軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

558 三神国の希望

五百五十八

「会議とやらは終わったようじゃな。ご苦労、ご苦労」

執務室に赴くと、そこにはソロモンがいた。ただ、随分とお疲れな様子だ。やってきたのがミラだとわかったところで、あからさまに気を緩めていた。ぐったりしているのが見て取れる。

とはいえ三神将の葬儀ともなれば、その会議も相当だろう。大陸全土に影響が出る問題なのだから、綿密な打ち合わせが必要だ。

そう思い労いの言葉をかけるミラであったが、はてさて口ばかりだったためか、はたまた他に何かあったのか。

「まったく、誰のせいでこんな事になっているのかって、もう……」

そんな言葉と共にミラへと向けられたソロモンの視線には、憎らしさが含まれていた。

「何じゃ、何じゃ。わしは関係ないじゃろう!? まあ国の事については色々とアレじゃが、今回の件については無関係に決まっておる!」

色々と見たり聞いたりしてきた事もあって、国が忙しいという点には幾つも心当たりがあったミラ。けれど今回の会議──三神将の葬儀については関わっていないと抗議する。

するとだ。どうしたのか、そんなミラの言葉を受けた次にはソロモンの顔に疑問が浮かんでいた。

「ところでさ。さっきまでしていた会議の内容について、誰かに聞いたかい?」

それは確認するというよりは、答え合わせでもするかのような問い方であった。

「うむ、三神国から重要な用件で、とリリィが言うておったぞ。それでこのタイミングで三神国となれば、葬儀についてじゃろう?」

むしろあまりにも衝撃的過ぎてそれ以外には思いつかないと首を傾げるミラ。

だが、ミラが答えた直後から余計難しそうに、更には疑問までも浮かべ始めたソロモンの様子を前にして、ようやくミラは何かが間違っているようだと気づいた。

「……もしや別件か!?」

葬儀だったのなら無関係ときっぱり断言出来るが、もしも会議の内容がまったくの別物であったのなら話が違ってくると顔色を変えるミラ。しかもソロモンの態度からして、その三神国からの重要な用件というのが自身に関係しているという可能性までも出てきたではないか。

ミラは慌てて、その内容がどういったものだったのかを問うた。

「やっぱり、なんか勘違いしていたみたいだね。えーっと、さっきまで話し合っていた内容は、巡り巡って君が深く関係している事なんだよ──」

苦笑気味に、だがそれでいて愉快そうにしながら、ソロモンは会議の内容について話していく。

それは、主に精霊王についての話だったらしい。ゆえに、それは全てミラが関わっていた事でもあった。

会議はかなり長く続き、その内容も精霊王を主軸としながら多岐にわたって広がっていったそうだが、ソロモンはそれらを全て掻い摘んで説明してくれた。

「──というわけで、つまりはうちの国ばかりずるい、羨ましい、どうにかしてくれ、って感じだったわけだよ」

きっかけは、骨董品関連で目立たぬ人工精霊を救うため、教会の司祭達に精霊王との『拝謁』を取り持った事だ。

しかもこの件については、ミラがニルヴァーナからの帰り道で三神国のオズシュタインに立ち寄っていたものだから更に面倒だったという。

三神国で唯一、オズシュタインの首都ベリルにて、ミラは『拝謁』を取り持っていた。グリムダートとアリスファリウスからすれば、もはや贔屓しているようにすら映る事態だ。

ミラを介して精霊王の声を聞いたという司祭は、大陸各地に存在する。ただ中でも、アルカイト王国の数は突出しているため、そこもまた贔屓目に見えてしまうのだろう。

「そりゃあまあね。僕自身、ちょっと恩恵にあやかり過ぎかなぁ、とは感じていたさ。けどまあ精霊王さんの思し召しだからね。ちょっと偏っちゃっても、そこは仕方がないよねって思ってたわけ。けどさ、やっぱり三神国の立場からしたら、そろそろ放っておくには目立ちすぎだっていうね、まあ、そういう感じなんだよ」

