軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2次領有宣言 ㉒

慰霊碑の側面が綺麗に見えるってことは、まだ高度50メートル未満だろうか。

だいたいの目安が分かって、体感よりも高度が上がっていないと確認できた。

足下に何もないせいか実際よりも高く感じるんだね。

これは高度計が必要か?

高度計って気圧の変化でストローの水位が変わる簡単な構造で作れたよね。

よく覚えていないけど、確か、小学校だったか中学校だったかの頃に理科の実験で教わった気がする。

少しだけ水を入れたペットボトルの蓋にストローを差し込んで、閉じ込めた水の水位が気圧の変化で上下するヤツ。

ストローはガラス管で代用できるだろうけど、まあ良っか。

高度計を作ろうと思ったらガラス管を作ってくれるガラス工房から探す必要が有るんだし、正確に高度が分かったから、何? って話でも有る。

たかが50メートル高度を上げたところで、延長100キロメートルを遙かに超える川の全景なんて見渡せるわけがない。

ガルダとの戦闘中にはもっと高度を上げたんじゃないかと思うけど、ノーアを攫ったガルダに集中していて高度なんて気にしていなかった。

推定高度200メートルを超えた辺りで、強くなってきた風に長い髪を靡かせているお母様が関心が有りそうな声で呟く。

「空に上がると冷えるのだな」

「・・・気圧が下がるからね」

風が強くなったことで体感温度が下がったことも有るだろうけど、風が吹かなくても断熱膨張で何℃か気温は下がっているはずだ。

私の答えにお母様が首を傾げる気配がする。

「高さと気温に関連が有るのか」

「・・・この間、重力の話しをしたよね? 空気も重力が捕まえていて地面から離れれば離れるほど捕まえる力が弱くなるんだよ」

「星の中心から離れるから力が弱まるんだな」

断熱膨張の概念を、どう説明したものかな。

お母様ほどの理解力を持つ人に伝わらないと言うことは、私の説明が足りていないのだろう。

知識を人に教える行為はピーシーズに魔法を教えるのとはわけが違うのだと気付く。

「そういうものだと思え」と押し付けるだけでは理屈が理解できない。

私に対して無関心だった教師たちと同じように私も教師という職業に人たちに対して無関心だったけど、「人に教える」という難易度の高い専門技術を持った人たちだったのだと今さらながらに思う。

分かりやすく人に伝えて理解に至らせる行為の何と難しいことか。

「・・・簡単に言うと、空気には空気の素みたいなものが含まれていて、地面に引き寄せている重力の力が弱まると、ギュッと押し固められていた空気が膨らんで密度が下がるんだよ」

「それと気温に何の関係が有る?」

これではダメか。

身近なものに置き換えて実感しやすい形で説明するしかないんだろう。

「・・・どう言えば良いのかな。ピタッと体を寄せ合ってると暖かいけど、バラバラに体を離すと肌寒くなるじゃない? そんな感じ」

「ああ。気温も“紅蓮”や“白焔”の圧力と同じ理屈に縛られているわけか」

「・・・そういうこと」

どうやら理解してくれたみたい。

恒星の在り方から発想した“蒼焔”と同じで、土魔法の吸収効果を利用して威力を高める“紅蓮”や“白焔”は「圧力」と関係している。

”紅蓮”を”白焔”に発展させる過程で失敗と試行を繰り返して「圧力」が持つ効果を誰よりも理解しているお母様だから、重力の概念と掛け合わせて「密度」の概念も理解してくれたんだろう。

私の拙い説明で伝わってくれて良かった。

そもそも、教えようとする私の理解自体がうろ覚えのいい加減なものだからね。

私がそっと息を吐いていると、お母様が感嘆を含んだ声で呟く。

「物理法則とは面白いものだな。気付かない日常の中にも様々な理屈が潜んでいる」

「・・・魔法技術も面白いよ。物理法則では超えられない壁を魔法なら乗り越えられる」

「そうだな。どちらも面白い」

物理法則を基にした技術と魔法を基にした技術が掛け合わせると、それまでの常識を上回る成果に繋げられることは実証されている。

残念なのは、今の魔法技術は術師本人の理解と想像力に依存していて、万人に恩恵をもたらすものではないことだ。

魔法による恩恵を受け取るには頭の中にしかないイメージを具現化する必要が有って、その手助けをするものがイメージを想起させるための詠唱術式なわけだけど、詠唱術式では根本的な解決にはなっていない。

個人の頭の中にしかないものは、その個人「だけ」のものだからだ。

個人と他人の隔絶を橋渡しして「だけ」ではなくすことが魔法陣術式や刻印術式には可能だったわけだけど、ほんの短時間の効果しかもたらさず継続性がない魔法陣術式は、準備の手間や不便さから技術体系として衰退しているらしい。

マンガやアニメみたいに魔法陣なんて複雑が図形が空中にババーンと浮くなんて幻想も良いところで、どういう理屈で何もない空中に魔法陣が浮かぶの? と訊かれて答えられる人が居るだろうか?

簡単な漢字一文字で有っても、映写機でもない生身の人間が頭の中に有る文字の形状イメージを正確に空中に映写できるの?

便利だな。それ。

「ファイヤーボール~!」とか意味不明な理屈で爆発する火と同じで、残念ながらそんなに都合良く世界はできていない。

人間は機械じゃないんだから、記憶やイメージなんてフワッとしたものなんだよ。

お母様や私はゴリ押しでイメージを覚えさせることで魔法術師を増やそうとしてきたわけだけど、個人の資質に依存する以上はボトルネックが存在し続ける。

バルトロイさんが教えてくれたように魔法術師の総数が根本的に少ない現状を打破するには、技術革新が必要になるだろう。

ブレイクスルーを起こす鍵として期待していたのが刻印術式なんだけど、諸々の優先事項が積み重なって資料の解読も技術の解析もまるで進んでいない。

“ローマは一日にしてならず”だ。

でも、遅々として進まない国力増強と防衛力強化に勤しんでいる間にも、敵の影は着実に迫ってきている。

まだそこまで切羽詰まっている状況ではないけど、焦りは募る。

殺戮と侵略に明け暮れた地球人類の歴史を知る私だから、滅ぼされて堪るかと拙速に足掻いているし、王国防衛に全てを捧げてきたウォーレス家の人たちだからこそ拙速な私を受け入れてくれているけど、まだまだ足りない。

失ってからでは遅いんだよ。

間に合う内に対策を整えておきたい。

このままじゃダメだと分かっているのに対策を加速させる有効な手立てがない。

どうしたものかなあ・・・。