軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

329 にかいもほうちされました

――ここは白い空間である。

さきほど儀式が終わったので、帰る前に『せっかくイオンに会ったから、イオンの大好物をもっと渡しておこう』と思い、離れたところにいる護衛さんたちに聞こえないように小声で「あんこのおかしもっとたべりゅ?」とイオンに聞いたら、彼は目を輝かせ、次の瞬間、 私(・) た(・) ち(・) を白い空間に 誘(いざな) ったのだ。

「「「あ」」」

私やローディン叔父様とリンクさんはもう何回目かだけど、やっぱりいきなりの白い空間は驚いた。

そして一番驚いたのはローズ母様だ。

「え? ここは? なぜ?」

そう、祭壇前にいた私たち全員がイオンによって白い空間へと誘われたのだ。

てっきり、私だけかイオンと面識のあるローディン叔父様とリンクさんが呼ばれると思っていたからびっくりした。

「ああ、皆そなたに 繋(・) が(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 者ゆえな」

とイオンは当たり前であるかのようにそう言った。うん? 繋がりって、確かに皆私の家族だけど……それでいいの?

イオンの様子から、もっと何か深い意味があるように感じたけど、それ以上教えてくれるつもりはないみたい。うーん……。

「ここは……? 何だか……王宮内の回廊に近い気がするな」

この白い空間に誘われたことに驚いてはいるものの、どこか冷静なアーネストお祖父様。

お祖父様が言う王宮の回廊とは、光の魔力保持者だけが使えるという、あの不思議な白い回廊のことである。うん、私も似ていると思ってたんだよね。

「あれは女神様の御手により作られた空間ゆえな。違うところはあるが、同質のもので間違いはない」

イオンがアーネストお祖父様の疑問にそう答える。

「ではこの白い空間の中で過ごしても、外での時間の経過はほとんどないということでしょうか」

「まあそうだな」

え!? そうなの?

このイオンに誘われた白い空間と同じく、あの不思議な回廊の中は、私たちが体感した実感はあるけれど外の世界では時間の経過がほとんどないのだとか。他にも距離をショートカットしたりするし……あの回廊にはまだまだいろんな秘密がありそうだ。

じゃあ、さっそくイオンの大好物を用意しよう。

まずは魔法鞄から小さなテーブルを出して置く。

白い空間といえど、床に食べ物の入ったお皿を直置きするのはちょっと抵抗感があるからね。

このテーブルは商会のキッズコーナーで私がお絵描きをしたり折り紙を折ったりする時に使っているものと同じものである。

邪神の種討伐のことを教わってから、たくさんの必需品を魔法鞄に入れてきた。前世の防災用品やアウトドア用品は持ち運ぶことも考えて軽くてコンパクトなものにしなければならなかったけど、魔法鞄はたくさん詰め込んでも重くならないのである。それなら使い慣れたものと同じものが良いよね。

そうして今の私が使いやすいテーブルをもう一つ用意してもらい、魔法鞄に入れていたのだ。

ナチュラルな木目のテーブルにローズ母様が花の刺繍を施してくれた白いテーブルクロスをかけて準備完了!

よし! では、まずは定番のこれだ! と魔法鞄に念じると、パッとテーブルの上にお皿に山と盛られたあんドーナツが現れた。

「あんどーなちゅ、どうじょ!」

いちおしのお菓子の山盛りにイオンの瞳がキラキラと輝いた!

「あんドーナツ~~!」

ふふふ。相変わらずの良い反応である。

歓喜の声と同時にあんドーナツがお皿からふわりと浮かび上がり、イオンの周りを囲む。

それを一つずつ手に取って頬張っては「う~ま~い~~!」とすっごく嬉しそうに笑う!

「うむ! 白い豆のあんも好きだが、やはりこの小豆のあんが一番だ~!」

「イチゴ大福もぜっぴ~ん!」

「おはぎは粒あんもこしあんも、どっちも美味い~~」

次々と大好物のあんこのお菓子を思う存分堪能している。

ふふふ。私はイオンのこの嬉しそうな笑顔を見るのが好きなのだ。もっともっと食べさせたくなる。

「うんうん、やっぱり一番はあんドーナツだな!」

一通りすべてのお菓子を食べて満足すると、やはり一番好物のあんドーナツに戻り、あんドーナツのおかわりをねだる。これがいつものパターンである。

ちなみにイオンは今、成猫サイズになっている。こっちの方がドーナツをより堪能できるからなんだって。

なるほど? よく分からないけどそうなんだね。

「本当にあんこのお菓子がお好きなのね」

ローズ母様は私が魔法鞄から出したあんこのお菓子を箱から取り出し皿に盛り付けてくれていた。お菓子を補充するはしから、イオンがぺろりと平らげていくのを見て、「すごいわ」と感心しきりだ。

