軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8 魔法とセルトさんの千倍返し

「『鑑定』」

フワリ、と白くキラキラした魔力が見えた。

「······ああ。今日は全部クレソンだな」

リンクさんが鑑定をしているのを見ていて、ここって異世界なんだなあって改めて思った。

魔法!

前世でいう超能力!

こっちで転生して、車もスマホもないのは分かっていたけど、魔法が息づいている世界というのは心底驚いた。

前世で沢山読んだ小説に入り込んだみたい。

今はここが現実だけど。

魔法とはいっても、大半の人は魔法を使うことは出来ないらしい。

たまにいる魔法師も、物語のように魔物と闘うわけではないし、魔物がいるとは聞いていないから多分いないのかな?

でも、昔語りの絵本には魔物退治の話があったけどね。

アースクリス国で魔法が使える者は国の機関で魔法の教育を施されることになる。

そして能力に合わせた職につく。というのが定番だ。

四大属性。

つまり火・水・風・土の力を持つ者は、その力を効率よく使うことが出来るように鍛錬し、国に帰属する魔術院に入るか。

鍛冶、農業、治水など産業を活性化する為の機関でその力を使うか。

治療院を開いたりする人もいる。

四大属性は大抵一人ひとつ。

水の属性のみ、火の属性のみ、となるのが常なのだが、時折ふたつ以上の属性を持つ者がいて、ふたつ以上の属性を持った者が鍛錬すると『治癒』や『鑑定』などの力が開花するそうだ。

昔々に比べたら魔法師の人数はぐっと減っていて、ここ数十年、毎年魔法学院に入学する人数は二桁いくかいかないかなのだそうだ。

その中でも『治癒』『鑑定』を持つに至った人物はさらに貴重な人材となる。

そして貴重な人材の魔法師は、たいてい各領地に一人いるかいないかだ。

その貴重な鑑定魔法師さんが、リンクさんなのだ。

16歳から二年間魔法学院で鑑定力をみがいてきたが、リンクさんは上級貴族の子息。

一般の魔法師のように市井で働くわけではないので、学院卒業後は領地経営を学びつつ、のほほんと暮らすつもりだったそうだ。

それが、このバーティア領で子育てに参加することになり、さらに鑑定をフル活用するようになるとは思わなかったな〜、と度々口にしていた。

ローディン叔父様も14歳の頃学院に入ってリンクさんと一緒に在学していた。

貴族の子息たちは大抵家庭教師をつけてしっかりと教養をつける。

市井からの入学は、教養を身に着けてから、という基準があるので、貴族の子息令嬢より入学が遅れがちだ。

その為、魔法学院は入学する年齢がまちまちなのだ。

ローズ母様も結婚する前に在学していたそうだ。

ローディン叔父様は在学中に治癒力を開花させたそうだが、ローズ母様は私が熱を出した時に、初めて治癒が使えるようになったそうだ。

血筋的に不思議ではないそうだ。

しかし、子爵様に知られると、変に利用しようとするのが目に見えているので、内緒にしている。

どこまで残念なんだ。子爵様。

ちなみに、子爵様。

母親の血筋の侯爵家は洩れなく2属性を持っているが、努力をしない人なので学院に通ったものの、治癒力は顕現せず残念な結果となっているらしい。

本当に怠惰なのね······

じゃあ私は何を持っているのかなあ?

母様達は私が公爵家の血筋とは知らない。

私から言えるわけなどないし。

アースクリス国には公爵家は四つあるという。

どの公爵家も似たような家名で、私が赤ちゃんの頃に聞いた言葉だけでは、どこの家かわからない。

多分だけど、私も大きくなったら魔法が使えると思う。

鑑定の時の光や治癒の光は本来見えないものらしいけど、私はハッキリ見えているからだ。

ローズ母様やローディン叔父様が治癒を持っているように。

リンクさんが鑑定を持っているように。

私も魔法使ってみたい! と魔法を知った頃からずっと思っているのだけど。

残念ながら今はまだ身体が小さいから、魔力が使えないみたい。

小さい子は身体に負担がかかるため、7歳頃に一度魔力持ちかどうか、魔術院に行って鑑定してもらうらしい。

逆にその時点までで魔力を使えるものは稀なんだそうだ。

そこで魔力持ちとわかると、基礎教育よりさらに上の教育を無償で受けられ、その後魔術学院に入学する。

いわゆるエリートコースに乗ることが出来るのだ。

魔力を持たなくても、基本的な読み書きや計算などの教育は無償で受けられるが、その上の教育を受けるには基本個人負担だ。

領主や資産家の支援を受けて通う人もいるが、滅多にいない。

幼い頃から相当優秀と見込まれる人のみだというのが現状なのだ。

基本的に魔力持ちは、貴族が多い。

昔、アースクリス国を建国した時に国王を支えた魔法師たちは、平和がくると共に貴族位を与えられた。

今でいう公爵家・侯爵家・伯爵家が主だった者たちだった。

だから、その血筋の者には魔力持ちが多く出るのだ。

ローズ母様やローディン叔父様のバーティア子爵家は、お母様がデイン伯爵家出身、父方のお祖母様が侯爵家出身で、他にも系譜を何代か遡ると平民出身だったり、逆に子爵家を離れて平民となっていたり、はたまた公爵家や王家まで、と様々な血脈が入っている。

