軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

322 おいしいごはんをよういしよう!

「これからは遠征に行く時のお弁当をバーティア商会のテイクアウト店に注文すればいいのよね!」

「「え?」」

王妃様の言葉にローディン叔父様とリンクさんが首を傾げた。

「ああ、それはいい考えだな」

と陛下が頷く。遠征って、邪神の種討伐の時のことだよね。

聞けば、魔法鞄に入れておくお弁当の確保は自分で行わなければならないとのこと。

なぜなら『魔法鞄を持っていることは知られてはならない』という大前提があるため、本当に信用できるごく少数の人以外には秘密だからだ。

ゆえに王宮や公爵家の料理人も誰一人知らないんだって。

ええと、それって大食漢のクリスウィン公爵家の人たちは、お弁当の確保が大変じゃないかな。

そしてそれはその通りらしい。

クリスウィン公爵やリュードベリー侯爵、そして結婚前の王妃様が討伐に出かける際、公爵家の料理人にお弁当を用意させていた時は、保存魔法を施し、従者が持っていけるくらいの数にしていたんだって。

それくらいなら料理人さんたちも『いつものこと』だと思うからだ。後は長い道中の間で確保していたとのこと。

でも、何があるか分からないのが邪神の種討伐なのである。

食文化の違う異国の料理が、どうしても口に合わないこともある。

しかも、出向く先では邪神の種により水源や大地が穢されたりしていることも多々あるそうで、そういった場合、その地のものを口にしないようにする必要があったりもするとのこと。

おおう、そんなこともあるんだね。

そうなると必然的に準備していったものに頼ることになるという。

そういったもろもろの事情で、たくさん食料を用意していったつもりでも、何度か底をつきかけたこともあったんだって。

ゆえに十分すぎるくらいの量を確保しておくことが重要なのだそうだ。

確かにそれは大変だよね。

誰にとっても、ご飯は生きていくために大事なものなのだから。

そして陛下や公爵様たちの経験したことは、近い将来に私たちも遭遇する可能性が高いということ。

だとしたら、私たちもかなりの量を確保しておいた方がよさそうだ。

「事情を知るそなたたちなら、頼みやすいしな」

と陛下も仰る。

「それにね、やはり食文化って土地ごとに違うのよね」

と王妃様がはあ、とため息をつく。

「味覚も土地によって違うのかしら……。どうしても私、食べられなかったものがあったのよね」

王妃様が遠い目をする。

ええっ!? 底なしの胃袋を持つ王妃様が食事を残すなんて、それってどんなモノだったんだろう!?

クリスフィア公爵とアーネストお祖父様も「そうですね」と苦い顔をしているから、同じような経験をしたんだろうなあ。

ところ変われば品変わる。食材も食べ方もその土地ごとで違うのが当たり前である。

その土地では普通に食されているものでも、こちらでの食生活からは考えられないものを食したこともあったそうだ。

いや、現地の人にとってはそれが普通なんだろうけど、やはりその食文化がない私たちにとっては受け入れがたいものだよね。

「これはどの公爵たちも同じ悩みなの! だから、テイクアウト店にお弁当をたくさん用意してほしいわ!」

やっぱり食べるなら、安心して食べられるもの! そして、美味しい物の方がいいもの! と王妃様が力説する。

うん、安全安心で美味しいものが良いというのは、思いっきり同意できる話である。

というか、同意しかない。

だって、現地で王妃様が食べたというモノを聞いたら、私も意識が飛んでいきそうな気がしたしね……。

危険な任務のために赴いているんだから、食事は安心安全で美味しいものを食べたいよね!

バーティア商会にはテイクアウト店があるから、公爵様たちへ相応の量のお弁当を用意することができる。それも『誰にも怪しまれることなく』だ。

店にとっては、受注したものを納品するだけのこと。もちろん大量注文を受けたとしても、ローディン叔父様とリンクさんは事情を知っているゆえに余計な詮索をしない。けれど詮索をしないという、そのことが魔法鞄を持つ公爵様たちにとって最大のメリットとなるのだ。

お店は潤うし、公爵様たちも安全安心な遠征時の食事が確保できるし双方にとって良いことだよね!

「承りました。いつでも対応させていただきます」

「現地で好きな料理をいつでも食べられるようにご用意します」

これまでの事情を聞いたローディン叔父様とリンクさんが、快く『好きなメニューで相応の量を確保することに協力する』と、引き受けた。

うん、これはこれから自分たちの身にも降りかかってくる問題だから、決して他人事ではないのだ。

私もちゃんと事前準備をしておこう!

何しろ魔法鞄の中身は『時が止まる』ので料理が傷む心配がないのだ。今からコツコツと一緒に行く家族の分のお弁当を確保しておこうっと! 備えあれば患いなしだからね!