私がセーリア神殿に行くたびに大量のあんドーナツや小豆を使ったお菓子を用意していたので、私の家族は獅子の神獣のあんこ好きを知っていたけれど、目の当たりにしたことで「本当だった」と改めて認識したみたい。

「神獣様、こちらの箱にあんドーナツや大福が入っておりますので、どうぞお持ちください」

「うむ!」

お土産の箱をもらって、イオンはご満悦である。

もちろんイオンのものとは別に二柱の神様やフクロウの神獣様にも用意しておいた。セーリア神はイオン同様に小豆餡のお菓子もお好きのようだ。焼き大福の時のあのくだりからもそれが窺える。

小豆やお米はセーリア大陸になかったそうだから、神様も新しいお供え物に興味津々なんだろうね。納得。

「なるほど、二柱の神様と神獣様は小豆を使ったあんが好物でいらっしゃると……。クリステーア公爵領でも小豆を栽培することにして正解だったかもしれないな」

そうアーネストお祖父様が呟くと、「それはよい試みだ!」とイオンが嬉しそうに言った。

ふふ。今日のことでイオンの並々ならぬあんこ好きがみんなにもしっかりと認識されたことだし、ルクス領の神殿が再建されたら『お供えはあんこのお菓子』が定番になるだろうね。

さて、イオンもいっぱい食べたから満足そうだし、そろそろ帰ろうかな。

あ、その前に。

「しんでんのまわりにさるなしうえりゅけど、どっかいいとこありゅ?」

「おお! サルナシを植えるのだな! それなら日当たりの良いあそこが一番だ!」

イオンが嬉々としてそう言うと、さあっと白い空間の一部にセーリア神殿が映し出された。

先ほどまでいたセーリア神殿を別空間から俯瞰して見ているような感じである。

イオンが示した神殿東側のそこは、崩れ落ちた瓦礫で土が覆われてしまっているところだった。

「だが、瓦礫で埋まってしまっておるな。どれ、邪魔な瓦礫は消してやろう」

イオンが前足で白い床をトン、とすると、イオンが示したその部分の瓦礫が一瞬で砂になった。

「! しゅごい! しゅなになった!」

パチパチと手を叩いて絶賛すると、イオンは気を良くしたのか口元の笑みを深くし、

「ついでだ、他の瓦礫も撤去してやろう」と言って、再び片足でトンとした。

――すると、一気に柱や瓦礫が一つ残らず大量の砂へと変化した。

石造りの神殿の瓦礫は重い。だから撤去するには労力が必要となるのだが、イオンの前足の『トン』ひとつで砂と化したのだ。

「しゅごい! しゅご~い!」

驚いたのは私だけではない。「あんなに大量の瓦礫が一瞬ですべて砂に……」と皆呆然としていた。

「あれだけのものを撤去するには相当な時間と人手がかかると思っていたので、とても助かりました。ありがとうございます」

ローディン叔父様が礼を述べると、「よい。この前の詫びも兼ねておるしな」とイオンが言う。

『この前の詫び』とは、たぶんサルナシで酔っ払って寝落ちしてしまい、私を 二(・) 度(・) も(・) 白い空間に放置してしまったことを言っているのだろう。

一度目はサルナシを初めて渡した時で、二度目は出来上がったサルナシ酒を持って行った時。

二度目の時はローディン叔父様とリンクさんも私と一緒に白い空間に誘われた。フクロウの神獣様が二人に会ったことでイオンも二人と顔を合わせておきたかったのだとか。

だけど、サルナシ酒をおちょこ二杯くらい飲んだところでパタンと即行で寝落ちしちゃったのだ。それはそれは幸せそうにふにゃふにゃして、爆睡コースまっしぐらだった。

あの時は二度目だったので、放置されても一度目の時より焦らないでいられた。叔父様たちも一緒だったし、それにセーリア神殿で歌を歌うとフクロウの神獣様に来てもらえることが分かっていたからだ。あの時もフクロウの神獣様に帰してもらったけど、サルナシ酒で酔っ払っちゃったイオンは最後まで目覚めなかったんだよね。

イオンはその後、自ら私たちを白い空間に呼び寄せておきながら放置したことで、神様やフクロウの神獣様にかなり怒られたそうだ。だからそのことをかなり気にしていたようで、瓦礫の撤去はそのお詫びの一つだったらしい。