始まりは『拝謁』だが、当然それだけではない。ソロモンが言うに、年末年始のあれが最後の決め手になったそうだ。

そう、新年を祝う精霊王の御言葉と、その祝福が与えられた街の誕生という、二重の精霊王効果だ。

そのような事は、もはや前代未聞である。しかもそれほどに歴史的な事が、小国で続発するという奇跡。

三神教の中心となる三神国という立場もあって、三神と縁の深い精霊王に、ここまで放置されたままでは面目も立たない。

ついては、なぜそこまで精霊王と関わり合いになれるのかを教えてほしい。もしくは、三神国として正式に精霊王を迎えさせてはもらえないかと、アルカイト王国に要望という名の抗議が届いたというわけだ。

「それでさ、まあ何だかんだで君も有名になってきたから、下手に隠す事も出来なくなったわけだよ。それで色々と話してね──」

そもそも精霊王は、なぜそこまでアルカイト王国に多く恩恵をもたらしているのか。

そんな話から始まり、当然ながら精霊女王ミラの存在が取りざたされたところで、ソロモンはミラがダンブルフの弟子であると伝えたそうだ。

その縁もあって、まだ無名の冒険者だった頃からサポートしていたため、精霊女王となった今もミラはアルカイト王国を拠点として活動している。だからこそ、精霊王の影響も多くなっているのかもしれない。

と、ソロモンはそのようにそれっぽい理由を並べて説明したという事だった。

冒険者だが、アルカイト王国を特に気に入ってくれていると。

召喚術の塔を生活拠点とし、ダンブルフの補佐官に世話をされ、アルカイト城も顔パス。城の侍女達から可愛がられ、九賢者とも友好がある。

もはや国の重鎮でもおかしくないような待遇ではあるが、表向きはアルカイト王国贔屓の冒険者。それが今のミラの立場となっていた。

「とはいえ、そろそろ抑えておくのも大変でさ。君に一つ二つお願いがあるんだけど、いいかな、いいよね? 僕の顔を立てると思ってさ」

中心人物である精霊女王ミラは、ただアルカイト王国を拠点に活動している冒険者である。そのため、精霊王の恩恵が偏っている事に対して、当国は一切干渉しておらず、これを強要、要望などした事はない。

そのように説明し続けていたが、精霊王の影響が広がっていくほど、三神国のみならず三神教会内部でも色々と騒がしくなってきたそうだ。

そこで三神国側から提案があったと、ソロモンはミラの答えを待つ事もなく更に続けた。

それは、ミラを三神国に招待したいという内容だった。つまりソロモンの方でミラを説得し、これを実現させてくれれば、それはもう大いに感謝しようという話だ。

ソロモンにとっても、これは三神国に大きな貸しを作るチャンスというわけでもあった。

ゆえに今、ミラの背には三神国の期待とソロモンの期待がずしりと圧し掛かったわけだ。

(いや、絶対に断われないやつではないか……!)

あまりにも期待が重いと、ミラはもはや苦笑するしかなかった。

とはいえ思い返すと精霊王関係では、色々と見せびらかしてきたといっても過言ではない。精霊王からの提案もあったが、全てはミラが仲介したからこその結果だ。

その末に待っていたのが、三神国からの招待である。

はたしてそれは、ただ招待するだけに留まるだろうか。そこには他にも何か思惑が隠されていやしないだろうか。

ただ少なくとも、バックに精霊王がいるという点で強引な手段に出てくる事はないはずだ。

あるとするなら、何かしらの方法で懐柔しようとしてくる可能性くらいである。

「面倒になりそうじゃが、まあ、いいじゃろう」

そう言われては断われそうにない。とはいえ三神国には神器の関係で行く必要もあるため、ついでなら悪くはない。そう考えたミラは、その招待を受ける事に同意した。

「いやぁ、よかったよ。じゃあ向こうには快諾してくれたって送っておくね」

ソロモンにしてみても三神国の相手は骨が折れるのだろう。一先ずは肩の荷が下りたと安堵した様子だ。

だが、それも束の間。ソロモンは直後に鋭い視線をミラに向けた。

「ところでさ。さっき葬儀がどうたらって言っていたけど、そのあたりについてちょっと詳しく聞かせてくれない?」

「あー……」

先に知っていたからこそ、三神国の重要な用件と聞いて直ぐに葬儀を連想したが実際はそうではなかった。そしてソロモンのこの反応からして、どうやら彼は三神将ヨルヴィレドの逝去については、まだ何も知らないようだ。