子爵家ひとつを見ても分かるように、長い歴史の中で血脈が広がり、貴族のみならず市井の者たちにも稀に強い魔力の因子がでているのだ。

そして、アースクリス国は結晶石がよく採掘される。

アースクリス国の地下深く、国全体に鉱脈が巡っているらしい。

つまり四大属性全ての力の結晶が地下に詰まっているわけで、その大地の上で血脈をつないできた民族は結晶石と呼応するのだそうだ。

だから、貴族だけではなく、平民の中にも、魔法師となれる人材が国中にわずかに現れる。

血筋によるものと、結晶石とつながりを持つもの、またこの二つを兼ね備えるものが魔力を持つらしいのだ。

そろそろ帰る時間なので、リンクさんより一足先に馬車に戻ることになった。

草に隠れて分からないが、地面がデコボコして足元が悪いということで、セルトさんが私を抱っこして歩いている。

ああ、そういえば。

「せるとしゃん。まほう、ちゅかえる?」

ぱあっと水出すとか出来る?

セルトさんも魔法学院卒業生なのだ。

「物質を動かすものは残念ながら。私は魔法学院には行きましたが、火や水など魔力を練って外に出す、自分発出のものではないのです」

魔力はそれぞれ千差万別。

魔力で火や水を生み出すもの。魔術で術式を展開して火を生み出すもの。

二つは結果は同じでも、元の魔力が違う。

魔力の強弱、属性や指向性の違い、本人の性質と抱える魔力量で変わる。

だから水の属性を持っていても、水を生み出すもの、水を導くもの、触れたりして水の形状や質を変えるもの······など、それぞれに違うのだ。

たぶんだけどセルトさんは後者の方なのだろう。

セルトさんが私だけに聞こえるように少し声を落とした。

「──これは秘密なのですが······私は『感応』といって、モノの中を感じることができます」

「りんくおじしゃまの『かんてい』みたい?」

「リンク様は『もの』をみる。私のは『ひと』なのです。アーシェラ様」

「ひと?」

「はい。簡単に言えば、その人が嘘をついているかどうかが分かります。逆にそれしかわかりませんが」

「しゅごい!」

言っている言葉の真偽がわかるって、すごい!

あれ? でも『感応』って2属性以上持っていなきゃ持てないよね。

そしたらセルトさんって、すごい魔法師なんだ!

「ですので、私はあるお屋敷でずっと人を監視していたのです。私に良くしてくれた主人を害そうとする者を排除するためでした」

ほんの一部の信頼する人を除いて、セルトさんが『感応』を持っているのを秘密にしているとのことだった。

「内緒ですよ? アーシェラ様。実はデイン伯爵様からリンク様やローディン様、ローズ様にも秘密にしておけと言われていたのです」

ですが、アーシェラ様のことはお話されていませんでしたので。とセルトさんが笑んだ。

「ひみつ。ね」

「はい。お願い致します」

あ。そしたら私が何か誤魔化したらすぐにバレるってこと、だよね。

出生自体が秘密持ちだからマズいかも。

『あ』って顔したら、セルトさん感づいたらしい。

「おや、大丈夫ですよ。アーシェラ様。私は負の気を持つ者しか深く見ません。大体あれは相当魔力を使うし、疲れるんです。そうそう使いたくはありません」

馬車を停めている場所にくると、セルトさんは一度降ろしてくれた。

農家さんたちが、夕日を背に、全員で手を振ってくれる。

私はこの瞬間と光景がとても好きだった。

セルトさんが、手を振り返す私の少し後ろで目を細めてその光景を見やる。

「主人がいなくなってしまった後、鼻持ちならない貴族に屋敷を追い出されてしまいましたが、こうやって商会で働くのもいいですね。──ここは、気持ちがいいです」

なんてことだ。

その貴族は自分が気に入らないセルトさんに、でっちあげの罪を着せて追い出したそうだ。

「わりゅいきぞく、やっちゅける!」

ふんふん! と地団駄踏むと。

ふふ、とセルトさんが笑った。

「ありがとうございます。アーシェラ様。そうですね。悪い人にはもう会いたくはありませんが、いつか千倍返ししたいですね」

倍返しじゃなくて、千倍返し。

なんか柔らかい口調なのに過激な言葉でびっくりした。

「さあ、アーシェ。帰ろうか」

リンクさんが足早に駆けてきて、さっと私を抱き上げて馬車に乗り込んだ。

だから。

──私の力は私より魔力の弱い者にしか使えないので、アーシェラ様相手では弾かれるんですよ──

と、後ろでセルトさんが小さく呟いていたのは聞こえなかった。