作品タイトル不明
570 教皇襲来
五百七十
グリムダートでの観光を存分に楽しんだら、次はオズシュタインだ。
翌日迎えの飛空船に乗ったミラ達は一面に広がる景色を眺めながら、のんびりと空の旅を満喫する。
そうして次の日の朝、支度を終えたら飛空船からそのまま教会へと向かい、拝謁の儀を執り行った。
なお、オズシュタインでは以前にもこれを行った事があったため、これまでの二ヶ国に比べて希望者にはちょっとした偏りがあった。
司祭以上は少な目で、助祭あたりが特に多いという状況だ。
きっとこれは、以前の拝謁者達が多く活躍しているからだろう。その活躍ぶりを身近で見た者達が、今回を機に集まったわけだ。ただ、だからこそ箔付け目的の者が割合的に多くいる様子でもあった。
とはいえ、やるべき事に変わりはない。
精霊王との拝謁の儀が終わったら、そのまま続いて教皇による試しの儀が始まる。そこで、だいたいの答えが出るわけだ。
そうして少し長くなった試しの儀も終わったら、続き最後の神器チャージも恙なく完了した。
「なんというかこれは……ちゃんと出来たのじゃろうか?」
「急に大人しくなったよな」
遂に三神の力を全て束ねた神器が完成した。だがミラとソウルハウルは、その神器をまじまじと見つめながら、本当にうまくいったのだろうかと心配顔だ。
なぜなら、これまで溢れんばかりに迸っていた神力が、ここにきて凪いだかのように静まり返ってしまったからだ。
だからこそ、何か手違いでもあって神力が消えてしまったのではないかと不安を抱いたわけだが、そこで精霊王が問題ないと告げた。
『大丈夫だ。我には、そこに内包された莫大な力が確認出来る。そのように落ち着いたのは、三神の力が揃い調和がとれたためだろう。すなわち、今が最も理想的な状態だ。現時点において、その二つの神器は地上に存在する何よりも強力なものとなった。それこそ天災すらも軽く凌駕するほどにな』
それが今の神器の状態に関する答えだった。莫大な力を感じられないその状態こそが完成した証であったのだ。
「──という事のようじゃぞ」
「調和するだけで、あれほどのエネルギーがこれほど静かになるのか。面白いな。なら、他も調和させる事で影響を抑えつつ限界を上げていく事も──」
精霊王の説明をそのままソウルハウルに伝えたところ、彼はなるほど面白いと笑い、その目に怪しげな光を灯した。
そしてそれはソウルハウルだけではない。ミラもまた、「うむ、まったくじゃのぅ」と不敵に微笑む。
術というのは、マナ量を上げるほどに制御が難しくなる。だが調和という形を作り出し、これを保てたのなら、今手にしている神器ほどのエネルギー量でも安定させる事が出来る。
これは研究のし甲斐があると、そう二人は考えたわけだ。
「ともあれ、言ってみればこれは嵐の前の静けさ、というやつじゃな!」
「いや、違うと思うぞ」
流石は決戦用神器だ。そのポテンシャルは計り知れない。魔物を統べる神というものがどれほどの存在であろうと、これがあればきっと勝てる。静かに揺蕩う力を感じながら、そう確信するミラであった。
「今日も良い天気じゃのぅ!」
「はい、綺麗な青空です!」
諸々の用事も済んだ次の日は、今日も今日とて観光日和だ。
オズシュタインの首都ベリル。ホテル前で教皇と合流したら、いざ出発。なお前日に打ち合わせていた通り、グリムダートに続いて今回も魔女っ娘コーデで揃えての出陣だ。
「ああ、いいです、いいですよー。はい、そこでこちらに目線ください」
三神国巡り最後の国とあってか、これまで以上の頻度で記念写真を撮るリリィ。いったい彼女はどれだけのフィルムを用意してきたのだろうか。フィルム交換の手際は、もはや神業クラスにまで達している。
「あー、ここも久しぶり。懐かしいなぁ。最後にヨル君と来たのは、いつ頃だったかなぁ……」
古い観光スポットを巡る途中、教皇はふとミラ達から離れては、何かを呟きながら思い出に浸るようにうつむく時があった。
