軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

326 カリカリサクサクが絶品です

それはずばり、焼き大福である!

アースクリス国ではどこの領地でも春の種まきのあたりには豊作を願って祈願祭を、そして秋には豊かな実りに感謝して収穫祭を行う。

バーティア伯爵領でも、春に豊作祈願祭が行われた。

女神様を祀った神殿で祈りを捧げ、その後はお祭りとなり、街に出店が立ち並ぶのだ。

そのお祭りにバーティア商会も出店で大福を販売することになったのだけど、何だか大福をそのまま出すのは芸がないような気がして、前世でお気に入りのアレンジだった、焼き大福にしてみた。

そのまま食べても美味しい大福をなぜわざわざ焼いて焼き大福にしたかというと、『祈願祭のあたりは春とはいえまだまだ寒いから、身体が温まるような、温かい食べ物を用意しよう』と思った時に思い出したのが、大福をフライパンでカリッと焼いた焼き大福だったのだ。

油をひいたフライパンで大福の両面と側面をカリッとするまでじっくり焼くと、外側がカリカリサクサク、中がトロッとして、甘い餡子が良い感じに温まってさらに美味しくなる。

この外側のカリッとした食感と内側のトロっとした食感の対比が、大福を何倍にも美味しくさせるのだ!

前世ではこのアレンジが大好きで、よくやったものである。

私の提案した焼き大福は商会の従業員さんたちにも『カリカリサクサクしたこの食感と、温まった餡子が最高に美味しい!』と絶賛され、春の祈願祭の商品としてめでたく採用された。

バーティア領の女神様の小神殿で行われた祈願祭にその焼き大福をお供えし、この大陸を創った女神様には麦や野菜などの豊かな実りを、久遠国の神様にはお米がたくさんとれますようにと祈りを捧げたのだった。

そして祈願祭のしばらく後に、仕込んでいたサルナシのお酒が出来上がったので、クリスウィン公爵領のセーリア神殿に赴き、獅子の神獣であるイオンに持って行った。その時イオンがお土産の大福と焼き大福を見て『これが神様と精霊たちが言っていた焼き大福か!』と目をキラキラさせて喜んだのだ。

イオンは神獣。神様や精霊様とお話ができるのである。

以前神様の世界は繋がっていると聞いたことがあったけど、イオンの言葉で本当だったんだなと実感した。

どうやら祈願祭にお供えした大福と焼き大福は神様や精霊様に受け入れられたみたい。

そしてイオンが言うには、焼き大福の方がお好みだったらしい。

『うむ、大地の実りがぎゅっと詰まった大福は美味い! さらにこれを焼いた、焼き大福はカリカリサクサクで食感までもが美味いぞ!』

うんうん、カリカリサクサクの大福って食感がいいよね!

そして、美味しそうに大福と焼き大福を頬張るイオンを見ていたら、突然、

『あ、ずるいぞ神様! え? 弟神様まで! ず~る~い~! 二人して焼き大福の方ばっかりそんなに持って行くな~~!』

と、イオンがプンプンと宙に向かって怒りだしたのだ。

え? セーリアの二柱の神様? いたの? どこに?

私にセーリアの神様は視えないけれど、イオンの前に置いた器に積み上げるようにしていた焼き大福が忽然と消えたことから、どうやら神様方は焼き大福をいたくお気に召してくださったみたい。

あの時イオンが『大福も美味いがあの焼き大福のサクサク食感はものすごく癖になる! 次もこれを!』と熱烈なリクエストをしていたので、今はもう暖かい季節なんだけど、焼き大福を持ってきていたのだ。

神様の世界は人間が住まう世界のような季節の巡りによる気温の変化はないので、寒くても暑くても気にせず、いつでも焼き大福は大歓迎だとイオンが言っていたしね。

ということがあったので、二柱の神様がお気に入りの焼き大福、その他に獅子の神獣のイオンが特に好きなあんドーナツを供物に捧げた。

そして次は、フクロウの神獣様がお好きな歌を歌おう!

