軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

647 護る力

六百四十七

島全体に広がった軍勢──残り七百弱からなる灰騎士達は、次の作戦のために動いていた。隊長であったヴァルキリー姉妹とヘムドール、四聖将らの元を離れてミラの指揮下に入り一個の軍として集まった。

そして準備が完了したら作戦が始まる。軍勢は大きな波となって、一気に魔王へと襲いかかっていったのだ。

「なんかもう、冷や汗ばっかり出るな……」

作戦開始の直前、団員一号の声に従って一斉に距離をとった前衛陣。その直後、雪崩のように押し寄せた灰騎士の群れに背筋を震わせるのはノインだ。

いつかの時代。いつまでも終わらない悪夢のような戦いを強いられた時の事を、その光景から思い出していた。

今はそれを見守る立場だが、強く心に刻まれた記憶、そして感情というのは簡単に消せるものではないのだと実感し、ひたすらに苦笑する。

「にしても、これでどうするんだ?」

次から次へと向かっていく灰騎士。その迫力は凄まじく、個々の戦力に物量まで伴ったそれは戦況を大きく動かせるだけの力を秘めているものだった。

とはいえ絶対的な個が相手である今は、そう簡単に押し切れるものでもない。前後左右どこから襲いかかろうとも次から次へと砕かれていく。しかも黒い闇が膨らみ破裂したかと思えば、途端に数十の灰騎士が消滅する。

その様子を前にゴットフリートは、ただ軍勢を消費しているだけにしか見えないと疑問顔だ。

「さあさあ皆さん、もっともっと下がってくださいですにゃ」

と、ゴットフリートのみならず何人かもそんな疑問を抱いていたところに、再び団員一号が伝令に走る。

軍勢の損耗率から考え、そうかからず前線に戻ると誰もが思っていた。だからこそ、いつでもどうとでも対応出来るくらいの距離で控えていたわけだが、そこから更に離れるようにと促され困惑する一同。

「そろそろですにゃ。残り三割を切ったくらいで、後ろから全力の攻撃支援が飛んで来ますにゃ」

「それを先に言ってくれ!」

「そういうわけかい!」

「相変わらずだな!」

団員一号によって伝えられたその言葉で全てを察したゴットフリート達は、我先にと一目散に逃げ出した。

彼らは、軍勢にそういう利用法もあると知っていた。囮としての役目を果たしつつ敵の足止までも兼ねながら、同時に使い潰してしまっても構わないという鬼畜な運用方法だ。

魔王が灰騎士を相手に無双しているようにも見えるが、それは同時に軍勢の対処を強制させているような状況でもあった。

灰騎士の波状攻撃は、他に気を回させないくらいに緻密で怒涛。軽く薙ぎ払われてしまっているものの、その物量はやはり有効だ。しかも聖剣サンクティアは流石の魔王も警戒対象のようで、その一撃一撃は確実に注意を引けていた。護る力も幾度も使わせている。

と、そうしていよいよ軍勢が残り三割を切ったところだ。

一筋の閃光が奔った直後、魔王の場所を中心に強烈な光が膨れ上がり、鮮烈なまでの爆轟が天地を震わせた。

「また強烈なのが来たな!」

死霊術によってあちらこちらにこっそり掘られた塹壕に滑り込んだゴットフリートは、身を伏せたまま空高くまで上る光の柱を見上げる。その規模と威力を目と肌で感じながら、いい一撃だと笑う。

