軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

104 くるしまないで

「でも、お父様やお母様、お兄様は変わらずに接してくれたわ。―――もちろん陛下も」

その時、三国による一斉攻撃を受け、明らかに不利だった戦局をひっくり返した王妃様の魔法は、数千もの敵兵を薙ぎ払った。

王妃様がジェンド国側に意識を飛ばした時につながりとしていたのは、夫である国王陛下だ。

同様にウルド国側にはクリスウィン公爵、アンベール国側にはリュードベリー侯爵がいたのだ。

王妃様と深いつながりを持っていた三人は、それぞれに戦地で王妃様の意識の存在を感知していた。

つながっていたからこそ。

強大な魔法で、敵軍に壊滅的な打撃を与えたのが、王妃様だと分かったのだ。

そして、つながっていたからこそ。

自らが放ったその強大な魔法の力に王妃様が驚愕し、敵とはいえ数千の命を屠ったことに心に大きな傷を負ったことも。

「当たり前だろう。お前は私の大事な大事な、かわいい娘だ。それに、お前の力は女神様に与えられたものであり『必然』なのだ。女神様の導きによって行使した力に罪悪感を感じる必要などない」

王妃様の両隣に座っていたクリスウィン公爵とリュードベリー侯爵が、王妃様を優しくぽんぽんとしていた。

「そうだよ。フィーネはアースクリス国の王妃として国を守るために戦ったのだからね」

「お前は優しい子だ。私たちはそれを知っている。もちろん陛下もな」

「あの初戦は、本当に、本当に大変だったと聞いています。三国の士気が高く、初戦でアースクリス国を落とすための精鋭部隊ばかりだったのです。敵国の魔術師も名の聞こえた者たちばかりで巧妙に仕掛けられたと、教え子の魔術師たちから聞いていました。私も魔術師たちのサポートとして王都の軍部にいたので、初戦の苛烈さは聞いていました」

ディークひいおじい様がそう話す。戦争とは殺し合いだ。

今でこそ、アースクリス国は軍勢を率いてウルド国へと侵攻しているが、開戦直後は三国からの侵略を阻止するのが精いっぱいだったのだ。

「軍事力を分けて対応せざるをえなかったアースクリス国軍が圧倒的な数の違い故におされ始めた時、『国王の首をとれ!』と敵軍の将軍が叫び、勢いづいた敵の軍勢が呼応し、同様の言葉を連呼したと。―――あの時は『死を覚悟をした』と彼らは言っていました」

聞いているだけで、心が痛い。

王妃様は、その現状を見、その言葉をその場で聞いていたのだ。

「王妃様は女神様に与えられたお力で、我々の同胞を助けてくださった。感謝いたします」

ディークひいおじい様が感謝と敬意を込めて、頭を下げた。

「王妃様が動いてくださらなければ、もっと大変なことになっていたことでしょう。ありがとうございました」

リンクさんも王妃様に感謝の意を伝えて、頭を下げた。

「フィーネ。私はあなたのことが大好きよ。あなたが動いてくれなかったら、初戦で多くのアースクリス国の民がもっともっと喪われたことでしょう。そしてあなたが敵を撃退して国境を越えさせなかったことで、民は護られたの。女性も子どもも誰一人戦火に巻き込まれなかった。本当にありがとう。私たちを守ってくれて」

