軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ⑪

「豊かさを与えて争いを減らそうとする考えに反発する者は少なかろう。異を唱えれば己の器量を疑われる」

「“平和は次の戦争までの準備期間”だったか。良い戒めだな」

ウォーレス家の決断を見届けて、ドネルクさんもまた噛みしめるように頷く。

そうそう。軍事関係者でもなかった私が覚えているほどの格言だからね。

私も少し落ち着いたからって油断するつもりはないよ。

悲しみも怒りも飲み込んでくれたお爺様たちやお父様の譲歩を無駄にしようとするなら、今度こそ私が許さない。

徹底的に追い詰めて跡形も残さず潰してみせる。

今度は王様も王妃様も前向きに進めようと協力してくれようとしている国策だからね。

こっちに大義が有る以上、次は手加減も気遣いも無しだ。

ともあれ、旧“融和派”領地だった新領地も民は貧しくて、代官を務めてくれているマリッドさんを通じて改善すべき問題が山積していると聞いている。

「・・・新領地の方も手を付けなきゃなあ」

旧領主勢力は徹底的に排除できたらしいけど、豊かになれなきゃ旧領主時代のように不正や搾取で状況を打開しようとする人たちが現れるだろう。

そうなる前に誰もが豊かになったと実感できる結果を出さなきゃ。

マリッドさんが頑張ってくれているからとタスクリスト外に追いやって丸投げしてきたけど、領民たちの前で私が大見得を切ったのはもう1ヶ月も前のことだ。

いくつかの案件に目処が立ったのなら、ちゃんと向き合わないとね。

「新領地と言えば、本気でアレを新領地まで運ぶつもりか?」

「・・・んー。歩かせれば半日も掛からないんじゃないかな」

お母様が訊いて来たのは”獰猛くん1号”のことだ。

巨人ほどの歩幅なんだから、普通に歩かせても馬と同じぐらいの速度は出るんじゃないかな。

半ば呆れ顔のお母様に答えると、巨大スライム戦を見ていなかったバルトロイさんが首を傾げる。

「アレというのは、城壁外に有る巨大なゴーレムのことか?」

「・・・はい。壊すぐらいなら新領地に置いて欲しいと領民から要望が出てるんです」

巨大スライム戦の話は聞いているだろうけど、なんでわざわざ、あんな馬鹿デカい石像を移動させる必要が有るのか理解に苦しむところだろうね。

私としても、巨大な廃棄物と化した“獰猛くん”が農地拡大の障害物となり兼ねないと考えたところに「残して欲しい」と領民たちから要望が来ただけで、取り立てて残したいと考えているわけじゃないもの。

まあ、移設は決まったことだし、そうすることで円滑に統治が進むのなら手間を惜しむほどのものでもない。

お母様も移設そのものに異議が有るわけではないらしく、どう移設するのか具体策を訊きたかっただけのようだ。

「またアレの上に乗っていくつもりか?」

「ちょっと待て。上に乗るとは何だ?」

私がお母様に答える前に困惑顔のバルトロイさんが問うてくる。

「・・・言葉通り頭の上に乗るんですよ?」

「頭・・・?」

私の答えにドネルクさんが首を傾げる。

確かに首から上はへし折れて取れちゃったけど、そんなものは過去のものだ。

「・・・頭ですよ。頭」

ドネルクさんは何を言っているんだ。

首はなくなったけど、顔が付いている以上、頭は存在するんだよ。

ていうか、私が人型をイメージする際に「頭が有る」と考えた方がイメージしやすいようで、大人の事情的に危うい感じの見た目の方が操縦しやすいんだよね。

そんなわけで、胸にレリーフが刻まれているような形でも顔は必要。

お母様とバルトロイさんとドネルクさんの疑問は微妙に焦点が異なるようで、バルトロイさんの困惑は解消されていないらしい。

「随分と大きかったと思うが、アレはどのぐらいの高さなのだろうか」

「・・・頭の上だと50メテルぐらいだと思います。下から見上げて操るよりも、自分自身が大きくなった感覚で上から見下ろした方が操りやすいんですよ」

「そういうものなのか」

学者さん寄りの考え方をするバルトロイさんなら技術的な疑問かな?

だったら自分で触れてみた方が理解が早いんじゃないの?

「・・・乗ってみますか?」

「ああいや。結構だ。婚姻前にくだらん危険を冒して死んでは末代までの恥曝しになる」

「・・・むー。落ちませんよ? 落ちる前に飛びますし」

失礼な。理解を手助けしようとした折角の申し出を断られるとは思わなかった。

良いよ良いよ。ルナリアなら付き合ってくれるだろうし、新領地までの旅路が私1人で退屈するなんてことは無いだろう。

最悪、私1人で寂しい思いをしたとしても数時間の辛坊だ。

バルトロイさんに拒否されて口を尖らせる私をお母様は孤独にさせない。

「私が一緒に乗っていく」

「おい。フレイア?」

同乗を申し出てくれたお母様にお父様が咎めるような目を向けけど、お母様は真面目な顔を取り繕ってみせる。

「本当に危険がないか、母の私が確かめておかねばな」

「貴女は自分が乗ってみたいだけでしょうに」

「子供が危険を冒すのを止めるのが母親で、一緒になって危険を冒すのが母親では有りませんよ」

そりゃまあ、興味からの申し出なのは私も分かっていたけどね。

娯楽が少ない世界だし、面白そうなものには乗っかった者勝ちだし。

お婆様たちに本心を見破られてもお母様は怯まないし悪びれない。