軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ⑨

昼食を終えて、またしばらく伐採作業を監督していたら、ジアンさん率いる新人さんたちが採掘場から戻ってきた。

私たちの姿を見付けたジアンさんは、新人さんたちを直線道路に待機させて新たに出来上がった更地へ馬を踏み入れさせてくる。

「ルナリア様。フィオレ様。ただいま帰還いたしました」

ヒラリと鞍から下りたジアンさんが私たちの目の前で右手を胸に当てて軽く一礼をする。

敬礼ではなく一礼。

あくまでも自分は騎士ではなく、ピーシス家の執事だという姿勢を崩すつもりはないらしい。

「おかえり! ジアン!」

「・・・お疲れさま。何事も無かった?」

ルナリアと私の労いにジアンさんがフッと表情を緩めた。

「はい。すでに体内保有魔力の活性化が感じ取れなくなっている者も増えてきましたから、そろそろ次の段階に移っても良い頃合いかと」

「次って何するの?」

首を傾げるルナリアの問いにジアンさんは真摯に向き合ってくれる。

「個々の技量の引き上げです。特に騎乗戦闘は熟達に時間が掛かりますから、じっくりと教え込まねばなりません」

「じっくり・・・」

どうなるのか想像したらしいルナリアがヒクリと口元を引き攣らせる。

スパルタなジアンさんだからねぇ・・・。

私も簡単に何が起こるのかを想像できてしまった。

「・・・そ、そうだね。じゃあ、見習いは卒業ってことで、装備を支給したいんだけど」

「倉庫前に待機でよろしいですか?」

ジアンさんの確認に頷いて返す。

ミセラさんからもそう言われていたけど、私が伝えるまでもなく段取りの共有は出来ていたらしい。

ジアンさんの言う「倉庫」とは領主館の中庭に面した兵站備蓄倉庫のことだ。

「・・・ミセラさんたちが準備してくれてるって」

「承知しました。では、一足先に向かいます」

再び一礼したジアンさんは身軽に鞍へ跨がると待機中の馬列へと戻っていった。

「・・・ルナリア。私たちも領主館へ戻ろうか」

「そうね! ―――、みんな! 帰るわよ!」

ルナリアが声を張り上げると、返事を返したピーシーズが作業を切り上げて帰り支度を始める。

騎乗戦闘の訓練はピーシーズもまだまだだとお母様が言っていたから、ジアンさんが指導する訓練に指揮官のピーシーズも参加させるべきかなぁ。

領主館へ戻って厩舎の兵士さんに馬を預け、護衛に就いてくれていたエターナさんとディディエさんたちを引き連れて中庭へと向かう。

領主館の出入口から建物内を抜けて中庭へ出ると、分隊単位で整列している新人さんたちが私たちの姿を目にして姿勢をビシッと正す。

ヨシヨシ。隊列の中にエイラさんの姿も有るね。

一人ひとりの身体測定は事前に行われていたみたいで、当然のことながら個々のサイズに合わせた甲冑が用意されているらしい。

兵站備蓄の中からピックアップされてこの日のために大至急で調整に回されていた甲冑は、鍛冶工房から戻って来て領主館1階の倉庫に詰め込まれていたそうで、今はミセラさんたちと兵士さんたちの手で倉庫から引っ張り出されて木箱に収められたまま中庭に並べられている。

ルナリアと2人、整列中の新人さんたちの前で足を止める。

「傾注!」

ジアンさんの号令で新人さんたちの目が一斉に私たちへと向けられる。

みんな真面目な表情を取り繕っているけど、期待感が目から溢れて漏れ出してるよ。

王都から戻った私たちの元へ集められてから1ヶ月弱。

みんなよく頑張ったよね。

1人も脱落せずジアンさんの訓練を耐え抜いて、毎日毎日、採掘場で魔獣を手に掛け、強制的に連れ出された森の奥からも無事に生還してみせた。

初めてピーシス領で合ったときとは見違えるように引き締まった表情は、一端の戦士へと成長したように見える。

新人さんたちと向き合って反り返ったルナリアが、前置きも何かも素っ飛ばして私にパスしてきた。

「フィオレ!」

「・・・ん。みんな、お疲れさま。厳しい訓練の日々だったけどよく乗り切ったね」

言葉に出さず身動き1つしなくても、ザワリと空気が揺れる。

「・・・騎士候補としての訓練は今日で終わり。成人したら騎士団の選抜試験は受けて貰うけど、明日からは騎士としての任務に就いて貰うよ」

「「「「「―――ッ!!」」」」」

待望の見習い卒業宣言に、誰も口を開いていないのに空気が沸く。

若さだねぇ。

訓示中で統制されていなかったら歓声を上げて大騒ぎしていただろうことが在り在りと分かる。

選抜試験に受かるまでは騎士「候補」なんだけど、分かってるよね?

私も苦笑を堪えて表情を取り繕いながら今後の配置を伝達する。

「・・・所属する小隊、分隊は現状のまま。女性騎士候補1個小隊は明朝、王都での交代護衛任務に出発して貰うから、準備を整えて今日はしっかりと休むように」

まだ派遣部隊は発表していないけど、女性騎士候補たちの表情がピリッと引き締まる。

王都へ派遣されるということは、王城で王女殿下の直衛に就くということだもの。

そりゃあ気持ちも引き締まるよね。

「・・・今回の交代部隊指揮官は、小隊長がメリーナさん。アイシアちゃんとナンナちゃんは、副官として分隊長としてメリーナさんの指揮下に就いてね」

「「「はっ!!」」」

私が信頼するピーシーズだ。

私の名代として指名された3人が右拳をガツンと胸に当てて敬礼を返して来る。

「・・・それと、今回の交代部隊にはエターナさんとエイラさんに同行して貰うから、そのつもりで準備するように」

「「はっ!!」」

私の後ろと隊列の中からエターナさんとエイラさんが王国式の敬礼で応える。

「・・・最後に、王都へ派遣する駐留部隊は王女殿下の護衛に当たる任務の性質から、“ピーシス護衛隊”―――、“ピーシスガード”と呼称することが正式に決まったよ」

「ピーシスガード・・・」

自分たちの新しい所属部隊名に隊列の中から誰かの呟きが聞こえた。

「拝命いたしました!」

「「「「「―――ッ!!」」」」」

緩んだ空気を引き締めるようにメリーナさんが再び敬礼を返して、ハッと我に返った女性騎士候補たちも敬礼する。

そうなると、まだ配置を指定されていない男性騎士候補たちが、「俺は? 俺は?」と落ち着かない空気を発し始める。

ええ~? 自分たちの部隊名が欲しいの?

部隊名なんて付いていなくても、王国中の誰もが怖れる“ピーシス隊”の末席に加わるってことじゃん。

それじゃあ・・・、ダメっぽいな。

「・・・ええ~っと。男性騎士候補のみんなはアスクレーお兄様の指揮下に入ることになるから、“アスクレー小隊”で良いんじゃないかな? 将来の領軍幹部候補だから頑張ってね」

「「「「「はっ!!」」」」」

キラッキラなエフェクトが幻視できる笑顔で声変わりを終えた脳筋どもが、図太い返事を添えた敬礼を返してくる。

あ~。暑苦しい。