「ほんと、酷いもんだよ」

ただ、かつての模擬戦で同じ目に遭わされたノインは、爽快な光景となるそれを前に若干引きつっていた。

「どんな感じか──」

これだけ特大の攻撃だったなら、いよいよダメージが通ったのでは。そう期待しながらひょいと顔を覗かせたイドニエド。

その瞬間だった。赤い何かが空を斬り裂くと、今度は戦場が紅蓮に染め上げられたではないか。

「あ……っつ……」

強烈な熱気に晒されて直ぐに顔を引っ込めたイドニエド。その様子を前に皆は、不用意に顔を出すからだとからかい笑う。

そして微かな間を置いてから、今度こそどんな感じかとルドールが確認しようとした矢先。

「おおっ!?」

今度は空を稲光が埋め尽くし、耳をつんざくほどの雷鳴が轟いた。

だが、それでもまだ状況は収まらない。更に砲声が響いたと思えば、次から次へと弾着し爆音やら何やらとけたたましい音が休みなく大気を震わせ続けた。

「──よし、了解した」

後衛陣による全力の攻撃支援が降り注ぐ中、ノイン達は団員一号から今回の攻撃の意図を簡潔に聞かされていた。

この攻撃支援は、カシオペヤが魔王の護る力を封じるために必要なもの。そして、これが成功したら絶好の攻撃チャンスが回ってくる。

その時に最大の攻撃を一気に仕掛けられるよう準備しておいてほしい。というのが、団員一号より伝えられた内容だ。

ここが出しどころだと躊躇なく大魔術を連発する魔術士勢と、アーティファクトで存分に実験するソウルハウル。カグラは研究段階の自爆型式神をここぞとばかりに投入している。

更に聖剣サンクティアの力を解放したアルフィナが無数の光剣の嵐を繰り出せば、クリスティナも特大のクリスティナスラッシュを放つ。

そしてヴァレンティンがこっそりと、白黒青が入り交じった《退魔滅浄炎》という新術を戦場にばら撒いていた。

護る力を止めさせぬよう絶妙に連係しつつも各々が好き勝手に暴れて試す九賢者。息を合わせながらも見た目はまるで合っていないその様子に、他の後衛陣はひたすらに苦笑を浮かべる事しか出来なかった。

「干渉出来ました。このまま封印します!」

攻撃開始から十秒とちょっとが経過したところで、いよいよカシオペヤがそれを掌握した。フォーセシアが秘めた護る力を支配下より隔離するため、魔王の身体に仕掛けてあった術式を起動する。

「よし、今じゃ!」

それを受けてミラが合図を出すと、城門の裏よりアイゼンファルドが飛び上がった。そして間髪を容れずにドラゴンブレスを炸裂させる。

護る力が消えた瞬間、防ぐ事も避ける事も叶わないくらいのタイミングで放たれたドラゴンブレス。大地の一部を抉るほどの一撃は猛烈な衝撃波と爆音を伴い、だからこそ同時にわかりやすい合図にもなった。

