軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2次領有宣言 ⑤

「・・・うーん。ドラゴンフライを押し留めるのは無理じゃないかなあ」

「対策しない、と?」

私の言い草が投げやりに聞こえたのか、お母様がツッコんでくる。

もちろん、私は思うところが有ってこういう言い方をしたんだけど、訊かれたからには本音で答える。

忌憚のない意見ってヤツだよ。

「・・・対策するにしても、みんなが身を守れれば、それで良いと思うよ」

私がこの場でソフトに提案するのは消極的防衛。

この戦術を別名では“籠城”と呼ぶ。

私の意図と矛盾を正確に読み取ったお母様からさらなるツッコミが入る。

「だったら、今日はどうして押し留めようとしたんだ?」

「・・・今回は、ほら。みんなが隠れる場所もなかったから。あんなのに飛ばれてガルダみたいに襲ってこられたら被害が出ると思って押し留めたんだよ」

「なるほどな」

言葉納得したような口振りだけど、首を傾げるお母様の素振りは「それで?」と訊いている。

らしくない消極策を私が口にするのには理由が有る。

それは“違和感”だ。

「・・・そもそも、ドラゴンフライが出て来ようとした理由が分からないし」

「虫の考えることなど分かるものでもなかろう」

お母様の言うことも 尤(もっと) もだ。

私だって本能のままに生きる虫しか見たごとがないからね。

ただ、親玉も子分も地上へ出て来ようとする蜻蛉たちからは、何としても地上へ出ようとする執念のようなものを感じた。

原始的では有っても、それは命そのものの“意志”だ。

本能に突き動かされて地上を目指そうとする彼らの“意志”には、彼らなりの理由が有ったんじゃないかと感じている。

それは何?

アキアカネだって一斉に羽化して貪欲に捕食活動を行った後、どこかへ飛び去って居なくなってしまう。

アキアカネはどこへ何をしに行くのか?

普通に考えれば産卵だろう。

次代へ命を繋ぐために、命あるものの本能として上流の水辺へ向かうのだと思うよ。

だいたいさあ。蜻蛉って春から初夏にかけて羽化するものなんだよ。

王国の気候が温暖だからって1月に羽化するものじゃない。

じゃあ、いつ羽化したの?

私の疑問は、コレ。

あれだけの強さを持つ魔獣が雪も降らない程度の冷え込みで死ぬものなんだろうか?

私はそうは思わない。

きっと、ダンジョン内で羽化したのだとすれば、もっと前。

下手をすれば年単位で閉じ込められていた可能性も有る。

採掘場で毎日増えるシカを思えば、あの蜻蛉たちが生物的な誕生サイクルで生まれたものなのかも疑問が有るしね。

こんなものは私の想像に過ぎなくて、言葉を話さない蜻蛉に訊くことも出来ないんだから事実は分からない。

でも、産卵のために上流へ行きたかったのなら、あの執念を感じさせる行動に説明が付く気がするんだよ。

“種の保存”の本能に従っての行動かも、と思えてならない。

こんな想像を口に出しても、みんなは元よりお母様だって信じてくれないだろう。

私も矛盾点を説明しきれない。

だから、仮説の1つとして私の胸の中に留めて置く。

「・・・ドラゴンフライって、森の奥へ飛んで行くんだよね?」

「そう伝わっているな。私も夏の月夜に羽化するものだと聞いて育ったが、実際には春にもなっていないのに成虫が現れた」

その通りだ。現実問題としてお母様の意見が正しい。

でも、もう1つの現実問題として、正直、人間の手には余るんだよね。

「・・・押し留めるのが難しいなら、そのまま飛んで行ってくれることに期待するしかないんじゃないかな」

「ふむ・・・。だとして、どう対策する?」

お母様も無理だと思ってたんだろうね。

ほんの数秒間ほど考え込む仕草を見せただけで次善策を訊いてくる。

「・・・押し退けようと体当たりしてきたり、のし掛かられたりしても耐えられるように、迷宮に向いた防壁だけ頑丈にすればどうかな。防壁というよりも単なる囲いになるけど。外側の防壁は河岸の防壁で敵の渡河を阻むから強度は必要無いし」

「内側の四面だけか。工程は簡素化できそうだが、どう思う?」

私の意見をお母様は建築担当の面々にそのまま回した。

ノイエラさんとイディアさんと顔を見合わせたエレーナさんが代表して口を開く。

「あれだけの巨体ですから、のし掛かられると防壁が押し倒されそうですが、分厚くした上で支えを入れて補強すれば・・・耐えられますかねえ」

外側ではなく内側の敵に備える前例の無い建物になるからエレーナさんたちも自信は無さそうだね。

私も確たる自信は無いけど、防壁だと考えるから転倒の心配をするんじゃない?

建物の外壁だと考えればイケそうな気がしなくもない。

「・・・乗り越えられる前提で、防壁の高さを今のままに抑えればどうかな? 背の低い箱状なら転けにくいと思うけど」

「背の低い箱ですか?」

防壁だという先入観が抜けなかったのかエレーナさんたちが首を傾げる。

「・・・普通の城壁と違って、遠くを見渡せる必要は無いよね?」

「ああ、確かに。背丈が低ければ転けにくくは有りますね」

お母様も同じ先入観を持っていたのか首を傾げる。

「箱状というのは?」

「・・・兵舎だけじゃなく、厩舎や倉庫や作業場も屋内に入れてしまえばガルダに急襲されても安全かなあ、って思った」

私がイメージしたのは大きな倉庫兼工場だ。

大型トラックごと乗り入れて倉庫内で積み荷を降ろすタイプの建物を営業先で見たことが有る。

エレーナさんは私とは違った建物を連想したようで、それでも納得顔で頷いた。