軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

331 はじまり 1(アーシュ視点)

アーシェラと初めて対面してから数週間が経った日のこと。

夜明け前、私とクリスウィン公爵、そして反乱軍を率いているガイル・メルドとカリマー公爵、魔術師のクロムは、アンベール国の王都近くの砦で、ある報告を受け取った。

「デイン辺境伯が東側の沖合でサディル国の運搬船を確保したそうだ」

砦にある執務室で報告書を読み上げているのはカリマー公爵だ。

「港では手引きをした者を捕らえ、馬車に乗せられていた外国人は全員保護したと」

「ええ、セルトからもこちらの予測通り、サディル国の船は隠蔽魔法と反射魔法の魔導具を併用していたと、報告がきていました」

私もそう告げる。

今回の作戦には私の側近であるセルトが参加していて、サディル国の船の捕縛のために作ったモノの成果報告のため、別途に報告をさせていたのだ。その結果は、デイン辺境伯がサディル国の船を捕縛したことで効力があったことを証明できた。つまり、成功だったのだ。

これから行う王城攻めのために、メルド率いる反乱軍がまず最優先で行うべきことは、アンベール王とサディル国との繋がりを切ることだった。

サディル国はアースクリス大陸から離れたところにあるものの、あらゆる国に災いの種を蒔き散らしてはその国が混乱に陥るのを、嗤って高みの見物をしているようなはた迷惑な国である。

闇マーケットを有し、危険な魔導具を集めてはそれを高額で売りさばいて巨額の利益を得ていることは公然と知られていることだ。

また、人身売買も公然と行われている。それも犯罪奴隷や口減らしに売られた奴隷だけでなく、組織ぐるみで人を攫ってきては売りさばくという非人道的なことを平然とする国なのだ。

今回保護された人たちも、そのほとんどがサディル国以外の国から攫われてきていた。

先ほどもたらされた報告によると、旅の道中に宿屋で休んでいたところを襲われたという。

その事実からすると、奴らは宿屋とグルになって魔力持ちの旅人を狙っていたということだ。

旅人なら旅の道中で不慮の事故に遭ったりして行方が分からなくなることもある。それを狙っていたのだろう。

その他に小さな村で薬師をしていたという家族三人が一家で拉致されてきたという報告もあった。

アンベール王から求められていた数を満たすために、サディル国の手の者は治癒師一家に目を付け、襲ったのだという。あまりの身勝手さに私たちは一様に言葉を失った。

「え……。他国から何の罪のない人を攫ってきてアンベールに売るって……そんなこと許されるんですか……」

「聞いたことはあったが……本当だったんだな」

と魔術師のクロムやメルドが絶句している。彼らはこれまでアンベールという国の中だけで生きてきた。だからサディル国がどんな国かを話では聞いていても頭では理解できていなかったのだろう。闇マーケットがあると知っていても、それがどういう形で維持されていたのかを今実際に知ったことで、衝撃を受けている。

若い頃学術国であるグリューエル国に留学し世界情勢を学んだカリマー公爵は、サディル国が国際社会においてどれだけ厄介な国であるかをよく知っている。だからカリマー公爵が政治の中核にいた頃はサディル国と深く関わらないように采配していたという。

「あれほど厚顔無恥な国はあるまい」

とクリスウィン公爵も大きなため息をついていた。

「前回まではサディル国の奴隷の 在(・) 庫(・) の中から魔力持ちが送られてきていたそうだ」

さらにカリマー公爵が読み上げた船員の供述の内容に、またしても大きなため息が出る。

「在庫、ですか……。本当に嫌な響きですね」

その在庫だとてどこからどう手に入れたのか。おそらくはサディル国以外の者もいるだろう。

「まったくだ。だが、その在庫にも限りがあった。だから今回の 納(・) 品(・) のために、不足分を他の国で調達してきたと宣っていたそうだ」

『納品』『調達』その言葉にさらにみんなの眉間に皺が寄る。

人の命を紙のように軽く扱うのがサディル国だ。

そんな国だからこそ、サディル国は多くの国から敬遠され続けてきたのだ。

アンベール王はそんな国と積極的に繋がりを持ち、さらには闇の魔術師が作った危険な魔導具をサディル国に売り渡していた。

サディル国の闇マーケットには、よからぬ考えを持った者たちが集まる。

アンベール国からサディル国へと渡った闇の魔導具は、そういった者へと渡るのだ。そしてその闇の魔導具を手に入れた者は必ずや厄介な事件を引き起こす。闇の魔導具を破壊できるのは光の権能を持った者たちだけなのだから、これから先、各国にいる光の魔力を持つ者はその対応で忙しくなることだろう。

他国人を拉致して売りさばくことは、国際法上厳しく禁じられている行為だ。

これまでは証拠がないとしてサディル国は各国からの追及を逃れ続けてきた。

だが、今回は船の拿捕、乗組員の供述、そして被害者の証言と決定的な証拠をいくつも押さえることができた。

サディル国はこれまでと同様、知らぬ存ぜぬを突き通すだろうが、それで済むはずはない。

今回民が攫われた国はもちろん、それを知った国、そしてかつて被害に遭い、サディル国に疑いを持っていた国々からもサディル国に対して制裁措置がされるのは必至だ。

食料などの資源物資が乏しい彼の国は他国からの輸入に頼っているのが実情なのだから、これから先、サディル国は相当な痛手を受けるはずだ。

◇◇◇

「いろいろ思うところはあるが……サディル国をしばらくこの国から切り離すことに成功したな」

先ほどの怒りからやっと落ち着いたメルドに、我々も深く頷いた。

「人質の救出と船と乗組員の捕縛、そこから得られた証拠で公的にサディル国との国交を断絶することができるじゃろうて」

そうカリマー公爵が言う。

メルドがアンベール国の国主として立つ前に、サディル国をこの国から切り離すことに決めていた。

国主が変わってもあの国は厚顔に甘い言葉ですり寄ってくるだろう。だが、サディル国の奴らに決して付け入る隙を与えないように徹底的に排除する。

そのために第三者から見ても、サディル国が黒幕である明らかな証拠を確保するよう動いたのだ。

「そうですね。我々が動けない中見事にやり遂げてくれた皆に感謝です」

今回のサディル国からの運搬船拿捕について、私たちはアンベール王側に知られぬように動いていた。

隠蔽魔法、そして反射魔法がかけられていた船は、これまでも反乱軍やアースクリス国軍の目につくことなく密入国を繰り返していた。

だからこそそれを見破ることのできる、私かクリスウィン公爵が現場に行かなくてはならないかと思っていた。

だが、私たちはメルドやカリマー公爵と同じく、敵方にとって最重要人物。

私たちの行動は敵の間諜によって常に監視されている。

だから私たちが動くことはこちらの情報を晒しだすことと同義。

どうしようかと悩んでいたところに、セルトがある策を提案し、見事にそのミッションを果たしてくれたのだ。

その策により鉄壁と思われていた魔術が破られ、デイン辺境伯の手によりサディル国の船は捕らえられた。そしてセルトは、港で手引きをしていた者の捕縛、さらに魔力持ちの外国人を保護してくれたのだ。

いつもセルトは私を助けてくれる。

初めて会った二十数年前からもずっと。