軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2次領有宣言 ①

この防壁、垂直に立ったただの壁で厚みは30センチメートルほどなんだけど、高さは目測で5メートルを超えている。

5メートルといえば、2階建て建物の軒ほどの高さが有る。

地上から見上げれば、当然のことながら見上げる高さなわけで、そんな薄っぺらい板が数十メートルもの長さで直立しているわけだから、日本での記憶が有る私としてはバランス的に大丈夫? と不安にならざるを得なかった。

何が不安って、地震が多い日本では、大きな地震が来るとコンクリートブロック製の壁が倒壊して通行人が下敷きになる死亡事故なんかも起こったわけで、急造とはいえ、その壁の際で野営―――、100人もの人間が野宿しようって言うんだよ?

到底、看過できるものではなかったんだよ。

そんなわけで、みんなが大休止に入って食事や野営の準備を始めた後も、私は壁に支えを入れて回る羽目になった。

ルナリア? アスクレーくんによる解剖に興味が有った、というよりも、今日はもう土の生成をしたくなかったのだろうけど、ノーアと一緒に解剖を見学してるよ。

何気に甘味の確保に本気なお母様たちは明日の採集作業に備えて壺と漏斗を量産している。

漏斗ってのは、狭い瓶の口に液体を注ぐときに使う道具だね。

サーシャさんたちを手伝いにこき使っているミセラさんたちは夕食の準備中。

そうして今、1人でプラプラと補強の旅に出ようとした私の護衛に就いてくれているエターナさんが、防壁の内側に増設された出っ張りを見上げている。

出っ張りというのは、いわゆる“ 控え壁(バットレス) ”だね。

ブロック塀の裏側によく引っ付いてるヤツだと思ってくれればいい。

「フィオレ様。これは何のためのものなんですか?」

「・・・壁が倒れてこないようにするための支えだよ」

「はー・・・」

私の答えにエターナさんが明らかに「分かっていない」声を漏らした。

「壁ってものは支えがないと案外簡単に倒れるものなんだよ」

「しっかりとした壁ですし、四角形の作りで壁同士が支え合っているんですよね?」

「そうだね」

想像しにくければ10分の1サイズで考えてみて欲しい。

高さ50センチメートル、厚み3センチメートルの板が安定的に直立し続けるものだろうか?

しかも屋外で幅300メートルも有る大きな川の河岸は障害物が多い森の中に較べて風も強い。

まあ、私も建築関連の専門知識が有るわけじゃないし、適当な間隔を開けて支えを引っ付けて回っているだけなんだけどね。

無いよりマシの精神で、内側に倒れてこなければそれで良いや。

「そんなに簡単に壊れるものでしょうか」

「・・・この場所って、すぐ傍にナーガ川が有って開けてるよね? 広い場所は風が強いってことは分かる?」

「そうですね。広い場所では強い風が吹くことが多いと思います」

従軍経験も参戦経験も有るエターナさんは、自身の体験として風の吹き方には覚えが有るみたいだね。

それなら分かってくれるかな?

「・・・これだけ高くて長い壁だと、その風をまともに受けちゃうんだよ」

「それが問題なのでしょうか?」

「・・・川面を渡ってきた強い風を防壁が受け止めれば、帆船の帆のように撓んで倒れることになるんだよ」

そんなものの間際で安心して眠れるわけがない、と伝えたかったんだけど、エターナさんは首を傾げた。おや?

「“はんせんのほ”ですか?」

「・・・知らない? 帆船。風の力で水面を走る帆を張った船のことなんだけど」

まさか船を知らないってことは無いよね?

船って人類の歴史の中でも初期の頃から用いられてきた文明の利器だもの。

新石器時代だったかな?

泳いで渡れない大きな川や海を渡るために大木の丸太を刳り抜いて作られたものが、原始時代の地層から発掘されている。

世界が違っても、そう大きな違いは無いだろう。と思ったんだけど、ところが、エターナさんは首を振る。

「いいえ。船は知っています。ただ、エクラーダには大きな川も大きな湖も有りませんでしたから、船というものを知識としては知っていますが、実物を見たことが有りません」

「・・・なるほど。そっか」

こうだよ。

気候や地形の問題というか地域性も有るんだろうけど、そこは物理法則への理解が未発達な異世界だから、私がヒヤリとする危険性を理解してくれる人は少ない。

宇宙規模の概念でもスッと理解するお母様が、どれだけ特殊な人なのかが分かろうというものだ。

エターナさんでも分かりそうな例えに伝え方を変えてみるかな。

「・・・強い風が吹いているときに軍旗を掲げたら、どうなる?」

「はためきます」

うんうん。そうだろうね。

「・・・どんな風に?」

「ええっと。パタパタと、でしょうか」

何を訊かれているかよく分かっていないのだろうけど、真面目なエターナさんは真面目に答えてくれる。

「・・・それって風を受けてパタパタとはためいてるわけでしょ?」

「はい。―――、この壁でも旗と同じようになるんですか?」

ようやくイメージ出来たらしいエターナさんの様子が変わる。

「・・・そうだよ? この壁は横に長く引っ付いているから、一度に全部、パタンと倒れてくると思うよ」

「そ、そうなのですね―――、って大変じゃないですか!」

分かってくれたか。

エターナさんが血相を変えて、私はウンウンと頷く。

たったこれだけの話を分かって貰うのに長い道程だったなあ。