軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

癒し手が見るものは

ハルが何も言わずに桶をいくつか抱え、中に魔法で適温のお湯を注いでいく。それが終わると二階に走り、使っていないシーツやタオルを抱えてくる。

その中で、何もできずおろおろしているドレッドたちに、ショウは静かに尋ねた。

「怪我をした状況を」

ドレッドがライラのそばに膝をつき、ライラに触れようかどうしようか手をさまよわせながら、ぽつぽつと話し始めた。

その間に私は、ライラの傷を確認して、傷口を仮止めしていく。出血がひどい。

「このところ、魔物が多くて、少し注意散漫になっていたように思う。今日は少し早めに上がったほうがいいと思ったとたん、ムラサキトゲトカゲの群れに遭遇した」

「二人きりで?」

「幸い、その時はレオンとファルコと合流した後だった。レオンとファルコは剣で、私は魔法で、そしてライラは少し下がったところから弓で群れを減らしていった。大きな群れとはいえ私たち4人で倒せないほどではなかった。しかし、ライラの悲鳴が聞こえて」

ドレッドの宙に止まっていた手が震え、ドレッドはそれを反対の手で体に引き寄せた。

よし、仮止めは終わった。これでこれ以上血は流れない。傷はライラの体を斜めに三本、明らかに大きなトカゲにやられた傷だ。

「ムラサキトゲトカゲとは違った。単独行動のアオハネサウルスが、羽があるから森にはめったに出ないはずのやつが、ライラの前に」

「怪我から見て体長2メートル以上、大きいけどライラに倒せないはずがないと思う」

「本来ならば。群れに気を取られて、横手の警戒を怠ったのだと思う。剣で闘っていればあるいは。とっさのことで魔物に対して正面を向くので精一杯だったかと」

ショウは頷いた。幸いと言っては何だが、傷は深いが内臓までは達せず、しかも斜めに走っている。向こうではハルがテーブルの食べ物と飲み物を用意する気配がしている。

ショウはライラの体に手を当て、体の下のほうの傷から丁寧に治していく。傷の場所を4つに分割して一つずつ。まだ傷が新しいからか、魂の記憶はちゃんと残っている。欠けたところを埋めていくように、女神の元から魂のエネルギーを足していく。

あと一つになった時に、ファルコが後ろから背中に手を当ててくれた。ドレッドはいつの間にかライラの手を握っている。もう少しだが、そろそろ魔力が切れそうだ。

「はい、ショウ、お砂糖のたっぷり入ったお茶だよ」

その時適温にさました甘いお茶をハルに手渡された。すぐにきくわけじゃないけど、ありがたい。ほんとに魔力が足りなくなったら、ポーションもある。もちろん、ライラに使う分だ。

最後の傷をゆっくり治していく。できた。ショウはつぶっていた目を開けてふうっとため息をついた。

「怪我は治ったよ。でも、血をずいぶんなくしてるから、ゆっくり寝かせて、起きたらたくさんご飯を食べさせないと」

「おお、創世の女神よ、感謝いたします」

ドレッドがライラの上に覆いかぶさった。ファルコとレオンもほっとした顔をしている。

「さ、体をきれいにするからちょっとどこかに行ってて。ドレッドは着替えを持ってきて」

「私がきれいに」

「私たちのほうが手早いから、ドレッド」

「……わかった」

ショウはハルと一緒に急いで体をぬぐい、ドレッドから服を受け取って着替えさせた。

「さ、部屋に運んで、できるだけ温めてね」

男たちは二階にライラを運び、レオンとファルコが降りてきた。ドレッドはライラのそばに残っているようだ。

疲れたようにソファに座り込む二人の前に、ショウは腕を組んで仁王立ちした。

「ねえ」

「すまなかった」

すかさず謝ったのはレオンだ。それをハルが後ろでハラハラと眺めている。

「ちゃんと連携がとれていれば、いや、せめて早く気が付いていれば」

「俺がドレッドに母さんを任せきりにしたから」

二人ともうなだれている。

「違うよね」

ショウの言葉は厳しい。ファルコもレオンも何のことかわからないと言う顔をした。

「ねえ、なんでポーションを使わなかったの」

思いつかなかったと、二人の顔が言っている。

「私はギルドでちゃんと最初に教わったよ、ちゃんと使えば怪我はポーションで治るって! そのベルトにつけたポーションは何のためにあるの! すぐに使ったらライラは運んでいる間苦しまずにすんだんだよ!」

二人とも腰のポーションを見てうなだれている。ショウと一緒に暮らすようになって、ほとんど使うことがなくなっていた。そういえばだいぶ古いかもしれない。

「ドレッドにも後で言うけど、二人ともちゃんと反省して!」

ショウは大きな声でそう言うと、二階に走って上がってしまった。ドアが開いてばたんと閉まる音がする。

「ショウがいることに慣れて、ポーションを使うよりショウに治してもらった方が早いってとっさに思ってしまって……」

レオンが誰にともなく言い訳をする。ファルコは呆然と二階につながる階段を見上げている。

ハルはショウのことが心配ではあったけれど、まずお茶を二人のためにいれ直し、一人ずつに手渡した。そうして、ライラの治癒のために用意したタオルやシーツをそっと片付けていく。

「ああ、俺も手伝うよ」

「大丈夫。二人も心配してハラハラしたでしょ。お茶を飲んで休んでいて」

「ありがとう、ハル。あんなにショウが怒るとは思わなくてな」

「そりゃ怒るでしょ。大切な人が怪我をして、治せるのに治さなかったら」

ハルも珍しく厳しく言った。

「ポーションだと使い方によっては跡が残るの、私知ってるから」

ハルは支給されたポーションが足りなくて、ショウが治してくれるまでいくつも体に傷が残っていたことを思い出す。

「ドレッドはたぶんライラに傷が残らないように、ショウにちゃんと治してもらおうと思ったんだと思うけど」

ハルも階段のほうを眺めた。

「そういうことだけじゃなくて、なんていうか」

どう説明したらいいんだろうとハルは悩む。

「ショウはね、女神に力を願った時、迷わずに癒しの力と言ったの」

そこでやっとファルコの視線に力が戻ってきた。

「ちゃんと聞いたことないけど、ショウは戦うのも、何かを傷つけるのも嫌いなんだと思う。だから一番好きな仕事は薬草採り」

「そうだ、最初は剣を持つのも嫌がって、鼻の頭にしわを寄せてた」

「だな、スライムに魂はあるのかって導師に聞いてたしな」

ハルはファルコとレオンの言葉に、なるほどと頷いた。優しいショウらしい逸話だ。

「だから、ほんとは怪我を見るのはすごくつらいんだよ」

「え、治癒師なのにか」

レオンは驚いた。

「優しいもの。怪我の痛みを自分の物のように感じるんだよ。ライラの怪我、ひどかったでしょ。きっとそれを見るの、すごくつらかったと思うの」

「ショウ……そんなことにも気づかないで、俺は」

ファルコはお茶のカップを置いて立ち上がると、二階へ駆けあがっていった。

「治癒師として見習いどころじゃない仕事ができるショウに、俺たちは頼り切っていたんだな」

「うん、たぶんそう。怪我はしないように、してしまったらちゃんとポーションを使ってね。薬草いっぱい取るからね」

ハルはふんと鼻息を荒くした。薬草を採るのは得意なのだ。

「え、きゃ」

「ハル、心配してくれるんだな!」

「し、心配は心配だけど、膝に乗せなくても」

「ハル!」

感激してハルを抱き寄せているレオンはちっともハルの言うことなんて聞いてはいない。まあ、たまにはいいかなとハルも思うのだった。