軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ㉟

「・・・もっと! もっと速いものは!?」

私の「足」は私のイメージを元に半ば本能のまま動かしている!

安定性を重視した六つ足は昆虫のようなイメージだった!

垂直な樹皮にも貼り付ける昆虫は速く走るような脚の構造をしていない!

速く駆ける脚の構造持つのは哺乳類の四つ足動物だ!

だけど、移動速度では四つ足動物でも鳥類には敵わない!

動物が四つ足で地を駆けるには、前後の脚を尺取り虫のように動かして体を前へ押し出す必要が有る!

後ろへ送った蹴り足を前へ戻す作業が必要になる!

その脚運びは効率的に見えて実は非効率なもので、そこにどうしても取り除けない 無駄(ロス) が発生する!

人類最速のオリンピック選手でも同じ無駄を抱えている!

それゆえに限界が生じる!

もっと速く走るには、どうすれば良い!?

私の脳裏に「もっと速いもの」のイメージが閃く!

私はそれを知っているじゃないか!

確かに地上の生物は移動速度において鳥類に劣るだろう!

ただし、それが生物ならばだ!

現代日本で生きていた私にとって、速く走るものと言えば生物じゃない!

「・・・うおおおおおおっ!! 霊長類を舐めんなああああああっ!!」

前後のピストン運動から、ひたすら蹴り足で大地を後ろへ送り出し続ける円運動へ!!

中心軸は私自身で、同じ長さの「足」が円軌道を取れば一輪の車輪となる!!

「・・・いっけえええええええええええええええええっ!!」

陸上動物の宿命から解き放たれた私の体がグンと加速する!!

コレ、良いぞ!!

思い付きでやってみたものの、車輪というものは接地面の抵抗が有って空気抵抗を上回る駆動力があれば、理屈上どこまでも加速できる!

揚力以外の抵抗を必要としない航空機はもっと加速できるけど、それは空気抵抗をものともしない推進力を持って居てこそだ!!

プロペラにも劣る推進力しか生み出さない鳥類の翼では、実現できない速度域となる!!

人類の叡智に支えられた私と野生の本能しか持たないガルダの距離がグングン詰まる!!

一気に追い付かれて動揺を見せたガルダは、それでも諦めない!!

翼と体を捻って空気抵抗を増やせば失速して放物線を描く落下軌道になる!!

「・・・甘い!!」

これが航空機なら速度を落とせずにやり過ごされたかも知れないけど、あくまでも今の私は“車輪”であって“航空機”でもない!!

「足」の長さを短く縮めれば、径が小さくなって減速が掛かると同時に高度も下がる!!

慣性で体が前へ放り出されそうになるのを、全力で「足」を踏ん張って堪える!!

接地面による抵抗が有るからこその急減速!!

全身の血液が頭の方へ集まって頭や顔が膨らむような感覚を覚える!!

戦闘機のような高機動の航空機に乗るパイロットは、遠心力で血液の移動で頭や足に血が集まりすぎるのを防止する耐・ 重力加速度(G) スーツという衣服を着用する。

急上昇や急旋回で足に血液が集まれば心臓から脳へ押し上げられるはずの血液がGに負けて貧血状態を引き起こす。

目の前が暗くなって、最悪、意識を失うこの危険な現象をブラックアウトと呼ぶ。

逆に急下降や急減速で足へ下りていくはずの血液がGに負けて頭へ集中する状態は、脳や眼球の毛細血管を破って 鬱血(うっけつ) 状態を引き起こすことが有る。

目の前が血液の色で真っ赤に染まり、最悪、 脳溢血(のういっけつ) で死に至るこの危険な現象をレッドアウトと呼ぶ。

急減速で熱を持った頭が爆発しそうな感覚を感じている私の状態はレッドアウト寸前なのだろう。

だけど、そんなものは関係ない!!

仮令、私の全身が爆発四散しようとも、私の家族は奪わせない!!

奇しくもガルダの落下軌道に近しい軌跡を描いて高度を下げた私は、逃げるガルダに肉薄する!!

「・・・捉えたよ!!」

「オエエエエエエエッ!?」

私の急接近を目視したガルダは 羽ばたいたり急旋回したりと悪あがきを始める!

加速力でも制動力でも勝る私をガルダが振り切れる可能性が有るとすれば、旋回性能を活かした小回りを駆使することだろう!

ガルダもそう考えたのか、右へ左へ、上がったり下がったりと忙しなく進路を変える!!

「ノーアを返せええええええええええっ!!」

迫る私の叫びを嘲笑おうとするように、ガルダがまた失速状態による急制動から体と翼を捻って急旋回を試みた!

妖怪で言うところの“輪入道”状態で疾駆する私は明らかに速度超過だ!!

輪入道、あるいは 片輪車(かたわぐるま) と呼ばれる由緒正しき日本の妖怪は、車軸に人面が付いた目撃者の魂を引っこ抜いて殺してしまう!

でも、形状を模しているだけの私には魂引っこ抜き機能も妖怪パワーも無い!

このままでは大回りになって再び距離を空けられてしまう!!

「オエエエエエエエエッ!!」

「・・・チィッ!!」

「やってやったぜ!」と言わんばかりの鳴き声にイラッと来て舌打ちする!!

拙い!! 振り切られる!?

もしも再び距離を取られて森の木々の中へ逃げ込まれたら、追い付くのが難しくなる!!

障害物が多く視認性が悪い状況では逃げる方が有利になる!!

況してや足跡を残さない鳥類だ!!

私の探知可能範囲から出ない限りは魔力の反応で追跡は出来るだろうけど、探知可能範囲から出られたら探し出すのは極めて困難になる!!

絶対にこの場から逃がすわけには行かない!!

裏を掻いて勝ち誇るガルダに追い付いてノーアを奪い返すには、速度を殺さず急旋回する必要が有る!!