軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

導師のかたち

「今日はばっちりだ!」

ショウはさわやかに目が覚めた。

「おお? びっくりさせるなよ、ショウ。時々叫びながら起きるよな」

「あれ、ファルコ」

いつもならいるはずのハルはおらず、隣のベッドには、ファルコが肘で頭を支えて横になっていた。もう着替え済みだ。

「ずっと見てたの」

「ああ」

ショウはこっそり口元を袖で拭った。もしやよだれでも出ていなかったかと不安になる。

「よだれは出てなかったぞ」

「もう!」

「ハハハ、いてっ」

ショウは枕を隣のベッドに投げてやった。どうもファルコにはデリカシーと言うものがない。

ファルコは起き上がると、投げつけられた枕を抱えて笑っている。

ショウはベッドから起き上がると、ファルコの抱える枕にポスっと顔を埋めた。

ファルコは枕ごとショウをそっと抱えた。

「今日、やるのか」

「うん」

「そうか」

狩人が狩りをするように、治癒師は治癒をする。

ショウには甘くて過保護なファルコだが、ファルコはショウが自分の仕事をするのを決して止めなかった。

「勝算はあるのか」

「ある。というより、私とアルフィがやるのでなければ、おそらく勝算はないの」

「そうか」

やるならやればいいと。いつもそばにいると、励まされた気がした。

「さてと」

ショウはファルコから枕を受け取って、ベッドに戻した。

ファルコはまたベッドに寝転がろうとしている。

ショウはそれをじっと見つめた。

「なんだ」

何も聞いてないのに返事をするファルコは、なんでそんなに嬉しそうなんだろう。

「着替え」

「うん」

ファルコはどうぞと言う顔をしている。

「いてっ、なんだよ」

また枕を投げられたファルコが文句を言う。

「着替えをするから、出てってってことでしょ、もう。デリカシーがないんだから」

ショウはファルコをぐいぐいと押し出した。

「待てよ、おい」

バタン。ショウはドアを閉じた。

「あ、枕」

まったく困った養い親なのだ、ファルコは。

ショウの顔には、ただ柔らかい微笑みが浮かんでいた。

朝食の後、宿の普通の二人部屋の導師の部屋には、少し多めの人が詰まっていた。

導師のベッドの右側にショウ、左側にアルフィ。ショウの隣にハル、アルフィの隣にリク。ベッドの足元にはレオンとファルコとエドガー。

もう一つのベッドは端っこに寄せられ、カナンの治癒師が何人かそこに控えている。リクだけでなく、必要なら見に来るがいいと導師が言ったからだ。

「ガイウスは顔を出さないのか」

部屋にいる面々を見て、導師が口を開いた。

「俺の仕事は町の代表だと。導師が治ったら顔を出すと言ってましたよ」

「案外臆病な男だからな」

答えたアルフィに、ふっと笑った導師は、昨日の熱に浮かされたような姿ではなく、いつもの導師に戻っていて、ショウたちをほっとさせた。

「では、治癒を始めます」

「うむ」

導師は目をつぶった。

「ショウ」

「うん」

アルフィの右手は導師の左肩に置かれ、ショウの右手は導師の手を握っている。そして、導師の胸の上で、アルフィの左手とショウの左手がつながれた。

「一度に行くよ」

「わかった」

アウラの治療の時、魂に思い出させたのは一つ一つの細かい記憶だけではない。アウラの存在そのものだった。明るく笑うアウラ、希望に満ちたアウラ、いたずらなアウラ。

ショウが目をつぶったまま、口を開く。

「私の導師は、いつも両手を差し出して抱き上げてくれる。乗せてくれるひざはちょっと固いけど、広くて安心なの」

「俺の導師は、いつも両手を広げて、いやなことも苦しいことも、楽しいことも新しいことも受け入れてくれる。誰よりも前を力強く歩いていくんだ」

アルフィが続ける。

「俺の知ってる導師の拳骨は固いぞ。悪いことをするとすぐガツンとこぶしが飛んでくるんだ。俺の頭はそれで固くなったに違いない」

「ファルコ、それはお前が悪いことをしすぎだったんじゃないのか」

あきれたようにファルコに突っ込むレオンの言葉に、思わず部屋に笑いがこぼれる。

「厳しい顔もするけれど、子どもを見る目は優しくて、まるでお日様のように暖かい人なの」

ハルの小さい声が響く。

導師にそっと流していた魔力が温かくなる。弱弱しい魂の輝きが少しずつ増していく。

アウラは言ってた。自分は自分のことを見ることはできないから、案外自分のことは覚えていないのだと。

だから代わりにショウたちが導師のことを思い出すのだ。

「サラサラできれいな長い髪」

「それはなくなってないだろ」

リクの突っ込みがおかしい。

「導師がおもしろいと思ってる時、口の右側だけほんの少し上がるの」

「そういえば左の手のひらの薬指の下に、ほくろがあるんだよ、知ってた?」

「それは私も知らなかったぞ」

アルフィの言葉に思わず導師が答えてしまい、今度こそ部屋に笑いが満ちた。

つないだ二人の手に力が入った。

今だ。

「では、まず形を移します。俺は力強い左足を」

「私は優しい左手を」

右側の手足から、コピーして反転する。

さあ、そのかすかな形に、今こそ女神の元から力をもらおう。

堂々と歩く導師の形に。優しく両手を広げる導師の形に。

輝く魂の形に戻るまで。

女神よ。

目には見えなかったけれど、そこにいた誰もがきっと温かい何かを感じたことだろう。

「ショウよ、アルフィよ。本当にお前たちの力は温かいのだな」

ぽすっと、右側にショウの頭の重みを、左側にアルフィの重みを感じる。

さっきまで何もなかったはずのところに、重みを感じるのだ。

導師はつぶっていた目を開けた。

いつか見た景色だ。

あの時も二人、アウラのベッドで、こうして魔力切れで倒れていたのだった。

それなのにショウときたら、ふしゅー、ふしゅーと気持ちよさそうに寝息を立てて。

「相変わらず、寝ているときはぷすぷすと寝息を立てるのだな、ショウは」

「そこがかわいいんだろ」

すかさず親バカのファルコが口を挟む。

導師は右手でそっとショウの頭をなでた。

そして、布団から左手をすっと引き出した。

「おお……」

「どうやらなんとか動くようだな」

その左手で、アルフィの頭をなでた。

「足もある。女神よ、この小さくて優秀な治癒師たちに、感謝を」

アルフィが起きていたら、小さいは余計ですと叱られただろう。

「ショウをベッドに寝かせてくるよ。いつもの魔力切れだろう」

「じゃあ、アルフィはこっち側のベッドだな」

ショウはファルコがひょいと抱え上げ、アルフィはエドガーとレオンの二人で隣のベッドに運ばれた。

奇跡などなかったかのように。

まるでこれが当たり前の日常であるかのように。

あっけにとられてそれを見るカナンの町の治癒師の顔の面白いことと言ったらない。

「ハハハ。これが北の町だ」

「どうしたよ、導師。けがが治っておかしくなったか」

レオンが失礼なことを言う。これもいつものことだ。導師は首を横に振った。

「なんでもない。ただ、そうだな。そろそろ帰りたいな」

「ああ。ガイウスが星迎えの祭りが終わったら帰ろうって言ってたぜ」

春の終わりにこの町にたどり着いたはずなのに、いつの間にか真夏になっていたのだった。