「ここだ──!」

「よっしゃ、やってやるぜ!」

表面上のものが豪快に吹き飛んだ戦場の只中。ドラゴンブレスの余波があっという間に過ぎ去ったその直後、塹壕に身を潜めていた前衛陣が一気に飛び出していった。

渦巻いていた爆炎や粉塵はドラゴンブレスによって全て消し飛ばされた今、視界は良好。抉れた大地の真ん中に魔王の姿が確認出来た。

しかも作戦は成功したようだ。ドラゴンブレスの直撃を受けた結果か、魔王の身体には目に見えるほどの傷が刻まれている。

「まずは、一撃──」

「いくネ!」

【仙術・地:金剛斧嶽】

前衛陣の中よりいち早く駆け抜けるのはルヴォラとメイリンだ。目にも留まらぬほどの足捌きで一気に距離を詰めた二人は、その勢いのまま左右に分かれて同時に技を繰り出す。

金剛石の如き硬度をその身に宿し、あらゆるものを打ち砕く破壊特化の一撃だ。

「調子にのるなよ」

メイリンとルヴォラの強襲は、ドラゴンブレスからほんの直後くらいのタイミングだった。だが相応のダメージを受けたはずの魔王は、それでも瞬時に反応する。

酷く冷たい声が小さく響くと、両の目をギラギラと輝かせた魔王が二人の姿を捉えていた。そして二人が振り抜いた脚は、魔王が掲げた両手に掴まれぴたりと止まる。

護る力は使われていない。大岩すらも容易く蹴り砕くそれは、単純な力だけで受け止められてしまったのだ。

直後、魔王の手に力が込められる。するとその指が、みしりと二人の足に食い込み始めた。金剛石の如き強度のそれを、いとも簡単に砕こうというのだ。

刹那、紅蓮に燃え盛る矢が虚空を貫き飛来すると魔王の身体に突き刺さった。

遠方より放たれたハミィの矢。そしてそれは炎を凝縮したもので、たちどころに業火が吹き上がる。

【仙術・地:焔纏装】

その一矢によって魔王の力が僅かに緩んだ時、メイリンとルヴォラは一気に身を翻してその手から逃れると共に、逆巻く業火を集めてその身に纏った。

「もう一度──」

「ここからヨ!」

纏った炎を拳に集束させた二人は、それを魔王の腹に全力で打ち込んだ。

さしもの魔王も態勢を整えきれていない状態では、この連撃に対応出来ない。爆炎が吹き荒れると、その身体が大きく宙に舞った。

「よし、来たか」

そこに上がってくると予想していたのか。宙に張った結界を足場にアシュラオが待ち構えていた。そしてゆっくり、だが力強く踏み込むと黒炎と白炎を宿す二本の剣で一閃する。

解き放たれた黒炎と白炎は、たちどころに魔王の全身を包み込み焼き尽くすように燃え盛る。

「まったく、鬱陶しい!」

しかし数瞬の内に魔王が叫ぶと、その強烈な波動と威圧感が島中に広がり、炎はそのまま掻き消されてしまった。

「ばっちりだな」

僅かだが対応のために動きが止まった魔王。その更に頭上より真っすぐ落下してくるのはゴットフリートだ。位置も角度も完璧だと笑った彼は、手にした特大剣を豪快に振り下ろした。

【破壊剣・天乱明王】

ありったけの闘気をつぎ込んだそれは、正に必殺技と呼ぶに相応しいほどの一撃だった。爆発推進によって一気に加速すると、溢れんばかりのエネルギーを勢いのままに叩きつける。

もはや斬撃とは思えないような爆音が轟き閃光が弾けると地表にまで抜けて亀裂を穿つ。

「どんなもんだ──」

会心の一撃が決まったと自信満々に笑ったゴットフリート。だがここにいる誰もが、一切の間も置かずに追撃へと動く。

とっておきの必殺技だったのに、反応がなくて寂しい。そんな哀愁を目に浮かべながらも特大剣を握りしめたゴットフリートは再び走り出す。

魔王を叩き落したそこでは、熾烈な攻防戦が始まっていた。

「この感じ……消えた──いや、封じられたというのか?」

怒涛の総攻撃を仕掛けていく前衛陣。これをどうにか躱し、受け止める魔王は、けれど回避不可の一撃を二度三度と撃ち込まれては直ぐに再生して状態を保っていた。

そして、そんな戦いの中でいよいよ気づく。護る力の使用が可能になるまでの時間が経ったが、それを上手く扱えない事に。

「そういう、事か……」

ここまで続いた怒涛の連係攻撃。これを護る力に再使用時間があると勘付かれたからだと予想していた魔王は、けれどそうではなかったと理解する。護る力そのものが封じられているからこその攻勢だったと。

完璧な虚を穿った剣が、魔王の腹部を貫く。これにふらりとよろめいたところで、今がチャンスだと前衛陣が一気に構えた。

そこから留まる事なく繰り出される必殺技と奥義の数々。レイド戦での決め手にもなり得る一撃が数十と魔王に叩き込まれていった。

「ぐっ……これでもここまで反撃してくるか」

護る力は封じられている。けれど魔王は、その身に秘めた膨大な力と技、そして能力によって尋常ならざる抵抗を見せつけていた。

必殺技や奥義には攻撃後に隙が出来るものが多々あるのだが、魔王はそれら全てに強烈な反撃で返したのだ。

魔王に深く傷を負わせたが、自らも深い傷を負わされていったわけだ。ゆえに前衛陣の半数ほどが回復のために前線を離れざるを得ない状況となってしまった。

「やはり、そう簡単には勝たせてくれんのぅ」

続々と後退する前衛陣を見守りながら、魔王の底力を痛感するミラ。

セリーネとラブグッドに加えポラトニカとミスズの聖術士チームは、重傷者の治療にかかり切りだ。また人数も多いため、ミラも退避勢のところにペガサスとアスクレピオスを送り込み、治療の支援を任せていた。

