

ノシノシと街道から外れた“1号”を森との境界線の直前で回れ右させて座らせる。

ズウウウウンッ! と大きな地響きを立てて“1号”が正座した衝撃波が伝わって、壊れたままの城壁の一部がガラガラと崩れ落ちる。

足下の地面から結構な衝撃波が伝わっただろうに、ワアッ! と歓声を上げた群衆は1人も逃げ出さなかった。

むしろお祭り騒ぎだよ。

怖いもの知らずというか、知らぬが仏というか、完全に娯楽なんだろうね。

”1号”の方も着地の衝撃で両腕が脱落しなくて良かったよ。

街道から200メートルも離れていれば、“1号”が倒壊しても通行人に被害が出る恐れは少ないだろう。

アクティブソナーで地中を探れば、ほんの10メートルほどの深さに分厚い地盤が有ったから、“1号”の足と一体化させて基礎を固めてしまう。

足下の土の体積が減って“1号”正座した足がいくらか地中に沈んだけど、半ば埋まってる方が安定性が増して良いんじゃないかな。

「・・・ヨシ。任務完了」

“1号”に崩壊や転倒の気配が無いことを確かめて宣言すると、2時間以上も座りっぱなしだったお母様たちが立ち上がろうとする気配が有った。

「手」で包み込む固定を解除すれば、案の定、お母様もルナリアたちも“1号”の頭上で立ち上がった。

ぐーっと体を伸ばして筋肉を解したお母様が足下を指す。

「終わったなら地上へ下りるか」

「・・・了解」

“1号”から全ての「手」を引き抜いて、代わりに地上へと伸ばして私の体を支える。

改めてお母様たちを魔力の手で掴み直して一緒に地上へ降下する。

靴の裏が安定した大地を踏む感触を得ると同時に落ち着いた印象の男声が掛けられた。