軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

539 聖域の種

五百三十九

「なるほど! となれば、霊脈に届くだけの根を張る木を用意する事が出来れば、後は精霊達の力でどうにか出来るかもしれないわけだね!」

ミラが一通りの説明を終えたところ、アンドロメダは未来の展望が見えてきたと喜んだ。

そして実際のところ、その方法が現時点で考えられる最も可能性の高い方法でもあった。

複数の守護者を擁立し聖域の数を増やす事で、霊脈の活性率を目標値まで上げるという方法は難しい。だが一体の守護者で精霊王クラスの規模を誇る聖域を展開して維持するなど不可能だ。

そこで新たに候補として挙がったのが、御神木作戦である。

幸いにもマーテルの力を借りられるため、霊脈に届くだけの樹木を用意するのは可能だ。

そしてこの樹木の特性というのは相当なもので、ある程度に太く大きく成長したら、精霊王が扱っていた量のエネルギーも通す事が出来るだろうとマーテルが言っていた。

「うむ、そうじゃな。しかも精霊王殿には、これを任せられる精霊に心当たりがあるそうじゃ」

次々に可能性が広がっていく最中。その作戦を実行すると決まった場合には、中心となる大木を管理するための適任がいると精霊王が言った。

祈り子の森の御神木の場合は、神性を得た精霊がいる。だが今回は、新たにその御神木の代わりになる木を用意する形だ。流石に精霊が宿るまで待ってはいられない。

だが精霊というのは、かなり柔軟な存在である。しかも、樹木といえば植物。そう、マーテルの管轄だ。

彼女の眷属にあたる木の精霊ならば、宿らずとも木に同調する事が出来る。これによって木に流れる霊脈のエネルギーを利用出来るわけだ。

ただ、当然ながら莫大な霊脈のエネルギーを扱うため、それ相応の精霊でなければ──それこそマーテルクラスでなければ難しい。ただこれについては精霊王とマーテル両名が適役を知っているとの事だった。

「とすると後は、そこに植える木か。話の規模からして、どう考えてもそこらの木を引っこ抜いて植え直す程度じゃどうにも出来ないよなぁ」

大陸一になる聖域の復興大作戦。その可能性と必要なものの全貌が見えてきたが、やはり一筋縄ではいかなそうだと唸るのはアラトだ。

何といっても大陸一番に返り咲こうという聖域の代表になる大樹である。そこらの御神木どころか、祈り子の森の御神木すらも遥かに超えてみせるほどでなければ、目標達成には届かないだろう。

「そうだねぇ。それこそどこかの御神木を引っこ抜いてきてから、マーテルさんに色々やってもらってとかしないとって感じだけど、それは無茶が過ぎるしね」

まったく不可能な状態から、ある程度は前進出来たものの大きな問題が聳えている事に変わりはない。では次は、その問題点をどのように解決していくかだと新たに提起するアンドロメダ。

聖域の中心に据えるのならば、そこらの木では話にならない。それこそ御神木と並ぶほどの格が必要だ。

「ふーむ、御神木か……。んー、なんじゃろうな。何かこう、頭の中に引っ掛かるような……」

御神木か、または御神木レベルになるだけの将来性を秘めたエリートの木は、どこかにないものだろうか。なんなら古代地下都市に行って、マーテルにそんなエリートの種か苗木でも用意してもらおうか。

と、そんな事を頭の中でぐるぐる考えていた時だ。ミラの脳裏に、ふとした記憶が蘇った。

(御神木と種……はて、何やら前にそんなものがあったような──)

