軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宝石姫の価値 ②

「は。ご下命、拝受いたしました。陛下、発言をお許しいただけますかな」

声を上げたのは、キャサリン・ステファニーの父親であるステファニー公爵だった。それに、王は厳かに頷いて答える。

「我が娘、キャサリンですが、あれは彼女の独断です。決して、我が家の総意ではない」

「なんだと……!?待て、公爵。話が違う。貴公はキャサリンに──」

弾かれたように顔を上げ、ウィリアムが批判する。しかし、それを王は手を挙げ彼を黙らせる。

「今、お前の発言は許していない。ウィリアム、次期王位を預かるものとして自覚を持った行動を心がけなさい」

「っ……」

絶対的な王の言葉に、彼は顔をゆがめた。くちびるを噛む彼をちら、とステファニー公爵は見たが、そのまま話を再開させた。

「ですので、咎は我が娘にのみとどめていただきたい。私の管理不行き届きであることは重々承知しておりますが……いやはや、まったく気が付きませんでした。我が娘ながら、魔性の女ですな、ははははは」

「貴様……!」

「ウィリアム」

唸るように低い声で威圧する王太子を、王はふたたび諌めた。そして、王は少しの間考える素振りを見せてから、またステファニー公爵に言う。

「しかし、宝石姫は、自身より立場が上である貴公の娘に威圧され、病んだのではないか?そうであれば、決して貴公も無関係ではあるまい。娘の独断……と貴公は言うが、結果、彼女が家柄を盾にしていたのなら、貴公──いや、ステファニー公爵家も同罪である」

王は、この機会にステファニー公爵家の力を削ぎたいと目論んでいた。莫大な富を持つステファニー公爵家は、虎視眈々と権力拡大を図っている。王家を取り込もうと画策しているのは公然の事実であり、王ももちろんそれを知っていた。

ステファニー公爵は、娘のキャサリンを王太子の恋人にし、やがて第一子を先に産ませようと考えていたのだろう。

正妃の子でないとはいえ、 何らかの理由(・・・・・・) でルシアが子を産めなければ、自ずとキャサリンの子が次期王太子となる。そうすれば、ステファニー公爵は王太子の祖父として今以上の権力を得られるというわけだ。

ウィリアムがなぜああもあっさり陥落させられたかはわからないが、そういった野心がある以上、王はいずれキャサリンもろともステファニー公爵を排するつもりだったのだ。

( 学園(スクール) に行って、何を吹き込まれたんだか……)

ウィリアムの交友関係にまずいところはなく、気がついたらキャサリンと親密になっていた。暗部の報告でも悪影響を及ぼすような友人はいないと記されていたのだ。

今更言ったところでどうしようもないが、キャサリンと出会ったことで、ウィリアムの王の資質が失われたのは事実だ。

しかし、王にはウィリアムしか子がいない。

現在の王朝を後世に残すためには、彼に王位を継がせる以外の方法がないのだ。

せめてもうひとり子がいれば、と王はさんざん頭を悩ませた。

王妃は既に他界し、王も年老いている。ウィリアムは、王の年老いた子だった。なかなか子の出来にくかった夫婦で、彼らの子はウィリアムしかいない。

「まあよい。今すぐ処分を下す、というわけではない。ただし、処分が正式におりるまで、ステファニー公爵家、ならびにウィリアムには謹慎をいいわたす」

「──」

息を呑んだのは、ウィリアムだった。

息子が、なにか言い出すと予期したのか、先手を打って王が窘める。

「いいか。謹慎中、くれぐれもキャサリンと会おうなど思うなよ。そうしたが最後、お前の王位継承権は剥奪されるものと思え」

「……なぜ」

絞り出すような声で、ウィリアムが反論する。

ただし、その紫紺の瞳は、真っ直ぐに王を見つめ、射抜いている。

「なぜ、我が国はルシアの力に頼り切りであることを良しとしているのですか。まず、それがおかしいと……誰も思わないのですか!」

「……ウィリアム。今は、そのような話、誰もしておらん」

「いいえ。関係ある話です。そもそもの話、ベルアはおかしいんです。異常なんですよ。たったひとりの少女の献身に依存し、寄りかかるなど──みな、情けないとは思わないのか!!」

ウィリアムの言葉は止まらなかった。

追求を受けた貴族の面々はそれぞれ、呆気にとられてお互いの顔を見合わせている。

『何を言ってるんだ、ばかじゃないのか?』という顔である。それに、ウィリアムは自分の言葉がなにひとつ伝わっていないことを知った。無力感に苛まれ、拳を強く握る。

「……ウィリアム、それ以上口を開くな。それ以上の発言をするのなら、王太子であろうと独房に入れる」

「──」

王の、冷え冷えとした声に彼は口を噤まざるを得なかった。

(なぜ……みな、おかしいと思わない?)

ルシアは、確かに【宝石姫】ではあるが、それ以前に彼女は。

【痛いものは痛い】と感じる、ふつうの少女だ、ということを──。