軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

のんきな二人

「なあ、父さん」

「なんだ、リク」

いろいろなことのあった一日、リクは宿の部屋に戻り、ベッドに座ると、サイラスと向き合って肩を落とした。

「俺、今日、情けないことばかりだった」

「そ、そうか」

サイラスは何とも言えない顔をした。成人になるまでは、だいたい女子のほうがしっかりしている。そんな情けない気持ちは、サイラスだって味わったことがあったのだ。それにしても、まだ一三だろう。大人顔負けの仕事ぶりだったとサイラスは素直にショウとハル、特にショウに感心していた。

「父さんも知ってる通り、俺、ここに来るまで三〇年生きて、ちゃんと社会人として働いてたんだ。それはショウとハルもおんなじでさ」

「あのかわいらしい女の子たちも三〇年生きてるのか……。どうりでしっかりしているわけだ」

「まあ、たぶん厳密には俺よりちょっと若い」

「若いって、リク……」

中身はともかく、外見は一三歳の伸び盛りの子どもがそう言うと背伸びをしているようでおかしかったが、サイラスは思わず吹き出してしまわないように気を付けた。

もっとも普段でも、リクは自分が三〇歳のつもりではあるし、話している内容だって父と子というものではなく、対等な大人同士のものだ。ただリクがこの世界の知識を教えてもらう立場だから、やっぱりサイラスのほうが少し先輩という感じで接している。

正直なところ、子どもを育てると覚悟していたサイラスには、それが拍子抜けではあったが、同時にとても心地よいのも確かだ。

気の合う仲間と毎日楽しく暮らしているようなものだ。一人が好きだった自分が、誰かと一緒を心地いいと思うのはライラ以来のことで、いや、ライラとは心地いいを通り過ぎて刺激的だったなどと埒もないことを思いだし、そしてサイラスははっとして現実に戻ってきた。

「父さんはさ、時々そうやってまじめなことを考えるそぶりで、実はライラとファルコを思い出していたんだな」

「すまん。いや、わざとじゃないんだぞ。もういなくなっても、やっぱり大事だったんだよ」

「いや、謝らなくていいんだけどさ。どうだったの。その、大きくなった息子と会って」

「そうだな」

サイラスは微妙な顔をした。

「嬉しかった。本当に嬉しかった。が、もう息子という感じはなくてだな。どちらかというと、父親仲間のような感じで。話すのはお互いの子のことばかりでな」

「つまり、俺とショウとハルの?」

「そうだ。町では常々親バカだと言われて、あまり子どもの自慢ができなかったからな。お互いにどんなに自分の子どもがかわいいか、素晴らしいか語り合っているうちにあっという間に時間が過ぎてしまった」

「何やってるんだよ……」

リクはあきれた。

「俺なんて、新しい治癒の技を覚えて、自分の町は自分で救うんだって言う自覚を無理やり持たされて、悲壮なくらいの気持ちで戻って来たって言うのにさ」

「すまん」

すまなそうな情けない顔が、さっきの自分の顔と重なって、リクはおかしくなってベッドに仰向けにひっくり返った。

「なんだか、俺たちが思ってるより大変なことになってるみたいだ」

「そうだな。俺もリクもスライムもトカゲも平気でやっつけるから、魔物が増えたくらい何とも思っていなかったんだが。正直なところ、町の治癒師があたふたしても、けが人が増えても、ポーションを常備すればいいことじゃないのかってのんきに思っていただけだったんだよ」

「俺もだ。でもどうやら一つの町全体にいきわたるほどのポーションを作るのは相当大変みたいなんだ」

サイラスもベッドに寝転がると、部屋には沈黙が落ちた。二人でいる時はよくあることで、普段ならそれさえ心地いいものだったのだが。

「治癒師が俺たちに言わないだけで、カナンの町でもスライムで怪我してる人や、跡が残って苦しんでいる人がいるのかな」

「跡が残ってる人のことは、特に言わないだろうな。ましてや女の子ならな」

「治癒師が足りないって、どういう状態のことなんだろう。俺たちの町は、一体どうなってたんだ。何にも知らずに、ただ高名な導師を迎えに来れば何とかなるって思ってた気がする」

「そうだな。俺でさえそうだ。もう八〇歳だってのにな」

自分にできることは何だろう。カナンの町に戻ってからのこともだが、このアンファの町でできることも、ちゃんと考えよう。

「「よし」」

声が揃った。まずサイラスが宣言した。

「俺は明日から、薬草を採れる場所をあの子たちの代わりに見つけよう。薬草はライラに教わって知ってるし、カナンでも時々薬師に依頼されて採っていたしな」

「そうだな。時々お小遣い代わりに俺が採らされたんだよな」

いい小遣い稼ぎだったとリクは思い出した。まあ、時々だったけど。

「俺は情けないけどショウとハルにくっついて、今回はちゃんとした治癒師としての技を学ぼうと思う。それに、どうやら俺の知らないことをいっぱい知っているらしいんだ。悔しいだろ」

「意地を張って何も学ばないより何倍もましだな。それにしても、深森の女子はやっぱりいいな」

リクは慌てて跳ね起きた。

「おい、父さん、まさか」

「まさか、なんだ?」

サイラスは怪訝そうにリクを見た。

「まさか、その、恋をした、とか」

「だれに」

「ショウと、ハル」

「はあ?」

サイラスは唖然とした。

「だって、この世界じゃ寿命が長くて年の差なんて関係ないだろ。角のスミスだって一〇〇歳の時成人したばかりのジョディとこないだ結婚して」

「待て待て、お前は俺が、年少さんが恋愛対象の男だと思うのか」

「だって、深森の女子はいいとか言ってたし」

「俺は静かな人よりも、はっきりものを言って行動する人のほうが好みなんだ。そういう意味で、あの二人は好ましいと思っただけで、成人前の子どもは恋愛対象ではない。わかったな」

サイラスはきっぱりと言った。

「リク、お前こそどうなんだ」

「ええ? どうって」

「お前けっこうもてるのに、誰とも付き合わないだろう。精神年齢の問題なら、ショウもハルもちょうどいいだろう。かわいいし」

「考えもしなかったよ」

サイラスはあきれた。

「それなのに俺についてはあれこれ言うなんて、おかしいだろ。まあ、リクがその気になっても、あの二人の養い親の目をかいくぐるのは相当大変だと思うがな」

「ファルコとレオンか」

「ああ。いい父親だ」

今のところ、あまり目立った活動はせず、ショウとハルの守りに徹しているようだ。もちろん、金の髪と甘い顔だちで、レオンという男は目立っていたが、ファルコだって捨てたもんじゃないと思うサイラスはちょっと親バカなのだった。

「こんな話をしてるなんて、やっぱり俺たちはのんきかもしれないな」

「そうだな。カナンの町のためにできることを、明日からしっかりやろう。それがわざわざ深森から来てくれた、ファルコ達に報いることになるんだしな」

正確には、招かれたのは導師で、ファルコ達はその手伝いと護衛にすぎない。それでもせっかく息子が来ているからには、その息子のためにも頑張ろうと思うのだった。

「さ、ちゃんと寝て明日から頑張ろう」

「そして早くカナンの町に、導師たちを連れて行けるようにしなくちゃね」

「ああ」

リクの言う通り、本来の目的はカナンの町に、早く導師を連れて行くことなのだ。それを忘れないようにしようとサイラスは決意し、まぶたを閉じた。なぜか思い浮かんだのは小さかった頃のファルコだった。