軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41 カレンさんとほしがき

王都からバーティア領に帰ってきて数週間が経った頃、王都からのお客様が商会にやってきた。

朝食が終わって、母様と後片付けをしていた時に、『家』の方にセルトさんに案内されてきた。

「おはようございます! アーシェラちゃん!」

元気に挨拶してくれたのは。

「んーと。かれんしゃん?」

神官の白いローブではなく、落ち着いた青色のワンピースだったので一瞬分からなかった。

カレン神官長は緩やかなウェーブのかかった長い金髪に青い瞳のとっても綺麗な人だ。

30代半ばを過ぎたということだが、まだ20歳を過ぎたばかりの年頃に見える。

王妃様と一緒で、魔力の強い女性は成長が遅い、というのを体現されている。

私も将来、こんな風に成長が遅いんだろうな~と思いつつご挨拶。

「おはようごじゃいましゅ。かれんしゃん」

「今日はバーティア領にキクの花の株を持ってきましたわ!」

菊の花は別の神官と護衛が馬車で護っているらしい。

「ああ。教会に植えるやつか」

ローディン叔父様が商会の仕事部屋からやってきた。

菊の花の移植は、神殿側の準備が出来たら順々に回っていくことになっていた。

おおまかな日程の通知は来ていたが、数日のずれは対応してほしいとの通達だった。

だから、今日は予定の日より3日ほど早いのだ。

「はい! 今各地に神官たちが株分けのキクの花を手分けして持って行っているんです。今日は私が」

「うちは小さい領地なので。教会は全部で3か所ですね」

「他の領は根付いたんですか?」

ローズ母様がお茶を用意しながら聞いた。

「ええ。ですが、さすがに全部の教会で根付くとは限らないみたいで。でも今のところは各領地、複数ある教会のうちの一つくらいは根付いているみたいですわ」

よかった。一か所でも多く根付けばそれだけ飢える人が少なくなるはずだ。

「教会へのキクの花の植え付けに、バーティア子爵様に立ち会いをお願いします」

カレン神官長がバーティア子爵家に行かず、商会の家に来たのは、ローディン叔父様に子爵として立ち合いをお願いする為だった。

「もちろんです」

頷くローディン叔父様。それならもちろん。

「あーちぇもいく!」

「ああ。一緒に行こうな」

商会の外に出ると、朝の冷たい空気が肌を刺す。

「しゃむい」

「秋も深まったな」

来月、ローディン叔父様はウルド国に行く。

だから出来る限り叔父様にくっついていたい。

ローディン叔父様は、厚手の上着を私に羽織らせると、ひょいと当たり前のように私を抱っこして歩く。

今日リンクさんは手の離せない仕事がある為、商会でお留守番だ。

小さい領地とはいえ、歩いて回れるわけではない。

今日はお昼近くから予定があったので、馬車を走らせて最短でキクの花を植えて行った。

子爵家のふもとの教会に一株。

街の中の教会に一株。

最後に、耕作地と領民の家の間にある教会に一株。

「司祭たちに根付いたか報告してもらいますわね」

カレン神官長は王妃様の遠縁らしく、とても明るい方だ。

王宮で初めて会った時、私はお昼寝からの寝起きだった。

どうやらレイチェルおばあ様の部屋で眠っていた時に何人かの人が出入りしていたらしい。

ぐっすり眠っていたので寝顔だけ見て帰った人が何人もいたそうだ。

なんだか申し訳ない。

ちゃんと挨拶出来たのは、カレン神官長様とクリステーア公爵のアーネストおじい様だけだった。

目が覚めたら、アーネストおじい様が顔を覗き込んでいたからびっくりした。

アーネストおじい様はカロリーヌ(すでに呼び捨て)と同じ濃い緑色の瞳をしていた。

カロリーヌの印象が最悪だったせいで、一瞬濃い緑の瞳にびくりと警戒したけど、アーネストおじい様がとっても優しい瞳で微笑んでいたので、カロリーヌと同じ瞳の色でも、ぜんぜん嫌悪感が湧かなかった。

「はじめまちて。あーちぇらでしゅ」

と、挨拶したら、頬ずりされてぎゅうぎゅう抱きしめられた。

レイチェルおばあ様と同じだ。

おじい様と呼んで欲しいと言われたので。

「おじいしゃま」

と呼んだら顔をくしゃくしゃにして泣かれたのはなぜだろう?

