軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

588 骸の処理方法

五百八十八

日之本委員会の研究所に到着したミラ達は、宇宙科学技術研究開発部の奥にある組み立て場の隅っこにやって来ていた。そこの特別作戦室にいるアンドロメダに骸の状態を確認してもらうためだ。

「やあやあ、いらっしゃい。と、そちらの二人は初めましてだね。私は、アンドロメダ。何を隠そう、天魔族のアンドロメダだよ!」

声をかけるより先に気づいていたようだ。ミラ達が来訪すると共にコンテナ作戦室から飛び出してきたアンドロメダは、そんな言葉と共にポーズを決める。しかも、どこから調達したのか、それとも誰かが面白がって作ったのか、宇宙船の艦長の如き衣装を纏う彼女の姿は思った以上に様になっていた。

「初めましてっ。皆のアイドル、ハミィだよ!」

キャラクター性はともあれ、極めて洗練されたアンドロメダの美貌に対抗心を燃やしたのだろう。キラリンといった擬音が幻視されるくらいに決め返すのは、可愛い子ぶりっ子なハミィだ。

と、そんなハミィとは違い、尚且つ以前のミラともまた違う反応を示す者がいた。

「え、天魔族ですか!?」

ヴァレンティンだ。何よりも一番初めに、アンドロメダが強調したそこに反応して彼女の頭に目を向けたのだ。

直後、アンドロメダの顔に満面な笑みが浮かんだ。

「そう、そうだよ天魔族なんだよ! いいよ、とってもいいね。知ってるって顔だ! それで今、私の頭を見たね。でも角がないから確証が得られなかったって感じ出してたよね!? ほら、これでどうだい。角、あるよ。どうだい!?」

初めての邂逅で、いまいちピンときていなかったミラの態度を今でもまだ引きずっているようだ。しかも初対面のハミィなど逆に主張までしていた。だからこそアンドロメダにとってヴァレンティンの反応は、それこそ待ちに待ったものだったのだ。

もうあっという間に気に入ったのか、頭の角を見せたり隠したりして、とても嬉しそうだ。

「わかりました、もう十分にわかりましたから!」

いったい何がどうしてアンドロメダは、ここまで必死に天魔族を強調して絡んでくるのか。当然ながら以前の出来事をまったく把握していないヴァレンティンにとっては謎でしかない。

それでいてドキリとするほどの女性に容赦なく迫られるというのだから、ますます反応に困っていた。

結果としては、何か必死な天魔族という印象だけが強く胸に刻まれてしまったようだ。

とにもかくにも簡単に自己紹介を終えた後は、そのまま今回の一番の用件について触れていった。

「なるほど、右腕か。頭じゃないのは残念だけど、頭だったら間違いなく面倒になっていたから丁度いいのかもしれないね」

コンテナ基地の一室にて、黒い袋から取り出した骸をじっくりと確認したアンドロメダは、まあ無難な結果だと頷く。

いわく、魔物を統べる神の復活において最も重要なのは、やはり頭部だそうだ。ゆえに今回、悪魔側から回収出来たのが頭部だったならば、かなり優位に立てたはず。

とはいえ、もしも頭部だった場合は当然それだけ管理も厳重になる。ここに来る前に戦争規模の戦いでも起きていたかもしれないとの事だ。

だからこそ今後の作戦を考える点からみれば、右腕というのは、これがなかなか丁度いいとアンドロメダは不敵に微笑む。

「前に話したそれとはちょいと予定が変わったが、状態はどうじゃろうか」

以前、魔物を統べる神の骸を消滅させられるかどうかという件について、相談した事があった。それに対するアンドロメダの返答は、実際に骸の状態を確認してみなければ判断出来ないというものだった。

その際、例に出したのはロア・ロガスティア大聖堂に預けられた分だったのだが今回はまた別の骸である。

とはいえ、そこまで大きな差はないだろうと、ミラは期待を込めてアンドロメダの分析を待つ。

「うんうん、これは……思った以上かもしれないね。封印の効果が計算よりも高く出たのかな。予想していた数値よりもずっと弱体化しているね」

色々な機材を利用し、あーだこーだと解析する事十数分。そう結果を告げたアンドロメダは、これは吉報といっても過言ではないと断言した。

しかもそれだけでは終わらない。更に希望のある言葉を続けた。

「この状態なら、神器の力で間違いなく完全消滅させる事が出来そうだね」

アンドロメダが言うに、ここにある弱体化した状態の骸ならば、確かに十分な可能性はあるという。

細かい調整など色々な準備は必要になるものの、これを個別に消滅させる事が出来そうだとアンドロメダの声も弾んでいた。

「復活前に消しちゃえるってわけかぁ。いいね、それ! あ、って事はさ。こんな感じで全部見つけて一つずつ消していったら復活も阻止出来ちゃうって事?」

悪魔達が狙っているのは、魔物を統べる神の復活。だが今回のようにその骸を先に入手して消滅させていけば復活そのものを根本から潰してしまう事が出来るのではないか。そうハミィは希望を覗かせる。

