軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

654 手慣れたお仕事

六百五十四

武装召喚バージョンの巫女服は、神域でも問題なく機能していた。

(あの時にもこれがあればのぅ……)

形は巫女服ながら、武装召喚が備える能力も万全に発揮されている。今ならば、神域で暴れた魔王にも対応出来ただろう。そうすれば皆に心配をかける事もなかったはずだ。

と、そんな今更どうしようもない事を考えながら三神の間にやってきたところだった──。

「よくぞ無事に戻った!」

「どうなる事かと思ったが、まさか我らの力までものにしてしまうとは恐れ入った」

「よかったわ、本当によかったわ!」

到着するや否や、盛大な歓迎に会うミラ。そこで待っていたのだろう、正義の神が叫ぶように喜ぶ。そして勇気の神が大いに感嘆する中、ミラは慈愛の女神に一瞬で抱きしめられていた。

「いやはや、手間を掛けさせてしまったようで、すまんかった。魔王が相手じゃったというに、警戒が足りんかったようじゃ」

「ミラさんは悪くないわ。あの時、私がもっとしっかりしていればよかったの!」

戦場において、いつも通りに備えていれば防げていたはずだった。そうミラが反省点を述べると、慈愛の女神の嘆きが響く。ただ神域で見守るだけの日々が長すぎて、戦場での勘が絶望的に衰えてしまっていたと。

「ああ、その通りだ。腕が鈍らぬように鍛錬は続けていたが、もはや基礎から緩んでいたのかもしれない。今回の事で痛感させられた」

「これから決戦だっていうのにな。だから我々も、そこに向けて仕上げ直していく事にしたよ」

三神は護るつもりだった──十分に護れるはずだったミラに被害が出てしまった事を重く受け止めていたようだ。

これから始まる決戦は、個人だけでなく全てを護るための戦いだ。だからこそ今のままではいけないと痛感し、これから修行しようと計画しているらしい。

「それは心強いのぅ」

今回の件については置いておくとして、三神が修行して更に強くなるというのなら、それはもう虎に翼である。ミラがますます頼もしくなると喜べば、三神もまたそうかそうかと頷きながら、確かな覚悟をその目に宿らせた。

三神に迎えられたその後、ミラは念入りに身体の状態を調べられた。神気については、やはり三神が専門だ。実際に害はないか、注意するべき点はないかを徹底して確認だ。

「まさか、このように機能するとは」

「この融合具合も驚きだ。もとより、素養があったとしか」

「もうここまで利用出来るようになっているものね。才能とはまた違う何かがありそう」

ただ、ちょっとした健康診断のようなものだったはずが、三神の口から次々と気になる言葉が飛び出してきた。

それらを並べていったところで、ミラの身体についての不思議が露わになっていく。

三神が言うに、どうやらミラの身体は人間ではあるものの、その基礎部分は神のそれに似ているのだそうだ。

だからこそ神の器との親和性が高く、結果神気も問題なく受け入れられたのだろうという事だ。

「身体の基礎……とはまた、ふーむ」

この現実となった世界において、今の身体とは何なのか。ソロモンやルミナリアなどを見てわかる通り、ゲーム時のアバターそのものであり、つまりは運営が用意したものとも言える。

そしてこの身体だが、元プレイヤー達を天人族という特別な種族だと言い張らなければ不自然なくらいに特殊なものとなっていた。

多少の上下はあれど、体型は大きく変化する事はなく歳もとらない不老の身体だ。

(……そういえば創造神がどうたらと言うておったな)

以前アンドロメダに、三神もまた創造神によって生み出された存在だと聞いた事があった。

神々の更に上に存在する創造神。ミラはこの創造神が『運営』なのではと考えていた。そうでなくとも何かしらの繋がりはあるはずだ。だとしたら元プレイヤーであるミラの身体も、同じような出自という共通点が生まれる。

身体の基礎に似たところがあるというのなら、その辺りが関係しているかもしれない。

「微細だが、これは確かに──」

不思議だが面白い、もしかしたら色々教えられるかもしれない、共通点があって何だか嬉しい。ミラの身体を調べながらそのように盛り上がる三神。それでいて、なぜ他の人間とここまで違うのだろうかという興味を抱き始める。

