軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

661 信仰ブーム

六百六十一

「素敵です、ミラ様! とってもお似合いですよ!」

ペットショップ『ワイルドバディ』で合流したマリアナの第一声が、それであった。

リリィ達が手掛けた新作、ミラカスタムサマーを絶賛する彼女の目には、これまで以上の真剣さが秘められていた。

想像通り、ではなく予想以上の完成度であると、マリアナは心の中で喜ぶ。ミラの知らぬところでいよいよその制作に関わり始めた彼女だが、そんな素振りを見せる事ない。いつものように素直な笑顔でミラの可愛さを褒め称える。

「ふむ、そ、そうか」

ミラは若干複雑な感情は残りつつも、やはりこれも似合ってしまうかと満更でもなさそうだ。

と、そうして合流を果たしたところでマリアナは、無事にルナの本戦エントリーが完了したと話す。

「ライバルも可愛者揃いですが、きっと最後にはルナが勝ちます!」

「うむ、ルナが優勝に決まっておる!」

本戦は一ヶ月後にアトランティス王国で行われる。そして本戦だけあって、大陸でも有名なトップクラスのペット達がそこに名を連ねている。

いつの間にか、その界隈について詳しくなっていたマリアナは、要注意なライバルについても熟知していた。

そして今は本戦のために、よりルナの魅力を引き出せるグッズ選びをしていたところらしい。

「きゅい、きゅい!」

また何よりルナもやる気満々だ。ペット用ブースにあるフラワーリースを潜りながら、その可愛らしさを振りまき、他のお客さん達をもメロメロにしていた。

流石はルナである。本番でなくとも圧倒的だ。

「当日が楽しみじゃな!」

「はい!」

本戦当日は、是非とも現地でルナの勝利を見届けよう。そうミラが意気込めば、マリアナもまた嬉しそうに頷くのだった。

ルナ用の様々なグッズを買い込んでから塔に戻ると既に夜。夕食と風呂を済ませた後は、のんびりとした時間が過ぎていく。

『──前例と言っても、フォーセシアだけだからな。我も、ミラ殿がどのような力に目覚めるのかまではわからない』

緩やかに過ぎる時間の最中、ミラは今後について精霊王と話し合っていた。

これからの予定として、まず精霊王に会うわけだが、その時に行うのは馴染んだ精霊王の加護の段階を引き上げるというもの。

その結果、どのような変化が起きるのか。

まず精霊達との繋がりが、より強固なものになる。影響は様々だが召喚術士であるミラの場合は、その恩恵がより強く出そうとの事だ。

また、加護を通じて力を借りたりなど、ちょっとした精霊の真似事のようなものも出来るようになるらしい。

そして最も大きな影響は、強まった加護によって生じるマナの変化だ。一部が精霊力のそれに近いものへと変質する事で、魔法のようなものが生まれるというのだ。

かのフォーセシアが持っていた守りの力も、その魔法の一つだ。

『ふむ、興味深いのぅ!』

どのような変化が起きるのか。どのような魔法が生まれるのかは人それぞれ。そう聞かされたミラは、だからこそより強い興味を示す。

フォーセシアの力は、彼女の優しさと希望が形になったもの。つまりは、本人の資質に見合った魔法になると予想出来るわけだ。

魔王が使っていたあの力は、そうして生まれたものだった。けれどその本質を理解していないからこそ、魔王のそれは不完全でもあったそうだ。

(本来のそれは、どれだけ強力なものだったのじゃろうな)

不完全でも、あの防御性能だ。ならばフォーセシア本人が使っていた守りの力は、どれほどだったというのか。そして、自分はどれだけの魔法が得られるのか。どのような魔法が理想的か、どんな力があれば便利か。

