軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣士にも、魔術師にもなりたかった少年

あきれた顔のハルに起こされたショウは、とりあえずお風呂に入らせてもらい、さっぱりしてからゆっくりと下の食堂に降りて行った。もちろん、ハルがあきれていたのはショウと一緒に寝落ちしていたファルコにである。ファルコはさっさと部屋から追い出されていた。

疲れてはいるが、ふらつきもしない。使い切った魔力も、大体回復している。ショウはしっかりとした足取りで階段を下りた。

もうだいたい食事は終わって、すいているはずの食堂は、なぜか人がいっぱいで熱気に満ちあふれていた。

その中の一人が階段を下りてきたショウとハルに気が付いた。

食堂がしんと静まり返り、全員が一斉に立ち上がった。

「え、何。怖い」

ショウは驚いて思わずハルの腕にしがみついた。

立ち上がった人たちが、次々と片膝をつき、頭を下げていく。

「こんな習慣あった?」

「しーっ」

ショウはハルにちょっとたしなめられた。

「私だって、昨日これに耐えたんだから、ショウもちょっと我慢して」

「ええ?」

顔を上げて立ち上がると、ショウのそばにすたすたとやってきたのはガーシュのお父さん、つまり町長だ。

「ショウ。町の代表として、お礼を申します。ありがとう」

短い言葉だったけれど、実感がこもっていて、いろいろ言葉を飾り立てるより気持ちが伝わってきた。

でも、治癒師と薬師の他は、魔物と戦うショウたちのことは見ていなかったはずなのだ。

町に被害もなかったはずだし、とショウは不思議に思った。

「どうして知っているのかという顔だね。君たちは本当に謙虚だ」

隣を見るとハルが照れくさそうな顔をしていた。ハルも昨日、同じように思ったに違いない。

「昨日はすぐ夜になったから、話を聞いただけだったが。今日は町のほとんどの人が、倒れている魔物を見に行っていたに違いないよ」

町のすぐそばに、家のような大きさの魔物が二頭。

最後に倒したのは深森の狩人だけれど、彼らが間に合ったのは、魔物と二時間以上戦ってくれた人たちがいたから。

その人たちは深森一行と、自分たちの町のリクだったという話は、その実物を見た後では驚きと信ぴょう性を持って広まったらしい。

実はクロイワトカゲも、町から見られるところまでは来ていたらしく、それを見に行った人たちもいたという。

「それで、倒されたアカバネザウルスは、一頭は検分のために中央に持っていかれるが、一頭はこの町で消費してよいと狩人たちから話があってな」

まさか、みんなが集まっているのは。

「君たちにお礼を言いたい、会いたいというのもあるが、アカバネザウルスのステーキを食べられるというのもあってだな」

そのころには全員立ち上がって、楽しそうにテーブルについていた。

ショウはおかしいやら、ほっとしたやらで思わずハルと笑いあっていた。

「さ、嬢ちゃんたちが倒したアカバネザウルスだよ!」

スライスした焼き肉が山盛りに盛られている大皿がドン、とテーブルに置かれた。

何ともたくましい。

筋張っているかと思ったアカバネザウルスのステーキは、少し硬めで、癖のある味だったけれど、それがとてもおいしいと大評判だった。

やがて食事も済んだ頃、二階から静かにアルフィが降りてきた。

まだ二〇歳にもなっていない、この小柄な見習いの治癒師は、終始穏やかで落ち着いているように見える。導師のひどい怪我でパニックになっていたカナンの人たちも、きっとアルフィの冷静な態度に救われたんじゃないかなとショウは思う。

