軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113 おこのみでどうぞ

もう一本、別にすりおろした短めの山芋は、小麦粉に卵、出し汁を混ぜたものに入れ、細切したキャベツをざっくりと混ぜて、両面をじっくりと焼いてもらった。

豚バラの薄切りものせて。

そこにソースとマヨネーズ、出来たばかりのトマトケチャップをたっぷりかけて。

お好み焼き用のソースはないけれど、この三種類のソースをかけるだけでも十分に美味しい。

ここに青のりとかつお節があればよかったが、ないものはしかたない。

なんちゃって、お好み焼きだ。

試食用だけど、さすがに公爵家一家の皆さんと大き目のお好み焼き一枚を料理人さん達も含めて全員でカットシェアするというのはどうかと思ったので、小さめの丸形にしてたくさんの枚数を焼いてもらい、一枚ずつ配膳してもらった。

みんなで『いただきます』をして一口。

―――ああ。この濃厚なソースが美味しい。

お好み焼きにかけたソースは、前世でのとんかつソースと同じ味がした。

厨房の調味料のラインナップを見た時に、ソースの種類が、ソース、中濃ソース、濃厚ソースと分かれていたので、味見をさせてもらったら、濃厚ソースが、前世でのとんかつソースと同じだったのだ!

私はソースの種類の中で、とんかつソースをよく使っていた。

中濃ソースもいいけれど、材料に果実を多く使っているとんかつソースはトロリとした口当たりでどことなく甘味があるところが好みだったので、購入する時はとんかつソースばかり選んでいたものだ。

前世のとんかつソースそっくりの濃厚ソースはクリスウィン公爵領にある工房が作っているそうで、リンクさんに仕入れてもらう約束をした。

いい発見をした。

この濃厚ソースは揚げ物に合うのだ。

そして、このお好み焼きにも。

「「うわあ! なにこれ! 美味しい!!」」

アルとアレンがお好み焼きを食べて、声を揃えた。

王妃様とクリスウィン公爵とリュードベリー侯爵は、うんうんと頷きながら無言で食べ進め、すでに二枚目をおかわりしている。

食べる所作は優雅だけれど、そのスピードはものすごく早い。

うーん。お好み焼をナイフとフォークで食べているのを見る日が来るとは。なんだか不思議だ。

「へえ。この三つのソース、混ぜ合わせても美味いな」

そう言いながら、リンクさんが濃厚ソースとケチャップを追いがけしている。

濃厚ソースとケチャップとマヨネーズ。

我が家では、これがお好み焼きをする時の定番だった。

スーパーでお好み焼き用のソースを買うこともあったけれど、この三種類は前世の母がお好み焼きをする時の味付けにしていて、それで十分美味しかったのだ。

それにお好みでケチャップやマヨネーズを足したり、自分好みに味を調整できる。

「ふんわりとして口当たりがいいわね」

「とろろいれりゅと、かたくならにゃい」

とろろは焼いても固まらないのだ。入れすぎるとお好み焼きをひっくり返すのが大変になる。適度に入れるのがコツだ。

うん。記憶通りの味に出来た。美味しい。

「うむ。なるほどな。野菜も柔らかくて美味いな」

「ええ。キャベツが甘く感じられますわね」

ローズ母様もディークひいおじい様もお好み焼きを気に入ったようだ。

そう、キャベツは加熱すると甘くなる。

生でキャベツを食べた時に感じる辛み成分は、加熱すると甘味の強い成分に変化して、お好み焼きを美味しくする。

マヨネーズやケチャップを絞り出す柔らかいボトルがないので、皆スプーンで思い思いにかけている。

マヨネーズは三本線が描けるボトルが欲しいものだ。あれで茶色い見た目が華やかになるのになあ。

見た目にこだわりたかったので、ソース、ケチャップを順番に乗せた後、マヨネーズで線を頑張って描いてみた。

「マヨネーズがかかるとキレイですね」

「見た目も大事ですね。茶色のソースと、赤いケチャップをかけた時は全体的に暗い色でちょっと引きましたが、マヨネーズで線を描くと華やかになって、食欲がわきます」

「でも結局、食べる時は混ぜ合わせてしまいますね」

「三種類のソースは混ぜるとびっくりの見た目になりますが、旨味が混ざり合って美味しいですね」

ストーンズ料理長がふむふむ。と頷いている。

「山芋、まさかのすりおろし。今まで丸ごと加熱料理しかして来ませんでした」

「山芋すりおろして入れると固くならないんですよね? でも山芋って、なかなか手に入らないんですよね~……」

と、料理人さん達が言ったので。

「やまいもいれるとふわっとちておいちい。でも、やまいもなくてもおいちいよ?」

前世の我が家では山芋無しが定番だったので、入れなくても美味しいのは保証する。

それに卵も生地を滑らかにするし。

「「では、山芋無しで作ってみますね!!」」

そう言うと、料理人さん達はお好み焼きを作りにまた厨房へと戻って行った。

すぐに作って食べてみるのは料理人の習性なんだろうか。どこのバーティアでもデイン伯爵邸でも同じ光景を見たなあ。

試食用に少しだけかと思いきや、また大量のお好み焼きがテーブルに乗った。

もちろん、全員が山芋無しのお好み焼きを所望して食べている。こんなに食べたら、夕飯入らないよ?