「以前にも話したと思うのじゃが、わしの生まれは別の場所でのぅ──」

ゲームが現実の世界になった事で、今自分はこうしてここに存在している。その事を改めて説明したミラは、元プレイヤー達もまた創造神に導かれたようなものであり、それゆえ基礎部分が似通ったのだろうと話す。

「ふむ、あのお方の思し召しという事か」

「我々でも、その思惑は計り知れないからな」

「でもきっと、だからこそミラさんがここにいるのね」

創造神が招いた内の一人が、こうして最終決戦に向けて着々と準備を進めている。あの日、魔物を統べる神を封じた日から始まった戦いが、いよいよ決着にむけて動き出した。

創造神は何を考えているのか。何のために元プレイヤー達をここに導いたのか。全てを知る事は出来ないが、少なくとも現状は理想通りに進んでいるに違いないと三神は喜んでいた。

専門家による検査の結果でも、ミラの状態は問題無しとなった。何かがあったり干渉した事が原因で神気がどうのこうのといったりしたような心配も要らないそうだ。

三神がそう言ってくれるのなら、もう安心だ。つまり、今回のセラフィックフレームのように神気を利用してあれこれしても問題ないというお墨付きが貰えたというわけである。

(サンクティアと神気、きっと面白い事になるじゃろうな!)

既に幾つもの案を思い浮かべていたミラは、これは研究と実験が今から楽しみだと笑う。

「では、とっとと用事を済ませるとしようか!」

とはいえ今は先にやるべき事がある。五つ目の骸を処理するという大切な役目だ。

「お、ようやく来たね。準備は整っているから、いつでもいいよ」

いざと神域の奥に進んだところ、そこはアンドロメダが持ち込んだ機材で埋め尽くされていた。

先ほど一緒に来た時に運んでいた機材は、多くの内の一部だった。ミラが起きるよりも前から、この時が来る事を見越して機材を運び込んでいたようである。

何もなかったはずのその場所は今、どこからどう見ても研究室のそれでしかなかった。

「何というか、これはよいのじゃろうか……?」

今回はアンドロメダも絡んでいるとはいえ、日之本委員会の連中も一枚どころか二枚三枚と噛んでいるに違いない。だからこそ神域という極めて神聖な場所を、このような状態にしてしまって罰は当たらないのかと心配になるミラ。

「決戦に利用出来る情報が得られるのかもしれないのだろう? ならば問題はない」

「出来る事ならば何でもやってみるといいよ。この先に待つのは、そういう戦いだからね」

「あの方の傍にも、こういうのがよく置いてあったわ。なんだか懐かしくすら感じるわね」

三神にとっては、これといって迷惑でも何でもないようだ。むしろ、必要ならば幾らでもというくらいに乗り気であった。

次に始まる最終決戦の行方には、大陸の存亡がかかっている。だからこそ三神としても、あらゆる手段にあらゆる可能性を追求していきたいようだ。

「それなら、まあよいか」

とりあえず、変なとばっちりを受けるような事にはならないとわかったミラは、安心してその中心に進んでいった。

沢山の機材に挟まれた中央の台座。そこには幾重にも封印が施された骸が据えられている。

今回の予定は、ただ消滅させるだけではない。まず完全に封印を解いた状態にしてからデータを採取。それが十分に完了したところで、いつも通りに神器で消し飛ばすという流れだ。