ローズ母様が王妃様を真っすぐに見つめて、静かに言葉を紡いだ。

親友がこの5年間、ずっと苦しんできたことを初めて知った。

『あなたは民を守っただけなのだから、苦しまないで欲しい』と。そう続けた

「ローズ……」

ローズ母様の言葉に、王妃様の瞳が潤んだ。

そうだ。この五年間、戦争に行って亡くなった人は大勢いるけれど、攻め込まれて亡くなった民間人はほとんどいないと聞いている。

デイン領に攻め込まれた時も、辺境伯軍とクリスフィア公爵が率いる軍が防波堤となり、領民の犠牲は免れたという。

最初の半年間の相次ぐ三国同時の卑怯な奇襲。

私たちが今もこうして無事なのは、その度にアースクリス国軍と共に、王妃様が払いのけてくれたからなのだ。

「おうひしゃまは、みんなのおかあしゃま」

王妃様は『国母』

アースクリス国の民はすべて、王妃様の子供なのだ。

その 民(子供) を寄ってたかって虐めて踏み潰そうとするのを、お母さんが蹴っ飛ばした。

それだけのことだ。

だから、あまり自分を責めないで欲しい。

「―――アーシェラ?」

王妃様をはじめ、みんなの視線が集まる。

「おうひしゃま、あーしゅくりしゅのみんなのおかあしゃま。いじめっこ、ふんってちた」

私はソファから降り、片足でふんふんした。

いじめっ子は、アンベール国、ウルド国、ジェンド国だ。

みんなで寄ってたかって。

アースクリス国をいじめたのだ。

怒りのあまり、足元に三国があるイメージで踏み潰してみた。

「わりゅいいじめっこ、めっ!」

ふんふん。ふんふんと。

「はは。そうだな。確かにあいつらは、いじめっ子だ」

クリスウィン公爵が噴き出した。

「5年も諦めない、しつこいいじめっ子たちだな」

リュードベリー侯爵も笑いが止まらない。

「おかあしゃま。あーちぇ、だいしゅき」

王妃様はみんなの為に戦ってくれた。その為に失われた命に心を痛めた。

王妃様が悪人ならば心を痛めることも悩むこともないだろう。王妃様は優しいから辛いのだ。

私は、平然と人を殺す人間が大嫌いだ。我欲の為にそれを成す人間も。

アンベール国もウルド国もジェンド国も。

我欲の為にアースクリス国を蹂躙し、アースクリス国の民を殺そうとしていたのだ。

みんなを守るために行使した力の結果を、自らの罪だと思わないで欲しい。

それは王妃様のせいではないのだから。

―――だから、そんなに自分を責めないで。

私はテーブルの向こう側の王妃様の傍に行った。

そして、まっすぐに王妃様の瞳を見て、もう一度言った。

「あーちぇ。おかあしゃま、だいしゅきよ?」

「―――ああ……。アーシェラ」

王妃様がくしゃりと泣きそうな顔で笑い、手を伸ばして、私をぎゅうっと抱きしめた。

「―――ありがとう、アーシェラ」

その腕と声が震えている。

リュードベリー侯爵が王妃様の背をぽんぽんとしている。

そこからとてつもない、いたわりの感情が伝わってくる。

ああ。リュードベリー侯爵は、王妃様の心の傷がとっても深いことを知っているんだ。

そして。王妃という重責を背負って、王宮で常に気を張っていることも。

だからこそ、さっきみたいに頭を撫でたりして、スキンシップをとって王妃様を安心させていたのだろう。

言葉だけではたりないのだと。

王妃様をただ安心させるために。

―――そして、それを甘んじて王妃様が受けているのも、ただの甘えではなく、『私はお前の絶対の味方だ』と態度で示してくれる兄の心を受け止めているのだろう。

リュードベリー侯爵の気持ちが伝わってくる。

だから私も思いっ切り王妃様を抱きしめる。

―――抱きしめることで、伝わって欲しいと願って。

◇◇◇

―――五年前の初戦では、王妃様の功績ゆえに難を逃れた。

しかし、国王陛下や公爵たちは王妃様に頼りっぱなしになるほど、愚鈍ではない。

現に圧倒的に数が不利でも、智の結集で幾度も勝利を勝ち取ってきた。

―――三国による卑怯な一斉攻撃は開戦後、一度だけではなく、数度行われた。

それは、短期決戦でアースクリス国を落そうとしたからだ。

その一つが、デイン辺境伯領を襲った戦いだ。

最初の戦で、三国に対して大きな魔法を行使した王妃様は、力を使い果たして、それから一カ月ほど目を覚まさなかったそうだ。

その間に三国は間を置かずに、デイン辺境伯領を襲ったのだ。

その時のことは以前に聞いていた。

デイン伯爵率いる辺境伯軍とクリスフィア公爵が率いる王国軍、そしてディークひいおじい様。

司令官たちは、いずれも劣らぬ強者たちだ。

初戦と同じく、三国の兵という圧倒的な数の違いで一度おされはしたが、駆け付けた 優れた指揮官(ディークひいおじい様) の下で的確な戦法を展開させ、勝利を手にした。

王妃様の魔法の力がなくても、敵国の正規軍を壊滅させたのだ。

三国は、半年にわたり、一斉攻撃を数度繰り返したという。

けれど、その度に、三国の正規軍は叩き潰された。

王妃様は女神様からの意思を体現し続けた。

最初の戦いこそ、王妃様は三国の軍勢を強力な魔法で退けたが、国王陛下や四公爵からの必死の説得で、無理はしないことを王妃様は約束させられたのだそうだ。

やがて半年が過ぎた頃、三国からの一斉攻撃がなくなった。

三国は幾度もの壊滅的被害を受け、これ以上の連続的な侵攻をする力が無くなったためだ。

アースクリス国は、開戦直後の激動の半年間をからくも乗り切ったのだ。

三国による、一斉攻撃は開戦後の半年間で5回もあったとのことだ。

つまりは大体一か月に一度、苛烈な戦いをアースクリス国は挑まれたのだ。

「ひどい! ごかいも! よってたかって!」

聞いた瞬間、思わず叫んでしまった。

半年で5回。5回だよ!?

三方向から攻め込まれるアースクリス国にとって、それがどんなに大変な事か。

どこまで卑怯なんだ!!

「ゆるしぇない!!」

もう一度地団駄を踏もうとしたけれど、今の私は王妃様に抱っこされたままだ。

代わりに両手で自分の腿をぱんぱん叩いた。

王妃様は、すっきりした顔になって、私を見てくすくすと笑っている。

元気になってよかった。

「ふふ。ほんとうよね。でもね、その5回で三国の正規軍の力をだいぶ削ることが出来たのよ」

「そうだな。攻め込んできた軍の司令官はすべて粛清したからな。敵国にとって、最初の数回で主だった将軍を消されたことは相当な痛手になったはずだ」

さらりと、クリスウィン公爵が驚愕するようなことをこともなげに言った。

―――え? それって相当凄いことだよね。