軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見上げると空は

いつもだったら抱き上げてくるくるするところだけど、とショウはファルコを見上げた。

「あー、あー」

発声練習かと突っ込んでいいですかとショウは言いたかった。

「あー、ショウ」

「うん、ファルコ」

「あー」

全くファルコはいつもこうなのだ。ショウはあきれて右手をそっと前に出した。

「あー、ショウ」

「はい」

「星迎え、一緒に行ってくれるか」

「うん!」

ファルコは嬉しそうにショウの右手をそっと握った。

「ショウ」

「なに?」

「きれいだ」

ショウは一瞬何も言えず、ぽんっと赤くなった。

「それは反則だよ……」

思わずうつむいて、小さい声でそうつぶやいた。

「なんだ?」

「なんでもない! さあ、屋台を見に行こうよ!」

ファルコの手を引っぱりながら振り返ると、ハルがレオンに抱えられくるくると回されていた。ハルの笑い声が響く。

となりを見ると、ショウもやるか、と去年までなら言っていただろうファルコが、どうしようか悩んでいるのがわかった。

半分正解で、半分間違いだ。

ショウはまだくるくる回してほしいけれど、もうそんな子どもじゃないんじゃないかとファルコが思ってくれたところは評価する。

「行こう!」

「ああ」

屋台には、アカバネザウルスの串焼きが売っていて大人気だったのがお祭りのハイライトだった。

やがて日が暮れる頃、人々はそれぞれランプを抱えて高いところを目指す。

建物の屋上に椅子を持ち出すものもいれば、歩いて町のそばの丘に向かうものもいる。そして町の外に知り合いがいるものは、馬車で町の外に向かう。

深森の一行はそれぞれだった。

エドガーは薬師のみんなと近くの薬草のある丘に、ガイウスは面倒くさいからと宿屋の屋上で、導師は治癒師たちとアカバネザウルスを倒した草原でそれぞれ星迎えをするのだという。

ショウとハルは、リクに誘われて初めてサイラスとリクの家を見に行くことになった。

「結局今日まで泊まりに来なかったもんな」

「忙しすぎたんだよ」

本当は屋根裏部屋に泊まってみたくてたまらなかったのだ。

「さ、家は後でいいから、まずは丘に登ろう。もう星が出てしまうぞ」

サイラスに急かされて、一人一人ランプを持ちながら、ゆっくりと丘を登っていく。

緩やかに続く草で覆われた丘の最初の瘤のところでサイラスは立ち止まった。

「一番高いところまで行くとかなり時間がかかるからな。このちょっと高いところでいいだろう。毎年やるところがその時の体力で違うんだよ」

笑ったサイラスに促されて、柔らかい草の上に思い思いに座ると、それぞれが一つ、また一つとランプに火を灯していく。

そのランプの明かりにこたえるように、星も一つ、また一つとその姿を空にきらめかせる。

「今年は頑張ったな、俺たち」

「うん、すごく」

ショウはいつもの星迎えの祭りと同じように、ファルコに抱えられて星を見ている。

「来年と言わず、今年からもう、導師にあちこちに来てほしいって依頼が入っているんだって。できれば小さい治癒師もご一緒にって」

「そうか」

この話はファルコも知っている。

「俺たち、北の町の狩人にも依頼が来てる。主に深森と湖沼で、魔術師と狩人の連携の仕方を教えてほしいってさ」

それもショウは知っている。

今回の魔物の大発生で、北の町は、優秀な治癒師と狩人の町として一気に有名になったらしい。

「俺たちは北の町を守るので精いっぱいだ。余力があるなら手伝ってやるくらいでいい」

とガイウスはにべもない。

「それでも、導師はやるというだろうし、求められれば狩人をやりくりしてどうにか派遣しなければならねえ。町の代表ってのは面倒くさいだけだ」

ガイウスはそうも言っていた。

ショウは治癒師だ。導師に求められればついていくだろう。

一方でファルコは狩人だ。狩りの技が求められれば行かなければならない時もある。

いつでも一緒にいられた今までとは、これからは違ってくるのだろうか。

ショウは頭をファルコにもたれさせた。おなかに回ったファルコの腕の力が強くなる。

「ショウが俺のところに落ちてきて最初の夏、レオンと話したんだよ」

ファルコが思い出話とは珍しい。

「いつか成人したら、ショウは誰かとパーティを組むのかなって。前のレオンみたいにさ」

そういえば、レオンは怪我をした時、パーティを組んであちこちで狩りをしていたと聞いたような気がする。

「その時に、よほどしっかりした奴じゃねえと俺は許可を出さないと誓ったんだ」

誰に誓ったのかとショウはおかしくなった。

「せめて俺より強い奴じゃないと」

「いないじゃん、そんな人」

ガイウスかレオンくらいだ。あるいはノールダムのゲイルとか。

「いる」

「え、誰?」

ショウは驚いてファルコを見上げた。

「俺」

「え?」

「俺だ」

ファルコがファルコより強いって、どういうことだろう。

「ハハハ」

近くで話を聞いていたレオンがおなかを抱えて笑い始めた。

ファルコはショウを抱えたまま器用にレオンを蹴とばした。

「ファルコの言うことはわかりにくいんだよ。素直に俺とパーティを組まないかって言えばいいのに」

「うるせえ。その通りだけどな」

成人した狩人は、ジェネとビバルのように、ドレッドとライラのように、あるいはもう少し多い人数でパーティを組んであちこちに狩りに行く。

「でも、私、剣士じゃないよ。ファルコの足を引っ張るだけじゃない」

「馬鹿なことを言うな」

ファルコは強い口調で言った。

「いざというとき、治癒師がいたらどんなにありがたいことか。町から治癒師を引き抜いていくのは申し訳ないから連れて行かないだけで、本音はみんな治癒師に来てほしいと思ってるんだ」

そうなんだとショウはほっとした。

「ファルコに話を任せると進まないから。俺が言うぞ。なあ、ショウ、ハル。俺たち四人でパーティを組まないか」

「え、私も?」

ハルが驚いている。いつものように自分とは切り離して聞いていたのだろう。

「狩人二人に、魔術師一人、治癒師一人。最高の組み合わせだ。狩り、治癒、魔法の使い方。どんな依頼にも対応できる万能パーティになる」

考えてもみなかった。でも、そう言われてみると、とてもいい組み合わせにしか思えなくなってきた。

「導師にはアルフィがいる。治癒師だけの依頼の時はアルフィをついていかせればいい。俺たちは導師の依頼についていってもいいし、俺たち単独で依頼を受けてもいいんだ」

そうすれば。

「いつでも一緒にいられるだろう」

四人が心の中に秘めていた願いが、ファルコの声で表に出た瞬間だった。

「大人になっても一緒にいてもいいの?」

ショウの小さい声にファルコがうなずく。

「一緒にいてほしいんだ」

きっとそれはファルコが思うよりずっと長い間だ。

「これであいつら、付き合ってないんだぜ」

「一応形式的には親子だからな」

後ろでこそこそとリクとサイラスが言いあっているが、それはファルコに直接言ってほしいショウだった。

「だから、これからもいつも一緒だ」

「うん」

長い時間を、一緒に生きよう。

輝く日のもとでも、優しい星の光の下でも。

「のんびりと暮らすはずだったんだけどな」

「ショウがいれば、それでいい」

どんな世界でも、愛する人がいて、仲間がいれば、それでいい。

見上げるといつの間にか、空は星でいっぱいになっていた。

[本文・完]