軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ㉓

言い方を変えれば、こっち側か向こう側か。

所属の違い?

地下空間と魔獣は向こう側で、私は所属が違うから干渉を弾かれる?

だとしたら、亀裂が出来る前と出来た後で地面の所属が変わったのかも。

そうだとすれば私が地面に干渉できなくなった説明が付く。

所属が変わった前後で何か違いは?

森の一部だったか更地に変わったか、かな?

森の木々が乗っかって蓋をしていた状態だったものが、木々が撤去されたことで蓋が取れた?

いやいや。こんなものは想像からこじつけた仮説に過ぎないけど、そんなことって有るんだろうか?

自信の持てない仮説で泥沼に片足を突っ込み掛けていた思考が、私を呼ぶ声にぶった切られる。

「フィオレ様―――ッ!! ご無事ですか―――ッ!?」

「・・・まだ何も始まってないよ」

背負子にノーア載せていたせいで誰かに預けていたのであろう盾を手にしたエターナさんが、先頭を切って駆けてきた。

息を弾ませているエターナさんから数秒遅れて、まるで呼吸を乱していないジアンさんも新人さんたちを引き連れて駆けつけて来る。

「フィオレ様。魔獣の襲撃と聞きましたが」

「・・・あそこの地面に亀裂が入ってるのが見える?」

更地になった地面に走る亀裂を指し示すと、ジアンさんは僅かに眉根を寄せて首を傾げた。

「あそこから?」

「・・・ほぼ間違いなく。地中から地上を目指してきてる」

首を傾げたまま記憶を探ったジアンさんは早々に思考を切り上げる。

「不勉強ながら地中に棲む魔獣というものを、スライム以外に私は存じません。お心当たりは?」

「・・・私も無いよ。無いから蓋をして閉じ込められないものかと土を固めようとしたんだけど、問題の地下空間が影響を強めてるみたいで干渉に失敗した」

自信は無くても他に思い当たらない以上、私が立てた仮説を伝えるしかない。

口に出した張本人が自信を持てない仮説が説得力を持つわけもなく、予想通りジアンさんは理解できないようだった。

「影響を強める、ですか」

「・・・分からないことだらけだから検証や考察は後にしよう。そろそろ出て来るよ」

議論を打ち切る私の目は亀裂に釘付けになっている。

土を掘り進めているためか上がってくる速度は遅いけど、もう地表まで何メートルも残っていないはずだ。

「部隊を展開します」

「・・・お願い」

接敵までの猶予がないことだけは分かってくれたジアンさんが、一つ頷いて踵を返す。

地上へ出てきた魔獣がどんな行動を取るかも予想が付かない。

私たちに取れる対応策は、包囲して身構えることだけだ。

ジアンさんが指揮下の小隊に陣形を取らせようとしているのに、エターナさんは私の傍を離れようとしない。

「私はフィオレ様の護衛を!」

「・・・エターナさんも部隊の指揮を預かったでしょ」

私の指摘にエターナさんは背中を丸めて視線を逸らす。

叱られた犬じゃないんだから、そんな顔しない。

心強くは有るけど、未知の敵との邂逅に備えることの方が重要なんだよ。

「ううっ・・・! で、では、部隊でフィオレ様の護衛を行います!」

次善策としてエターナさんが捻り出してきたのは、立場と役割と自身の希望をミックスしたものだった。

私も前に出て戦列に加わるからなあ。

それはそれで良いのかな?

「・・・分かった分かった。じゃあ、あんまり前へ出すぎないで、というか、前に立たれると私が視界を塞がれて攻撃できなくなるからね?」

「了解しました!」

承認を返せばエターナさんがパァッと表情を輝かせる。

瞬時にキリッと表情を引き締めて後ろで待っていた小隊の面々に向き直る。

「小隊! 横列で敵の襲来に備えよ! 敵は前方の亀裂から来る! フィオレ様の視界を遮らないように留意せよ!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

魔獣との遭遇戦に勝利した自信か、ピーシーズの下部組織メンバーとなる少女たちが勇ましく応える。

バッと散った新人さんたちは私と横並びの隊列を組み上げて武器を構えた。

大きな円陣による包囲が完成し、皆が固唾を呑んで中心に置いた亀裂を睨み付ける。

「来るぞ!!」

誰かの注意喚起が飛び、同時に亀裂の一部がモコッと動いた。

亀裂の内側から地面を押し割って人間よりも大きなものが顔を覘かせる。

額から生えた細く短い2本の触角と大きな球形に配置された2つの複眼。

軽く押し潰したボールのような形状の顔の半分は、マスクを着けているようにも見える大きな顎だ。

この顔に似た生物を私は知っている。

似ているのも当然。違いは幼虫か成虫かだけなのだから。

私が正面からの対決を避けたかった生物、蜻蛉の顔に違いない。

「何だ、あの魔獣は! 虫か!?」

「で、デカい・・・!!」

現代の地球で最大の蜻蛉は日本に棲むオニヤンマだ。

しかし、そのオニヤンマでも体長は10センチメートルほど。

石炭紀だったかな。古生代には体長70センチメートルにもなる巨大蜻蛉が棲息していたらしいけど、顔の大きさだけでもこの魔獣は数十倍は大きい。