軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2次領有宣言 ⑬

「そう落ち込むな。遠征に出る前に、面白い冒険者が居ると言っただろう?」

「・・・はい。でも、その人は冒険者ですよね?」

何かそんなことを言ってた気はする。

でも、何でこの話の流れで冒険者?

「遮光メガネの受取人が、その冒険者なんだ」

「・・・ハッ! その人ならガラス職人と直接の面識がある!?」

冒険者というのは個人事業者みたいものだ。

個人事業者の仕事を、その御用職人は請けたってことだよね。

つまり、御用職人でも民間側の個人ルートでなら仕事を発注できる!?

いわば、“コネ”だ。

王宮と専属契約を結んでいるなら拙いだろうけど、裏口的なルートででも発注できるなら私的にはぜんぜんOKだよ!

私の中で高性能な“捕らぬTANUKIスキン・カリキュレーター”が演算している間もドネルクさんの説明は続いている!

「鉱山にコウモリが棲み着いて採掘が出来なくなって困っているところを解決したのが、その冒険者らしくてな。随分と感謝されているそうだ」

「・・・コウモリ? そんなことで採掘できなくなるんですか?」

どういうこと?

その冒険者が御用職人に貸しが有るという人間関係の構図は理解したけど、ものすごく小さいというか、顕微鏡で見なきゃ分からない程度の極小サイズの貸しじゃない?

「コウモリを駆除しました~!」って、そんなものをコネと呼んで良いものだろうか?

私のテンションは底値に近いほど落ち込んだけど、ドネルクさんは眉根を寄せた深刻な顔で首を振る。

「嬢ちゃん・・・。“そんなこと”じゃあないんだぞ」

「コウモリは拙いな」

「私も勘弁だな。あんなのを駆除するぐらいなら鉱山ごと吹き飛ばした方がマシだ」

ドネルクさんだけじゃなく、バルトロイさんとお母様まで渋面を作っている。

お母様が物騒なことを言うのはいつものことだけど、誰も咎めないどころかお爺様たちまで嫌そうに眉根を寄せている。

「・・・えっ? ええっ?」

「とにかく臭いんだ。臭すぎて何人もがバタバタと気絶するぐらいにな」

気絶するほど臭いニオイって、何!?

発想力が貧困な私では臭いものと言われれば汲み取り式のおトイレぐらいしか思い浮かばない。

そして、下水道普及率が80%を超えた現代日本においても、下水道どころか電気も水道も来ていない山奥に設置された汲み取り式のおトイレというものは実在する。

山奥すぎる立地が理由か費用対効果が理由か、溜まりに溜まったアレやコレやで強烈なニオイを発するおトイレというものは、都市伝説ではなく存在するんだよ。

臭すぎて呼吸が困難なおトイレで爆弾を投下する羽目になったときには、現代人としての尊厳を守るべきか生命の危機を受け入れるべきか、その辺に穴でも掘った方がマシなんじゃないかと真剣に自分と向き合うことになる。

でも、事態は私の想像を超えるものだったらしい。

「・・・そんなに?」

「内戦でいくらかの領軍を出兵させている折りだったから、領主も処理を躊躇っていたようでな。俺の方からも状況を確認したが、鉱山でコウモリの処理に当たらせられるぐらいなら出征させろと志願者が殺到したらしい」

兵士さんたちの心情が私にも何となく想像できてしまった。

「・・・ははぁ。サッサと戦場に出てゆっくりしたいと言っていたお父様みたいですね」

「ハロルドが?」

私の暴露にドネルクさんの目がお父様へ向く。

ドネルクさんだけじゃないね。

執務室内に居る全員の視線がお父様に集まっている。

そのぐらい追い詰められたお父様のボヤキは意味不明だったんだよ。

自分が零したボヤキをしっかりと覚えていたらしいお父様が絶望的な表情で首を振る。

「書類だ。書類。なんで書類というものは無限に増えるんだ?」

「「そうだな」」

ドネルクさんとバルトロイさんも深い溜息を吐きながら首肯した。

どうやら組織の長が抱える共通の悩みだったらしい。

そう言えば、ドネルクさんは元騎士団長だし、バルトロイさんは元魔法術師団長だったね。

お二人は立場が変わったけど、別の肩書きが付いたから状況は大して改善していないはず。

どこも内部事情は同じかあ。

そのうち、そのお鉢はルナリアと私に回ってくるわけだ。

まあ、執務室でのお手伝いを許されるようになったら、色々と事務手続きの改善策は模索するんだけどね。

「それで? その冒険者に紹介を依頼しろと?」

3人の表情にクスリと笑みを漏らしたお母様が軌道修正を図る。

表情を引き締め直したドネルクさんがウォーレス家の面々を見回す。

「迷宮の探索も必要だろう?」

「随分とその者を買っているようだな?」

お母様が首を傾げる。

それ、私も疑問に思った。

探索が必要なのは確かにその通りなんだけど、ドネルクさんの性質を思えばちょっと引っ掛かるな。

ドネルクさんは理由もなく誰かを依怙贔屓するタイプの人に思えないんだよね。

執務室内の空気が変わったのは、ドネルクさんの口から出た次のひと言が原因だった。