「そう出来たらよかったんだけど、それが難しいんだよね──」

対するアンドロメダの答えは、思った以上に複雑な状況だった。

アンドロメダが言うに、魔物を統べる神の骸というのは、かなり特殊な状態にあるという。

まず胴体と両手両足だが、これにはかの者の神としての力が封じ込まれているそうだ。

ゆえに、予めこれらを消滅させる事が出来れば、復活した際の力を大きく削れるとの事。

だが肝心の頭部はというと、更に面倒な状態にあるらしい。

「言ってみれば、ただの器でしかない。そして本来あるべき中身──魔物を統べる神の悪意や憎悪、意思というのは、今この大陸中に散らばっていて闇の中深くに潜んでいる状態さ。だから器だけを壊しても、根本的な解決にはならない。それどころか、どこにあるのかわからない不安の種を残したまま時が進んでいくという事になる。そして将来、これらは間違いなく芽吹き、世界を混沌に陥れるだろう。だからそれらを再び一つに集束させるって意味も込めて器となる頭部は残しておかなきゃいけない。そしてかの者の復活も、不安のない未来を切り開くために必要なわけなんだ」

つまり、散らばっている器の中身を戻すためにも魔物を統べる神の復活というのは避けられないものだという。

よって今するべきなのは、その復活までの時間を出来るだけ引き延ばし、十分な対抗策を用意するという事だけだった。

「つまりは、あれじゃな。とりあえず頭だけ残して、あとは消してしまえばよいという事か」

「うん、そうだね。頭以外には面倒な力がふんだんに残されているから、これを先に消せたらかなり有利になるはずさ」

魔物を統べる神の骸について、これから何をするべきなのか。色々と聞き終えたところでミラがざっくりまとめたところ、アンドロメダはその通りだと力強く頷いた。

とはいえ、やはりと言うべきか、そう簡単に済ませられる事ではない。

「というわけで、是非とも試してみたいところだけど、まあここから先が問題だね──」

一転、アンドロメダは椅子の背もたれに身体を預けながら、骸を消滅させるためにクリアしなければいけない問題点を挙げていった。

まず一つ目は、神器のチャージについてだ。

とはいえこちらについては、そこまで大きな問題というわけではない。三神国を巡るというのはかなりの手間ではあるものの、ミラの場合は実行における障害が特にないからだ。

精霊王の後ろ盾によって、理由さえ話せば教会の重要な場所であろうと入り放題。加えて事情が事情であるため、リーズレインも十分に助力してくれるはずだ。

よってこの問題は、ミラだからこそ既にクリア済みになるわけだ。

「他にも色々あるけど、そのうちの大半はこちらである程度は都合が付けられそうだからいいとして。じゃあ、次が一番の問題だ──」

魔物を統べる神の骸を消し去るために必要な事。細かい部分についてはアンドロメダが対応してくれるそうだが、それでも一つだけとびきりの問題が残っていた。

それは、神器の力そのものだ。

神器より放たれる力は圧倒的。使用するためには、霊脈を利用した安全装置の起動が必要になる。ただそれは、大陸規模にも及ぶ大掛かりな仕掛けだ。ゆえにこれを一度でも使えば、当然敵側に知られる事になる。

そして調べられれば、魔物を統べる神に対抗するための神器があるという事実に辿り着くだろう。

そうなると間違いなくその対抗手段を講じてくるのは確実。特にどういった神器なのかを分析されれば、より有効な対抗手段を用意出来るものだ。

「この決戦用の神器は、唯一の対抗手段であり切り札でもあるからね。しかもこれに対して向こう側がどう対応してくるかわからないとなったら、かなり不利になる。出来る事なら、こちら側の手札を晒すのは避けたいところさ」

