軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ⑭

新領地側から来た荷馬車の御者さんと馬が近付いてくる“1号”の姿に目を剥いて、どう避ければ良いのか判断が付かなかった様子で路肩に荷馬車を寄せて立ち往生する。

あー。そのままそのまま。

じっとしていてくれれば跨いで行くから心配しなくて良いよ。

驚愕で目と口を目一杯に開けている御者さんと馬に手を振って頭上をフライパスする。

数台の荷馬車を跨いだ後も“1号”の歩みにシェイクされつつ、領境へ向かう景色を眺めてワーキャーワーキャーと騒いでいたら、行く手に街道と交差する“横線”が見えてきた。

あれは王都からの帰り道に通った最後の関所だね。

横線に見えるのは領境を示す木柵だよ。

街道の上に跨がる形で2重になった門と、街道脇には一軒家サイズの小さな砦が門の手前と向こう側にそれぞれ1つずつ設けられて、上空から俯瞰すると関所の構造がよく分かる。

私たちから関所が見えているように、関所側でも上体を揺らして歩いてくる“1号”の姿に気付いているようで、わらわらと人影が出てくる。

関所で守備任務に就いている兵士さんたちが“1号”を警戒しているのではないことは、みんなして手を振ってきている様子で分かる。

“1号”は慰霊碑と並んで北門前の名所と化していたから、みんな知ってるんだろう。

「皆、ご苦労!!」

「おはようございます!!」

地上を見下ろしてお母様が労えば、地上からも兵士さんたちの明るい声が返ってくる。

お母様はウォーレス領のアイドルというか勝利の女神様だからね。

それは良いんだけど、こっちは拙そうだな。

「・・・お母様。街道脇に避けて良い?」

「そのまま跨げば良いんじゃないのか?」

関所から木柵に沿って街道から外れた原野を指せば、お母様が首を傾げる。

「・・・爪先で建物を引っ掛けちゃいそうで」

「歩幅が足りんか」

「・・・短足だからね」

悪く思うな“1号”。

足の長さを伸ばせば跨げないことも無いだろうけど、不要なリスクを冒す必要性はこれっぽっちも無いんだよ。

短足呼ばわりは安全のための必要経費だ。

「ゴーレムは脇から柵を越えるぞ! 隊列はそのまま関所を抜けろ!」

「はっ!!」

90度方向転換して街道から数十メートル離れた場所で木柵を跨ぎ越える。

これでウォーレス領から新領地へ出たことになる。

木柵に沿って街道へ戻れば、今度は新領地側の兵士さんたちがみんなで手を振っている。

「・・・ご苦労さま―――っ!!」

「お帰りなさい!! フィオレ様!!」

「・・・た、ただいま!」

地上に向かって労いの声を掛ければ、返ってきた兵士さんたちの声に考えさせられる。

一度しかみんなの前に顔を見せていないのに、「お帰り」と迎えられるとは思っていなかったよ。

形式上はウォーレス領に勤めに行っていることになってるけど、隣領に居たまま領地へ戻ることのない私のことを自分たちの領主だと思ってくれてるのか。

手を振る兵士さんたちに手を振り返し、“1号”を街道へ戻して関所を後にする。

やっぱり新領地にもっと目を向けないとダメだな。

領民たちに誤解を与えるのも良くない。

人間関係なんて顔を合わせなくなれば疎遠になるものだ。

私に新領地の領民を貶める気が無くても、自分たちは気に掛けて貰えていないなんて思い込まれる恐れも有る。

不信は反感になって人間関係を断絶させる。

人間関係の断絶とは社会の分断だ。

間諜が付け入る隙になるだろうし、離反工作で叛乱を起こされる危険だって有る。

典型例は旧エクラーダ王国がヤラレた手口だよ。

教会施設を置いて地域密着型の浸透工作を行う神教会は、そういう不信感や距離感に付け入って隙間を広げ、為政者と領民の関係を分断するんだろう。

じゃあ、どう対策するか。行政改革でどうにか出来ないかな?

黙ってしまった私にお母様が目を向けてくる。

「どうした?」

「・・・ううん。ちょっと反省してただけ」

首を振る私にお母様が面白そうに目を細める。

「ほう。何の反省だ?」

「・・・平等に扱うつもりで居たのに、私の方が新領地の領民を遠ざけてたのかも」

「つい先日までは敵だったからな。私も以前までの気分が抜けていなかったかも知れん」

私の指摘にお母様も思案顔になる。

恭順している領民たちに隔意を抱いたままで円滑な統治なんて出来るわけがない。

力で押さえ付ける限りどこかで不満は燻り続け、火種が存在し続ける限り力で押さえ続ける必要が生じる“負のスパイラル”だ。

連鎖を断ち切るにはどこかで大鉈を振るう必要が有る。

何に対して大鉈を振るうのか?

どうしても私の脳裏に思い浮かぶのは、永きに渡って“水と安全はタダ”だと国民が誤解していた国の姿だ。

数百年間も高度な治安を維持し続けた国のシステムに学べるものはないか。

「・・・お母様。関所を無くしちゃダメかな」

「ふむ? どういう意図でだ?」

私の質問にお母様が怪訝な表情になる。

「・・・ピーシス家がウォーレス家と敵対することなんて無いじゃない? なら、ピーシス領とウォーレス領の領境に関所を置く意味なんて無いよね。領民たちにも、ピーシス領とウォ-レス領で領民の扱いに差がないと理解しやすいんじゃないかな」

私はレティアを離れる気は無いけど、領民たちにも隔意がないことを示しておきたい。

意図を確認して小さく息を吐いたお母様が静かな目で私を見つめる。