軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

157 たらこにみりょうされました

次は、私が大好きなものを作ろう。

常温で柔らかくしたバターに、タラコにナイフで切れ目を入れてスプーンで中身を取り出し、めんつゆを少しだけ入れ、胡椒を少し削って、混ぜ合わせておく。

ゆであがった生パスタに、合わせておいたタラコバターを入れて混ぜ合わせ、盛り付けた後、細切りにした海苔と青ネギをトッピングして完成だ。

ああ、海苔の香りがいい~!

「たらこのぱすたかんしぇい!」

「ああ、海苔の香りがいいな」

「面白い料理ですね。考えも付かなかったです」

デイン伯爵が頷くと、ポルカノ料理長が盛り付けながら、感心しつつ言った。

確かに。タラ自体をあまり食べてこなかったんだからタラコ料理は潮汁かスープに入れるくらいしかなかったんだろう。

今まで食べてこなかったなんて、なんてもったいない。

いただきます、をしてぱくり。

「おいち~い!!」

ああ、求めていた味だ。タラコとバターが絶妙! 海苔の香りと味も相まって、物凄く美味しい!! 完璧!!

「「うっわ! うっまい!!」」

双子のようにホークさんとリンクさんが同時に声を上げた。

「タラコの旨味とバターの塩味とコクが絶妙に絡み合って美味しいです!!」

「この海苔もいい役目を果たしていますよ。入れると入れないでは全然違います!!」

「こんなに簡単で、こんなに美味しいなんて。素晴らしいです!」

さっきまでデイン伯爵に気を使って声をひそめていた料理人さん達が饒舌に語り始めた。

「昨日のタラコの煮物も美味しかったし、子和えも絶品でした」

「まさか、タラの卵がこんなに美味しかったなんて」

「そうだね。タラって煮ても焼いても味が淡白だし、傷むのがはやいから進んで買おうとは思わなかったよね」

「どっちかっていうと、タラコだけ欲しいな」

「うんうん」

料理人さん達の話は尽きない。どうやら料理人さん達にもタラコの美味しさは十分伝わったようだ。

うん。たらこスパゲッティは本当に美味しいよね!!

今度は唐辛子を入れて明太子も作れば、明太子スパゲッティが作れる。楽しみだ。

さて、タラコも残り少なくなってきたのであともう一品だけ作ろう。

茹でたジャガイモを熱いうちに潰し、そこにマヨネーズにタラコをほぐし入れ、レモン汁と塩コショウ、オイルを少し入れて混ぜ合わせた、タラモサラダだ。

「「これも美味しいな」」

リンクさんとホークさんが声を揃えた。

用意してもらっていたパンにタラモサラダを挟んでサンドイッチにして食べたらすごく美味しかった。

でもやっぱりみんなの心を鷲掴みにしたのは、タラコのスパゲッティだったようだ。

「タラコの塩漬けって、そのままで食べても美味しいし、バターにもマヨネーズにも合うんだな」

ホークさんがタラモサラダのサンドイッチを食べ終えると、ふむ、と頷いた。

「塩漬けのたらこをおにぎりのぐにしてもおいちい」

さらに焼きタラコにして、おにぎりの具材にしてもいい、と言うと。

味の想像をしたのか、ホークさんが残念そうに。

「でも、もうタラコがない!!」

と嘆いた。

うん、だって。昨日仕込んだタラコはそう多くない。パスタにたっぷり使ったからもう無くなったのだ。

「「ああ~! すぐ食べたいのに~~!!」」

リンクさんとホークさんがもっと食べたいと訴えている。

ふふっ。どうやら皆タラコの味に魅了されたみたいだね?

タラコの塩漬けがもう無いことに、料理人さん達も物凄く残念そうだ。

うん。タラコはおいしいよ。だからいっぱい作って商品化してくれると嬉しいな。

「父上」

タラコが無くなったことを心の底から残念がる皆を眺めていたデイン伯爵が、微笑を浮かべたままローランドおじい様を見た。

そんなデイン伯爵に、ローランドおじい様は笑って頷いた。

「わかっておるぞ。明日一番で漁に行ってこよう」

「どうやら、タラコの塩漬けも販売ラインに乗せても十分に需要が見込めそうだ」

出来上がったタラコの塩漬けも冷凍出来るのだと言ったら、デイン伯爵が更に満足そうに笑った。

「他の漁船にもタラを海に戻さずに加工場に運ぶように申し伝えよう」

今まで水揚げしても二束三文にしかならないタラは、網にかかるとすぐにリリースされていたらしい。

そうなんだ。

「忙しくなるな」

と言いながらも、デイン伯爵もホークさんも楽しそうだ。もちろん、ローランドおじい様も。

「ディークにフードプロセッサーを追加で作ってもらわねばな」

「冷凍庫もこれから受注がふえるだろう。なあ、ローディン」

デイン伯爵がローディン叔父様に声をかける。

「はい。ウルドに一緒に行った魔導師の実家が魔道具屋を営んでいますのでうちで対応しきれない分はそちらに回せるかと」

「なるほど」

「対応しきれない分、ということは、バーティア商会で冷凍庫を作るということか。魔法道具店を作るという話は動き始めたのだな?」

ローランドおじい様の言葉に驚いた。

え? 魔法道具店作るの?