魔物を統べる神の骸を一部でも消滅させておければ、いずれ訪れる復活の際に、大きく、そして確実に敵を弱体化させる事が出来る。

だがそれを実行すると、同時に神器の存在が敵側に知られてしまう。

「一応、代わりの方法も色々と用意はしてあるよ」

来たるべき決戦に備え、アンドロメダ達もこれまでに色々な方法を用意していたらしい。

その一つに、特別な術式があった。

これを骸に施しておき、いざ復活して一つになった時、その術式が起動。本体に直接、強力な弱体化の魔法を流し込むという仕組みだ。

「遥か太古の時代より、復活の時が来るとわかっていたからね。だからこそ多くの準備をしてきたものさ。とはいえ相手は、どうにも得体が知れない。そのどれもが実際に試してみなければ通用するかもわからないものばかりだ。けれど、今回新たに浮かんだこの方法。先に骸の一部を消滅させる事が出来たら、これは確実な弱体化に繋がる。その効果だけを考えるなら、是非とも実行したい一手だ」

アンドロメダは言う。出来る事ならば、不明瞭な策よりも確実な効果がある方を実行したいと。

けれどそのためには、あまりにもリスクが大きい。

「ふーむ、一先ずはあれじゃな。一度、最も理想的な形がどういったものか考えてみようではないか」

問題があるのは仕方がない。けれど、その問題の解決が出来るのならそれに越した事はない。

ゆえにミラは、一番理想的な状態にするために必要なものはなんなのかを並べてみようと提案した。そこから可能性を探っていこうというわけだ。

「聞いた感じですと、一番はまず頭部以外を消滅させてしまう、ですよね」

「まあ、そうだね。簡単に言ってしまうのなら、そういう事さ」

目指すべき一番の理想についてヴァレンティンが口にすると、アンドロメダもその通りだと頷く。

切り札は隠したまま、魔物を統べる神を確実に弱体化させる事が出来れば、極めて有利な状況が生まれるだろう。

「で、次は、その理想を妨げる問題が何かだ」

続きアンドロメダが理想の実現に必要な条件を挙げていく。

まず、骸の処理には例外なく神器が必須である事。

かの者の骸は、極めて異質。いったいどういった仕組みなのか、当時はどのような手段をもってしても消滅させる事が出来なかったという代物だ。天使に悪魔、精霊王や始祖精霊のみならず古代最強の皇竜も含め、多くの強者が試したが、どれも完全な消滅にまでは至らなかった。

三神を含む大陸中の神々の力を以てして、ようやく、それぞれの部位に切断出来たというのが限界だ。

そしてその事実を踏まえ、骸から得られたデータをもとに研究を進め開発されたのが、ミラとソウルハウルの手にした神器だという。

とはいえ、その神器を使うためには、霊脈を利用したサポートシステムが必要。けれどそれは大陸規模で稼働するため、一度でも起動すれば敵側に察知されてしまう。

「ふーむ……静寂の力で隠蔽するという手も考えたが、こればかりは扱うエネルギー量と規模が尋常ではないからのぅ。流石に不可能なようじゃ」

精霊王伝いでワーズランベールに聞いてみたが、やはり隠しきれるようなものではないそうだ。

「つまり、そのサポートなしで神器が使えれば解決ってわけだね」

これまでの話の流れから、だいたいの事情は把握したのか。ハミィが、そこから導かれた一つの理想を挙げる。

「まあ、その通りじゃ。しかし三神の力を束ねた神器じゃからのぅ。相応のサポートがなければ扱えるはずもないじゃろう」

それが出来れば、何の苦労もないと苦笑交じりに答えるミラ。特に何といっても、神器を使うのは自分だ。ならばこそ、安全第一であってほしいと願うのは当然である。

「でも君なら、結構どうにか出来そうな気もするけど。精霊王さんに加えて、アイゼン君とかヴァルキリーちゃん達とかいっぱいいるじゃん。そんな皆の力を合わせてさ。絆の力で、どりゃー! って感じの、よくあるよね」

「いやいや、確かに皆優秀じゃが、今回ばかりは危険が勝る。そんな危ない事をさせるわけにはいかん」

ミラとハミィは、そのように理想と現実を突き合わせながら、それを成せる方法はないのかと意見をぶつけ合う。その隣ではヴァレンティンも、結界で何か出来ないかと思案している様子だ。

と、そうした中、ミラ達が交わす意見を聞きながらじっと考え込んでいたアンドロメダが、ひょんな事を言い出した。

「まだ可能性ってだけだけど、もしかしたら出来そうな場所が一つあるかも」

その顔には、まだ確信が浮かんでいない。また実現可能かどうかについても、これから検証する必要があるそうだ。ただアンドロメダは、理想の条件を満たせそうな場所を思い付いたらしい。

