軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めてじゃないのに

「料理教室もしてほしいところだけれど」

旦那さんと二人で来たという、少し年を取った女の人が期待を込めた目でショウとハルを見た。

「野外の調理でいいならできますよ」

移動中のキャンプでは当たり前にやっていることだ。料理道具もちゃんとポーチに入っている。

料理をする人たちなら、トカゲの下ごしらえだけ教えておけば、後は普通に肉として調理できるだろう。

昼になる頃、トカゲの皮をぴーっとはがすショウとハルは熱い視線にさらされ、ついでだからと町に昼ごはんの買い出しに行く人も現れ、いつもの集合場所は、にぎやかな昼食会場と化した。

「町にばかりいないで、うちの農場においでなさいな。もう少しトカゲの料理も知りたいし、このあたりの伝統的な料理も教えてあげられるよ」

「ほんとですか! 行きたいなあ」

ジーナが年を重ねたらこうなるだろうと思うような素敵な奥様からの誘いだ。ショウは行きたくてうずうずした。

向こう側ではハルが同じようなことを言われ、目がキラキラしている。

なんでこんなところで仕事をしているのかとか、うちの子になれとか、リクを養い子にしたサイラスがうらやましかったのだとか、それはもう、深森にいるときと同じような状況だった。

「おい、お前」

その時、驚いたような声がしてショウは慌てて振り向いた。ショウにかけられた声ではない。

「頬の傷、なくなってるぞ」

「あ? まさか」

ショウが最初にスライムの跡を直した人が、そう言われて顔を恐る恐る触ってみている。

「ピリピリするところがなくなってる。もしかして」

その人の目がショウを探し、ショウと目が合った。ショウは頷いた。

「私が治しました」

にぎやかなお昼の会場が、一瞬しんと静まった。ショウはコホンと咳払いし、思い切って大きな声を出した。

「深森は怪我をする人が多いから、治癒の技術が発達しているんです。古い怪我でも治る可能性があります。今、教会には深森の導師が来ています。古い怪我でも、ちょっと何かが気になるだけでもいいので、教会に行ってみるといいですよ」

その声が皆に染み渡ると、おずおずと女性が手を上げた。

「そんな、ちょっとした怪我くらいで教会を煩わせて怒られないのかい」

「大丈夫です。ついでに試しの儀も受け直してきてくださいね」

ショウの自信ありげな返事に、

「そういえばサイラスがそんなことも言ってたな」

「午後から行ってみるかね」

とあちこちで声が上がった。

子供に怪我をさせるわけにはいかないから、丁寧に何回も教え、実践させ見守る。でも、大人は自分で判断できるので、一度教えればあとは本人次第だし、ショウとハルが責任を取る必要はない。実際、薬師の人たちは一日で覚えていった。

「よその町の子どもに教える」ということに責任を感じ、かなりのストレスになっていたんだなということに、ショウはやっと気が付いた。アンファでは短すぎてそんな責任を感じる暇がなかったのだということも。

お昼を食べ終えた後は、みんなあっさりと解散してしまった。それぞれ町に用事があるのだと言って。

「ショウ、本当にありがとうな」

怪我を直した男の人は、ショウの手をしっかり握ると心から礼を言って去っていった。

「ショウ、ぼうっとしている場合じゃないよ。今日は午後から学校に行こうって言ってたじゃない」

「そうだった。急に行っても入れてくれるかなあ」

「深森ならって考えたら、たぶん入れてくれる。ここなら、そこは元大人の図々しさで乗り切る」

「ハルったら」

ショウは思わず吹き出し、その楽しい気持ちのまま二人で教会まで走って戻った。

学校は教会にあるので、教室に入れなかったら導師と一緒に仕事をすればいい。それでもドキドキしながら教会に行くと、なんということか、いきなりガーシュと出くわした。

「なんだ、君たち」

無視せずによそものに気が付いて声をかけてくれる人って、実はそれほどいないかもしれない。ハルに言われて、ほんのちょっとだけガーシュを見直していたショウは、かけられた言葉をそんな風に好意的に取ることができた。

「せっかくだから、学校の見学をしておきたいと思って」

「あ、ああ」

普段返事をしないほうのハルが返事をしたものだからガーシュは戸惑っているようだった。それでも、

「君たちは一三歳だと聞いた。来られるなら学校に来たほうがいい」

と、まともなことを言って教室になっている部屋に連れて行ってくれた。

ハルが得意そうにショウを見たので、ショウはちょっとイラっとしてハルに肘打ちしてしまった。

「学校はふざける場所じゃないぞ」

ガーシュにそう言われたのがなんだかおかしくて、くすくす笑いながら教室に入ると、リクを探す間もなくあっという間に女子に取り囲まれた。

「うわー、新しい子?」

「その服素敵ね。動きやすそうだし」

「どの町から来たの?」

とわいわいしている。ショウは驚いてハルと目を見合わせた。初日に、子どもたちとは顔合わせして、薬草採取の手伝いをお願いしたはずだから、ショウたちについては知っているはずなのに。

「えっと、深森から来たから」

「ああー」

「そんな噂流れてたね」

そんな意外なことを言われた教室を見渡してみたら、初めて会う子のほうが多いような気がした。

「あら、しばらく見ないと思ってたら、どこにいたの?」

後ろから声がしたと思ったら、デリラだった。