「しかし、よう動けるものじゃな」

魔王の反撃による傷は、ちょっと掠っただとか、ちょっと切れた程度のものではなかった。流血具合もそうだが目を覆いたくなるほどの状態だ。

本来ならば痛みで動く事すら出来ないだろう被害ぶりである。けれど、それでも前衛陣が自らの足で撤退してくるのは痛みを誤魔化す薬のお陰だ。

凄そうで奇妙な絵面だなとも思ったミラは、だからこそ余計にゲームだった頃と今の違いを実感し、だからこそ今回の戦いの重要さを改めて思い返す。

ここに生きる全ての者達のため。そう心の中で唱えたミラは魔王の状態を真っすぐに見つめながら、そろそろ出番が近そうだとマナ回復の霊薬をぐいっと飲み干した。

「……ぅぅ、苦い」

とてつもない高級品だがミラの口には合わなかった。

激しい攻防が繰り広げられ仲間達の負傷も蓄積しているが、それは相手も同じ事。前衛陣による怒涛の連係は、確実に魔王を追いつめ始めていた。

限界を迎えたのか、魔王の傷の再生速度に鈍りが見えてきたのだ。

「──これほど、とはな」

あともう一押し。そう誰の目にも映ったところだった。次に踏み込むよりも先に魔王が動いた。この場を震わせるほどのマナが広がったかと思えば周囲に無数の黒い球が浮かび上がり、直後にそれらが周囲へとばら撒かれたのだ。

「こいつは……とっておきって感じだな!」

黒い球の周囲にも何かしらの力場が形成されているようだ。どうにか避けたかと思いきや思わぬ衝撃に見舞われたゴットフリートは、己の左腕を見て驚く。

少し掠めた程度でありながら、強靭な小手にひびが入っていたからだ。

「下がろう!」

更にはあっという間に数名が被弾し、戦闘不能に陥るほどの傷を負った。それを見て迅速に後退の判断を下したノインは、倒れた仲間を護るべく迫る黒い球を大盾で受ける。

大きさからは考えられないほどの衝撃と圧に、少しずつ押し込まれていくノイン。だが仲間の搬送が完了するまでは一歩も引けないと闘気を込める。

ノインの想いに呼応するかのように、大盾が淡い光に包まれる。そしてその光がひときわ眩く輝いた時だ。

大盾に伸し掛かっていた圧が不意に掻き消えた。

「よし……!」

これならば護れる。そう確信したノインは皆の退避が完了するまでの間の殿を務め、黒い球をどうにか防ぎ切る。

ただ、黒い球を防げるのはいいが、今出来る事はそれだけでもあった。

一定の距離まで離れたところで黒い球の追尾は止まり、そのまま魔王を護るかのように漂う。

「何やら厄介な状態になっておるのぅ」

魔王との戦いも終盤。決着のために前線へと出てきたミラは、けれどこのまま直ぐに止めとはいかない状態を前に眉根を寄せる。

直撃を受ければ致命傷にもなり兼ねない黒い球。それが数十と魔王を護るように浮かんでいるため迂闊には踏み込めない。

また、メイリンやルヴォラの仙術に加え遠当ての技を持つ者が遠距離からの攻撃を試したものの黒い球に相殺されてしまった。

とはいえ一定の攻撃を加えれば消滅させる事が出来るとわかり、今は距離を保ったまま囲んだ状態で黒い球を撃ち落とす事に集中している。

「あと少しだったんだけどな。再生までの時間稼ぎか?」

特大剣を担いだまま、落ち着きなく足踏みするゴットフリート。多くの必殺技を編み出している彼だが、どうやら遠距離を攻撃出来る類のものは未開発のようだ。直接叩き込む事こそが一番だという信念があったからこそ、今は何も出来ずに苛立たしげだ。

