軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ㊹

本当に可食物なのか確認する意味でも研究は必要だし、滅多に口に入らない甘味が入手できるようになるかの瀬戸際となればモルモット役に志願する女性はいくらでも居るだろう。

女性たちを実験対象に使うのが不安なら、体の頑強さに絶対の自信を持つ健康体の脳筋男性がウォーレス領には山のように居る。

美味いものならいくらでも胃袋に詰め込める人たちなのだから、モルモット役には事欠かないだろう。

莫大な利益を生む可能性が有る物資の発見は為政者としても無視できるものではない。

小さく息を吐いたお母様が頷く。

「そうだな。荷物にはなるが、街道を整備しながら帰還するので有れば許容範囲だろう」

「承知しました」

液体を運搬するなら 甕(かめ) のようなものを土魔法で作れば良い。

器の「かめ」で、呪いの名を持つ爬虫類のことじゃないよ。

いや。甕よりもアンフォラみたいな壺の方が良いかな?

アンフォラっていうのは、ワインやオリーブ油なんかの液体を運搬するのに古代ヨーロッパで使われていた、首が細く 縊(くび) れた陶器壺のことだよ。

地中海で難破した古代期の商船から引き揚げられるようなヤツ。

液体で満たされた壺を背負って30キロメートルの道程を歩いて帰るなんて重荷にはなるだろうけど、甘いものへの欲望は突発的ブートキャンプの発生に対する不満にも勝るはずだ。

「・・・上の死骸も焼いて加工してみる?」

「加熱していない体液との違いも確認しておく必要が有りそうだ」

学者っぽい一面が顔を覘かせたお母様の反応に、ヤル気に満ちた女性陣の目が一斉に地上へと向く。

この後、地上の死骸はメチャクチャ焼きまくられるんだろう。

これで方向性は決まったかな、と考えたところで、ふと気が付いた。

「・・・あっ」

「何だ?」

まだ何か有るのか? と言わんばかりの目が私に集中する。

「・・・これだけ強い魔獣だったのに、ポカポカが無かったな、と思って」

「ああ。体液ということは血のようなものだからな」

親玉と直接戦った私にポカポカが起こらなかったのはおかしい。

「・・・どういうことだろう? この親玉が採掘場のシカやバンダースナッチよりも弱いってことは無いと思うけど」

「どういう意味?」

私同様、親玉と直接戦ったルナリアが首を傾げる。

血の 味きき役(テイスター) としては私に次ぐ 熟練職人(マイスター) であるルナリアに親玉の体液を味見させてみれば答えに近付けそうだけど、安全性が確認できたとは言い難い現状でルナリアに舐めさせたら叱られるかな?

私が抱いた疑念を言葉で伝えられないものか試みてみる。

「・・・血を飲んだときに魔力が活性化する現象って、弱い魔獣だとすぐに無くなるよね? でも、それが強い魔獣の血だとまたポカポカが起こるってことは、魔獣の強さというか、その個体が持ってる体内保有魔力量と自分の体内保有魔力量の差じゃないかと思って」

例えば浸透率だ。

濃い塩水と薄い塩水を塩分が透過するフィルターで仕切れば、濃い側の塩分はフィルターを透過して薄い側へ浸透しようとする。

そうなることで均一化しようとする現象が起こるんだよ。

化粧品の保湿効果を謳う製品はこの浸透率を利用したものだ。

ゲーム的システムでも、この現象を表現するためか自分よりも強い敵を倒せば大きな経験値が入手できて、自分が強くなるほど経験値の入手量が減る。

私は詳しくないけど、簡単に敵が倒せるようになる頃には手に入る経験値はゼロに近付いて行くらしい。

熱湯と冷水を混ぜればぬるま湯になる均一化の現象は身近なものだし、お母様も私が伝えたいことを理解してくれたようだ。

「確かにそれはおかしいな。コイツがそんなに弱い魔獣だったとは思えん」

「・・・うーん? なんか、前にも同じようなこと無かったっけ?」

指先を顎に添える考え中ポースになったお母様の顔を見上げつつ、既視感というか、忘れていたことを思い出し掛けている感覚を覚える。

何だろ?

この場で思い出し掛けるキーワードというか検索ワードというか、切っ掛けになったものを心の中で挙げてみる。

魔力。魔獣。死骸。血を飲む。ポカポカ。加熱。―――、加熱?

あ。コレかな?

「・・・もしかして、焼いたのが原因?」

「一体、どこからそんな発想になった?」

私が立てた仮説にお母様が怪訝な顔をする。

「・・・死体を適切に処理しないと死霊系の魔物になる恐れが有るって教えて貰ったときに、煮込んでスープを取った骨が魔物化することは無いって聞いたから?」

「「「「「スープ・・・」」」」」

自信が有るわけじゃないから私の頭も傾ぐ。

みんなが微妙そうな表情になって、例えが悪かったかと他の例えを探す。

「・・・ええっと、火葬するようなもの? というか」

「なるほど。中途半端だが、これは火葬された状態になるな」

ドネルクさんも私が言いたいことを分かってくれたようで、こんがりと焼き上がっている親玉の死骸に目を向ける。

考え中ポーズで宙に視線を彷徨わせていたお母様の視線が私に戻ってくる。

「そう言えば、この渡河地点までの往路で焼いたラクネの魔石はどうなった?」

「・・・意識して確認したわけじゃないけど、魔力は残ってたと思う」

シカの魔石と較べて小さくて「クズ魔石」と分類されるラクネの魔石からは、ちゃんと魔力の存在を感じたはずだ。

よく覚えていないけど、確かそうだったはず。

そこで割り込んできた声にみんなの視線が集まる。

「このドラゴンフライの魔石には魔力が残ってるみたいだけど?」

「そうなのか?」

声の主は、我関せずと親玉の死骸に取り付いたままだったアスクレーくんだった。

お母様の確認に頷き返しながら、摘出したばかりの魔石をアスクレーくんが差し出してくる。

「ほら。フィオレ」

「・・・ありがとうございます! お兄様!」

反射的に両手で差し出した私の手のひらに、心臓の肉片がこびり付いたままの魔石がポンと乗せられる。

手のひらに感じるのはバンダースナッチの魔石よりも明らかに強い魔力だ。