軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2次領有宣言 ⑩

「・・・魔獣です。今回の遠征で私たちもラクネとガルダの襲撃を2度受けました。魔法術師が多いピーシス領出身者で固めた1個中隊だから対処できましたが、普通は凌ぎきれないと思います」

「軍隊とは数が物を言うものだ。兵員が多ければ多いほど力を発揮するのだぞ?」

ハインズお爺様の指摘も尤もだ。

けれどもそれは“人間の常識”なんだよ。

私だって数の論理を否定するわけじゃない。

否定はしないけど、それだけじゃないのが生物の本能だ。

「・・・だからこそです。私たちが受けた1度目の襲撃では、たった1匹の触角ヘビが討伐されたことを発端にラクネの群れが押し寄せました。私たちは事前にラクネの存在を探知していましたから慌てずに対処できましたが、不意に襲撃を受ければ部隊は無傷で済まなかったでしょう」

「ううむ・・・」

アクティブソナーの存在はお爺様たちの目の前で実演してお母様たちも有用性を認めるところだから、お爺様たちも認めてくれている。

今回の遠征が許可されたのはアクティブソナーと魔力の手が有ってこそ計画が認められたのだから、今さらお爺様たちが否定することなどない。

だから、私はお爺様たちの認識の誤りを正しい情報にアップデートする。

「・・・敵の存在をまるで把握していない状況で急襲されれば犠牲者も出ます。犠牲者が増えれば増えるほどガルダを呼び寄せます」

「待て。犠牲者が増えれば、だと? ガルダの襲撃は“紅蓮”の使用で騒ぎが大きくなったせいでは無いのか?」

私の言い回しに気付いたのはマルキオお爺様だ。

ちゃんと聞いてくれているから気付いてくれるんだと嬉しく思いながらも頷いて返す。

「・・・違うと思います。実際にガルダと戦ってみて、とても知恵の回る魔獣だと感じました。他者同士が争っている場に割り込んで、火事場泥棒のように獲物を掻っ攫いに来る習性が有るのですよ。ラクネはラクネで、生物の死を遠くから察知する能力が有るようで、死体が増えれば増えるほど寄ってくる習性を持っている可能性が高いと考えます」

私の見解を告げるとお爺様たちとお婆様たちが唸る。

特にお爺様たちだ。

基本情報の認識の誤りを指摘されて、記憶を探るように腕組みで目を閉じている。

数十秒間の沈黙の後、瞼を開いたお爺様たちが顔を見合わせる。

お爺様たちに意識を集中して話していて気付いていなかったけど、カサカサと音がするから発生源をチラリと見てみれば、私の見解をアスクレーくんが一心不乱に書き取っている。

いつの間に紙とペンを?

ちょっと待って。アスクレーくんが纏める資料に私の見解が組み込まれるの?

いやまあ、構わないんだけど、こんなの、あくまで私の見解だよ?

お爺様たちが口を開いたから意識をお爺様たちに集中し直す。

「言われてみれば、そうだったように思うな」

「だとすれば、“紅蓮”を使わぬ判断に意味は無いのだな」

戦力の制限―――、“縛りプレイ”については誤りだったと認識を改めてくれた様子だね。

急襲に次ぐ急襲は“初見殺し”と言われるものだったと思うよ。

現代日本のゲーム用語というかネットスラングの1つだけど、事前情報無しでの初めてのゲームプレイで一方的に負けさせられる状況を指す。

そのぐらい難易度が高い戦いだったはず。

当時は魔獣の大群に急襲されての混乱状態だっただろうから大変だったと思うけど、少なくとも、2度と同じことは起こさせないと断言できる。

多くの部下や仲間を失った辛い記憶だろうけど、何とか受け入れて欲しい。

感情で拒絶されないように、論理で納得して貰えるように言葉を尽くす。

「・・・そうなりますね。その上で、水中のドラゴンフライの幼虫です。水中に居る幼虫は、どうやって獲物の接近を察知するのでしょうか?」

「目視―――、いや。臭いか」

ハインズお爺様の答えに深く頷いて返す。

全ての結果には原因がある。

結果に至る過程で偶然や巡り合わせが有ったとしても、その偶然性も含めての「原因」なんだよ。

「・・・恐らくそうだと思います。特に、血の臭いに敏感な生物は数多く居ます。今回、私たちは 小鬼(ゴブリン) と呼ばれる魔獣には遭遇しませんでしたが、ラクネやガルダと戦い、場合によってはゴブリンとも戦って血の臭いをさせている人間が、ドラゴンフライの幼虫が潜んでいる川に入ればどうなりますか?」

「その結果が、渡河地点で発見した“痕跡”か」

マルキオお爺様も論理的に思考できる人だから理解が早い。

偶然から生じた「原因」であっても、可能性―――、確率を無視して押し進めば偶然は必然に変わる。

そこに間違いなく存在する魔獣というリスクに「原因」を抱えたまま突撃すれば、まさに「必然」の結果が待ち受けている。

その「必然」を示す結果も確認されている。

「・・・現に、北岸で発生した戦闘で多くのラクネが討ち取られ、その戦闘に割って入ってきたガルダを討伐したのですが、ガルダの死に反応した南岸のラクネもナーガ川に押し寄せて、ドラゴンフライの幼虫に食い荒らされた結果、南岸の森へ帰っていきました」

「ラクネの群れとドラゴンフライの幼虫が防衛装置として機能すると?」

そういうこと。

そして、たくさんのエサを食べて大きく育った蜻蛉を私たちが美味しくただくと。

ヤゴでも焼けば甘い体液が採れるのか確かめないとな。

場合によっては渡河地点まで行かなくても、レティアの町でヤゴ釣りが流行るかも知れない。

お爺様たちはお母様の楽観論の根拠を論理的に理解してくれたんだろう。

「・・・私たちが設置してきた河岸の防壁は、1秒でも長く敵を水中に留めるためのものです。渡河に適した場所が他に無い以上、ラクネもドラゴンフライも必ず機能するでしょう」

「むう」

お爺様たちが唸り、ドネルクさんとバルトロイさんが顔を見合わせてから首を振る。

「嬢ちゃんが敵でなくて良かったと心底思うぞ」

「全くな」

「・・・むー。なんか素直に喜べないんですが」

なんで首を振りながら言うわけ?

呆れているようにしか見えないんだけど。

「褒めてるんだぞ? ここまで魔獣―――、いや。生物といった方が正しいのか。そんなものの生態に詳しく、習性を理解する者を俺は見たことがない。しかも、その習性を活かして優位な状況を作る知恵がある。これほど敵に回すと面ど―――、恐ろしい相手が居るものか」

「・・・うん? 今、面倒って」

「言ってない言ってない! 俺がレディにそんなことを言うわけが無いだろう!」

絶対に「面倒」って言い掛けたよね!?

問い詰めようと口を開きかけたら、横合いからドネルクさんへの援護射撃が入る。