とはいえ仲間達のお陰で少しずつ黒い球は減ってきていた。

あともう少し減らせば、そのまま突破出来る。そうしたら総攻撃を仕掛けて一気に削り、ミラが止めを刺して勝利だ。

そう誰もが直ぐに動けるよう構えた瞬間だった。

「なんだ!?」

「どういうつもりだ……」

いったいどうしたのか、暫く動かず黙ったままだった魔王が突如として自分自身を斬り裂いたのだ。

錯乱でもしたのか、それとも。驚きと動揺が広がる中、魔王がにたりと笑う。するとその身体から上がった血飛沫が紅蓮の炎に変わり周囲を焼き尽くし始めた。

「もしかして第二形態とかか!?」

容赦なく迫る紅蓮の炎を前に、前衛陣は攻撃を諦めて即座に緊急退避へと移った。

まさか、自傷による範囲攻撃なんて技まで使ってくるとはと、皆が炎に追われながらその場を離れていく。

だが、事はそれだけに終わらなかった。炎の海と化したそこで自ら斬り裂いた傷に手を突っ込んだかと思えば、魔王はそのまま腹をまさぐるように手を動かし、体内から鈍く光る欠片のようなものを取り出したではないか。

「気づきおったな!」

カシオペヤから説明を受けていたからこそ、ミラはそれが何なのか直ぐに理解出来た。そして、だからこそ即座に総攻撃の合図を出した。

今か今かと待機していたクリスティナによる、《特大クリスティナスラッシュ》だ。更に続き、アルフィナによる無数の光剣爆撃が炸裂する。

そしてペガサスの雷が落ちると、トゥインクルパムによる《プリズムレイ》が降り注いだ。

それでも、まだ終わらない。アイゼンファルドのドラゴンブレスをもう一撃お見舞いしつつ、ミラは止めの一撃を決めるために完全武装召喚を纏い最前線で構えた。

「ぬぅ……間に合わんかったか」

圧倒的な破壊の後、全ての黒い球と炎の海は消し飛んだが、魔王の姿は先ほどと一切変わらぬ状態でそこにあった。

否、一つだけ変わっている。それは、魔王を護るように包んでいる光の膜の存在だ。

これまでとは比べ物にならないほどにはっきりと見えるそれは、だからこそ見ただけでその強固さが理解出来るものでもあった。

そう、フォーセシアが持つ護る力だ。魔王が体から抜き取ったのは、カシオペヤが仕込んだ魔法の核となるもの。つまり、守る力を封印するために必要なものだった。

どうやら魔王は戦いの最中で、その存在に気づいたようだ。だからこそ自傷までして、その封印を打ち破ったわけだ。

「にしてもこれは、どうしたらいいんだ?」

ゴットフリートが、もどかしげに呟く。

状況は、ただ魔王が護る力を取り戻しただけではなかった。どうやら、その力の使い方には別のものもあったようだ。

今の魔王は、前衛陣達による攻撃に加え自傷も含め瀕死の状態だった。護る力を展開したまま、死んだようにその場に蹲り微動だにしない。完全に弱りきっていると見ただけで判断出来た。

