作品タイトル不明
第2次領有宣言 ⑮
「そうまでとは言わんが、俺としては王国で囲い込みたいと考えている。かと言って、踏み込みすぎると王国の立場を不利にし兼ねん。正直、陛下も扱いに困られていてな」
何だ。私の気負い過ぎだったか。
ドネルクさんの答えにそっと息を吐く。
心を落ち着けて整理しよう。
何らかの事情を抱えてそうな幼女を連れた日本人が王都に現れたわけだよね。
幼女の容姿にドネルクさんが触れないことから察するに、その幼女はこっちの世界の現地人だろう。
そして、なぜだか日本人よりも幼女の方を王様が囲い込みたがっていると。
だったら、そうすれば良いのに、そうできない事情が有る?
強国と言われる一国家が取り込みたがる幼女って、何?
国家元首の王様の権力を持ってしても囲い込みを躊躇う事情って、何?
私の頭が答えを見つけ出す前に思案顔のお母様が零した呟きが耳に届いた。
「王国で囲い込み、か」
「・・・取りあえず会って、解決策を見出せば良いんですか?」
考えるのは後だ。
今は情報が少なすぎる。
会って情報を得てから考えるしか無いだろう。
私の問いにドネルクさんが眉尻を下げる。
「常識に囚われないフレイアと嬢ちゃんたちなら妙案を捻り出せるかと思ってな。知恵を貸してくれ」
「分かったわ!」
「・・・善処します」
本当に困っていそうなドネルクさんにルナリアが即答し、イマイチ自信が持てないながら私も首肯する。
中途半端な返事になったのは、出来れば努力義務に留めて欲しいという願望が駄々漏れになっただけだから勘弁して欲しい。
私たちの返事を見届けた上でお母様も頷く。
「良かろう。ウォーレス家で冒険者ギルドに迷宮の探索依頼を出せば良いのか?」
「建白書も出すのだろう? 俺が預かって帰る」
ドネルクさんが口にした建白書とは、採掘場のときにも王様に提出した「領有宣言を薦める」お手紙のことだ。
渡河地点を防衛する意味でも領有宣言は必須。
表面上はダンジョンの存在は秘密で他国に教えてやる義理はない。
どうせどこかから情報は漏れるだろうから、“欲深いお隣さん”は地団駄を踏んで奪い取りに来るのだろうけどね。
漏れるのが分かっているなら、取り立てて隠す努力をする必要はないよ。
隠す努力よりも守り抜く努力をした方が生産的だからね。
国境を守るのはウォーレス家の使命で、私もその一員だ。
やりたいことや必要なことが積み上がりすぎていて、ダンジョンに手を出す余裕は無いなあ。
でも、美味しそうな食べ物が目の前に転がっているのに唾を付けるだけで放置するなんて、腹ペコ原始人の私には無理だ。
絶対に齧り付きに行きたくなる。
私の歯形をハッキリと刻み込んで私のものだと主張する。
だったら、どうするべきか。
私が動けないならアウトソーシングで動ける人たちを使えば良い。
ドネルクさんがその手札を与えてくれて居るのだから、有り難く使わせて貰おう。
私が考えるべきは手札を使うかどうかじゃなく、いかに効率的にその手札を活かすかだ。
「・・・冒険者かぁ」
うーん。効率良く働いてくれる状態ってヤル気になってるってことだよね?
冒険者がヤル気になって頑張ってくれる状況って、どんなの?
私がその立場なら、やっぱり儲かるのが一番ヤル気になるよね。
冒険者が個人事業者だとして、個人事業者は会社からお給料を貰う会社員とは違う。
労働力の対価として売上を手に入れても、原価と経費と税金を差っ引いた後の手残りしか利益にならないからだ。
狩った魔獣素材を高値で売り払えれば儲けは増えるけど、いくらで売れるかは市場の相場による。
現代日本の広告に「高値買い取りします!」なんて売り文句は見飽きるほど並んでいたけど、それは買い手の負担を増やすか中間マージンを薄くすることで売り手に利益を付け回しているだけで利益そのものが増えているわけじゃない。
中間業者の立ち位置が売り手側に寄っているか買い手側に寄っているかの違いでしかないんだよ。
今回の事業スキームでは、営業場所の提供者と買い手をウォーレス領が兼ねて、売り手が冒険者で中間業者がギルドだ。
単に買い手に回るだけでなく、営業場所まで提供してあげるのだから、ウォーレス領の利益を削るなんて私の経済観念が許さない。
それなら複数有る中間業者を少数に絞って売り手と買い手と中間業者の全員が恩恵を享受する形を目指したい。
輸出? ハハッ。敵に売ってもいいものなんて解毒魔法のモルモットで作った干し肉ぐらいだよ。
安く卸してあげるけど、健康被害は自己責任でドーゾ。
王国を侵略しようとあの手この手で揺さぶってくる敵には魔石1つだって売ってやるつもりは無い。
「魔石売れやゴラァ!」と鳴く仮想・神教会の坊主を蛇拳の構えで迎え撃つ。
鶴の構えでも良いよ。
酔拳の構えは未成年だからNG。
まだ見ぬ敵との脳内バトルが白熱して1人でカッカしていると、私の呟きを拾ったお父様が首を傾げる。
「フィオレ。どうした?」
「・・・効率良く冒険者と連携して成果に繋げるには、どうするのが良いかと思って」
私の答えに目を丸くしたのはドネルクさんだ。
「“連携”か。普通は“どう使うか”と考えるものだろうが、嬢ちゃんは違うんだな」
「・・・おかしいですか?」
普通? 普通の、誰?
誰のことでも良いけど、私たちは雇用者なんだから、被雇用者と円満な関係を築いて少しでも良い条件で労使交渉を乗り切ろうとするのは変だろうか?
ドネルクさんは面白そうに笑いながら首を振る。
「いいや。良い考え方だろう。冒険者も人間なのだから、使い棄てにされる貴族よりも大事にしてくれる貴族に従うのが道理だ」
「確かにな。兵も使い潰しにされる将には従わん」
ドネルクさんの感想にハインズお爺様も同意する。
片眉を上げてドネルクさんたちに同意を示したらしいお父様の目が私へと戻ってくる。