その二つを満たす何かについて覚えがある。そう思ったミラは、はて何の事だったかと考え込む。

「お、そうじゃそうじゃそうじゃった。丁度良い……というより、これしかないじゃろう!」

ミラがそれを思い出すのに、そう時間はかからなかった。何故なら御神木について関わった事といえば、祈り子の森の長老くらいなものだったからだ。

あの時にお土産として受け取ったものが、かの長老の種であった。

ただ、今は持っていない。なぜならその種は、五十鈴連盟のセントポリー支部にいたマティにあげてしまったからだ。

とはいえ今回の作戦において、これ以上に適した種は見つからないだろう。長老にまた種を下さいなんて頼みにいっても、そう簡単に貰えるものとも思えない。

ならば手段は、ただ一つ。ミラは期待するアンドロメダ達に対し、この種の件について話した。そしてその上で、今後の予定についても決めていくのだった。

「──なんと、そのような施設もあったのじゃな。ふむ、承知した。急に呼び出しをかけてすまんかったのぅ」

『このくらいならいいって。かなり大事な案件なんでしょ。ただ、結構張り切って研究に打ち込んでいたから、そのあたりについては考慮してあげてよね』

「うむ、わかっておるわかっておる。で、つまりは、お主の名もある程度利用してもよいという事じゃな?」

『……言い方は気になるけど、まあそうね』

「ならばきっと問題はないじゃろう。では、またな」

『はいはーい、またね』

大聖域『彩霊の黄金樹海』再生作戦会議を終えた後、ミラは通信装置を使ってカグラと連絡を取っていた。その用件は、御神木の種を預けたマティが今どこにいるのかを確認するためだ。

話によるとマティは、あの後支部長を辞めていた。そしてキメラクローゼン壊滅を機に本格始動した、五十鈴連盟の森林復興部に転属を願い出ていたそうだ。

特に、ミラが渡したあの種の研究のためという理由が大きく、かなり熱中しているとの事だった。

「さて、場所もわかったところで行ってみるとするかのぅ」

今回の予定は、そんなマティに対し、以前にあげた種を返してと頼みにいくようなものだ。彼女にしてみれば、たまったものではない頼みであろう。

だが、きっとマティならば快く受け入れてくれるはず。そんな自信を胸に、ミラは出発準備を始める。目標地点は、アース大陸の西部。荒れ果てた荒野の広がる大地の真っ只中だ。

「っと、その前に」

支度を終えたミラは、さあ出発だとはせずに研究所の廊下をずんずんと進み始めた。

そうして到着したのは、ミラのため特別に用意された開発室。そう、注文していた最後の術具、規格外容量のマナ貯蔵器を受け取りにきたのだ。

「ああ、来たね。準備は出来ているよ」

出発前にミラが来る事は予想済みだったのだろう。そこにはミケが待っていた。そして他にも、その開発に携わった技術者全員の姿もあった。

今回作り上げたのは、今までにない努力と技術の結晶だ。だからこそ受け渡しに加え、使用感の感想やちょっとしたデータ取りをしたいと待ち構えていたようである。

「……予定が詰まっているのでな。なるべく早めで頼む」

「まあ……うん、善処するよ」

こうなる事は、なんとなくわかっていた。ミラは多少の希望を込めて言うが、それに答えたミケの視線は、あらぬ方に向けられていた。

「あー、つっかれたのぅ……。じゃがまあ、流石は特級職人ばかりが集まっただけはある。これほどのものは二つとないじゃろうな!」

日之本委員会の研究所からアース大陸の西部に向かう空の旅の最中。ミラは手のひらに乗るサイズの箱を、にまにまと見つめていた。

ミケ達に頼んでいた、マナ保存用の貯蔵器。その仕上がりは、正に理想的であった。

持ち運びに便利で使いやすく、これまでにないくらいの大容量。初めは無茶だと言っていたそれを、見事に完成させてくれたのだ。

「しかも、より使い易くしてくるとは驚きじゃな」

ミラは、そう呟きながら自身の左手首を見やる。そこには端末の他、被せるように嵌めてあるスタミナ強化の腕輪があった。そして今は、今回の一件に関係するパーツが付け加えられている。

それは、簡易のマナ貯蔵器。だがそれでいて、容量はこれまでに流通している最大のものの十倍にも及ぶ代物だ。

いわく、マナチャージするために、その都度アイテムボックスから容器を取り出すのは面倒だろうから、ある程度の量をそちらにチャージしてからメインとなる容器に移せばいいとの事だ。

なんと、これまでは不可能だったマナ貯蔵器からマナ貯蔵器への移し替えが可能となった代物だ。

寝る間も惜しんで頑張ってくれたらしい。職人としての腕とプライドを懸けて。また何よりも、完成報酬としてミラが約束していたマキナガーディアンの希少素材一式のために。

「うむうむ、すんなりとチャージ完了じゃな。これはよいのぅ。今後が楽しみになってきおったぞ!」

ミケ達は完璧な仕事をしてくれた。よってマキナガーディアンの素材を全て渡してきたミラは、これから日課になるであろうマナチャージをしながら、今後出来そうになる戦術について、あれこれと考えるのだった。