「本当だ。少し違いますね」

「山芋入れるとふわっとするんですね」

「これはこれで十分美味しいです」

実は我が家では山芋無しが定番だった。秋冬は親戚から長芋をもらうので入れることもあったが、長芋や山芋無しでも十分に美味しい。

「のこったおやしゃい。にんじんのかわとか、かたいきゃべつのしんとか、こまかくちていれてもいい」

これは前世、家で『始末の料理』としてよくやったものだった。

米や野菜を育てた経験を持つと、育つまでの農家の苦労が身に染みつく。

だからこそ最後まで大事に食べようと思ってきた。

それにニンジンの皮の部分には栄養がいっぱいあるしね。

「なるほど。それはいいですね」

「キャベツの外葉や芯は毎日のように出ますし、山芋がなくても美味しいので賄い料理としていいですね」

「これからもやりたいと思います」

「硬い部分は賄いのスープにしかしてこなかったけど、お好み焼きにすると腹持ちがいいですね!」

「他の野菜も端っことか入れて一緒に焼けばいいだろうな。賄いでくず野菜も消費できるし」

クリスウィン公爵家の料理人さん達がわいわいと話しているので、これからも定番料理になりそうだ。

そして、『お好み焼き』という名前もすんなりと受け入れられた。

『お好み焼き』は自分の好きな具材を入れて焼いて食べる料理なので、『なるほど』と納得していた。

「山芋も、筒を用意して育ててみよう」

そう言ったのは、リュードベリー侯爵だ。

さっきとろろご飯をものすごい勢いで食べていたので、山芋栽培に関心が高まったようだ。

食材の乗ったテーブルに行き、ねじれて、途中から折れてしまった山芋を手に取って眺めていた。

「私は山芋のとろろが気に入った。米の栽培と共に山芋も今年から栽培することにしよう」

「ええ。あれはとても美味しかったですわ。いつでもいただけるように栽培を進めていただきたいですわ」

『とろろは飲み物』といった王妃様。畑でいっぱい収穫出来るようになったらいったい何杯食べるんだろう。

クリスウィン公爵一族で、山芋のとろろのおかわりの回数をカウントしてみたい。

カレン神官長も入れてやったら楽しいかもしれない。

「ふむ。そうだな。筒の形を何種類か用意して試してみることにしよう。薬にもなる山芋を昨年限りで諦めるのは勿体ないからな。―――ブロン副料理長、農民の取りまとめをしているビートに話を通しておく。そなたの義父と義兄―――ゴルド親子に山芋の試験栽培を託すことにする。試験栽培の資材と費用はこちらで持つ。それと、試験栽培ゆえ失敗は気にすることはない、と先にそなたから伝えておけ」

クリスウィン公爵が告げると、ブロン副料理長が『承知いたしました』と、深く頭を下げていた。

話に出てきたゴルドさん親子とは、ブロン副料理長の奥さんの父と兄なのだそうだ。

「「それに、美味しいしね~~!!」」

父と祖父の言葉に、アルとアレンが明るく補足した。

「「確かにな。定期的に食べたいものだな」」

クリスウィン公爵とリュードベリー侯爵の言葉に、王妃様が微笑んだ。

「理由はそれに尽きますわね。ふふふ」

クリスウィン公爵家は食べることが大好きで、美味しいものには目がない。と王妃様に初めて会った時に話していた。

この大陸では作られていなかった、未知の『米』を真っ先に作付けする熱量を持っているくらいなので、すぐに山芋栽培をしてみようと思ったのだろう。

わらびの検証と周知の判断、山芋栽培といい、クリスウィン公爵家の皆さんは動きが迅速だな、と思う。

「この山芋栽培は、バーティアでもやってみることにしよう。このとろろご飯もお好み焼きも美味い。山芋は育てようと思ったことはなかったが、薬にもなるのであれば育てる価値があるな」

ディークひいおじい様も山芋が気に入ったようだ。

山芋があることを今まで知らなかったので、私は大歓迎だ。

「やまいも! たのちみ!!」

クリスウィン公爵領でいろいろ筒を作ってみるということだったので、それなら波板での試験栽培も提案してみよう。

どっちか、うまくいく方法で作れればいいのだ。

ディークひいおじい様が、ゴルドさんから山芋の種芋を譲り受けることをクリスウィン公爵と話し合っていた。うん。種芋は大事だ。

「おれがジェンド国から帰ってくるあたりには山芋が収穫できるようになっているんだろうな」

「そうね」

そうだ。リンクさんはあと数か月で、ローディン叔父様と入れ替わりに戦争に行く。

それでも、リンクさんは無事に戻ってくる。

そう信じている。

そして、山芋はリンクさんが帰ってくるあたりに収穫時期が到来するのだ。

「りんくおじしゃまと、ろーでぃんおじしゃま。でぃーくひいおじいしゃまとかあしゃま! みんないっちょに、しゅうかくしゅる!!」

「ああ。そうしような」

リンクさんが私の頭を優しく撫でた。

ローズ母様も微笑んでいる。

「ああ。アーシェラも楽しみだな」

ディークひいおじい様も私の頭を優しく撫でた。

―――大丈夫。絶対に大丈夫。

女神様。ローディン叔父様と、リンクさんを無事に。

―――どうか無事に私の元へ返してください。