軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2次領有宣言 ⑭

「拳闘士と魔法術師の2人組だという話はしたか? 黒髪の男と、嬢ちゃんと変わらんぐらいの女児の2人組なんだが」

「黒髪だと?」

ピリッと空気が緊迫して、一瞬で大人たちの目が鋭くなった。

まあ、この反応は仕方ないよね。

話題が変わったと見て離脱を図ったサーシャさんの手をハシッと掴み取って捕獲しておく。

まだだよ。

動揺するサーシャさんのことなど目に入っていないハインズお爺様の圧力はドネルクさんに向けられているから大丈夫だって。

「勇者ではあるまいな?」

「本人は否定している。年の頃も勇王とは違うと判断した。ただ、手合わせをしたわけではないが、アレは強いぞ」

低く地の底から響くようなハインズお爺様の声に、ドネルクさんは縦にも横にも首を振らなかった。

王国最強と呼ばれた人が剣を交えたわけでもないのに「強い」と断言する。

それって事実上の肯定に近いんじゃ?

王国内に勇者が入り込んでいる。

勇者と言えば、仇敵、神教会の手先だ。

私の理解は執務室内の誰もが共有するところだったようで、ピリピリと肌を刺すような緊迫感が薄れないままハインズお爺様から質問が飛ぶ。

「ふむ・・・。その男の歳は?」

「30手前ぐらいか。見た目が若く見えるのだとしても30過ぎだろう」

あれ? それっておかしくない?

ドネルクさんの答えに、みんなが首を傾げる。

「前回、神教会が勇者召喚を行ったのは30年ほど前か? 歳が合わぬな」

「うむ。勇王が召喚されたのは成人前後の歳と聞く。今は40台半ばのはずだ」

「だとしたら、神教会との関わりは無さそうか」

小さく息を吐いたマルキオお爺様の分析にハインズお爺様が頷き、お父様が少しだけ肩の力を抜く。

今現在が30歳として、前回の勇者召喚が30年ほど前に行われたことは大陸中に知られている情報だものね。

0歳の頃に勇王と一緒に拉致されたのだとしたら、今の歳になるまでの間に何らかの追加情報が聞こえてきてもおかしくない。

本当に勇者だったら暗殺しに行くことも辞さないと誰かが言い出しそうなほど張り詰めていた空気が、個々の中で情報を咀嚼して理解が進むほど緩む。

ところが、ドネルクさんは目を怖くしたままだ。

「だが、入国以前の足取りが追えん」

「国境の関所で偽名を名乗ったか、それとも入国してからの名前が偽名か、ということか?」

再び表情を怖くしたマルキオお爺様の問いに、ドネルクさんが今度は首を振った。

「いいや。1ヶ月ほど前に相棒の女児を連れて旧エンツェンス領に現れたらしい」

「東部地域に現れるまでの足取りが追えない?」

「つまり、“魔の森”から現れたと」

お父様が首の角度を深くして、お母様が想定される結論に至る。

うーん? よく分かんない人っぽいけど、神教会との関係は無さそう?

「その者の名は?」

「“テツ”だ。女児の方は“ケイナ”という」

「・・・黒髪で“鉄”、ですか」

ははぁ。それ、絶対に日本人だよ。

お父様とお母様の目がチラリと私に向けられて、私も小さく頷き返した。

見た目は変わっても私の中身は元日本人だから、会ってしまうと見破られ兼ねない気がする。

どう対処するべきかと頭を悩ませ始めたところへドネルクさんが次の情報を投下してきた。

「まあ、男の方は良い。回した仕事は着実に果たすし仕事そのものも早い。王国と協力体制を築こうとする意志も表明している。それよりも問題は女児の方でな」

「子供がどうした?」

子供好きのお母様が怪訝な顔をする。

ここまで話したのだから何らかの回答が有るのだろうと期待したのに、ドネルクさんは難しい顔で首を振った。

「この件は陛下にしか報告していないから口には出しにくい」

「オーグストが箝口令を敷いたか」

何じゃそりゃ!? とズッコケ掛けた私と違って、王様の性格と人となりを深く知るハインズお爺様が理解を示してドネルクさんが大きく頷く。

「そういうことだ。ただ、口には出せないんだが、俺の権限で連中に仕事を斡旋することは出来る」

「自分の目で確かめろと?」

お父様の視線を横顔で受け止めつつ、ドネルクさんはお母様とルナリアと私へ順に視線を向けた。

お母様は分かるけど、何で私たち?

「フレイアと、そして嬢ちゃんたちだ。特に嬢ちゃんたちは問題の女児と見た目の歳が近くて物事の判断が出来る」

「わたしも?」

「・・・私たちでその子を見極めろと?」

私の背筋に緊張が走る。

「見た目の」って前置きも意味不明だけど、そんなことはどうでも良い。

「判断」と言われると“最悪の判断”を下さなきゃいけない場面も有るのかと身構えてしまう。

「最悪」とは、王国にとって“害”だと命を奪う判断だ。

もしも、本当にその子が「王国にとって害」になるのなら、その判断は私がすることになるだろう。

そんなものをルナリアに背負わせたくない。

何をもって「王国にとって害」とするのか想像も付かないし、本当にそんな場面が有り得るのかも分からないけど、もしものときは私が背負おう。

考えたくはないけど、その程度の覚悟は有る。

どのみち、すでに私の手は人の血に塗れているんだし。

私の覚悟を裏切るようにドネルクさんは首を振る。