(思えば、事が事じゃからのぅ。まだ秘密だったのかもしれん)

今回の件は、国防の要が失われたという意味でもある。つまりこれを明かすという事は、国防に穴が開いていると伝えるようなもの。

せめてそれを埋める準備が整うまで、この事実は秘匿されるはずだ。

「はて、そんな事言うたかのぅ」

今更ながらその考えに至ったミラは、これはペラペラと話していいような話題ではないと思い直し、記憶にございませんと惚けてみせる。

とはいえ相手はソロモンだ。その場しのぎに走るだけのミラ程度が誤魔化しきれる相手ではない。

「会議の内容は三神国からの重要な件だとリリィに聞いた君は、このタイミングなら、誰かの葬儀の事だと考えた。そんな感じで言っていたよね? つまり、三神国が関係する重要な人物が亡くなった事を、僕がまだ知らないそれを君は知っているわけだ」

しっかりとミラの失言を覚えていたソロモンは、そうじわりじわりと言葉で追いつめていく。

「さーて、三神国へ行くというのなら準備をせぬといかんな!」

問答では勝てる気がしない。早々に悟っていたミラは、そわそわと落ち着きがなくなった末に、いよいよ席を立とうとした。

直後だ。ソロモンが手元で何かを操作したかと思えば、扉の方からカチリと──それこそ鍵でも掛かったかのような小さな音が聞こえてきた。

慌てて立ち上がり扉に駆け寄ったミラは、扉が完全に開かなくなっている事を確認すると恐る恐るソロモンに振り返る。

「そこまで気になる情報を出されて何でもありませんでしたなんて、ねぇ? もちろん、君の命に関わるような秘密とかだったら無理強いはしないよ。でも、その様子だと違うよね?」

もはやここまできて逃がすつもりはないようだ。お互いに秘密はなしでいこうと、それはもうにこやかな笑顔で告げるソロモン。

「……仕方がないのぅ」

その笑顔が一番怖いと苦笑するミラは、逃げる事を諦めた。

今回の秘密については、かなり特殊なケースといえる。祭の境界という特別で特殊な場所にいたからこそ知り得た秘密だからだ。

本来ならば公表されるまでは決して世に出なかっただろう。関係者からすれば、それこそ想定外過ぎる情報の入手手段だ。

ゆえにこれを明かす事に迷いもあったが、こうなってはどうしようもない。ただ少なくとも、ソロモンならば悪いようにはしないはずだ。

「実は、わしも偶然に知った事なのじゃがな──」

ソロモンの傍にまで歩み寄ったミラは念のために声を潜めて、祭の境界で知った事実をソロモンに告げた。

アリスファリウスの三神将、ヨルヴィレド・ポラリスが逝去した事を。

「……」

ミラから衝撃の事実を知らされたソロモンは、そのまさかの内容に沈黙していた。いや、沈黙せざるを得なかった。それほどまでに、この事実は一大事だからだ。

特にソロモンは王という立場もあってか、ミラ以上に考えなければいけない事が多い。

「……いや、まさか、そこまでの大事が飛び出してくるとはね。こればかりは流石の僕も、直ぐには整理出来ないや」

暫くの後、大きくため息を吐いたソロモンは天井を仰ぎながら苦笑した。ミラがもたらした情報から予想出来る影響と、その対応。一気に膨れ上がったこれらについて、一度考えるのをやめたようだ。

「でもまあ、わかったよ。これは心に留めておくだけにするね。今はとりあえず、正式に公表されるのを待つ事にしようか」

ソロモンは全ての問題を端に寄せた。それが一番だと判断したからだ。

この件については、ここだけの秘密。また今後に備えて今のうちに出来る準備もあるだろうが、それらも全ては公表されてからにするべきだ。

今は、頭の中だけでまとめておくのみに留める。それがソロモンの決めた対応だった。

「うむ、そうじゃな。それが一番かもしれん」

三神国の国家機密を把握していたなどと知られでもしたら、それこそ本当に面倒な事になる。よってミラもまた、ソロモンの出した答えに同意した。