「わしも準備完了じゃ」

これまでの骸の処理は、封印を一つ残した状態で行っていた。骸が持つ強力な波動を封じたままにしておくためだ。

また、それだけならば神器の力によってまとめて吹き飛ばす事が可能であったため、そのやり方こそが最善の処理方法だった。

しかしデータのためとはいえ、五つ目の処理はその封印も解く事になる。これまでに比べると、危険度は相当に上がるはずだ。

「よし、こちらも問題はない」

「いつでも始められるぞ」

「ミラさんの事は任せて」

また三神も、これには相当に気合を入れて準備していた。

正義の神が周囲に強固な結界を展開すると、勇気の神が封印解除の位置に立ち、慈愛の女神はミラを後ろから抱きしめる。

何があっても大丈夫という布陣だ。

「それじゃあ──」

これに頷き返したアンドロメダが装置のスイッチを入れていく。

一つまた一つと起動して、微かな機械音が響き始める。そしてところどころから、計測用の光が骸に向けて投射されていった。

周囲を挟むように並べられたそれらは、隙間なく骸を見張る。

「よし、いいよ」

そうアンドロメダが合図を出したところで、勇気の神が頷き骸に触れる。

「では剥がすぞ」

宣言してから僅かの間をおき、勇気の神は何かを握るようにしながら腕を振り上げた。

「な──……!」

最後の封印が解かれた。瞬間、得体の知れない気配がその場を一瞬で支配する。不意に感じた重圧と気配は、これまでとは比べ物にならないほどの悪意に満ちたものだ。

そして何より怖気立つような音を耳にしたミラは、瞬間に総毛だった身体を震わせ目を見開いた。

呻きか、それとも鈴か、はたまた羽音か、もしくは警報か。名状のしようがない不思議な音が響き渡る。耳を塞ごうとも、目を閉じようとも、気を逸らそうとも脳裏にこびりついて消えず反響し続ける奇怪な音だ。

「よし……異常なし。しっかりデータがとれているよ」

ミラが身体の芯まで冷え切ってしまうほど圧倒されていたところ、その雰囲気とは裏腹な声ではしゃぐのはアンドロメダだ。

持ち込んだ機材は、この時のために色々と手を加えてあったそうで、それらの細工が上手くいったらしい。骸が秘めた力に負ける事なく、詳細なデータが計測出来ているという。

しかも今簡単に確認出来るだけでも、かなり有益な情報が次から次に出てきていると、かなりご機嫌な様子だった。

「それはいい、その調子でどんどん頼む」

「当時の我々では気づけなかった事もきっとあるはずだからね」

正義の神と勇気の神は油断なく骸を睨んだまま、その朗報に笑みを浮かべる。

(魔王を相手にして、ちょいと慣れた気になっておったが……これだけでもう格が違うと思い知らされるのぅ……)

