軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

603 変身ベルト

六百三

襲撃のあった次の日。リーズレインの協力で神器のチャージを素早く終わらせたミラは、残りの時間を研究所にて自由に過ごしていた。

ミケ達技術班は昨日から防衛システムの更新作業で、てんやわんやだ。何か頼めるような状態ではない。また、そのように更新中であるため、今はミラ達を筆頭とした戦闘要員達が防衛の要となっている。

いつまた悪魔達の襲撃があるかわからない。ゆえに、各国より援軍が到着するまでの間は防衛戦力としての待機だ。

「おお、なんと遂に出来たのじゃな! それでどんな感じになった!? はようはよう!」

そうした中、ミラは所長室で大はしゃぎしていた。それというのも、時は以前に研究所を訪れた頃にまで遡る。

当時、ひょんな事から実験的ながらも最上級を目指せる素晴らしいローブを仕立ててくれると約束してくれたオリヒメ。そして今、そのオリヒメ渾身の作となるミラ専用ローブが完成したというのだ。

裁縫職人として、彼女を超える者はいないとされるオリヒメの特別製だ。期待しないわけがない。

「はい、これ。折角だから、使ってみせてよ」

「これはまた……何じゃろう」

テンション急上昇中のミラに手渡されたのは、何故か普通の革ベルトだった。

ただ困惑するミラをよそに、オリヒメは「ほらほら、腰に巻いちゃって」と着用を促してくる。

どういうつもりなのだろうか。わけがわからないが、ミラは言われるままにベルトを腰に巻いてみせた。

「じゃあ次は、そのバックルのボタンを押してみて」

更にそう続けるオリヒメ。と、ここまできたところでミラの脳裏にちょっとした予感が過ぎった。

「実験的な特製ローブ、そしてベルト……。もしやこれは!?」

もしかして、あれなのか。ラストラーダが一番喜びそうなあれなのか。ここまでの流れから、その可能性に辿り着いたミラは更に期待を込めた目でオリヒメを見やる。

オリヒメは不敵な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと頷いた。

「おお! また面白そうなものを!」

男の子ならば誰もが憧れる、あの変身ベルトが遂に。そう確信したミラは、「変身!」と叫びながらスタイリッシュにバックルのボタンを押した。

眩い光に包まれた直後、ミラは肌の上で何かが起きているのを感じていた。そっと消えるような感触と、そっと何かに包まれるような感触だ。

「お、ばっちり大成功だ」

光が収まったところで一番に声を上げたのは、オリヒメだった。どうやら彼女の思い描いていた通りになったようで、実に満足そうな顔をしている。

「うむうむ、まったく違和感はないのぅ。して、どう変身したんじゃ!?」

まずは着心地を確かめたミラは、動きやすいのみならず身体まで軽く感じる出来栄えに感心する。そして続けて壁側の姿見で全身を確認したところ──。

「な……なんじゃこれはー!?」

ミラは、大きく目を見開きながら絶叫した。なぜならその姿見には、これでもかというくらいに完璧なプリピュアに変身した自分が映っていたからだ。

そう、プリピュアである。女の子のみならず大きなお兄さんにも大人気な、あの戦うヒロインの衣装が完璧に仕上がっていたのだ。

ベルトで変身といえばライダーだろうと思い込んでいたミラは、まさかのプリピュアに悶絶する。

こんなフリフリでピュアピュアな可愛らしい衣装であるとわかっていたら着ていなかった。着るつもりも予定もなかった。何よりこの路線に踏み込んだら戻れなくなりそうな気がすると思っていたミラに、突如として突きつけられたハイクオリティプリピュアである。

「うんうん、やっぱり思った通りばっちり似合っているよ!」

だがオリヒメにしてみれば、どちらかと言わずとも実験的な側面が強いのだろう。ここまで成功したら完全版も直ぐだと大喜びでミラの写真を資料用に撮影していた。

「ぐぬぬ……なぜこんな事に」

この一線だけは越えたくなかった。そう悔やむミラだが、姿見で自分を見ると否が応でも思い知らされる。

「わし、似合い過ぎ」

そう、オリヒメの言葉は、お世辞でもなんでもない。事実、ミラとプリピュアの相性は抜群なのだ。

新しい扉を開いてしまいそうになる。だからこそ、この路線を避けていたミラだったが、こうなってしまってはもう遅い。

(まあ、いざという時の変装代わりに使えるかも、じゃな)