「ありがとう」

と何度もレイチェルおばあ様とアーネストおじい様に言われたことも何故なのかわからない。

でも『いつでも遊びにおいで』と言ってもらえたのはとても嬉しかった。

◇◇◇

耕作地と領民の家の間にある教会に、3か所目、本日最後のキクの花を無事に植え終わった。

今日急いで教会を回ったのは、ここの教会でイベントがあったからだ。

「あ! おじしゃま! かき! かきいっぱい!!」

教会の敷地の中に何本もある柿の木には、柿がたわわに実ってとっても美味しそうに熟している。

「柿って美味しいですわよね! 強いお酒で渋を抜いて食べると美味しくって!」

旬が楽しみなんです! とカレン神官長がはしゃいでいう。

「え。あれ? 何でこんなに人が?」

カレン神官長が驚くのも無理はない。

領民たちが、ぞくぞくと教会の敷地に集まってきているのだ。

老いも若きも。40人くらいはいるだろうか。

そして、商会からもスタンさんをはじめ何人か大きな荷物やハシゴを持って教会の敷地に入ってきた。

今日ここに領民たちがぞくぞくと集まって来ているのは、柿の収穫のためだ。

柿の木にハシゴをかけ、周囲にシートを敷き、大きな袋やカゴを用意していく。

「ええと。柿の収穫は分かりましたけど、人数多いですよね。女性がとっても多いですし」

柿の木から少し離れた場所に商会の従業員がシートを広げて、領民の女性たちが座ると、めいめいに家から持参したナイフを取り出していた。

「ええ??」

カレン神官長が目を丸くしているので説明しよう。

「かき。かわむいて、ほしゅ」

「柿を、干すのですか?」

「ああ。うまいんだよな」

今日は、教会の中の木に実った柿の収穫をするのだ。

集まって収穫を手伝った領民にはかごひとつ分ずつ柿をあげることにしている。

「はーい! 皆さん! 帰りに柿と手間賃支払いますからね〜! 頑張って収穫と処理をお願いしますね!!」

スタンさんが仕切りだした。

「?? 何をされるのですか?」

「ああ。これから柿の加工品を作るんですよ」

「え? そのまま食べるのでは?」

「渋を抜いたものをそのまま食べるのも美味しいですが、どうせなら長く食べられるようにって、干し柿にするんです」

「まあ! 柿を干すんですか。初めて聞きました」

「毎年領地内の柿を収穫して、渋を抜いてからジャムに加工していたんですが、たいてい一気に渋が抜けて加工が間に合わなくて傷んで結構な数を捨てていたんです」

「そうなんですね」

カレン神官長は貴族出身である。

出来た品だけを見ているので、廃棄されているというのは知らなかったらしい。

「去年もとりあえず収穫して、倉庫に積み上げてたら、アーシェが『柿の皮を剥いて干して欲しい』って、必死に頼んできたから試しに干してみたんです」

去年のことを思い出して、ローディン叔父様がふふふと笑った。

「軒下に吊るした柿を、毎日飽きもせず眺めて。時々触ったりして」

それは種離れするように揉んでいたのだ。何回か繰り返すと美味しくなる。

「10日を越えたくらいで、乾いて小さくなった柿を取り込んで食べてみたら、これが旨かったんですよ。なあ、アーシェ」

そう言って、私の頭を撫でる。

本来干し柿は2週間から1か月ほど干さないと出来ないけど、こっちの世界の柿は早かった。

10日前後で渋柿が美味しい干し柿に変わったのだ。

上手に保存すると冬の間は傷まずに美味しくいただけるのだ。

「それを商会の皆に食べさせたら、大好評で。領民に声をかけて、収穫して倉庫に積み上げていた柿の皮むきと干す作業をやったんです」

バーティア領は他の領と比べて、柿の木が多いのだそうだ。

柿の木が多い理由はなぜかは知らないけれど、旬の柿も大好きだし、干し柿も大好きなので、柿の山を見た時は嬉しくて興奮してしまった。

「去年は、シーズンの終わりに干し柿のことを知ったので、沢山は作れなかったんですよ。今年は一大イベントにして、最初から干し柿作りをすることにしたんです」