幾らでも広がっていく可能性。それは楽しみでもあるが、同時に不安にも感じるミラであった。

「では行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「きゅい!」

召喚術の塔の屋上。もう、このやりとりも何度目になるのか。そして、後どれだけ続ける事が出来るのか。

特製弁当を受け取ったミラは、そっとマリアナとルナを抱きしめてエネルギーを充填してからガルーダワゴンに乗り込み空に飛び立っていった。

最初の目的地は、精霊王のいる精霊宮殿に通じる幻影回廊。前回から随分と久しぶりになるそこはダンジョン扱いになっている場所でもある。

そのため冒険者総合組合が管理しており、入るには許可証が必要となる。前回訪れた時はキメラクローゼンが色々と壊してしまっていたが、今はそれらも全て復旧済みだ。

よってミラは最寄りの街を訪れ、そのまま真っすぐに術士組合へ向かった。

「これまた、何やら大盛況じゃな」

幻影回廊の許可証を発行してもらいにきたわけだが、どうした事か。術士組合の内部は、思ってもいないほどに混雑していた。

まず単純に人口密度が高い。いっそ暑苦しさすら覚えるくらいの混みようだ。受付がパンクして臨時受付テーブルが増設されているくらいの混雑ぶりである。

「じゃが、これは……」

よくよく観察してみたところ、ここに集まった者達の中にちょっとした特徴がある事に気づく。

それは、服装だ。ここにいる半数以上が同じような恰好をしているのだ。そして特徴的なその服装は、聖職者のものというのだから驚きだ。

もしかしたら、三神教のイベントか何かでも予定されているのだろうか。行列を成す聖職者達を眺めながら、そんな事を考えたミラは、仕方がないと大人しく列に並んだ。

人数が人数だけに、許可証の発行まで相当な時間がかかりそうだ。

「なあ、あれ……精霊女王じゃないか?」

どのくらいで順番が回ってくるだろうか、どの列が早そうかとキョロキョロ様子を窺っていた時だ。そんなミラの姿を目に留めた誰かが、そんな言葉を口にしたのだ。

(おっと、どうやらバレてしまったようじゃな。まあ、わしも随分と名が売れたからのぅ。仕方がないというものじゃろう。うむうむ)

有名になるような事を幾つもしてきたと自覚しているミラは、だからこそ騒がれるのも無理はないと心で笑い、だからこそ堂々と構えていた。

長い列の待ち時間もあるのだ。ファンが集まってしまったら暇つぶしも兼ねてサインでも書いてあげようじゃあないかと、むしろファン待ちの姿勢までみせる。

そんな時だった──。

「精霊女王も並ぶもんなんだな」

「Aランクになったら別室対応になるって前にリーダーから聞いていたが違うのか?」

「名前が先行しているだけで、ランク自体はそこまででもない、とか?」

ファンが集まるよりも先に、そんな疑問の声がそこかしこから挙がってきたではないか。

(……む?)

何やら一瞬、気になる言葉が聞こえたような。そう、浮かんでは消えていく言葉に耳を澄ませてみたところ。

今度はより強い反応を示す者──いや、示す者達が現れた。精霊女王という言葉が波紋のように広がっていった時、術士組合にいた聖職者全ての視線が一気にミラへと向けられたのだ。

「精霊女王様だと!? ……あのお方か!?」

「見た目の特徴は、確かに一致していますね」

「だが精霊女王様ですよ。この街にいらっしゃるというのなら司教団からの告知もありそうですが」

「お忍びという事だろうか」

「元々は冒険者だ。ならば今回は、聖務とは関係なくいらっしゃったのかもしれん」

「いや、見た目が一致しているだけであって、まだ完全にそうと決まったわけでは」

なぜここに精霊女王が。そんな驚きを秘めながらミラには聞こえないくらいの声で、聖職者達がひそひそとざわめき始めた。

(何じゃろう、わしのファンという感じではなさそうじゃが……)

そうした中で、ちらりちらりと向けられる視線。ひっそり交わされる言葉までは聞こえないため、これはどういった反応なのかと困惑する。

とはいえ相手は聖職者だ。そうすると、もしかしたら精霊王との拝謁がどうこうといった内容かもしれない。

今後は三神教会の行事として行われる事になった拝謁の儀だが、ミラがここにいる今、そっと触れられないかと相談し合っているのでは。

そう、ミラが反応を窺っていたところだ。

「あのぉ、違っていたら申し訳ありませんが……もしかしてミラ様でしょうか?」

術士組合中でざわついていた事もあってか、そのままにしておく事も出来なかったのだろう。術士組合の職員が、そのように声を掛けてきた。

その直後だ。

「ミラ様……確か精霊女王様のお名前だ」

「ならば本当に?」

「いや、まだ確定というわけでは」

「さあ、返事は……」

聖職者達の注目が更に深まると共に、今度は一転して沈黙がその場に広がっていった。

「うむ、そうじゃよ」

なるほど確かに。名札をぶら下げているわけではないから、直ぐに判断が出来ず様子を見てしまうのも仕方がない。ざわつくだけだった状況を理解したミラは、そこで大いに頷き答えた。それはもう、我こそが精霊女王だと言わんばかりに堂々とだ。

