軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ②

「魔石の方も需要が増えると思いますが、調達できそうですか?」

「・・・まだ少し流動的だけど、目処が立ちそうなアテは出来たよ」

“カナリア”の冒険者たちに頑張って貰わなくちゃ。

失敗されたり嫌がったりされないように、冒険者たちに対するバックアップにも力を入れよう。

「そりゃあ助かります!」

「・・・う、うん」

拙い。期待値を引き上げすぎたか?

成功を疑っていない農家さんたちの明るい表情にたじろいでしまう。

「流動的」という逃げ口上は右から左へとスルーされたっぽい。

私も出来るだけ協力して失敗に終わらないように頑張るしかないな。

「・・・魔石の必要分は領主館に申請して、担当者のディディエさんたちから受け取ってくれるかな」

「承知しました!」

魔石の引渡し方法の摺り合わせが終われば長居は無用だ。

余計なことを言ってボロを出す前に撤退しよう。

「・・・じゃあ、私は森の開発区域も視察しなきゃいけないから、こっちはお願いね」

「ご期待に添えるように頑張ります!」

なぜだか農家さんたちが「うおおお!」とばかりに盛り上がる。

これはアレか?

「・・・よ、よろしくね~」

そそくさと鞍に這い上がってオホホ~と手を振り撤退する。

ヤバイ。ただの挨拶のつもりで口に出した「お願い」で、さらに火が点いちゃったっぽい。

新年のご祈祷で精霊事件が有ってから、こういう反応が増えてる気がしてたんだけど、気のせいじゃないと思う。

巨大スライム事件やら何やらで過剰反応が加速している気もするんだよ。

いや。事件の前からだったかな。

期待され慣れていない私にとって、集まった期待から感じるプレッシャーは無視できるものではない。

ダンジョンに送り込む冒険者を増やして数で補う方法も考えた方が良さそうだな。

自分の責任を誰かに転嫁して押し付ける気はないから、自分で撒いた種は自分で何とか処理するしかない。

でも、送り込もうにも内戦の不穏な空気で逃げ出した冒険者が戻って来たとは聞いてないんだよね。

どうやってダンジョンに潜ってくれる人手を集めたものかと馬上で頭を悩ませていたら、アイデアの1つも浮かばない内に北門が見えてきた。

門前の街道に結構な数の人影が有って、こっちに背中を向けている。

「・・・また何か人が集まってるね」

今度は何だ? と警戒したら、人垣の向こう側に横倒しになった巨木が空中を移動していくのが見えた。

あれってルナリアかピーシーズの仕業かな?

「こうして見ると、不思議な光景ですね」

「・・・ああ。そっか。そうだね」

エターナさんの感想に、巨木が空中に浮くのは普通じゃないことなのだと常識の片鱗を思い出す。

感覚が麻痺していたというか、その場その場の状況を何とかしようと必死になっている内に、私の感覚はずいぶんとズレていたらしい。

日本で生きていた頃の私があんな光景を目撃したら、自分の目を疑うか頭を疑うかしていたはずだ。

魔法という不思議技術が常識なこっちの世界でも、あそこまで行くと常識を超えたものなのだろう。

「おい! 道を空けろ!」

「フィオレ様がお通りになるぞ!」

私たちの馬列が人垣に近付くと、気付いた人たちが声を上げて街道上で足を止めている人たちに道を空けさせてくれた。

「フィオレ様~!」

「・・・あ、あはは・・・」

沿道から掛けられる声に営業用スマイルを顔に貼り付けて、胸の前で小さく手を振って声援に応えながら人垣の間を抜ける。

私には絶対にムリ! と思っていたけど、お手本のテレサの姿を思い出して何とかやりきった。

あ。でも、やっぱムリ。

顔の筋肉が引き攣って、こむら返りを起こしそうになってる。

こむら返り―――、足が痙るのはふくらはぎの痙攣だから、これってただの顔面痙攣?

筋痙攣の名前はどうでも良いや。

こういうの、陰キャの私には向いてないんだよ。

街道から逸れて馬を下りると、先に馬を下りたマーシュさんがサッと手綱を預かりに来てくれる。

「・・・ほほぅ? 早いな」

馬のことは任せて開拓予定地を見渡せば、今朝、お母様と私が航空偵察に出てから伐採作業を始めたはずなのに、もうかなりの土地が丸裸になっている。

この調子だと、今日中には領主館の訓練場と同じぐらいの土地が更地に戻っていそうだ。

サクサクと落ち葉を踏んで作業中のルナリアたちの元へと向かう。

直射日光が当たったせいか、風の進入を妨げていた木々が無くなったせいか、僅かに湿気を帯びていることが多い落ち葉に覆われた地面が乾燥しているように見える。

よく考えたら、これって天然の腐葉土だよね。

腐葉土といえば、耕した土に混ぜ込んだり堆肥に混ぜ込んだりで土壌改良に用いる重要な資源だ。

今回の開拓で切り拓く予定になっている森は、かなりの面積だったはず。

魔獣を怖れて人がほとんど踏み込まなかった森の土は、数百年、数千年を掛けて堆積した腐葉土だよね。

この見渡す限り広がる地面の全てが。

「・・・急いで堆肥を作らなくても当面の需要は満たせる?」

私たちが森を拓いて建てようとしているものは騎士や治癒魔法術師を育てる養成施設―――、学校で、学校の土が栄養豊かな腐葉土である必要は、これっぽっちもない。

むしろ、堅牢な建物を建てる地盤はガチガチに硬く分厚い方が良いはずだ。

どのみち建物の地下は基礎工事をする必要が有るんだし、この土を農地へ移植して、減った分は有機物を含まない死んだ土―――、コピペで生み出した土で補えば良いのでは?

伐り出した木々は木材の備蓄に回すのだし、枝葉や根っこは薪や堆肥の生産に使うし、地面の土まで使えるとなれば無駄になるものが一切ない。

「・・・これって資源の宝庫じゃん」

今朝の航空偵察でお母様と見た景色を思い出す。

果てが見えないほど延々と続く緑の海。

あの木々の下にも栄養豊かな腐葉土が眠っている。