「ええ。ウルド国に行った同僚の魔導師の数人と意気投合しましたので、バーティア商会で雇うことにしたんです。前々からおじい様がバーティア商会の魔道具部門を作ると言っていましたので。彼ら、今頃はおじい様にしごかれていると思います」

そういえば王都のバーティア商会の支店に、ローディン叔父様のウルド国での同僚だという魔導師さんたちが何人かディークひいおじい様と一緒にいた。もしかしてあの人たちのことかな。

「冷凍加工食品は絶対に普及します。そうしたら、食堂や宿屋も今まで必要性を感じていなかった冷凍庫が喉から手が出るほど欲しくなるでしょうね」

ローディン叔父様が不敵に笑う。

「魔道具を作る者と、動力源である結晶石に魔力を込められる者が必要です。今回立ち上げにあたって、能力が高い人たちを何人も一度に雇うことが出来てよかったですよ」

「ウルドに行ったことも無駄ではなかったということだな」

「はい。半年一緒にいて私自身が信用できる人だと思った人たちです。それに、クリスフィア公爵にも人選に協力してもらえましたし。クリスフィア公爵のお墨付きですのでご安心を」

クリスフィア公爵は、私の護衛機関の責任者だ。

だから怪しいものを私に近づけることはしないだろう。

「アーシェがいろんなものを考え付くので、それに合わせて魔道具を作る部門が必要だと前から思っていたのです。今なら王都ではツリービーンズ魔法道具店に頼めますが、バーティア領では私たちが対応してやりたいので。魔法道具店の立ち上げはおじい様とウルド国への出征前から話していました」

無事に帰って来たので、魔法道具部門を立ち上げます、とにっこりと微笑んだ。

なんと。そんな前から考えていてくれてたんだ。

ウルド国への半年間の兵役の間で腕のいい魔術師を見つけて引き抜けたことも幸運だった、とローディン叔父様が笑う。

「なるほどな。ディークが魔法に関して博識なのは、この国で知らぬものはいない。そのディークが立ち上げた魔法道具店は注目されるだろうな」

「ええ。ですので、おじい様に魔導具部門の代表になっていただきました」

「適任だな。集客効果もあるだろう」

アースクリス国の貴族や魔術師でディークひいおじい様の英雄譚を知らない人はいないという。

未だに魔法省や魔法学院から相談を受けたり、軍部が教えを乞う人物でもある。

そんな人が新規事業を興すとなれば、注目されるのは必定だ。

「これまでダリウスがバーティア領をひっかきまわしていたからな。ディークも今なら安心して事業を回せるだろう」

ダリウス前子爵は考えなしで動くことが多い。言葉巧みに騙され、何度金を巻き上げられたか分からない。それも『子爵』という肩書があるためにバーティア領で新しい事業を興し、それが成功したとしても、甘い言葉に騙されて、詐欺を働く者にサインひとつで事業を根こそぎ持って行かれる危険性があったのだ。

ダリウス前子爵を早く表舞台から退場させなければ、子爵という地位も領地もバーティアの名までも無くしていたかもしれないと、デイン伯爵家も思っていたのだという。

「やっと、表から退いてくれましたから、ようやく思った通りに動くことが出来ます」

子爵位と共にバーティア領のすべての実権はローディン叔父様に移譲された。

もうダリウスのサインでは、バーティア家に関する物事には一切効力を持たない。それはとてつもなく重要なことだ。

これはバーティア家とデイン伯爵家が20数年かけてもぎ取った勝利なのだそうだ。

―――ダリウス前子爵様。本当に困った人だったのね。

今回雇入れされることとなった魔導師さんたちは、基本的にバーティア領にいて魔道具作りをする予定だという。

バーティア商会の王都支店の裏側に小さな工房も用意するそうだ。

「ローディンの同僚ならば、腕のいい魔術師だろうし、ミンシュ伯爵のような輩が来ても大丈夫だろうな。安全面でも安心できるだろう」

デイン伯爵の言葉で気がついた。

そうだ。立地のいいあの店を狙う者はまだいるらしい。

ミンシュ伯爵は捕まって商会も潰されたけれど、今でもイヤな目をした人が近くをうろついているのも知っている。

信頼できて、店の守りを任せられる魔術師がいるということはすごく安心だろうと思う。

―――その後魔術師さん達が活躍した捕り物話はまた後のお話。

◇◇◇

―――数か月後、デイン商会は新商品の需要を伸ばすために、王都の船着き場近くに臨時のテイクアウトの店を出した。

ターゲットはデイン領の魚を王都近くの領から買い付けに来る、他の商会の人たちだ。

メニューはフィッシュフライサンドとおでん。そしてたらこスパゲッティだ。

たらこスパゲッティはパスタを作り、ゆでる手間があるからどうかと思ったけれど、どうしてもたらこスパゲッティはメニューから外せないのだとホークさんが力いっぱい主張した。

結果、テイクアウト店での新商品周知は大成功だった。

臨時だったはずの船着き場近くのテイクアウト店は、商品を買い付けに来るお客様の要望で常設することとなり、市場にもテイクアウト店が出来た。

バーティア商会の王都支店の一角にデイン商会の冷凍加工食品が置かれ、売り上げも上々だ。さすがに、デイン商会のお店同様におでんやたらこスパゲッティを作ると今いる従業員では回せなくなるので、タラのフィッシュフライサンドだけメニューに取り入れた。

もともとパンとドーナツがメインの店なのでいけると判断したのだ。

テイクアウト店での商品周知作戦は功を奏し、フィッシュフライやさつま揚げ、タラコなどの新商品はアースクリス国全体に浸透して行くことになったのだった。