軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46 ひいおじいさまがかっこいい

カレン神官長が、この大陸の歴史を教えてくれた。

この大陸の基本的なことを私が知らないので、クリスフィア公爵と叔父様たちの会話に何度も首をかしげるからだ。

簡単な地図を紙に書きながら教えてくれた。

―――遥か昔、もともとこの大陸にはアースクリス国しかなかった。

だからこの大陸の名は『アースクリス』だ。

大陸自体がひとつの国だった。

そのアースクリス大陸に、数百年前、天変地異により他の大陸に住むことが出来なくなったいくつもの民族が流れ着き、やがて国を作った。

それが西のウルド国であり、東南のジェンド国であり、東のアンベール国なのだ。

かつてのアースクリス国王が、天変地異により、住み慣れた土地を無くし命からがらアースクリス大陸に逃れてきた流民たちに土地を分け与えて、建国を許した。

アースクリス国に感謝した流民たちが作った国は、長い間友好国であったものの、やがて数百年もの時間が流れた頃には、土地を分け与えてもらった感謝を忘れ、アースクリス国の豊かさに羨望と嫉妬が入り混じるようになった。

離反の始まりは、この大陸の主神である女神様を崇めることをしなくなったことだ。

建国の際に、提示されたアースクリス国側からの約束事は、たったひとつ。

『この大陸を創った女神に仇なす行為をするべからず』

―――たったひとつの、その『誓約』を。

『信仰は自由であり止められぬものである』を理由に、ひとつ、またひとつ、と三つの移民の作った国から、古来からある女神様の神殿が崩れて消え去っていった。

『誓約』であった為、女神様信仰の迫害や神殿の破壊はなかったが、多くの神殿が風化によって廃れるに任せて行った。

今では残った神殿は三つの国を合わせても十指に足りぬくらいである。

その頃から、表向きは友好的に。裏では『いつか豊かなアースクリス国を奪い取ろう』という空気が常にどこかにあった。

けれど、大陸を分割したとはいえ、アースクリス国は大国。

この数百年で、好戦的な周辺国の王族が何度もいいがかりを付けて戦争を仕掛けたが、常にアースクリス国に軍配が上がっていた。

何度も停戦協定が結ばれ、そして何度も破棄されてきたのが現状だ。

アースクリス国は一国だけで落とせる国ではない。という認識が根付いていった。

そして、三国の中にも、アースクリス国に友好的な王がいた為、これまで結託してアースクリス国に戦をしかけることがなかったのだ。

20年ほど前の、アンベール国の前王はアースクリス国に友好的で、ジェンド国も争いを好まぬ王だった。

ウルド国の前宰相は野心を自国の玉座に向けていたため、これまでアースクリス国に牙をむけることはなかった。

しかし現在、アンベール国で愚かな者が王位につき、逆恨みと嫉妬でアースクリス国に牙をむいた。

数代に渡ってウルド国を操ってきた前宰相の血を引いた、浅慮なウルドの王族がアンベール国王の誘いにのり、ジェンド国の王妹を娶ったアンベール国王の誘いにのったジェンド国の王。

今回が、三国が建国以来、初めて結託しての開戦となったのだった。

◇◇◇

カレン神官長による大陸の講義(?)のあと、クリスフィア公爵が最初の私の質問に答えた。

「話がとんでもない方向に飛んだけど、軍の食事だがな。まあ、野菜以外は大丈夫だ」

たしかに。軍の食事の話しから、結局行きついたのは、ウルド国のアルトゥール・アウルス子爵の出生の秘密まで飛んだのはびっくりだ。

気を取り直して、クリスフィア公爵が先行部隊の食事の件に話を戻した。

「野菜ですか?」

カレン神官長が首を傾げた。

「今回の出征は冬だからな。今は実りの秋だが、逆に言えば冬期間は野菜は新鮮なものは望めないのが当たり前だ」

穀類は十分だけれど、野菜はたぶんこれから不足になるだろう。とのことだ。

「先行部隊で持っていく野菜は十分な量があるだろうが、その後だ。後続部隊の補給では葉野菜はウルドまでの道程が長すぎるからたぶん望めないだろう。後はこれから収穫したものをうまく保存しなければな」