いったい何を思い出しているのだろうか。想像もつかないが、その目には悲しみに似た色が浮かんでいるため、ミラ達は遠巻きに見守るだけにしていた。
「今日も随分と歩いたものじゃな」
「面白いものが沢山買えましたね!」
「ああ、満足です」
「どこもかしこも、随分と変わっていてびっくりだった」
とにもかくにも思う存分に観光を楽しんだミラ達は、山間に沈んでいく太陽を見送りながら、一日を振り返った。
アリスファリウスとグリムダートに続き、このオズシュタインでもやった事は変わらない。グルメと観光スポット巡りだ。
けれども国が違えば、文化も違う。グルメや観光スポットなどはその影響も大きく、同じ事をしていただけでありながら、まったく別の事をしていたかのような錯覚すら受けてしまうくらいに、今回の三神国巡りは充実した毎日であった。
そう満足げに笑い合う四人に加え、疲れた様子ながらも嬉しそうな護衛の二人。
ともあれ、これにて任務の全日程が終了した。後は帰国するだけだ。つまり、ここまで一緒だった教皇ともこれでお別れである。
「では、達者でのぅ」
「なんだか、寂しいですね」
「写真は現像したらすぐに送りますから」
「うん、ありがとう。じゃあ、またね!」
色々と騒がしい人物ではあったが、それでいて肩書に似合わず愉快な人物でもあった。別れに少しだけ寂しさを覚えつつも、ミラ達は最後の挨拶を交わしてホテルに帰るのだった。
翌日。さあ帰国だとアルカイト王国に向かう飛空船に乗り込んだミラ達は、客室にて呆然とその人物を見据えた。
「あ、おはよう皆。今日もいい天気ね!」
なぜかそこには今日も教皇がいた。
拝謁の儀は全日程が完了しているため、もう教皇が立ち会う必要のある予定など存在しない。けれど彼女は、ここにいる。
「もう用事は済んだはずじゃが……なにゆえこの船におるのじゃろうか?」
もしかしたら、途中まで帰りが一緒なのかもしれない。そう思ったミラだったが、聞いてみたところ、そうではないという言葉が返ってきた。
「それは単純明快! 私もこのままアルカイトに直行する予定だからね! ミラさんなら詳しいでしょ、あの年始に突如やってきたっていう天空島の件。私も教皇として祝福の街の視察をしたいって申し入れているんだけど、色々な理由を並べられてなかなか許可してもらえないの。だからもう丁度いいからこのまま行って直接交渉しようって、そう思い付いたんだ!」
教皇は、それこそ昨日思い付いたとでもいった勢いで、そんな理由を口にした。
天空島については、色々と大変な外交問題だ。だからこそ、どこもかしこも慎重であり、ソロモンもまたかなり綿密に対応していると話していた。
ゆえに教皇のこの行動は、かなりのイレギュラーだろう。
「なるほどのぅ、そういう事じゃったかぁ……」
天空島については、まだ隠蔽工作が完了していない。まだ半分は、さまざまな土地を継ぎ接ぎしたものだと簡単に見抜ける状態だ。だからこそソロモンは、あーだこーだと策を弄して先延ばしにし続けているわけだ。
つまりは、何をどうしようと誰にも許可は出ない状態である。だがそこへまさかの教皇直々による直談判ときたものだ。
これは、相当に面倒な事になってしまった。書面などでのやり取りならば、まだある程度の時間稼ぎは続けられただろう。だが流石に三神教のトップがわざわざ来訪したともなれば、これを無下にするなど出来るはずがない。断ろうものならば、教皇を蔑ろにされた三神教会がどのように反応するかわかったものではないからだ。
「まあ詳しいところは、ソロモン王の管轄じゃからな。うむ」
かなり面倒な外交問題ではあるが、その辺りの交渉については、全て王であるソロモンが矢面に立つ事になる。
ゆえに今、教皇に対して出来る事は何もないと、ミラはただ頷き返すだけでこの話題を切り上げたのだった。
ミラ達を乗せた飛空船は、その日の夜にアルカイト王国に到着した。