既にちょっと気に入りつつある、ミラ。ただそこで、ふとした違和感に気づく。

「何やらちょいと、すーすーするのじゃが」

どうにもいつもより、ずっと開放感があるような。そんな感覚を覚えたミラは、その際たる部分であるスカートの中を確認するべく手を伸ばす。

ぺろりと捲りあげたスカートの下には、何もなかった。

「パンツが消えておるのじゃが!?」

まさかの事態に、流石のミラも慌てて抗議する。変身前までは確かに穿いていたパンツが、変身後の今は影も形もなくなっているのだ。慌てるのも当然の現象である。

「え? あれ!? あ、もしかして──!」

するとデータ取りに夢中になっていたオリヒメも、これには驚き手を止めた。変身したら、まさかのノーパン化である。これは流石に大問題だ。

だが、その原因は直ぐに解明された。

「ごめんごめん、セットしておくの忘れちゃってた」

今回開発した変身ベルトは、アイテムボックスの機能の一部を流用しているそうだ。

ゆえに今着ている服とプリピュアの服を交換する仕組みなのだが、下着の変換分をセットしていなかったという。

「なんか、どこで知ったのか。是非とも提供したいってのがいてね。ちょっとまあ……あれだったんだけど、試作品の性能が抜群だったから採用したわけ」

オリヒメいわく、変身分の下着については汎用的な普通の下着にするつもりだったらしい。けれど、ミラのためにこれをと持ち込まれたものが、また非常に完成度の高い代物だったそうだ。

その納品が最近だったため、ベルトに収納しておくのを忘れていたとオリヒメは言う。

と、そんな言葉と共に彼女が持ってきたそれは、実にわかりやすいブツだった。

「あいつら……じゃな」

まるで下着のような防具。そう、それは下着のように仕上げられたビキニアーマーであった。

ミラ用のプリピュア衣装が完成した。オリヒメ渾身の衣装に加え、執念の込められたビキニアーマーの性能まで加わったため、現時点においていえばミラが所有する装備として賢者のローブにも匹敵するほどの性能を秘めたものとなった。

しかも賢者のローブが後衛寄りの性能に対して、こちらは近接戦における強化度が高い。

不本意ながらも、いざという時は頼りとなる一着になったわけだ。

「とりあえずは、あ奴らには知られないようにしなければのぅ」

性能はともかく、これを一部の仲間──主にカグラやルミナリア、ラストラーダ、ソロモンあたりに知られたら面倒そうだ。

ちなみにオリヒメの新作がプリピュア衣装になったのは、大陸での最近の流行を取り入れた結果らしい。

どうやらニルヴァーナ王国にて、メイリン扮するプリピュアが優勝した件が今でもまだ──というよりは、それこそ一大ブームとなって大陸全土に広まっているようだ。

しかもその流行を知った元プレイヤー達が、知っている知識で色々なパターンを生み出していくものだから大変だ。

今は、そのカスタマイズ性の高さも相まってバリエーションも豊富となり、多くのファンを獲得しているという。

そうして思わぬ変身アイテムを手に入れたミラは、所長室を後にしてからのんびりと時間を過ごした。

それから翌日の朝。ミケ達は夜通し作業していたようで、早朝には新たな防衛システムが無事に稼働し始めたそうだ。

食堂では、徹夜で気分がハイになっている技術者達が朝から騒いでいた。そんな彼らが口々に話す内容からすると、ミケが自信満々に言っていただけあり、防衛システムはかなりのパワーアップを遂げたようだ。

たとえ公爵級が攻めてこようとも、十分な援軍が到着するまで耐えられるはずだと絶賛である。

なお、これからひと眠りした後に、今度は内殻の防衛システムの構築作業が始まるとの事だ。

(お疲れ様じゃな)

のんびりと朝食を堪能しながら、ミラは技術者達の頑張りを労う。

そうして食事も終えたら、今日も防衛戦力として待機だ。とはいえ、ただじっとしているわけでもない。研究だなんだと、やれる事は沢山ある。しかもこの研究所は、実験場としてもなかなかに優秀だ。