今回は、勝利前提で、きっちり半年間ウルド国にいる予定だ。

これまで、兵役は半年間で、国境付近での従軍だった。

攻めてくる他国軍を国境を越えさせまいとしていた。

だから、従軍している人は祖国であるアースクリス国に比較的近くで戦っていたのだ。

ゆえに食料の補給も容易だった。

けれど、今回はウルドの王都まで侵攻する。

先ほど教えてもらったとおり、他国の王都にまで攻め込むのは初めてのことなのだ。

「5年前の開戦前は小さな小競り合いだったからな。本格的な戦争はおれも初めてだった。最初の1・2年はあっちもこっちもひっきりなしで戦闘があって、兵も大変だったが、陣頭指揮をとられる陛下も、同様の指揮権を持つ公爵たちも大変だったな」

話には聞いていた。

一番犠牲が多かったのは最初のあたりの2年間、3年目は勢いが落ちてきたと言っても、きつかったとクリスフィア公爵が言った。

そうだ。このアースクリス国一国で三国を相手にしているのだ。

ずっと返り討ちにしてきたけれど、犠牲者もたくさんたくさんいる。

重い後遺症を負った人だっているのだ。

「戦地ではずっと気を張ってピリピリしている。戦争はいわば殺し合いだ。相手を殺したり、知人や友人が目の前で殺されたり傷つけられたりして、精神的にやられるやつらも多い。それでも、兵たちは、大切な者たちを護る為に心を奮い立たせているんだ」

「―――はい」

ローディン叔父様とリンクさん、カレン神官長が真剣な顔で話を聞いている。

「そんななかでな。食べなれた故郷の味を食べ腹が満たされると身体と心が安心する。そして、しっかり睡眠をとることが出来れば―――また立ち上がれる。生きる為にも精神的なもののためにも、本当に食事は大事なものだ。だからこそ、兵にはしっかりした食事を用意してやりたいと思っている。これまでは、比較的アースクリス国に近いところでの戦闘だけだったから、食料の補給は難しく考えなくてもよかったが。これからは別の国に行く。―――だから食料や物資の補給と確保。そしてその継続が重要になるんだ」

「補給基地は、ウルド国との国境沿い数か所。その中にデイン辺境伯領も補給の物資を集積する場所として入っている。万が一どこかが奇襲されても別の補給基地からウルド国にいるアースクリス国軍に補給が可能になるようにな。―――デイン辺境伯だけではなく、エフベ辺境伯をはじめとして国境を護る辺境伯領は、ウルド国の王都を落とした後は、支援の為の拠点になる」

