軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

340 戦いの意味(メルド視点)2

『しんでんのはしら、くおんこくじんじゃのとりいとおんなじ。めがみしゃまのしんき、はいってりゅ!』

『しょれで、みんな、たしゅけりゅの!』

六方陣の浄化結界の核に女神様の神殿の柱を使えば、最強の光の核となるのだ、と。

彼女は神殿の柱を『戦争に使う』のではなく、『人の命を救うために使いたい』という純粋な気持ちで提案したのだ。

そんな彼女の言葉に、女神様は『良い』と答えた。

神様の愛し子は、加護を与えた神様に近い考えを持つと言われている。

だからアーシェラちゃんが言った言葉は『女神様のご意思と同じ』ということになるのだろう。

では、謹んで神殿の柱を使わせていただこう。

神殿の柱には、世界を創造した女神様の神気が入っている。さらには『誓約』が生きているため、敵が柱を傷つけることは現実的に不可能なのだ。

女神様の神殿の柱は、死の結界を壊す最上級の『核』となるだろう。

だが神殿の柱をどうやって運ぶのかが最大の難点だった。石造りの柱はとてつもなく重く、しかも神殿の周りは木々や植物が複雑に絡み合って道を塞がれているのだから。

そんな中、クリスウィン公爵が良い笑顔で『私が運ぼう』と手を挙げた。

ここ数か月で俺たちはクリスウィン公爵が実践に長けていることを知った。

最初のうちは、公爵自らが戦場に立ち、確実に敵を仕留めていく姿に驚いたものだ。

アンベールでは戦いを部下任せにして自分は奥に引っ込んでいる者が多い。特に上級貴族になるほどその傾向がある。

けれど、アーシュさんもそうだが、クリスウィン公爵も自らが率先して動く。あまりにフットワークが軽くて驚いたほどだ。

しかし、彼らは『奥に引っ込んでいては状況が分からないだろう。現場に立つのは当たり前のことだ』と言う。

考えてみたら、彼らは世界中をまわり、彼らにしかできない邪神の種討伐をしている。

つまりは常に戦いの最前線にいるのだ。

三国は数百年にわたり、何度もアースクリス国に争いを仕掛けてきた。

だがいずれも国境線を越えることはできずに、敗退していた。

……無理もない。司令官である公爵たちは数多の戦場に立ち続けてきたのだ。その経験値は三国の司令官たちとは天と地ほどの差があるのだから。

彼らが、邪神の種を討伐するためにどんな戦いをしてきたのか、このアンベール王城の結界を崩した、規格外の浄化魔法一つで窺い知れた。

俺たちとは『戦う意味』も『戦い方』も全く違う。

俺たちがしてきた、領土を侵略して奪い取り、相手を屈伏させるための欲にまみれた血生臭い戦いではない。

彼らは世界を破滅へと誘う存在と戦っているのだ。

邪神の種をその身に宿した魔獣や魔物、そして邪神の種を宿した人間は、俺たちが住むこの世界に混乱をもたらしている。

そんな存在と、彼らは戦っているのだ。

この世界にはアーシュさんたちのような使命を持っている人たちがいて、邪神の種を宿した者たちを討伐してくれているからこそ、俺たちはこの世界で生きていられるのだ。

俺とカリマー公爵、そしてクロムは、あの北の森で意識の状態のクリステーア公爵を視てから、その後も意識の状態になったアーシュさんたちを視ることができるようになった。

本来意識の状態の彼らを視ることはできないのが普通のこと。

それが視えるという特殊な状態こそが、 女(・) 神(・) 様(・) の(・) 意(・) 思(・) だとクリステーア公爵は言った。

……何故視えるようになったのか、今になって分かった気がする。

それは『自分本位の考えしかできない民族であるアンベールが、これ以上間違いを犯さぬように』とあえて視せているのだ。これからアンベールの未来を担う俺たちに。

彼らがどうやって世界を守っているのか、その姿をその目で視て、胸に刻み込め、と。

今、俺とカリマー公爵は、アンベール王城の上に意識の状態で浮かんでいるアーシュさんたちの姿を捉えていた。

アーシュさんとその父であるクリステーア公爵。

そして、クリスウィン公爵。側にいる二人は、クリスウィン公爵の子息であるリュードベリー侯爵、そして娘御でアースクリス国の王妃様であるのだろう。

クリスウィン公爵と彼の娘と息子は、人が何十人もいなければ運ぶことのできない重量の柱を、軽々と操っていた。

彼らは、闇の魔術師が残したモノを殲滅するために駆けつけたのだ。

闇の魔術師はこの十数年、人の命を奪い、その命を使って山ほど危険な魔術を行使した。

そして闇の魔術に命を絡めとられた人の魂は、輪廻転生の輪に戻ることができずにそこに囚われてしまうのだという。

だから、アーシュさんとクリスウィン公爵はここ数か月もの間、アンベール中の闇の傷跡が残る地を浄化のために回っていたのだ。闇の魔術によって傷ついた大地を癒し、それと共に魔術に縛られてしまっていた魂を解放するために。

さきほども、四方の闇の結界の塔から、白く輝く光が天に昇って行ったのが視えた。あれは死の結界に利用された人たちの魂。

彼らは今までもあのように人々の魂を救い上げ、輪廻転生の輪へと導いていたのだろう。

さらに視線の先では、アースクリス国の王妃様が雷を、そしてリュードベリー侯爵が槍のようなものを放つ。それが放たれた方向は、後宮と四つの塔に仕掛けられた魔力供給のパイプがある場所だ。

次の瞬間、構築された魔術が破壊され、はじけ飛ぶ独特の音が響き渡った。

間髪入れず彼らは次々と魔力供給のパイプを破壊していく。

雷を操っているのはアースクリス国の王妃様である。

本来王妃は、戦いなどとは無縁の深窓の令嬢であり、王宮の奥で守られているというのが常識だった。

だが、目の前にいる彼女は当然のように雷を操っている。

そこには深窓の令嬢などではなく戦い慣れた姿があった。

そしてクリステーア公爵とアーシュさんは浄化魔法の力を維持している。

俺とカリマー公爵の目には、一つまた一つと、天へと昇っていく白い光が視えた。

あれは、この王城で死の結界によって犠牲になった者たちの魂だろう。死の結界に囚われていた魂たちは、今、光に包まれて天へと昇って行った。

死の結界の呪縛を解き、彼らを解放したのはアーシュさんとクリステーア公爵の力だ。

彼らはたった二人で、この広大なアンベール城を浄化している。

――ああ、彼らは俺たちとは全く違う次元で世界を守っているのだ、と思い知らされた。

俺たちには決してできないことを、アーシュさんたちはしてくれているのだ。

その彼らの国を踏みにじり、滅ぼすことは、『世界の守り手』をこの世界から奪うこと。

もし、彼らが、そしてアースクリス国がこの世界から失われてしまったら、取り返しがつかない。

その意味を考えろ、と女神様はおっしゃっているのだ。

彼らの姿を視て、俺とカリマー公爵は心に決めた。

これからは、彼らを支える国になろう。

そのためには、まずこの国を正しい方向へと導く必要がある。

「アーシュさんやクリスウィン公爵たちが、俺たちにはできないことをやってくれたんだ。俺たちは俺たちがすべきことをしに行こう」

「ああ、そうだな」

俺とカリマー公爵は、死の結界が跡形もなく消え去ったアンベール王城に足を踏み入れた。