アース大陸の西部。その面積の半分を荒野が占める大地の真っ只中。赤茶けた景色の中にぽつんと見えてきたのは、場所と季節に逆らい溢れる植物の緑色だった。

「これまた、わかりやすいのぅ」

『小さいながらも生命力に溢れた、素晴らしい森だな』

『ええ、素敵ね! 皆とっても元気そうで、私まで嬉しくなっちゃうわ!』

どこか異質にも見える荒野の森。だがそれは精霊王とマーテルの言う通り、とても逞しく見えるものでもあった。

荒れ果てた大地に再び緑を取り戻す事を夢見て研究を続けているというマティ。そんな彼女がいると教えてもらった場所は、荒野が広がるばかりのそこにあって一目瞭然だ。

その近くにワゴンを下したミラは、ガルーダを労い送還してから、森のように生い茂るその中へと踏み込んでいく。

カグラから聞いた話によると、その中央から幾らか南寄りの場所にマティの研究室があるそうだ。

ある程度進んだ森の中。聞いていた地点には少しだけ開けた場所があり、そこには小屋──というよりちょっと立派なテントが建っていた。

「ようこそお越しくださいました!」

そして『荒野緑地化計画部』と書かれた看板のあるテントの前には、見覚えのある顔があった。

マティだ。既にカグラからミラの来訪についての連絡が入っていたのだろう。ただ、内容については知らないのか、それはもう恩人を迎え入れるかのように、にこやかで丁寧な対応である。

「いやはや、随分と研究が捗っておるようじゃな。この短期間でこれほどまでの緑をこの荒野に取り戻すとは」

実際、周囲に生い茂る木々や草花は、真っ新な荒野に数ヶ月で育ったとは思えない量と規模だ。

「それはもう、何もかもミラちゃんのお陰だよー。ほんとにほんとに感謝してるんだから!」

荒野に緑を取り戻す。その第一歩として最高のスタートを切れたのは、何よりもミラから貰った種があったからこそだと、それはもうマティの感謝が止まらない。

カグラから聞いていた通り、あの種をきっかけとしてマティの研究は急速に進んだようだ。そしてそれは、この周囲を見ても明らかであろう。

「あ、立ち話もなんだよね。ささ、中にどうぞ!」

そう言ってマティはテントの幕を開き、ミラを招き入れる。

「うむ。ではお邪魔しよう」

そう答えて入った先は、外から見た通りに狭いスペースとなっていた。あるのはテーブルとイスのみ。一見した限り、ここでどのような生活が出来るのかすら想像がつかないくらいの何もなさである。

「皆もミラちゃんに会いたいって言っててね。あ、こっちこっち」

しかし、ここも五十鈴連盟の支部と同じく、地下へと続く入り口が存在していた。

本来、そこから先は関係者以外立ち入り禁止となっているのだろうが、マティは当たり前な様子でミラを案内する。

「いらっしゃいませ!」

「ようこそ!」

「お会い出来て光栄です!」

テントの地下。三メートルほど下りたそこには、三名の精霊が待っていた。地の精霊、水の精霊、花の精霊だ。そして精霊達はミラがそこにやってくるなり、それはもう大歓迎と盛り上がる。

いつの間にか、五十鈴連盟側にも名が知れ渡ったものだ。などと少し調子に乗りかけたところでミラは察する。彼女達の目は、そんなミラのバックについている精霊王に向けられたものではないだろうかと。

「ふむ、そうかそうか。わしも会えて嬉しいぞ。それと精霊王殿も、素晴らしい森だと喜んでおった」

試しにミラが精霊王という言葉を口にしたところ、その反応は歴然だった。それはもう周りの空気までも輝くくらいの喜びが、精霊達から溢れ出したからだ。

勘違いして調子に乗らなくてよかった。そう安堵したミラは、マティより精霊達を紹介してもらう。

地の精霊は、アズラーム。水の精霊は、シャンティーネ。花の精霊は、レムストリア。この三名はマティと共にここで暮らしながら、荒野に緑を取り戻すという計画に協力してくれているそうだ。

「ほぅ、そうかそうか。これまた心強い協力者じゃな」

「うん、すっごく助かってるよ!」

地と水と花。目的にぴったりな顔ぶれだとミラが感心すれば、マティは心底嬉しそうに答える。そして精霊達も、「精霊女王様に褒められちゃった?」「うん、褒められた」などと、こちらもまた嬉しそうだった。

どうやら精霊王のみならず、ミラに対してもある程度の感情はあるようだ。

それを確認出来たミラは、ただの精霊王との繋ぎ役という認識でなくてよかったと安堵するのだった。