後はもう、一撃で決着という場面と言ってもいいだろう。

ゆえに皆でこれを突破しようと攻撃を始めたわけだが、その強固さはこれまで以上に圧倒的だった。

誰がどれほどの一撃を撃ち込もうとも揺るがず、術の類も全てが無効化されてしまっていた。もはや無敵といっても過言ではない。

「このままだと、かなり厳しいな」

完全防御形態とでもいうべきか。こうなった魔王を前に焦りを浮かべるのはノインだ。

この状態では魔王も何も出来ないようで、反撃してくる素振りや様子もない。だが同時に、こちらからも一切手が出せない。

いうなれば時間稼ぎをしているだけにも思えるが、時間経過と共にこちらが不利になっていくのは明らかだった。

原因は、魔王が持つ再生能力だ。先ほどまでの緻密な連係攻撃によって大いに消耗を強いた結果、その能力も極限まで効率が落ちている。

だが、失われたわけではない。ゆえに今、微かではあるが再生が始まっていた。

完全な体に持ち直すまで、かなりの時間がかかるだろう。けれどこのまま手が出せないでいたら、それこそ時間の問題である。

「どうしたものでござろうな」

この状況を前に何も出来なくなったのか。表に出てきたサイゾーは、この戦いの先を憂う。

つまり、護る力をどうにか出来なければ、これから更にどれだけ戦い追い詰める事が出来ても、こうして守りに入られ全快してしまう事になるわけだ。

終わらない戦いの始まりである。

「ここで仕留めきれないと厳しいが──……今の手札でどうにか出来る気がしないねぇ」

「──だな、これは……無理だ」

相手は動かない標的とあってアルトヴィードとローザンが、これまで以上の一撃を打ち込んだ。

技の集大成と言えるほどの斬撃が閃くも、その全ては護る力によって虚しく弾かれてしまう。

「物理も術も通じないとは、もう……なんだ。後は何をしたらいいのだろうか」

散々叩き込んでから、くたびれた様子で戻ってきたルヴォラは、この状態では手も足も出ないぞと唸る。

そうして誰も彼もが出来る限りを試したところだ。幾つもの期待の目がミラと、そしてソウルハウルに向けられた。

はっきりと言葉に出したりはしない。けれど皆は、現状を打破出来る可能性を秘めたものがある事を知っていた。

そう、ミラとソウルハウルが持つ超兵器、三神の神器だ。魔王を守るのがどれだけ強力な力であろうと、三神の力に勝るものはない。魔王が瀕死の今、それを使えば守りを貫いて決着までいけるはずだ。

「いや、あれは……まだ、じゃないかな」

期待が膨らむ中で異を唱えたのはノインだった。彼は静かにその目で語る。どこにどのような目があるかわからないままの今、魔物を統べる神に対抗するための神器の全容を、この場でお披露目するべきではない気がすると。

「まあ、そうか。ならば、どうする?」

極めて強力な神器ゆえ、その影響も大きい。一度使えば間違いなく敵側に情報が伝わるはずだ。だからこそ骸の処理のためにミラは神域まで赴いているのだ。

決戦の最終兵器を使うには早計か。そう誰もが納得するも、このままではじり貧だと告げるイドニエド。闘い続けたところで、追い詰めても完全防御からの全回復なんて事を繰り返されたら勝ち目がない。もはやただのクソゲーだと称する。

「いっそこのまま封印してしまうっていう手も、あるにはあるよ」

「こっちも時間稼ぎだけどね」

「けどその時間で対処法を用意出来れば、次は確実に終わらせられるかと」

どうしたものかと話し合っていたところだ。アンドロメダとカグラ、そしてヴァレンティンが巨城より駆け付けてきた。

後衛陣の方でも色々な策を話し合っていたようだ。そして、これが一番無難で確実だと決まったのが一時的に封印してしまうという策だった。

「なるほど、いいかもしれない」

これに直ぐ賛成の意を示したのはノインだ。倒しきれなかったものの、魔王の力と技については十分に把握出来た。そして稼いだ時間で護る力の研究を進め、効率よく無効化する方法が解明出来れば今回よりも安定して戦えるはずだというのが賛成ポイントだ。

「やや不安は残るけど、現状を見るとそれしかないかもだねぇ」

アルトヴィードもまた、それも選択肢の一つだと同意する。こちらの準備が整うまでの間、魔王が大人しく封印されていてくれるかが問題だが、それさえクリア出来れば十分な手段であると。

「まあ、仕方がないか」

「うー……わかったネ」

散々試したが、魔王の守りを突破する事は出来なかった。ゴットフリートとメイリンは手も足も出ないままにしておきたくないと思う一方で、破れるまで試したいなどとわがままを言える状況でもないと理解しているようだ。

ただ諦めきれないという顔で数発ほど必殺技を叩き込んでは、がっくり項垂れながら下がっていった。

「それじゃあ、準備から始めよう。この島を丸ごと使って封印するから、各地点にこの封印杭を──」

今回は見送って次の戦いで勝利すればいい。その時は確実に倒せるよう、今以上に準備を整えよう。

そのように話はまとまり、では封印のために大きな基礎を構築していこう──と、皆で役割を決め始めたところだった。

「その前に一つ。最後に試してみたいものがあるのじゃが、よいかのぅ?」

これまで考え込んだまま黙っていたミラが、ふとそんな事を口にしたのだ。挑戦的な目つきのミラは、それこそこれまでの戦いの中でも一番の輝きを宿らせていた。