「やっぱりそうでしたか! 受付でしたらAランクの方は別室で対応させていただいておりますので。どうぞ、あちらへお越しください」

どこか安堵したように微笑んだ職員は、そう言って術士組合の奥を指し示した。

するとどうだ。

「あれ、やっぱりAランクだったのか」

「そりゃあ、精霊女王だからな。そうだろう」

「じゃあ何で受付に並んでいたんだ?」

Aランクにもなると相応に名が売れており、どのような依頼を受けるのか、どこに行くのかといった事を知りたがる者が出てくる。しかも中には機密性の高い依頼などもあるため別室対応となるわけだ。

だからこそミラがなぜ列に並んでいたのか、より疑問が膨らんでいく事になり様々な憶測が生まれる。

「案外、知らなかっただけかもな」

「いや、そんなバカな」

幾つも飛び交う想像と憶測。その一つが真実に触れていたりしたが、Aランクにもなってそれはないと皆が一蹴して笑う。

「……ふむ、混んでいるので控えたが、そう言うのならばそうしよう」

Aランクは別室対応。それを今知ったミラは、けれど知らなかったわけではないといった顔で口早に言い訳を並べながら術士組合の奥にそそくさと駆け込んだ。

と、そうしてミラがいなくなった術士組合内は、もう少し騒がしくなっていった。

「やはり本物であったか!」

「まさかこうしてお会い出来るとは」

「ああ、そうとわかっていれば直ぐにでもご挨拶出来たのに……ああ……」

ふらりと現れた精霊女王っぽい少女は、正真正銘の精霊女王だったという事実に沸き立つ聖職者達。

三神教界隈で話題になっているからこそ、その反応は冒険者達とはまた違った形だ。

有名人に会えたと盛り上がる冒険者達に対し、聖職者達はその偶然の出会いに感謝し祈る。反応もまた様々であった。

やはりAランクにもなると対応も早くなるのか。術士組合の奥へと通されたミラは、その場で直ぐに許可証を発行してもらえた。そして今はペガサスに乗って幻影回廊に向かっている途中だ。

『しかし、あれじゃな。ここまで影響が出ておるとはのぅ』

『現世から離れて随分と経つが、まだこれほど信じてもらえているとは。感無量だ』

『それもこれもミラちゃんが活躍したからよね。シン様を思い出すきっかけは、間違いなくそこよ』

許可証の発行中に組合員と会話する時間があったため、色々と先ほどの状況についての事情なども聞く事が出来た。

そして、やけに聖職者の人数が多かった点についての疑問もそこで判明した。

原因はミラ、もとい精霊王にあった。

やはりというべきか、拝謁などをはじめ三神教会で色々とやった結果だ。

数千年も前に歴史からその名と存在が消えた精霊王。けれど三神教の教えには残り続けており、だからこそ教会の者達はいつか再び降臨する日を待ちわびていた。

そうして遂に数千年の時を超えて舞い戻ったのみならず、人々と関わる事にも積極的な姿勢が垣間見え、信徒達が受けた喜びは計り知れないほどだった。

ゆえに今、教会内部では精霊王ブームも起きているそうだ。

そして精霊王といえば、幻影回廊の上空にある古代環門。というわけで、『そこに近づくほどご利益がある』『より恩恵に与れる』『信心を積める』といった話が広がり、聖職者の間で参拝まで始まっているらしい。

つまり術士組合にいた聖職者達は、全員が精霊王のいる精霊宮殿前に参ろうという巡礼者であったわけだ。

『現地も随分と様変わりしておるという話じゃが、実際のところはどうなのじゃろうか?』

本来は、Aランクダンジョンとなる幻影回廊だ。当然、それだけ危険な場所であり、おいそれと巡礼で踏み込んでいい場所ではない。場合によっては、そこで命を落とす何て事にもなり兼ねない。

ただ組合側でも当然その懸念を抱き、だからこそ色々な対応策を施したとの事だ。

『──久しぶりに、それこそミラ殿を招き入れた時以来だろうか。古代環門の様子を見てみたが……いつの間にか祭壇が出来ているな』

現在、冒険者総合組合側から幻影回廊専用の案内人が派遣されているそうだ。古代環門までの案内から護衛までを担当する腕利きが揃っているらしい。

そのため聖職者達は安心して巡礼が出来て、その結果、精霊宮殿の玄関口となる古代環門には多くの者達が来た痕跡が沢山残っていた。

『随分と大変だっただろうに、まったく喜ばせてくれるものだ』

『逞しいのぅ……』

とんでもなく立派な祭壇が出来ていると笑う精霊王。きっと多くの聖職者達が少しずつ持ち込み作り上げたのだろう。それを成す三神教信徒の行動力に感心して、ミラもまた一緒に笑うのだった。