ただこれまでは飛空船内で一泊してから次の日の朝より活動開始であったが、やはり自国という事もあって今回は違う。
マリアナとリリィは、何やら二人揃って勢いよく侍女区画へと消えていった。今回の旅の思い出の他、道中で色々と話し合った案について更に突き詰めるためだという話だ。
(何とも言えぬ悪寒がするのじゃが……)
リリィはともかく、なんやかんやで直ぐにミラの世話を焼きたがるマリアナまでもが一緒に行ってしまった。その状況もあってか、余計に募る不安にミラはぶるりと震えあがった。
「そしてあ奴も、もうおらんとは」
到着して間もなく。気づけばソウルハウルは、いつの間にかどこかからか下船していた。
その原因は、飛空船の前で待ち構えている彼女であろう。彼が神命光輝の聖杯の力を使い救った女性だ。ソウルハウルに対して、それはもう返しきれないほどの恩を感じているからこそ、彼女は真剣だった。どれだけ気持ちがすれ違っていようとも。
「それじゃあミラさん、また今度ねー、おやすみー」
「うむ、おやすみ」
教皇はというと、待機していた迎えの馬車に乗って、このまま大聖区行きだ。ミラは、そうして出発する馬車から手を振る教皇に手を振って返した。
流石に急が過ぎたとあって、会合の用意が出来るまでの間は大聖区の方に滞在してもらうという事になったのだ。ただついでに、『教皇を迎えた』という実績を大聖区に作ってしまおうという策も、そこには含まれていた。
「ご苦労様じゃな」
ソロモンの執務室にて、三神国巡りの土産話を簡単に語り終えたミラは、突如来訪した教皇の対応に悩むソロモンを見やりながら笑う。
「もとはといえば君達が空からあんなものを持ってくるから……」
「知らんもーん。わしは、ドッキリに協力しただけじゃもーん」
現在、大陸全土でもトップクラスに話題となっているのが、精霊王から祝福を与えられた天空島の街、『 祝福の街(シン・ベネディクト) 』だ。
その存在は、アルカイト王国の名を更に国際的に知らしめる大きな一手となった。けれど、そこにはとんでもない爆弾も内包されていた。
そして、そんな爆弾込みの天空島を造り上げたのはフローネだ。しかもその理由は、ドッキリを仕掛けるためときたものだ。ゆえに全責任はフローネにあるというのがミラの主張である。
「でも、あの島がここまで注目される事になったのは、君と精霊王さんの仕業だよね」
「仕業など人聞きの悪い。大層有難いものなのじゃから、お陰というべきではないか。それにわしは精霊王殿の案に従っただけじゃからのぅ」
実際のところ、少し演出過多、要素増し増しにし過ぎた感はあったと自覚しているミラ。とはいえ、そうなったのはミラだけのせいではない。なんといっても精霊王自身がノリノリで手伝った結果こうなったのだ。
つまり半分は精霊王にも責任があると、ミラはここで更に罪を擦り付け始める。
「三神教に関係のない場所のままだったなら問題なかったはずなのに、そのお陰で教皇様なんていうとんでもない人がきちゃったわけだけど?」
「それはまあ流石に計算外じゃったが、仕方がないというものじゃよ」
天空島という色々な物議をかもし出す事確実な存在を、どうにかこうにか穏便に済ませる事が出来たのは事実だ。
あの時は、出来る限りの最善を尽くした。ゆえに、そこから先は別問題で保証外だと、ミラは全力で責任を放棄する。
「まあ、責任云々についてはもういいや。ともあれ教皇様の件だけど、どうやら色々と仲良くなったみたいだね。そこで案内役を君に一任する事にしたから、上手く隠してよ」
フローネが全ての元凶ではあるものの、扱いが難しいものになったのはミラと精霊王によるものだ。
ただ、そこを追求したところで、もうどうにもならない。そう諦めたソロモンは、かといってこのままミラを自由にさせる気はないようだ。
「なん……じゃと……」
教皇に信頼されている者、そして天空島に出入りした事もあるという理由で、ソロモンはミラを正式な案内係に任命したのであった。