ゆえにミラは待っている間に、見学したり実験したりで思う存分に時間を費やした。

そしてその日の夜には、各国からの援軍も到着だ。しかもミラ達の骸調査隊に加わるカグラとソウルハウル、そしてノインとも合流だ。

宇宙技研の組み立て場にある、アンドロメダの決戦対策拠点。そこにチーム全員で集まり、これからの作戦会議が始まった。

「久しぶりじゃな。頼りにしておるぞ!」

「あ、ああ。任せてくれ」

ノインとは武闘大会以来であるため、随分と久しぶりだ。というわけで挨拶をしたが、ノインも相変わらずのようだ。むしろ随分会えていなかったとあってか、余計に意識してしまっているのだろう。ノインの顔には、緊張が浮かんでいた。

しかしそれも束の間。同時に葛藤する彼の表情といったら複雑怪奇なものであった。

「うんうん、とても頼りがいのありそうな面子が揃ったものだね!」

ミラとヴァレンティン、ハミィにカグラ、ソウルハウル、そしてノイン。チームの顔合わせが済んだところで、アンドロメダは満足そうに笑う。

骸調査チームは少数精鋭。各自が特徴的な長所を有するものばかりだ。これならきっとうまくいく。アンドロメダのみならず、ミラ達もまたそんな確信を胸に抱く。

だが、その内の一人はそうでもないようだ。

「また前衛が少ないんだが!?」

そう嘆くのは、チームの重要な盾役となるノインだ。ここにいるメンバー全員を見回した彼は、むしろ完全な前衛が自分だけで愕然とする。

「まあまあ、そこはあれだよ君。いいとこ見せるチャンスってやつだ。それと、私も頑張るからさ」

ノインの様子から、前にも似たような事があったのだろうと察したアンドロメダは、そう慰めの言葉をかける。彼女もまた前衛専門とは言わずまでも、状況によっては守り重視で動く事も出来るそうだ。

「そういう事でしたら……」

「何じゃ何じゃ、そこでどーんと、全部守ってやるから安心しろと言えんのかー?」

何かと前衛の数を気にする事の多いノインだが、盾役としての彼の凄さはミラ達全員が知っている。だからこそもあってか自信なさげなノインに野次を飛ばすミラ。

対してノインは、『この小娘が』とでもいった顔でミラを睨む。だが直後には、その小生意気そうに笑う表情にさえドキリとしてしまうものだから大変だ。

「俺の前に出ない限りは、守ってやる!」

だからこそか、その感情を振り払うように叫んだノイン。すると全員から「さっすがー」と声が上がる。

勢いのまま言ってしまったと苦笑するノインだが、それでいて覚悟も決まったようだ。ここにいる全員と、何よりミラに向けられたその目には、これまで以上の気迫が浮かんでいた。

しかも、それだけに止まらない。ノインのみならず、ミラ達のテンションまで一気に盛り上がるような言葉がアンドロメダより告げられる。

「いいねいいね。素晴らしい心意気だ。ただ少数精鋭とはいえ、相手も相応に精鋭揃いだろうからね。こちらの戦力を更に強化するために、これから皆で三神の宝物庫に行こうか」

三神の宝物庫で戦力強化。その言葉を耳にして平静なままでいられる者など、はたして存在するだろうか。

少なくともミラ達の中にはいなかった。その話の流れからして、つまり三神秘蔵の武具などが貰えるという事かと直ぐ解釈したミラ達は、それはもう大盛り上がりだ。

覚悟を決めて頼り甲斐の増したノインの事など秒で忘れて、宝物庫に夢中である。

気分としては複雑なノインではあるが、彼もまた宝物庫という響きには抗えないようだ。その表情はミラ達のそれと大差なかった。

「それじゃあ、ちょっと持ってくるとしようかな」

実に分かりやすくて面白い反応だ。素直なミラ達の様子を楽しげに眺めたアンドロメダは、そう言ってどこかに駆けていった。

(はて、何を持ってくるというのじゃろうか?)

これから宝物庫に行こうという話だ。けれどアンドロメダは、『行こう』ではなく『持ってくる』と言っていた。はたして、それはどういう意味なのだろうか。

彼女が駆けていった方向からして、ゲートに向かったと予想出来る。とするとアンドロメダと初めて出会ったあの場所に、その宝物庫の鍵か何かが保管されていたのかもしれない。

つまりは、それを持ってくるというわけだ。

そう解釈したミラは、同時に思う。

アンドロメダがいたあの場所も、かなりの謎に満ちたところだ。だからこそ、いつか思いっきり見学してみたいものだと。