今日を皮切りに、あちこちで柿の収穫をして、加工するのだ。

しばらくは各家庭の軒先に皮をむいた柿が吊り下げられることだろう。

冬の保存食だ。

うまくすれば秋冬のスイーツとして販売できるはずだ。

「そんなに美味しいんですね! 私も食べてみたいです!!」

カレン神官長が柿好きを猛アピールしてきたので。

「いっちょにやったら、おやちゅにね」

柿は木によって実るスピードが違うので、ラスク工房のサキさん達に早採れの柿で作ってもらっていたのだ。

それが今日のおやつだ。

「さあ、収穫ですよ~~!!」

スタンさんの号令で、一斉に柿の収穫がはじまった。

梯子を使ったり、風魔法を使ったりと色んな方法で出来た柿を収穫する。大量だ。

一本の木に300個から500個。柿の木がこの教会には20本以上あるから相当な数が収穫できる。

まだ熟していない柿は鳥たちの為に残しておく。

そして、みんなで一斉に柿の皮むきをして、柿のへた上部の枝部分にひもをくくりつけて吊るすように加工していく。

まだナイフを使えない私は、カレン神官長と一緒に吊るすためのひもを渡して歩く係をした。

そして、大量の柿は集まった領民の手で皮を剥かれ、5個ずつ紐に吊るされた状態に仕上げられた。

それをスタンさん達が確認して、領民たちに出来た数量に合わせての手間賃とおみやげの柿を1かごずつ渡していく。

そして、待ちに待ったおやつの時間だ。

サキさん達が作ってくれた、早生の柿で作った干し柿が一つずつおやつに渡された。

「やっぱり美味い!!」

「もらった柿でうちも作るわ!!」

「家に柿の木植えたい!」

「おいおい8年かかるぞ」

桃栗三年柿八年という日本の言葉を思い出す。

こっちでも種から育てると8年かかるのか。

接ぎ木だともっと短い期間で出来るはずだけど、やり方が分からないから、口は出さないでおこう。

「かれんしゃん。どうじょ」

カレン神官長が領民のみんなの反応を見て、期待で目がキラキラしている。

干すと柿は色が濃くなる。表面が乾いて適度に中がトロっとしているのだ。

干し柿を手にしたカレン神官長が手に伝わる触感を楽しんだ後。

「いただきますわ」

はむ。っと一口。

いい感じに中がトロっとしている。

柿の甘さと旨さが凝縮してトロっとした食感が舌にまとわりつく。

「―――!! 美味しいですっっ!!」

カレン神官長の目が見開いた。

「美味しい! 美味しい! ほんっとに美味しいですっっ!!」

ふふふ。カレン神官長も干し柿のとりこになったようだ。

「渋が抜けた旬の柿ももちろん美味しいですけど、これは果物というよりも上質なスイーツですわ!」

「適度に水分が抜けているから、少し長持ちしますよ。それに、もっと乾かして水分が抜けるとだいぶ保ちます」

「おじしゃま。うるどにもってって」

柿は栄養価が高い。

『柿が赤くなれば医者が青くなる』と前世で言われていたほど栄養価が高いのだ。

運動中の筋肉の痙攣を防ぐ効果もある。行軍での疲労回復にも効果があるし、風邪の予防にも効果があるのだ。

冬の行軍にもってこいの食材なのだ。

出来れば兵糧にして持って行って欲しい。

あとでリンクさんに鑑定してもらって、勧めてもらおうと思う。

「ああ。そうするよ。これはアーシェラを思い出せるからね。大事に食べることにするよ」

「あの! これ、神殿にも買わせてください!」

「もちろんですよ。ありがとうございます」

カレン神官長もすっかり干し柿のとりこになったようだ。

自宅用にこの場で柿の皮を剥いている領民の奥さんたちの手元をじいっと見ている。

たぶん、作り方を覚えようとしているんだろう。

スタンさんにナイフを借りようとしていたので、お付きの神官が必死に止めていた。

「おやめください! ご自分の不器用さを知らないんですか!! 指が無くなります!!」

教会に響き渡った神官の悲鳴に、みんなで大爆笑した。