軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ⑱

「現実問題として、レティアの町が迷宮の真上に位置するのかどうかを明らかにするためにも、この地をカリークの盗人どもの手に渡すわけには行かん」

「・・・そうだね。王国としてもウォーレス領の重要性が増したと考えるべきだと思う」

玩具を見付けたような笑みで言い切るお母様に私も全面的に同意する。

「何というか、 母娘(おやこ) だな」

「実にウォーレス家らしい考え方だ。この地を治めるのがウォーレス家で本当に良かったと考えよう」

諦めたような脱力具合でバルトロイさんが首を振り、ドネルクさんが苦笑する。

お母様も私もお気楽に野心を語っているわけじゃないよ。

具体的な“敵”も想定できたし、舐めて掛かれるような“敵”ではないことも理解している。

何せ、個体が巨大な上に、群体の性質を持っていて、さらには“敵”のフィールドが水中という“ 敵地(アウェー) ”になる。

陸上生物である私たちが攻め込んで行くには制約が多いし、放置するにはリスクが大きい。

もっと踏み込んで言うなら、“雷蜻蛉”は夏の月夜に羽化して森の奥へと飛んで行くものだと伝わっている。

フィールドは水中から空中へ。

陸上生物にとっては戦場の環境が厳しさを増すことになるし、リスクを査定しようにも不明な部分が多すぎる。

「・・・蜻蛉かぁ」

「蜻蛉って、秋口になるとたくさん飛ぶ虫よね?」

私の独り言に今度はルナリアが反応する。

命の終わり―――、産卵期を迎える秋口に飛ぶ虫はたくさんいる。

でも、ルナリアの言う「たくさん飛ぶ虫」が正しく蜻蛉を指していることは私にも分かる。

だって、収穫期直前の小麦畑の上を赤とんぼがたくさん飛んでいるのを私も見たからね。

捕まえたところで虫に詳しくない私に判別は難しいから、あの赤とんぼが“アキアカネ”がどうかは不明だけど、魔獣ではない普通の蜻蛉がこっちの世界にも棲息していることは確かだ。

「・・・うん。魔獣とは種類が違うだろうけど、そうだよ」

「あの虫、なかなか捕まえられないのよね」

「・・・蜻蛉は虫の中でも特に飛ぶのが上手いんだよ。普通の蜻蛉だと益虫なんだけど、魔獣だと益虫なのかどうか分からないなあ」

そこまで口に出してハッと気付く。

今のは、もしや、フラグなのでは?

いやいやいや! 無いから! 立ってないから!

フラグなんてものはこの世に存在しない! 違うからね!?

ガルダでも空中戦にギリギリ勝った感が有るのに、昆虫界で最も飛ぶのが上手いと言われる蜻蛉を相手に空中で格闘戦とか考えたくも無い!

アイツら羽根が付いている位置から飛行に特化した身体構造をしていて、前進は当然のことながらメチャクチャ速度が出せる上に 空中停止(ホバリング) や 後進(バック) までするんだよ!?

最先端ドローン技術で蜻蛉の飛行メカニズムを再現したものが熱い開発競争を巻き起こしていたりと、生態系の頂点と言われるのは伊達じゃなかったんだよ!

ヤバイ! もの凄く嫌な予感がして来た!

そりゃあ私のナンチャッテ飛行だってホバリングもバックも出来るけどさ、完全上位互換を相手に、向こうに有利なフィールドで戦うなんて絶対に回避しなきゃ!

私が悪寒に苛まれていても状況は容赦なく進行していく。

姿が見えないと思えばエレーナさんとノイエラさんはイディアさんを伴って河岸の状態や地盤の状況をして回っていたらしく、いつもの面子とばかりにルナリアと私を呼びに来る。

「総延長1キロメテルほどの区間ですが、河岸に沿ってどんどん土を生成しちゃってください。防御壁は私たちが構築していきます」

「分かったわ! 行くわよ、フィオレ!」

「・・・お、おー」

ヤル気マンマンで天に向かって拳を突き上げるルナリアに付き合って、私もヒョロヒョロと拳を挙げる。

感傷に浸っている猶予も与えられないのはいつものことだし、良いんだけどね。

戦力比は3対2。

爆速モコモコ戦隊は怒濤のような爆速モコモコで追い掛けてくるガテン系建築お姉さんたちと 追いかけっこ(チェイス) を開始する。

逃げるモコモコと追う防御壁。

私たちもモコモコに熟練して来たとはいえ4倍以上もの人生を生きてきたお姉さん方は年季が違う。

崖の高低差と合わせて10メートルの高さを目指したという防御壁は、上部に歩廊と胸壁を備えているだけの単純構造で、河岸の補強と合わせてもお姉さん方には朝飯前なんだよ。

モコモコした尻から構造体に吸い込まれてアドバンテージが増えてくれない。

追い立てられるようにモコモコしまくった末に、青息吐息で気付いてみれば、万里の長城にも似た総延長1キロメートルの防御壁が、たった3時間で出来上がっていた。

渡河地点が有ると信じて対岸に立てば、こんなものを目にして川を渡ろうとは考えないだろう。

線状に築かれた単純な防壁だけど、目的は敵を水中に1秒でも長く留めることだからね。

こちらが何もしなくても、敵が水中に長く留まれば留まるほど、魔獣という殺戮装置が敵勢力を削り取ってくれる。

こちらの意図とマシマシてんこ盛りの殺意を読み取れるだけの知能が有るなら、間違いなくこの場所での渡河は避けるはず。

「お疲れさん」

「・・・はい」

「ほ、本当に疲れたわ」

ぐったりと萎れている私たちを労ってくれたドネルクさんも苦笑している。

エレーナさんたちは仕事を兼ねた遊びの延長ぐらいの気持ちだったんだろうけど、年齢差と経験差を考えるなら戦力比の設定がおかしいよね!?