軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 ことばのひみつ

今日は生まれて初めて、王宮に足を踏み入れた。

ローズ母様と私は王宮の敷地内に入った後、デイン伯爵家の馬車から王宮の出迎えの馬車に乗り換えて、王宮の奥まで送られた。

ローディン叔父様やリンクさんは、バーティアのひいおじいさまやデイン伯爵様達と共に謁見の為、一足先に王宮入りしている。

馬車から降りて、前世でも今生でも初めて見た王宮に圧倒されているうちに、王宮の執事さんに抱っこされて、母様と一緒に、これまた驚くほどの贅沢な扉の前で執事さんに降ろされた。

扉を護っている兵士がゆっくりと扉を開けて、中に通されると、あまりの広さと豪華さに圧倒された。

前世でみたヨーロッパとかのお城のお部屋だ。

調度品のひとつひとつが芸術品みたい。

天井が高いし、広い。

そのだだっ広い部屋の中に、応接セットのようなテーブルとソファだけが置いてあった。

え? 何ここ?

もしかして応接室みたいなところなの?

こんなに広いのに?

デイン伯爵家でも前世庶民の私はびっくりし通しだったけど、上には上があるんだなあと思った。

まあ。王宮だから、ここと同じくらい豪華な部屋がたくさんあるんだろうな。

キョロキョロしていたら、執事さんと一緒に、金髪の若い女性が入ってきた。

母様より年上の王妃様にお会いしに来たはずだけど、どうみても20歳いくかいかないかの若い女性だ。

王妃様とはこの後で会うのかな?

女性が近くに来たところで、母様がドレスをつまんでカーテシーをしたので、一緒にする。

練習してきたとおりに、自分ではうまく出来たつもりだけど、どうだろう?

私のドレスは桜色でふんわりしていて、とっても可愛い。

ローディン叔父様は、マリアおばさまに私やローズ母様のドレス選びをお願いしていたので、私はマリアおばさまが用意してくれたドレスを着るつもりだった。

けれど昨日、ローズ母様とお揃いの色のドレスにしようとしていたマリアおばさまに、ひいおじい様が無言で私用のドレスの入った箱を渡したらしい。

とっても可愛かったので、ひいおじい様がくれたドレスを選んだ。

今日時間が合わなくて、叔父様たちにドレスを着た姿を見せることが出来ないので、昨日の夕方、ドレス姿を披露したら。

『ディークがドレスを選んだだと!!?』

とデイン前伯爵様が叫んで大騒ぎになったけど、ひいおじい様は『うむ』と頷いただけだった。

ひいおじい様、ファーストネームはディークっていうんだね。

ホークさんが笑い転げて、ローディン叔父様が『いつの間に用意してたんですか…』と呆れていた。

既製品ではなく、ちゃんとオーダーメイドでしかもぴったりだったので、びっくりだ。

ひいおじい様がくれた、ピンクのかわいいドレスをつまんでお辞儀をすると、若い女性は頷いてにっこりと微笑んでくれた。

『王宮では話をしていいと言われるまで静かにしていなさい』

とマリアおば様に言われていたので、その教え通りにした。

やがて執事さんが退室したとたん、その若い女性が急に母様に抱きついてきた。

「ローズ! 会いたかったわ!! 久しぶりね!!」

「!?」

私はびっくりしたけど、母様は微笑んでいる。

「お久しぶりでございます。王妃さま」

「まあ! かなしいわ! 名前で呼んでくれないの? ローズ!!」

「ふふふ。会えて嬉しいわ。フィーネ」

「ああ。うれしいわ! 本当に! もっともっと会えると思っていたのに、こんなに会えなかったなんて!」

聞いていた年齢とは違って、王妃様はとっても若くてびっくりした。

どちらかというと、母様の方が年上に見える。

王妃さまは波うった金色の髪と、琥珀色の瞳をした、とても綺麗な人だ。

母様と王妃様は魔法学院でのお友達と聞いていたけど、とっても仲がいいみたい。

「今は人払いをしているから、ここには私たちだけよ! たくさんお話ししたいわ!」

王妃様も母様もとっても嬉しそうだ。

商会の『家』には、ほとんどと言っていいほど訪ねてくる人はいない。

だから、母様や叔父様たちの友達はもちろん、バーティア子爵家やデイン伯爵家の家族でさえ、ついこの前まで会ったことが無かったのだ。

それにしても、今日の母様はとっても綺麗だ。

商会の家での普段着しか見たことがなかったので、ドレスを着た母様を見て、感動した。

瞳に合わせた薄い紫と髪の色の銀色を基調としたドレスを着た母様は、本当にお姫様みたいだ。

派手さはないけれど、落ち着いた雰囲気と上品さが、母様の美しさを際立たせている。

王妃様は白地に金色の刺繡が入ったドレスで、金色の髪と琥珀色の瞳と映えてとても綺麗。

さらに、美しい人たちが抱き合っているのは眼福だ。

思う存分母様を抱きしめて満足した王妃様が腕をとくと、母様は部屋の続き部屋の扉の方を見やって言った。

「あ、あの。フィーネ。女官長様は……?」

「……ああ。やっぱり気になるわね。所用があって席を外しているのよ。彼女もあなたたちに会いたがっていたわ。時間があったら会って行ってちょうだい」

「ええ。もちろんよ」

母様がこの部屋に入った時から探すような感じでいたのは、女官長様を探していたのか。

でも何でだろう?