そんなアルフィは見かけによらず一途で熱い人だ。

にぎやかな街の人たちを穏やかな笑顔でかわすと、

「ショウ、ハル、そしてリク。導師が目を覚ましたよ」

それだけ言って、二階に戻っていこうとした。

「うん」

「わかった」

ショウとハルは立ち上がってアルフィにすぐさま続いたが、途中でリクが付いてこないことに気がついた。

「リク?」

来ないのと視線で問いかけると、ぽかんとしていたリクは慌てて立ち上がった。

「俺もなの?」

「うん」

「今リクって言われてたでしょ」

ほぼ部外者の自分が付いて行っていいのかと、不安に思っていたリクの気持ちはあっけなく吹き飛ばされた。

「行ってくるね」

「ああ。しっかりな」

なにがしっかりなのか、サイラス自身もわからなかったと思うが、そう声をかけられてリクは食堂から送り出された。

アルフィはとんとんと、部屋のドアを静かに叩くと、返事を待つことなく、

「入ります」

とだけ断ってドアを開けた。

弱く灯された明かりのもとに、導師が目を開けて横たわっているのが見えた。やはりひどく顔色が悪い。そばにはエドガーが付き添っていた。同じく顔色が悪い。

「セイン様」

ショウが思わず呼びかけると、導師はゆっくりとショウたちのいるほうを見て、ほんの少し目元を緩ませた。

思わず走り寄ると、導師は布団の上に出していた右手をゆっくりと上げて、ショウの頬に当てた。

「泣くことはあるまい」

「泣いてないもん。今日は暑いから」

反射的に答えたショウは、自分が涙を流していることにやっと気づいた。

「生きてた。セイン様、生きてた」

「ハハハ。死んだかと思ったがな。我ながら無茶をしたものだ」

「本当です」

ショウがちょっと拗ねたように答えると、その声の調子に安心したのか、ハルもリクもおずおずと導師のそばに近寄ってきた。

「ハル、リク。戦いの合間に目にしたそなたらの働き、本当に見事だったぞ」

一番の怪我人が一番偉そうにしていることがおかしくて、ショウは思わずクスッと笑ってしまった。それでも、導師の失くした手足が気になって、ちらりとベッドを見てしまう。

「アルフィから、自分の現状については先ほど聞いたよ」

導師はまるで世間話をしているかのようだった。

「町の代表から感謝もされたが、そんな必要はないのにな」

ふっと笑った導師は、そのせいでどこかが痛んだのか少し顔をしかめた。

「セイン様!」

「ショウ、大丈夫だ」

心配するなと言い聞かせた導師は、ぽつぽつと自分のことを語り始めた。

「私はね、本当は剣士にもなりたかったし、魔術師にもなりたかったんだよ」

ひっそりと横に座っていたエドガーが、はっと顔を上げた。

「ハハハ、エドガー、薬師にはなりたいとは思わなかったが」

自分には強い魔力も、治癒の力もないからと言って、ショウたちをサポートする側に回っていたエドガーは、今回、何とか逃がすはずだったショウたちの救助が間に合わなかったことに激しく落ち込んでいた。

危ないと思った時には、草原に走り出していた。でも、魔物がショウを跳ね飛ばそうとするのには間に合わず、結局北の町の狩人がショウを助けたのだ。

自分に力があればと、剣士でも、魔術師でもいいからと、強く思ったに違いないのだった。

だから導師が同じように思っていたと知って、はっとしたのだろうと思う。

「だから治癒師でありながらも、剣士の訓練は続けてきたし、実際ノールダムでも役に立っていただろう」

「はい、セイン様」

アルフィがなだめるように返事をした。

「ハルの魔術を見て、まだ自分にもできそうなことがあると思った時は嬉しくてな。今回、ショウと一緒に放った炎の魔法は楽しかったなあ」

「楽しくはなかったですよ、セイン様。まったくもう」

大きなアカバネザウルスは、怖いだけだった。ショウはすくむ足を何とか励まして、やっと攻撃できたのだ。

「治癒師としてではなく、剣士として戦えた。本当に楽しかった」

まだそんなことを言っている導師に、ショウは怒っていいのか泣けばいいのかわからなかった。

「だが、慣れぬことをするから、焦って痛い目を見たのだな」

導師はなくなった自分の手足に目をやった。

「アルフィから、左手左足がなくなったと聞いて、それでも生きていればまだ治癒の仕事はできるだろうと思ったのだよ」

いかにも導師らしい言葉に、みんな何と言っていいかわからなかったが、アルフィが首を横に振った。

「セイン様、しゃべりすぎです。体力を消耗しないように、今日は休みましょう」

導師はアルフィの言葉が、まるで聞こえなかったかのように話し続けた。

「でも、できないんだ。魔力が体をうまく回らない。左手と左足で、滞ってしまう。滞ってしまうと、治癒の力が引き出せない」

「セイン様」

「私はどうしたら」

「セイン様!」

常にないアルフィの強い言葉に、導師もはっとして言葉を途切れさせた。

「セイン様、俺たちがいます。あなたの優秀な弟子である、俺とショウが」

ショウは導師の右手をそっと握り、その手をアルフィが両手で握った。

導師はそっと目を閉じた。

「お前たちの癒しは、いつでも温かいな」

「今日は休んでください。治癒のためにも体力を戻さないと」

「ああ」

導師はそのまますっと眠りに落ちた。