「あーちぇ、おうたうたいましゅ!」

「ああ、フクロウの神獣様と約束したからね」

「あの『ふるさと』の歌はすごく良いよな」

「ええ、とても心が温かくなるわよね」

私の言葉にローディン叔父様とリンクさん、ローズ母様が頷いた。

私はセーリア神殿で初めてフクロウの神獣様に出会った時、前世で大好きだった歌を歌った。

記憶に深く刻まれていた懐かしい光景を思い起こさせる、ふるさとの歌。

フクロウの神獣様はあの時、もう決して見ることのできないはずの前世の光景を可視化して見せてくれた。

――その光景は、夕景の中で刈り取った稲を三角の家の形に積んでいく、懐かしい家族のシルエットだった。

私の記憶の中に色あせることなく残っていた、あの光景……。あまりに懐かしくて、懐かしすぎて……涙がこぼれ落ちた。

『もう一度だけでもいいから会いたい』

前世で失った時も、そして生まれ変わったこの現世でも……何度そう思ったことか。

だから、嬉しかった。

けれどそれがただの私の記憶の投影であることが分かっていたから……切なかった。

あの光景に映っていた過去世の家族は、私よりも先に転生の輪へと戻っていったのだから。

過ぎ去った時間はもう二度と戻らないというのが世界の理。

もしも今、奇跡が起きて私があの世界に行けたとしても、誰もあの場所にはいない。

……悲しいけれどそれが現実なのだ。

人は転生を繰り返す。

現世での命を終えて転生の輪に戻った魂が次の世でどう生きるかは、現世でどのように生きたかで決まるという。罪を犯せば次の世でその業を贖う辛い人生を送る。その逆も然りである。それが理なのだ。

私の家族は自分に余裕がなくても困っている人に手を差し伸べるような、お人よしだった。そんな人たちだったから転生した先できっと幸せに暮らしているはず。

そう思えたことで、私はあの時、過去世にひとつの区切りをつけることができた。

そして私にそう思わせてくれたフクロウの神獣様は、私が前世を思って歌った『ふるさと』をいたく気に入ってくれたため、神殿に来た時は歌うことを約束したのだった。

ここは崩れ落ちてはいるけれど、セーリア神殿なのだ。

約束通り歌を捧げよう。

「せーの」と合図をして、私とローズ母様、ローディン叔父様とリンクさんで歌い始めた。

優しいメロディラインのふるさとは私のパートから始まり、母様や叔父様たちが次々と自分のパートを歌い上げ、声を重ねていく。

この曲は一人で歌うのも好きだけど、私の声は子供特有で高く、ローディン叔父様とリンクさんは低い。そしてローズ母様のやや高めの声が重なりあってハーモニーが生み出される。それがとっても心地良い。

それに苦手な音域もみんなで補い合うことができるから一人で歌うより断然楽なのだ。

……近い将来私はクリステーア公爵家に入る。そこから一番近いセーリア神殿はここになるため、これから先はどこのセーリア神殿より訪れる機会が多くなるだろう。

それにこの地に神殿が再建された暁には、フクロウの神獣様は私とローディン叔父様とリンクさんを繋ぐ転移門を作ってくれると約束したのだ。それなら早くセーリア神殿を再建しなきゃね!

そして私は、その転移の扉を動かせるように魔力量を向上させるのが目下の目標だ。

いくら環境だけが整っても、私自身が魔力を扱えなければ転移の扉は開かないのだから。

たとえローディン叔父様とリンクさんと離れて暮らしていても、いつでも会えるようになりたい。

その扉を起動させるのは私自身の魔力なのだ。

早く、いっぱい魔力を使えるように魔法のお勉強も頑張ろう!

そう思いながら私はローズ母様とローディン叔父様、リンクさんの四人で『ふるさと』を歌ったのだった。