「さあ、アーシェラ。ご挨拶なさい。アースクリス国の王妃様、フィーネ様よ」

「あい! おはちゅにおめにかかりましゅ! あーちぇ……あーしぇらでしゅ―――です」

うわ! なぜ発音が~!!

張り切って、ちゃんとご挨拶しようと思ってたのに!

どうやら私は成長が遅いらしい。

身体も言葉もまだ3歳になるかならないかの成長具合のようだ。

心は大人なのに、言葉が伴わない。

もう少しで4歳になるのに言葉はまるで2歳児だ。

……王妃様にちゃんとご挨拶しようと思ったのに。

―――はずかしい。

ひいおじい様がくれたドレスをぎゅうっと握って、真っ赤になって俯いてしまった。

すると、涙目になってしまった私の前に王妃様がしゃがみこんだ。

「まあまあ! そんなに恥ずかしがらなくていいのよ。さあ、アーシェラ! 顔をよく見せてちょうだい」

王妃様が優しく頬を撫でて、瞳を覗き込んできた。

母様より年上なはずなのに、なんだか元気な少女のような方のようだ。

琥珀色だと思った瞳の奥は金色で、その奥にうっすらとなにかの印みたいなものが見えた。

?? 印??

首をかしげると、『あら、見えたのね』と王妃様が笑った。

「ああ……。レント前神官長の言った通りだわ。緑の瞳の奥に加護の印が見える」

にっこりと微笑みながら、王妃様が言った。

加護の印?

「まあ……本当にそうなのね……」

ローズ母様が少し不安そうだ。

「ああ、気になるわね。アーシェラ。私の実家のクリスウィン公爵家は、『そういうもの』が見えるのよ」

そうなのか。

でも、さっき私も王妃様の瞳の中になにか見えたよ? と言葉に出さなくても首を傾げたら、分かってる、と笑顔で返された。

「アーシェラ。うまく言葉を話せなくても恥ずかしがらなくていいわ。強い魔力を持つ子は成長が遅いのよ」

「まあ、そうなの?」

ローズ母様が声をあげると、王妃様が頷いた。

「ええ。特に強い魔力を持つ女子にその特徴が顕著に出るわ」

なんと。成長があまりに遅くて心配してたのに、そんな理由があったなんて。

「まりょく? あーちぇにもある?」

「ええ! もちろんよ!! さっき私の瞳の奥の印を見たでしょう!? あれは私と同じか、それ以上の魔力を持っていなければ見えないのよ!」

「フィーネと同じって……」

母様は、私と王妃様を見て、ポツリと言った。

何か思い当たることがあるらしい。

「―――だからフィーネも若いのかしら。今だって、出会ったころとあまり変わらないわ」

母様は14歳から2年間全寮制の魔法学院に在学していた。

王妃様は母様と同じ頃に在学。

母様より5歳年上の19歳だったけど、母様と同じ14歳くらいのようだったらしい。

「そうよ。私ったらローズより5歳も年上なのに、化粧をとると少女なのよ!! 他の人は化粧で若作りするのに、私は化粧をしないとお子ちゃまなのよ!」

「その言葉もお子様だけど……」

母様が控えめに指摘すると、王妃様は胸を張って言った。

「いいのよ! 言葉は身体に引っ張られるの! だから、アーシェラ! 目の前にいいお手本がいるでしょう? あなたは強い魔力を持っていて、さらに創世の女神の加護を持っている。だから、身体の成長が遅いの。そのせいで、言葉がうまく話せないのよ」

こくり、と頷いた。

そうなんだ。

理由が分かってほっとした。

「とはいえ、成長が遅いのは女子だけなのよね。それに稀だからなかなか周りが理解してくれなくて困っているんだけど。幼い頃同年代の子に、よく『チビ』って馬鹿にされたわ」

それは私も現在通っている道だ。

だからこそ自分の成長の遅さが気になっていたのだ。

「でも考えようによっては、相当の年齢になっても『老けない』のよね! そう考えたら儲けものじゃない?」

うん。

それはいいかもしれない。

王妃様が言うなら大丈夫だ。

そう納得したら、自然と笑顔になった。

「これからは私がいろいろと教えてあげるわ! だからたくさん遊びにきてちょうだいね!」

「あい!!」

そのことに安心したら、次に気になるのは魔法だ。

魔力があるなら。やっぱり。

「まほう! ちゅかってみたいでしゅ!!」

ローディン叔父様やリンクさんがたまにだけど使うのを見て、ずっと、私も使えればいいのにって思っていた。

「うふふ。本当は7歳から訓練するのだけど、アーシェラはその前から必要になるわね」

魔法を教える教師の選定は任せて! と王妃様が申し出てくれたので、お願いすることにした。

「適性を鑑定してからだけど、使ってみたいものから試してみるのもいいわね。どれがいいかしら?」

「あいしゅくりーむ!」

「アイスクリーム?」

リンクさんがアイスクリームを溶けないように持ってきてくれるのを見て、それが一番使いたかった!

「ふふふ。アーシェラらしいわね。実は、商会の家には、あえて冷凍庫を置いていないのよ。リンクがアーシェラに食べさせる為に、アイスクリームを買って、氷結魔法で持って帰ってきてくれるの」

ローズ母様が笑いながら説明すると、王妃様も声を上げて笑った。

「アイスクリームね! なるほど! 目標があると成長が早いと思うわ! まずは水魔法をマスターして、それから氷結魔法を覚えましょう!!」

「あい!!」

いつか、氷結魔法を使って、アイスクリームを家で作れるようにがんばろう!

―――その日がたのしみだ!