ミラはというと、その強大な悪意を前に息を呑み圧倒されていた。

魔王という存在も、圧倒的だった。しかしそれでもまだ、可能性を見出せる何かがあった。

だが魔物を統べる神は何かが違う。僅かな可能性すら潰されそうな、そんな予感が渦巻いているような、不可解な感覚を覚えたのだ。

これを前に平然としていられるとは、流石は天魔族、そして三神だ。

「ミラさん、大丈夫。私がいるからね」

膨れ上がった強大な気配と不安を前に、ミラがただならぬ緊張を浮かべていたところ。慈愛の女神の手が優しく頭に添えられた。

するとどうだ。先ほどまでの感情が嘘のように、心が一気に晴れていった。

「そう、じゃな……。うむ、そうじゃった!」

その三神の一柱、慈愛の女神が今は直ぐ傍にいる。こうして支えてくれている。

いったい何を怖がる必要があろうか。ただ悪意を見せつけられただけで身体を竦ませるなど、なんてらしくない事をしているのか。

相手がどれだけ強大な敵だとしても、別に一人で挑むわけではない。ここにも、そして地上にも沢山の心強い仲間達がいる。

だからこそ、ここまで戦ってこれたのだと、ミラは心の底から湧き上がってくる様々な感情を呑み込み勇ましく構え直した。

「流石ね、ミラさん。一回で対抗出来るようになるなんて」

心に灯る勇気の光。それを感じ取った慈愛の女神は嬉しそうに微笑みながらも、どこか驚いたような口調でそう言った。

何でも魔物を統べる神は、今しがた感じたように呪詛のようなものを常に放出しているという。

それは根源的な恐怖を植え付け不安を煽り、全ての感情を悪い方へと向かわせる極めて厄介な能力だ。

しかも結界から何から全てを貫通するという代物である。これに対抗するには、そんな幻想の恐怖に打ち勝つ心の柱が必要となる。

「いや、ただ大切な事を思い出しただけじゃよ」

「ううん、やっぱり凄いわ。そういうのを見つけたり、認めたりするのって結構難しいのよ」

慈愛の女神は、ミラの心に広がった不安を一時的に払っただけだった。そこから気を持ち直し前をしっかり見据えるのは簡単に出来るものではない。

「わしの場合は、仲間に頼ってばかりじゃがのぅ」

「それでいいの。人の強さには幾つか形があるけれど、私はそれが一番好きよ」

仲間達と協力してきたからこそだとミラが苦笑すれば、慈愛の女神はますます嬉しそうに笑った。

と、そうして何やら不思議と慈愛の女神の笑みが勝ち誇ったようなそれに変わっていった。

するとどうだ──。

「おいおい、思ったよりあっさり決まってしまったな」

「ミラ殿にはどの素質もありそうだったが、まあ仕方がない」

その様子を見ていた正義の神と勇気の神が、何やら残念そうに肩を落としたのだ。

「な、何の事じゃろうか……?」

どことなく意味深な様子で不安に駆られたミラは、何が決まったというのか、何が仕方がないのかと気になって振り返る。

「別に何でもないのよ。私が担当になったってだけ」

慈愛の女神は、微笑みを絶やさぬままそう答えた。その言葉の意味するところは不明だが、けれどその顔に不穏な色はなく、むしろより一層輝いてすら見えた。

「担当……──?」

それはいったいどういう意味か。更に続けて質問しようとした時だった。

「よし、解析完了。もう消しちゃって構わないよ」

アンドロメダが全てのデータを取り終えたと告げる。そして骸近くの機材を素早く撤去していった。

「では、すぐに取り掛かるぞ」

「そうだな、早くこの音を止めてしまおう」

「ミラさん、準備はいい?」

後は、このまま神器で消してしまうだけ。直ぐに集まってきた三神は、いつも通りといった様子でミラを支えるように構える。

「うむ、このまま一気にゆくぞ!」

骸は、まるで脈動するかのように気味の悪い波動と音を放出している。神器を大きく振り上げたミラは、そこに向けて一気に振り下ろした。

三神の力を束ねた神器は、その圧倒的な力を遺憾なく発揮する。正に圧倒的。害意ある全てを滅さんと迸る様は、鮮烈でいて恐ろしくもある。だが畏れを抱くほどのそれには、だからこそというべき信頼を寄せられる安心感があった。

骸が光の奔流に呑み込まれてから数秒。掻き消えるように波動と音が止み、元の静寂が戻ってくる。それはきっと処理が済んだ証拠とでもいっていいだろう。

「これで五つ目も完了じゃな!」

無事に終わった。前回は魔王の主因子によって実に波乱であったが、本来はこのくらい難なく進む作業だ。

「……と、そろそろ放してほしいのじゃが」

「いえ、もうちょっとだから。もうちょっと」

ただ前回の件もあって慈愛の女神は随分と心配性にというか、用心深くというか、過保護気味になっていた。

骸は完全に消滅した。台座の上にはもう塵一つ残っていない。気味の悪い波動と音もせず、気配すら皆無。アンドロメダが持ち込んだ機材も、その全てが対象のロストを示していた。

けれど慈愛の女神はミラをしっかり抱きしめたまま注意深く周囲を警戒しつつ、何やら凄まじい神力を辺り一帯に放ち続けている。

何なら、その神力に中てられてしまいそうになるほどだ。

「もう問題ないな」

「ああ、完璧だ」

先に離れた正義の神と勇気の神が何をしていたのかといえば、どうやらその両名も現場の安全を確認していたようだ。塵一つどころか、もはやそれが存在していたという痕跡すらも完璧に消え去った事が認められたという。

「さあミラさん、これで大丈夫よ」

「う、うむ」

万が一もないとわかったところで、ようやく解放されたミラ。ここまでするような事でもないと思いつつも、どことなく感じられる三神達の温かみに、ほっこり笑うのだった。