軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2次領有宣言 ③

「・・・そう言えば、誰か蜻蛉の体液って飲んでみた?」

モグモグしていたパンを嚥下して訊いてみれば、焼き鳥をモグモグしていたお母様たちもゴクンと嚥下する。

私が親玉の体液を舐めてみたときに興味が有りそうな様子だったから、絶対に誰かが加熱前の体液で試してると思うんだよね。

「おう。試してみたぞ」

「すごかったわよ!」

お母様は当然としてルナリアもか。

いや。ずっとお母様を目標にして来たルナリアなら、お母様が試せば当然のようにルナリアも手を出すに決まってる。

そんなことよりも、気になることを言ったなあ。

「・・・すごい?」

「バンダースナッチよりも魔力の活性化が強く感じられた」

「魔力酔いを起こしかけて頭がクラッとしたぐらい!」

お母様たちのことだから壺を作るぐらいはサッサと終わらせるだろうし、アスクレーくんが解剖しているところを見に行ったときに飲んでみたんだろうね。

私が加熱処理後の体液を味見してもピンピンしていることで最低限の毒味は終わってるし、毒物にも詳しいお母様が無警戒に嚥下することはなかっただろう。

その上で毒性は無さそうだと判断して嚥下してみた結果が2人の感想だ。

ふむふむ。なるほど?

「・・・へぇ。そうだったんだ」

お母様が「強く」と言ってルナリアが「クラッと」来るぐらいだし、結構強く感じられたんだろうな。

さすがは生態系の頂点だってことか。

そうなると、親玉の体液はもっと強かったんだろう。

勿体ないことをしちゃったかも。

焼き殺さずに殴るか斬るかでトドメを刺してから加熱しておけば、1匹で2度美味しかったってことじゃん。

まあ良いや。

今回はトドメの刺し方を考える余裕が無かったし、過ぎたことをうじうじと悔いても無意味だからスッパリと諦める。

次に遭遇する機会に恵まれたときは留意すれば良いだけだ。

むしろ、初めて遭遇した魔獣を倒し切れて、なおかつ犠牲者や重篤な負傷者を出さずに乗り切れた幸運に感謝すべきだろう。

「・・・味の方はどうだった?」

「かなり甘かったぞ」

私の質問にお母様がニンマリと笑う。

持ち帰って研究するだけの価値は有ったみたいだね。

でも、「かなり」って言い方が気になるな。

私が親玉の体液で感じた甘みは「かなり」なんてものじゃなかった。

てことは―――。

「・・・ふぅん? 加熱した方が甘みが強くなりそうかな?」

「味が変わるのか?」

私の答えにお母様が首を傾げる。

ああ、そっか。

食材の調理は料理人の仕事で、お母様は自分で料理することがないからね。

今までの人生でお母様が料理することが有ったとすれば、お肉に串を打って焚き火で焼く程度の野営食が精々だっただろう。

「・・・加熱調理すると甘みが強くなるものって多いよ? お野菜なんて、だいたいそうじゃないかな」

「そんなものか?」

お母様がミセラさんに目を向ける。

王都邸でメイドさんに扮していたミセラさんたちは料理の腕もそれなりに鍛えていたようで、今回の遠征でも料理番を務めてくれている。

お野菜にも寄生虫は居るし、雑菌を殺して食中毒の危険性を引き下げるためにも加熱してから食べるのが基本だからね。

食中毒だって怖いんだよ。

病気というものには驚異の治癒力を発揮する回復薬も効き目が薄いし、病気による死亡率はそれなりに高い。

獲物の血を飲むことで体内保有魔力量に変化が生じることに誰も気付かなかったことには、そんな衛生上の事情も有ったのだろう。

お母様から意見を問う目線を向けられたミセラさんが神妙な表情を取り繕って頷く。

「フィオレ様の仰る通りです。加熱すると 灰汁(あく) が抜けるせいかと」

「なら、明日は焼いてから体液の採取を行うことにするか」

料理番の追認を得たお母様が方針を決める。

もちろん、お母様のことだから半分以上は実験のつもりだろうし、加熱前と加熱後での味の違いを確認してからの最終判断になるはずだ。

加熱処理前の体液はまだ確かめてないから私も味見しに行ってみよっと。

1つの懸案に方針が見えたなら話題は次の懸案へと移る。

「懸案が片付いたらどうなるの?」、「知らんのか? 次の懸案が始まる!」ってヤツだ。

「拠点の整備はどこまで行いますか?」

「人馬が退避できる防備は必要だろう」

トリアさんの確認にお母様がノータイムで返す。

街道を付けると私が宣言していることから、お母様の頭の中ではすでに街道が有る前提になってるね。

馬の使用に言及したってことは、そういうことだ。

お母様の中で2度目の領有宣言は具体的な目標に据えられた。

お母様が「やる」と決めたのなら私も全力を尽くすよ。

何としても街道を付けてみせる。

お母様の判断にトリアさんが視線を宙に飛ばす。

「退避ということは城郭でしょうか? 兵舎や厩舎は当然のことですが、防衛施設だけでなく倉庫や作業場も必要ですよね?」

どんな施設を建てるべきかにトリアさんが言及する。

今までだったらエゼリアさんかアンリカさんがお母様の補佐として案を提示していたのだろうけど、婚約が正式に成立して以降はエゼリアさんたちが前面に出ることが減っている。

お母様の側近たちの間で指揮権の移行が始まっている証拠だろう。

クラブ活動で上級生の卒業に合わせて、部長や何やかんやの役職が下級生に移行し始めているようなものだね。

トリアさんが並べ立てた案にお母様が条件を提示する。

「対人戦闘よりも対魔獣戦闘を重視する必要が有るな。特にガルダとドラゴンフライだ」

「どちらも飛びますね。防壁内もこのままでは拙そうです」

トリアさんが難しい顔になる。

お母様の要求は対空防御の重視かな。