「おお! それはいったいどこじゃ!?」

「いいじゃんいいじゃん。早速確認してみようよ!」

「ですね。そのような場所があるのでしたら是非とも調べてみましょう」

かなり難度の高い条件ながら、それを満たせる場所があるなどとは俄かに信じられないような事だ。けれど随分と神妙なアンドロメダの言とあってか、三人はその可能性に喰いついた。

はたして、アンドロメダが思い付いたという場所はどこなのか。そう期待するミラ達を前に、アンドロメダは口を開く。

「神域さ。三神が住まうあの場所なら、全ての条件を満たせるはずだよ──」

神域。それは、祭の境界の更に向こう。死の領域をも越えた遠くに存在する場所であると、アンドロメダは告げた。

「でも、当然だけど簡単に行ける場所じゃないからね。試すだけにしても、色々な準備が必要だ」

とはいえ今はまだ思い付いただけで、それ自体が可能かどうかもまだわからないという状態だそうだ。

「神域……って、なんか伝説的なお話でしか聞いた事ないけど、あの神域……?」

「一気にそこまで行きますか……」

神域といえば、もはや神そのものにも匹敵するほどの場所だ。ゆえに流石のハミィもその顔に驚きを浮かべるが、あまりピンとはきていない様子だ。そしてヴァレンティンはというと、その飛躍振りに少し気後れ気味である。

「ふむ、神域か。つまりあの場所じゃな」

三神がいるという神域。それがどこかという事について、ミラは以前に精霊王がぽろりと口にした事を覚えていた。

そう、月だ。

なんとなく思い出しては、何気なく見上げるような仕草で呟いたミラ。

「え? もしかしてミラさん、わかっちゃってる!?」

そんなミラの言動と仕草に驚いたのは、アンドロメダだった。

実際、三神のいる神域が月にあるというのは世界レベルの機密事項。それこそ三神や天魔族に精霊王と始祖精霊クラスのみしか把握していないような、極めて重大な秘密だった。

だからこそアンドロメダの反応には、微かな脅威が交じっていた。

「あー、以前にちょろっと精霊王殿が口を滑らせておってのぅ。知ってしまった形じゃな」

ゆえにミラは変な疑いを掛けられたりするより早く、その経緯を暴露した。

『ミラ殿!?』

一切の躊躇いもなく告げ口された精霊王は、そのあまりの無慈悲さに慌てて声を上げる。

けれども既に事実は全て伝えられた後だ。

「精霊王さん……」

アンドロメダは非常に冷たい目で、ミラの目の奥にいる精霊王を睨みつけた。そういう事を告げるには相応しい時と場所があるものだと。

『すまなかった……』

「すまなかった、と言うておるぞ」

少し小さく聞こえたその声からは、しゅんと肩を縮こませた精霊王の姿が浮かぶようだった。

「で、どこなの!?」

精霊王の残念感が増していく中、そんな空気をものともせずに好奇心のみを輝かせているのはハミィだ。それで神域とはどこにあるのかと、ド直球な質問を投げつけてくる。

「それはまだ言えないかな」

ミラの件は完全にイレギュラーであり、本来はまだその時ではない。ゆえにアンドロメダが苦笑気味にはぐらかしたところ──。

「えー、でもミラちゃんは知ってるんでしょー? ずるいー!」

そうハミィは、頬を膨らませた。

ただ重大な秘密というだけならば、ある程度は線引きも出来ただろう。けれど偶然とはいえ、ここにそれを知るミラがいるとあって、どことなく不公平さを感じたのか。またはアルカイト王国側にだけ真実が渡っているという状況を鑑みてか。駄々をこねるハミィ。

「これは不可抗力なのじゃよ。本当に精霊王殿が、何でもないところで急にそれを口にしたのでな。わしもびっくりじゃった」

どちらにせよ世界の秘密なんてものは、おいそれと尋ねるようなものではない。そう自分の好奇心は棚に上げて、ハミィを宥めるミラ。

「……精霊王さんって、ちょっとポンな感じ?」

「いや、かなりのポンじゃな」

ミラだけが特別に知っていたというわけではない。むしろそれはただの手違いみたいなものだった。その事実にハミィも幾らか落ち着いたようだ。ただ同時に浮上した彼女の疑問に対し、ミラはちょっとどころではないと答えた。

『こればっかりは、そうよね』

マーテルもまた、その答えには大いに同意のようだ。そしてその陰に浮かぶ精霊王の姿は、ますます小さくなっていた。