デイン辺境伯領の港から西の海を回って、ウルド国のランテッド男爵の所領の港に入ることが出来る。

また、ウルド国の海につながる河川を通れば、ウルド国の真ん中くらいまでは舟でいけるのだ。

「はい。デイン領が補給基地になることは想定していました」

リンクさんが頷いた。

リンクさんの実家のデイン辺境伯領は、大きな港と辺境伯軍を有している。

これまで海から何度も侵攻しようとしてきた敵国を撤退させてきた、辺境伯軍だ。

開戦直後、陸上戦だけではなく、海戦も何度もあり、それこそ何か所からも一度に仕掛けられた。

デイン領の海からと、西側のウルド国が陸から侵攻、ジェンド国も国境の川を渡河してデイン領の陸地へと侵攻してきた。

重要な要所であるデイン領を手に入れようと、三方向から攻められたのだ。

その時は、クリスフィア公爵と、クリスフィア前公爵がデイン辺境伯と共に戦地を駆けまわり、デイン前伯爵とホークさんも戦地を駆けた。

王都に近い国境付近や、アンベールやウルド、ジェンドの国境付近にも同時に戦火が上がり、陛下やすべての公爵たちがそれぞれの戦地へと赴いた。

デイン領に援軍に赴いたのは現在のクリスフィア公爵と、父親の前公爵だったそうだ。

三方向からの攻撃に押され気味だったところに、ディーク・バーティア元子爵が駆けつけて、魔術師たちの指揮を執り、見事に撃退した。ということを初めて聞いた。

「バーティア先生はさすがだ。ホークを援護して、私の軍の魔術師や、辺境伯軍の魔術師たちに的確な指示を出していた。一時に何方向からも攻められたらどこかに穴が開く。その穴を見事に埋めてくれた。あの時バーティア先生が駆けつけてくれなかったら、大変なことになっていただろうな」

クリスフィア公爵が思い出しながら、頷いていた。

「おじい様のその話は聞いています。……その時私たちは魔法学院にいましたから、周りから聞いただけですが」

開戦直後は、まだ王都の全寮制の魔法学院にいたローディン叔父様とリンクさん。

クリスフィア公爵は、まだ公爵位を継ぐ前で魔法学院の教師をしていた頃だという。

デイン領への敵襲の知らせを受けて、デイン領に戻ろうとしたリンクさんを引き止めて説得したのがディークひいおじい様だということだ。

『お前より私が行った方が役立つだろう。違うか?』

そう言って、さっそうと戦地に向かったとのことだった。

リンクさんに言った通り、ディークひいおじい様は、戦地にいた魔術師を見事にまとめあげて戦果を挙げ、勝利に多大に貢献したとのことだ。

突然デイン領の戦地に現れたディーク・バーティア元子爵を見て、魔術師たちは驚いたそうだが、魔術師のほとんどが彼の教え子だった為、全員素直に指示に従ったらしい。

見るからに押され気味だった戦局を一気にひっくり返した立役者として、ディーク・バーティア元子爵は今でも一目置かれているとのことだ。

「しゅごい!! ひいおじいしゃまかっこいい!!」

聞いていて、その光景が目に浮かんでくるようだった。

映画とかアニメのワンシーンのようだ!

「ああ。おじい様はすごい方だ」

ローディン叔父様が誇らしいと言って微笑んだ。

「おじしゃま!! あーちぇ。ひいおじいしゃまにまほうおちえてほちい!」

そんなにすごい人なら。やっぱりディークひいおじい様がいい!

王妃様が教師を選ぶといっていたけど。

ひいおじい様に教えてもらいたい!

「ああ。それはいいだろうな。教師のひとりに入れてもらうといい」

クリスフィア公爵が頷いた。

魔法学はいろいろある。

魔力で四大属性の魔法を使ったり、魔術陣を作って同様の力を使う方法、魔法道具を作ったり、薬草を扱い医学を学ぶものなど、多岐にわたっている。

ディークひいおじい様も、クリスフィア公爵も魔法の扱いと魔術陣の扱い方が得意らしい。

ディークひいおじい様が魔法学院の教職を退いた後を引き継いで、その教科の教鞭をとったのがクリスフィア公爵とのこと。

ちなみにクリスフィア公爵は開戦後、ローディン叔父様とリンクさんが卒業すると同時に、教職を辞めて公爵位を継いだとのことだった。

「ひいおじいしゃま、あーちぇにもおちえてくれるかな?」

「ハハハ。大丈夫だろう。バーティア先生の無表情が崩れるのが見れそうだな」

クリスフィア公爵が楽しそうに言うと。

「もうアーシェの前では別人ですよ」

ローディン叔父様が苦笑して言った。

うん? ひいおじい様は無表情じゃないよ?

ぼそりというのが多いだけで。

私を見て微笑んでくれる瞳が、ローディン叔父様と同じですごく安心するんだ。