この場で、バーティア商会のテイクアウト店が遠征用のお弁当を引き受けることが決まった。

今後は定期的に注文を受けて納品する。

一度に大量納品するより回数を分けた方が作る側にも負担は少ない。

これまでもテイクアウト店で手土産を用意してもらっていたこともあったので、その量くらいにしておけばテイクアウト店の料理人も『いつものことだ』と思うだろう。

それを継続していくことで、周りに怪しまれることなく、公爵様たちのストックを増やしていくことができるだろう。

「ああ、嬉しいわ~~! 食事の心配がなくなるってお父様とお兄様が聞いたら、絶対喜ぶわね!」

王妃様が「やったわ~!」と満面の笑みを浮かべる。

うん、大食漢のクリスウィン公爵家の方たちにとって、遠征時の食事の確保は最重要課題だったんだろうね。

おそらくは、テイクアウト店の最大のお得意様になるだろう。だって底なしの胃袋を持っているからね。

「そうだな。後でクリスティア公爵にも伝えておこう」

と国王陛下が微笑んだ。陛下も王妃様と同行して討伐に行っているので、さっきの話で出てきたモノを一緒に食している。その食材の話が出た時、陛下も眉間に皺を寄せていたので、やっぱりアレは陛下にとっても食材として受け入れられなかったんだろうね。

お弁当の話がまとまったら、さっそく最初の注文がきた。

「「じゃあ、このピリ辛から揚げの辛口をめいっぱい用意してほしい!」」

王妃様とクリスフィア公爵はピリ辛から揚げの辛口をご所望だ。

「私は辛口と甘口両方だな。それとこれはソーダとの相性が良いゆえそれも頼む」

アーネストお祖父様は追加でソーダを所望。

その言葉を聞いた王妃様とクリスフィア公爵が「「それも追加で!」」と声を揃えた。

うんうん、から揚げにはさっぱりした炭酸水が合うよね!

炭酸水は今のところ無味のものだけを販売しているのだけど、遠征時に持っていくなら無味の炭酸水の他に、味付けした炭酸水も用意した方が良いよね。

王妃様とクリスフィア公爵の第一希望は辛口のピリ辛から揚げ、アーネストお祖父様は炭酸水だった。

じゃあ次は陛下のお好きなものを聞こう。

「へいかのしゅきなたべものはなんでしゅか?」

「私か? 何でも食べるぞ。弁当は出来立てを食べられるからそれだけで十分だ」

「?」

ん? どういうこと?

「ああ、普段の食事は、毒見が入るからどうしても出来立てを食べられないのよね」

王宮での食事は陛下たちの前で毒見がされ、毒がないと判断されてから陛下たちに配膳されることになっている。

そういえば王妃様に魔法鞄から出して渡すお土産は毒見をしないけど、公然とお渡ししたものは、毒見役が目の前で食べてから配膳されていたなあ。

それが王宮ではスタンダードらしく、そのためどうしても冷めてしまうんだって。

陛下も王妃様も鑑定魔法が使えるのだけど、そのことは伏せられているという。

それは暗殺者を頻繁に送ってくる敵国や、反逆を考えている者の目を誤魔化すためでもあるらしい。

鑑定能力に段階があるというのは、久遠国の神社で知ったことだ。

能力は人によって千差万別。鑑定力によって見分けられるものにも差があるのだという。

そして毒もたくさんの種類が存在する。

毒草だと知られているものの他に、それ自体が毒とならずとも、組み合わせた時に毒と化すものもある。そう、アルコールとリアンを組み合わせたら毒と化すようなものが他にもあるのだという。

また特殊な魔術で毒を毒と分からぬようにすることもある。

その実例は、かつてジェンド国の前王が姉であるイブリン王女に仕掛けたものだ。一般的な鑑定では毒と分からなくされたもの。その毒は即効性はないが、ゆっくりと、かつ確実に身体を蝕んでいく凶悪な毒だったという。

その他にも人を害するモノはたくさんあるのだそうだ。

ウルド国やジェンド国と戦争が終結した今では、暗殺者が直接入り込むことは少なくなってきてはいるものの、未だ暗殺者の手は伸びてきているとのこと。圧倒的に多い方法はやはり毒によるものらしい。

「私たちにはそれらすべての毒を見抜くくらいの鑑定力があるが、敵に余計な情報を与えるのは悪手だ。毒の方が簡単に対処できるからな」

と陛下が仰る。それって、偽の情報を流してるってことなんだね。

……なんか、聞いてるだけでも気が滅入ってくる話だなあ。

でも陛下と王妃様はいつもそんな危険と向かい合ってきているんだよね。

「毒見が終わったお料理は魔術で温めてから食べるのだけど、やっぱり出来立てとはちょっと違うのよね」

確かに、お料理は出来たてが一番美味しいと思う。

温め直すことはできるけれど、野菜の料理は出来立てより鮮やかな色合いは褪せてしまうし、お肉やお魚も冷めると硬くなってしまうよね。冷めたものを温めるとどこかパサついてしまうものだし。

それなら、王宮での普段の食事は仕方ないけど、お弁当は熱々の状態で保存魔法を施したもので楽しんでもらおう。

……でも。それだけじゃあ、なんか物足りないよね。

よし、じゃあ今度来る時は陛下が出来立てを感じられるものを用意することにしよう!